02 ラブコメは回避
『地の文』がどう言っても、俺は彼の加入を断ることができる。ただ、『地の文』がジャレットを同行させることに決めているなら、「いいえ」の連打は無意味。断ってもついてきたり、魔物を風術で退治してみせたりして役に立つことをアピールし、俺が認める流れに持って行かれるだろう。
だが、「それならさくっと仲間にしておく方が面倒がないな」と決断してしまうには、懸念もあった。
「転移」「転生」、手段はどうあれ――普通、一作品にそうした人物はひとり。「全員転生者」みたいな変化球もちょくちょくあるが、原則としてはひとりだからそういうアレンジが面白いんだ。
『地の文』の傾向からすると、好みはわりと王道。直球タイプ。勇者と魔王。美少女の癒やし手。露出の高い美女の姿をした魔物。「特別ですごく頑丈な」聖剣。
そのノリで俺のほかにもうひとり「元の世界の人間」が現れたなら、それは――強力なライバル、みたいなやつかもしれない。
競い高め合う純粋なライバルならいいが、盛り上がるのはラブコメ路線か? 冗談じゃないぞ、レナを争うなんて。
いや、それでも、ラブコメなら平穏だ。
もしあいつが「勇者」を乗っ取ろうとしてるとか、本当は魔王側の協力者だった、なんて裏があったら?
『地の文』は「ジャレットが転生者」という重大なネタバレを最初にかましてきたが、彼の秘密がそれだけとも限らない……というのが俺の懸念だった。
「じゃあ、お試し期間でどうだ? いっしゅ……一旬くらいでいい」
こいついま「一週間」って言いそうになってしれっと言い直したな? この世界に「一週間」の概念はない。十日で一旬だ。
「――少し相談させてくれ」
レナと話そう。俺ひとりで勝手に決める訳にはいかない。『地の文』は勝手に決めようとしてくれたが。
「どう思う? あいつのこと」
俺たちは少し離れて小声で話した。ジャレットも察したようで、何も言わなくても少し離れ、術の練習を再開している。「気のつくヤツ」に見える。
「不思議な人ね」
レナはまずそう言った。
……どういう意味? 神秘的で魅力があるってこと?
「風に特化した術士というのは珍しいわ。〈太陽神の撃ち手〉として力を得るなら、普通はもっとさまざまな術を操るものよ」
「ふん?」
ひとまずラブコメは回避だ。しかしもっと気になることもできた。
「それは、どの程度の珍しさだ?『少ないが、いなくもない』?『有り得ない』?」
「有り得てる以上、後者はないでしょ」
「そりゃそうだが」
俺は少し考えた。
「……違和感はないんだな?」
「どういうこと?」
「太陽神由来であることは間違いない?」
「ほかに何が……まさか、妖力ということ?」
察しのいいレナは、俺の疑念を言い当てた。
「どうしてそんなことを? 彼は人間に見えるけれど。まさか『お告げ』なの?」
「いや、そういう訳じゃなくて」
どう言ったらいいかな……。
「〈撃ち手〉を間近で見たことがほとんどないんだ。あれくらいの能力は普通なのか?」
「見たところ、精度も威力も高いわね。優秀な使い手よ」
「そうか。……よし」
俺はうなずいた。
「試用期間っていうのは悪くない。本当に戦えるのか、俺たちとの連携が巧くいくか……戦いだけじゃない。寝食を共にする以上は人間性も含めて、確認させてもらうことにしよう」
懸念はある。でも拒絶するには早い。
ジャレット自身の言動や『地の文』をしっかりチェックして、人間として、或いは登場人物として裏がないかどうかを見る。俺はそういう方針を立てた。
【アーサーはレナの意見も聞いた上で、ジャレットを迎え入れることにした。】
『地の文』はしれっと訂正を入れてきた。
結論は変わってないが、そうだな、レナとの相談は大事だ。何しろ彼女は俺の聖女様だぞ?……やめよう、キモいかもしれん。
―*―
ジャレットが転生者だという情報がなければ、俺はむしろジャレット本人にじっくり考えさせた。「いまの生活はどうするんだ」とか「稼げる仕事じゃない。たまに魔石が落ちれば楽だが、苦労も多いぞ」とか説明したと思う。
でも、あいつ知ってるだろ、それくらい。それに、もし企みがあるなら、気遣いは全く不要だしな。
とにかく、あいつは自分の考えで「勇者パーティーに入る」という選択肢を採った。転生前の年齢と合わせりゃ、少なく見積もっても三十年以上は人生経験があるだろう。年下の俺がどうこう言うことじゃない。
それから俺たちは、三人になって北の町に着いた。ここはジャレットが住んでる町だそうだ。宿場町から預かった荷物を指定された商店に運んだ俺たちに、ジャレットが知人の店や宿屋を紹介してくれた。報酬の残りも無事手に入ったし、宿代をケチる必要はなさそうだ。
「……本当にギリギリなんだな」
俺が財布の中身を確認しているのを見て、ジャレットは呆れたように言った。魔石設定が生えてきたおかげで、実は少し余裕がある。しかしとてもじゃないが、「金に困っていない」とは言えない。




