04 こいついいヤツか?
【その日の食事は、アーサーが転移してきて以来、最も賑やかなものとなった。ジャレットは自分の境遇――転生云々は除いて――を話しつつ、アーサーとレナに話を譲ることも忘れなかった。】
うーん、気の付くヤツだ、という感想ばかり増えてくな。実はこいつが主人公だったりしない? 俺はテンプレ勇者で……いややめよう、自己卑下はよくない。
【彼はあけすけに自身の人生を――今世を――語り、アーサーはジャレットに出来のいい兄がいること、それにコンプレックスがあって風術で身を立てようと家を出たこと、少し前にいい感じになっていると思えた酒場の女の子に振られたこと、などを知った。】
本当にこのままだった。あけすけ過ぎる。
【ジャレットの兄、どこかで使う。】
メモをするな! 雑なネタバレもやめろ!
【ジャレットが同じ世界から来ていると知らず、転移を隠すアーサーには、言えることが少ない。】
知ってるけど! お前のせいで!
まあ、いずれ信用できるとなって話すとしても、レナのいないところだな。彼女には……秘密だと言う訳じゃなくて、言っても通じないから。
実は。最初の頃。何とか判ってほしくて、レナ――エレナにはいろいろと話したんだ。でも彼女には全く通じなかった。
当然だと思う。俺たちは漫画やアニメで「そうしたシチュエーション」をたくさん知ってるが、この世界にそんな物語はない。どこかにはあるかもしれないが、誰もが接するものじゃない。
通じないのは当たり前のことだ。親世代が「最近のアイドルは区別がつかない」と言ったり、ソシャゲに興味ないヤツが「画像に大金を払うなんて」とか言ったり……いや、そもそも「アイドル」や「ソシャゲ」というものを知らなければ、その顔立ちだのガチャだのについて説明されたところで「?」しか浮かばないことは想像できる。
それでも、何つうか、『地の文』も認める絆とやらを育もうと彼女に「俺の事情」は通じない、ってのはちょっとしんどいと言うか……寂しいのかもな。
「そろそろアーサーの話も聞きたいな」
ジャレット本人のあれこれに区切りがついた頃、ジャレットは無邪気に、或いはそのふりで、そんなことを言ってきた。
「いつ頃から勇者を目指した、とかあるのか?」
……既視感があるぞ、この問い。
「目指してた訳じゃないが……半年、くらいかな」
俺はあのときと似たような返事をした。ただの女の子だと思っていた「シノンさん」に返したときと。
「半年! じゃあ、目指すでもなく魔物を倒して、称号をもらったのか? すげえな!」
「……俺がいつ称号をもらったか、なんてよく知ってるな」
警戒が出ないように、口の端で笑ってみせる。
「そりゃ〈聖なる勇者〉の話は有名だからな」
ニッと笑い返してくる様子に、裏はなさそうに見える。有名なの? ちょっと恥ずかしい。
「俺さー、俺自身は勇者様なんてガラじゃないんだが、憧れみたいなもんはあるんだよ」
それから照れくさそうに言ってくる。それは、俺もそうだったよ……でも、主人公への憧れと、本当に自分がやりたいかは別でな……。
「だから、ついに〈聖なる勇者〉が現れた、って噂にはわくわくしたね! 風術のコツを掴んでからは、ワンチャン仲間になれるんじゃないかって……でもまさか、本当に出会えるなんてな!」
「ワンチャン」にレナが小さく首をひねっていたが、俺は特に反応を返さないことにした。方言の一種だと思ったことにしよう。
「まだ試用期間だからな?」
釘を刺すように言えば、ジャレットは笑ってうなずいた。
「機会をもらえただけでも有難いさ」
……何だよこいついいヤツか? 俺は警戒を捨てていないのが申し訳なくなる、という矛盾した気持ちを覚えた。どっちかにしろ、俺。
「アーサーはあんまり自分のことを話さないようにしてるの」
すっとレナが入ってくれた。
「故郷に迷惑がかかってもいけない、という考えよ。だから彼のことを尋ねるのは控えてもらえるかしら」
うっ、俺は胸が痛んだ。
確かにそう言った。俺はこの世界に故郷なんてないことを理解してもらえなかった苦肉の策として「言わないようにしている」ということにした。
「ああ……焼かれたら困るもんな……」
勇者の村焼かれがち問題をジャレットは即理解した。うう、通じるって素敵……。
まあ、「焼かれたことをきっかけに復讐のため旅立つ」みたいなのだけどな、定番は。




