03 コミュ強か?
「同行を撤回するならいまの内だぞ」
皮肉でも何でもなく俺が言えば、ジャレットは笑う。
「まさか! 貧乏勇者との魔王退治なんて、ある意味ド王道……ごほ、貴重な体験だし、俺は面白そうだと思ってるよ」
そうだな。古いRPGとかだと、王様から魔王退治を頼まれてるのに「ひのきのぼう」を持ってるって聞くもんな。ある意味王道だよな。
俺はそう思ったが反応は返さず、ただ「変なヤツだな」と思っているような顔をしておいた。
実際のところ、称号をもらったときに城から多少の賞金みたいなものは出たんだが、宿に飯に武器防具の手入れ……あっという間に消え去ったよ。
「そういや、腰の剣は伝説の剣みたいなヤツなのか?」
「伝説の剣だって?」
そわそわと尋ねてくるジャレットに、俺はやっぱり「何だこいつ?」と思っているふうに返す。もっともこれは、自分が転移者であることを隠しているためだけじゃない。
【ジャレットは興味津々という様子で聖剣を見ている。】
――好意的に解釈すれば、こいつもエクスカリバーとかマスターソードとかロトの剣とかにロマンを覚えるタイプ。
警戒するなら、シノンのように、〈ワーストエンド〉を使って俺に何か仕掛けるための準備。
「……ある村でもらった剣だよ。その村では伝説だったらしいから、伝説の剣とは言えそうだ」
俺は「嘘ではない」レベルで答えた。試用期間中はこれくらいの距離感にしとこう。
「君の杖は? レナのものは聖杖って言うが、〈撃ち手〉のものは魔杖と言うんだったよな?」
世界設定はだいたいフレーバー程度の理解なんだが、レナのようなヒーラーは〈月神の使徒〉〈月の癒やし手〉って言う。レナはそのなかでも高位の〈白銀月〉。ジャレットみたいなアタッカーは〈太陽神の使徒〉〈太陽の撃ち手〉。階級みたいなのはないけど、すごいヤツは〈烈日〉とか言ったりするって聞いた。
もっとも「神に仕える」というイメージがあるのはレナたち〈月神の使徒〉だけだ。撃つのは我流でどうとでもなるが、癒やすのには勉強や修行が必要らしく――言うなれば「資格」や「免許」に近いのかもな。ジャレットは資格持ち、レナは資格と免許持ち。
その違いが持つ杖に現れる。聖杖は神殿で作られ、祝福を受けたもの。魔杖は、町の専門店なんかで売られてる。
「君の、伝説の魔杖についても聞かせてくれ」
俺は「たとえ伝説なんてなくても自分の武器にはまあまあ愛着が湧くよな?」くらいのニュアンスを込めた。通じたかは知らない。
「俺の武器か。……実は替えたばかりでね。それで慣らしてたのもあるんだ」
少し口籠った。何だ? 聖杖は滅多に替えないらしいが、魔杖を替えることは普通だって聞いたことがあるけど。
【ジャレットが答えを躊躇ったのは、最近前世を思い出したことによって魔法に興味が出てきたので思い切って少し良い品を買った、という説明がアーサーに伝わらないと考えたためだ。】
お、おう。伝わるぞ。
『地の文』の解説は助かるが、まだジャレットが信用できるとは限らない。仮に「魔王側」であっても、いまの説明は矛盾しないからだ。
……俺はさあ、読むときは作者に騙されたいタイプなのよ。ギミックの裏を読まないで、作者が「ここでネタバラシ!」って渾身のシーンを書いてきたときに素直に驚きたいのね。だからネタバレされたくない派なんだわ。
でも『地の文』とのつき合いはそうもいかない。読者じゃなくて俺が騙された場合、俺自身と、場合によっちゃレナの命にも関わる。俺は好みじゃないやり方――『地の文』があとでババーンと公表しようと隠してることを嗅ぎつけ、警戒しておかなきゃならないんだ。
……俺だってできれば安全に楽しみたいよ、勇者アーサーの冒険をよ。
「へえ、よさそうな杖じゃないか」
正直、よしあしは判らない。ただ、ジャレットが見せてくれた杖は、なかなか渋いデザインだった。濃い目の木杖で、自然の木目を活かしながら紋様が刻まれているが、目にうるさくない程度で、すっきりとしている。
「おっ、アーサーもこれのよさが判るか、嬉しいねえ。地味だ地味だって言われるんだよなあ」
ジャレットはにこにこしている。
こいつ、もしかしていいヤツなのでは……?
「これは、この町で?」
「そう、すっかり馴染みでね。そこの魔杖屋のオヤジが頑固だけどいい職人でさあ」
「武器屋の無愛想なおっちゃん」みたいなキャラいるよな。最初は怖いけど知り合っていくといろいろ話してくれて仲良くなるみたいな。俺も割と好き。
……うん? スルーしてたけど、こいつ、しれっと「アーサー」呼びしてきたな。
そりゃ、いつまでも「勇者様」とかあまつさえ「アーサー様」なんて呼ばれるのはお断りだが、早えよ。こいつコミュ強か?
まさかレナのことも呼び捨てに?……せめて本名じゃなく、神女名のエレナで呼ばせるか?
ついそこまで考えてしまった俺だが、それはジャレットとレナの決めることだな。俺はレナの彼氏でもないし父親でもないんだ。
「少し練習やりすぎたんで、魔杖の手入れに行ってくる。飯は宿屋の下で食うだろ? 俺も一緒していいか?」
「ああ、もちろんだ」
そうだよなあ、レナとふたりきりの落ち着いた食事ももう終わりか。断ってもいいんだが、人となりを知るにはいくらか打ち解けた方がいい。
「杖の手入れにはどれくらいかかる?」
「魔力詰まりを払うだけだから、店が空いてりゃ十分程度かな。往復で三十分ちょいか。先にやっててくれ」
「了解」
話のポイントが明確で主張が判りやすい。もしかしたら『地の文』よりスムーズだぞ、ジャレットの台詞。
レナは神殿に顔見せに行っている。町を訪問したらご挨拶をするのが礼儀らしい。
俺はレナから目を離すのが心配で、同行しようかと言ったんだが、呆れられた。呪いの件は解決したし、「後遺症」みたいなものもないんだから、俺の心配が過剰なのはそれはそう。
とにかく、彼女もそろそろ戻ってくるはずだ。
報酬も入ったし、暫定ながら仲間も増えた。少しだけ奮発して、いい肉でも食うか。
そこで俺は、早くもジャレットを「仲間」なんて考えて、受け入れ出している自分に気づいた。
これはあいつの「魅力」なのか。それとも、元の世界の気配を感じて、安堵しているためなのかもしれない。
とは言え、俺の「事情」はまだ伝えるつもりはなかった。そこまで気を許しちゃいない。
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