05 「採点」しないと
「判った。故郷だの家族だのは聞かないことにする。じゃあこれはどうだ? ふたりはどうやって出会ったかとか」
「それなら……」
レナがちらりと俺を見た。かまわない、と俺はうなずく。……ちょうどいい機会だ、レナとの記憶の齟齬について確認できる。ちょっと怖いけどな。
【そこでレナはアーサーが着の身着のままで城下町の魔物を倒したこと、傷だらけのまま去ろうとするのを見かねて呼び止めたこと、評判が城に伝わってアーサーが〈勇者〉の称号を授与され、魔王退治の旅が始まったこと、などを話した。】
「もう何となく判ってきたかもしれないけれど、アーサーは『勇者である』ことに無頓着でね。放っておけないと思って同行を申し出たの」
……ん?
「修行中の身に最適な試練」だったから、と言ってたじゃないか?
「『最適な試練』はどうした?」
俺は不安を隠しながら問うた。「変わった」のか……?
「それも含めて試練よ?」
【にっこりとレナは笑んだ。「アーサーのフォロー」という面では確かに一致する。】
ぐっ……フォローされてるのは否定できん!
「はは! 仲良いんだな! 勇者様と聖女様と言うよりは――」
「いい友人同士に見えるだろ? その通りの仲だからな!」
「付き合ってるみたいだ」とか何とか言われる前に俺はかぶせた。ジャレットは目をぱちくりとさせ、それからニヤッとした。
「ああ、見えるよ」
何だ、いまの笑いは。
【アーサーは純粋にレナとの関係を説明したが、ジャレットからはアーサーが「鈍感主人公」に見えたようだった。】
……ああああ! 違う、そうじゃなくて!
言われてみりゃ、確かにその文脈にもなる。女の子の好意に気づかない鈍感男が「彼女はいい友人だ」と言い切って女の子が傷つく系の……でもレナはそういうんじゃないし!
念のため俺はちらりとレナを見たが、傷ついた顔などはしていないように見えた。そうであってくれ。
「エレナ」が「レナ」となって以来、『地の文』は一度も言ってない。前に散々言ってきた、「エレナはアーサーを恋愛的に好きにはならない」という内容のことを。
単にくどいから言わなくなっただけであってくれ。俺はレナのこと好きだし聖女様だと思ってるけど恋愛は困るんだ!
「まあ。光栄ですわ、勇者様」
その台詞に俺はぎくっとした。レナは俺をそんなふうに呼んだことはない――。
【レナは悪戯っぽく微笑んでいる。〈聖なる勇者〉に友だと言われたことに少し驚き、少し気恥ずかしくて、照れ隠しのために言ったようだった。】
い、悪戯なら、ギリセーフ。
……「いい友人」宣言なんて、気恥ずかしかったか。そうかも。いちいち言わないもんな。俺も改めて気恥ずかしくなってきた。
ジャレットめ、と俺は責任転嫁した。
―*―
他人に点数をつけるなんて俺の好みじゃないが、いまはジャレットを「採点」しないといけない。
風術。訓練を見た限りでは、優。実戦や連携はこれから。
コミュニケーション。優。話は回すが奪いすぎない。引くことも知ってる。沈黙に耐えられないタイプの可能性もあるが、ここは要確認。
食事。良。マナーが悪いようなことはないが、体格からしてもよく食うので予算の調整が必要そう。ただし、酒は飲まない様子。これは戦い手として優。いつ戦う羽目になるか判らないもんな。
礼儀。優。給仕に対して偉そうだったりしないし、歓迎会だと言ったのに自分の分を出そうとした。「採用」になったら自分の稼ぎを経費として差し出すとまで。
外見。良。イケメンとは言わないが、爽やかと言って差し支えない。いや、顔立ちはどうでもよくて、態度や清潔感に不快なところはない。優でもいいかも。
いまのところ、問題はない。シノンのときは早々に正体を見せたことを思うと、魔王の手先という疑いは弱めてもいいかも。あとは純粋に戦闘技量を――。
トトトン、とリズミカルにドアが叩かれた。食事を終えて解散したあと、俺は宿の部屋であれこれ考えていたところだ。
パッと身を起こす。この叩き方は、レナだ。
「アーサー、ちょっといい?」
「ああ」
ジャレットの話、という想像はつく。俺はすぐに扉を開け、少し躊躇った。「男の部屋に入っていった」なんて思われたらレナの評判に傷がつく。
「……入れてくれないの?」
「あー、どうぞ」
そんなことを言えばレナは呆れるだろうな。「いやらしいことを考えないで」――いや、「どうでもいいことでしょ」だろうか。
【一瞬妙な期待をしたアーサーだが、】
しとらんが!
【レナの顔は真剣だ。彼も気持ちを引き締めた。】
ラブコメ反対。
俺は彼女を招き入れると静かに扉を閉めた。……俺の気持ちを言うべきか言わざるべきか。
「……変なこと言うけどな。夜に男の部屋訪ねるとか、駄目だぞ本当は」
言った。




