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敵は魔王より『地の文』だって?~勇者アーサーの不本意な戦い~  作者: 一枝 唯
第5話 『地の文』がネタバレをしてくる

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06 そういう魂胆か!

「俺を信用してくれてるのは有難いが、もし――」

「馬鹿なこと言わないで。あなたが私を襲うような人じゃないことは知ってる」


 ぴしゃりとやられた。案の定だったが……少し違った。

 「そんな人じゃないと知ってる」、か。「信じてる」より強い気がして……何かこそばゆいな。

 いや、そうじゃない。


「妙な噂が立ったらどうするんだ。嫁入り前の娘に」


 昭和か、と俺は自分にツッコミながら言った。


「馬鹿なの?」


 もっと手厳しくやられた。


「どんな噂が立とうと関係ないでしょ。だいたい、勇者と神女と言ったって男と女のふたり旅よ。くだらない噂ならとっくにいくらでも立ってるんじゃないかしら」

「ぐぬ……」


 他人がレナに変な属性をつけると思うとたまらなく嫌なんだが、彼女自身が全く気にしないのであれば、俺がどうこう言うことじゃ、ないんだよなあ。でも嫌だなあ。


【レナの言う通りだった。アーサーの気遣いはだいぶ無意味である。】


 うるせえぞ。


「そんなことより」

「ハイ」

「ジャレットよ。どう思う?」

「……いいヤツだ、とは感じる。ただ、『性格がよさそうだ』だけで合格点は出せない」


 嘆息して俺は真面目に答えた。


「実戦も見る必要があるのはもちろんだが、それだけでもない」

「と言うと?」

「ちょっとできすぎなんだよな、あいつ」


 素直なところをぽろっとこぼした。

 ふたり分の人生を経験してるジャレットは、見た目以上に人生経験が豊富だ。だからあれこれ気を回せる、ということはあるだろう。

 しかし本当にそれだけかは判らない。「そういう点が買われて勇者へのスパイとして送り込まれた」みたいな可能性は、まだ捨て切れない。

 俺はそこまで言わなかったが、レナはどう思うのかうなずいた。


「実はね……あなたのように本物のお告げを直接聞ける人に言うのも失礼かもしれないけれど」

「ん?」

「神殿でお告げをもらったの」


 レナさん、そっちが本物っす。


「月神は何て?」

「お告げは、明確に事例を述べてくる訳ではないの。あなたとは違うかもしれないけれど」

「そう変わらない」


 俺は曖昧に言った。


 『地の文』の言葉はストレートなこともあるが、「このあととんでもないことが」的に思わせぶりなことも多い。『地の文』のことがなくても、占いとかおみくじみたいなものだろうと思えば「明確に述べてくる訳ではない」というのも理解できる。


「でも、今日いただいた言葉は状況に合っていて……」


 レナが言いにくそうにする。バシバシ言う彼女には珍しいことだ。俺は黙ったまま続きを待った。


「『新たな光に惑わされぬよう。それは災いを呼ぶ』」

「おー」


 ふんわりしてるようで現状にばっちり当てはまる。


「『光』で『災いを呼ぶ』のがジャレットだ、と?」


 俺はシンプルな解釈をそのまま返した。レナは困った顔をする。


「そう取れるけれど、確実とは言えないわよね。それに、もしそうだったとしても、だったらどうするの?『災いを呼ぶ』人を町に残していっていいと思う?」

「おっと」


 俺は自分とレナの安全ばかり考えていたが、レナは違った。さすが神女。俺の聖女。可愛い。


「そうだな、試用期間はこのまま継続しよう。戦闘技量を見たいというのは事実だし、町の外にも出よう。災いが俺にくる分には払うから……レナはあいつから離れとけな?」


 レナに災いが降りかかってはたまらない。もうとんでもないものが一回降りかかったあとなのに。

 俺はそう思って言ったんだが、レナは顔をしかめた。


「何よ、ちょっと気持ち悪いわよ」


 ええ!?……ああ、そうか、まるで「俺以外の男に近づくな」と言ったみたいになり……違う、違うんだ。


【アーサーはレナに独占欲のようなものを抱いている自分に気づいた。】


 ちが……ち、違わない可能性も……? 俺は自問した。


【彼女の大切さに気づいてなかったけどライバルが現れて急に焦るみたいなのいいよね。】


 『地の文』んんんん! そういう魂胆か! やめんか!!


 俺の望みは原則として「元の世界に帰りたい」なんだが、もしこの『地の文』を書いてるヤツが元の世界にいるなら「そいつを一発ぶん殴る」をタスクに入れとこうか。


 それにしても、最近はメモや呟きみたいなのも増えてきた。せめて小説の体裁を保ってくれ。

 一瞬で文意が伝わってきてしまう身としては、書き手のヘキを強制的に聞かされるのはしんどい。小説として出してきてくれるなら「〈ワーストエンド〉――魔王に絶望的な終焉をもたらすもの。」でも全然いいんだ。

 いまの文だってせめて「アーサーは、レナがジャレットと話すのを見て胸が痛むのを感じた。こんな感覚はいままでなかった」みたいにしてくれれば……いや、違うと主張はするけど……。


「でも、いまのはよかったわよ」

「うん?」


 レナがクスッと笑うので、俺は片眉を上げた。何だって?


「『俺にくる分には払う』。頼りにしてるわね、勇者様」

「お、おう」


 シノンでも魔王でもどんとこい、という気持ちになった。俺も単純だ。


【アーサーは少し笑った。ふたりの間には甘やかな空気が流れる。】


 流れとらん! よせ!


「アーサー」


【レナが彼を見つめた。】


「私……」


 これやった! 岩穴の祠でやった!「お腹空いちゃった」だろ!?


「あなたみたいな人が〈聖なる勇者〉で、本当によかった」

「……何だよ急に」


 やってきたのはコメディ方向でもロマンス方向でもなく、割と真面目な台詞だった。俺は目をぱちくりとさせてしまう。


「ふふ、思っただけ」


 少し照れくさそうに笑う。か、可愛い。


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