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敵は魔王より『地の文』だって?~勇者アーサーの不本意な戦い~  作者: 一枝 唯
第5話 『地の文』がネタバレをしてくる

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02 ラブコメは回避

 『地の文』がどう言っても、俺は彼の加入を断ることができる。ただ、『地の文』がジャレットを同行させることに決めているなら、「いいえ」の連打は無意味。断ってもついてきたり、魔物を風術で退治してみせたりして役に立つことをアピールし、俺が認める流れに持って行かれるだろう。


 だが、「それならさくっと仲間にしておく方が面倒がないな」と決断してしまうには、懸念もあった。


 「転移」「転生」、手段はどうあれ――普通、一作品にそうした人物はひとり。「全員転生者」みたいな変化球もちょくちょくあるが、原則としてはひとりだからそういうアレンジが面白いんだ。


 『地の文』の傾向からすると、好みはわりと王道。直球タイプ。勇者と魔王。美少女の癒やし手。露出の高い美女の姿をした魔物。「特別ですごく頑丈な」聖剣。

 そのノリで俺のほかにもうひとり「元の世界の人間」が現れたなら、それは――強力なライバル、みたいなやつかもしれない。


 競い高め合う純粋なライバルならいいが、盛り上がるのはラブコメ路線か? 冗談じゃないぞ、レナを争うなんて。


 いや、それでも、ラブコメなら平穏だ。


 もしあいつが「勇者」を乗っ取ろうとしてるとか、本当は魔王側の協力者だった、なんて裏があったら?

 『地の文』は「ジャレットが転生者」という重大なネタバレを最初にかましてきたが、彼の秘密がそれだけとも限らない……というのが俺の懸念だった。


「じゃあ、お試し期間でどうだ? いっしゅ……一旬くらいでいい」


 こいついま「一週間」って言いそうになってしれっと言い直したな? この世界に「一週間」の概念はない。十日で一旬だ。


「――少し相談させてくれ」


 レナと話そう。俺ひとりで勝手に決める訳にはいかない。『地の文』は勝手に決めようとしてくれたが。


「どう思う? あいつのこと」


 俺たちは少し離れて小声で話した。ジャレットも察したようで、何も言わなくても少し離れ、術の練習を再開している。「気のつくヤツ」に見える。


「不思議な人ね」


 レナはまずそう言った。

 ……どういう意味? 神秘的で魅力があるってこと?


「風に特化した術士というのは珍しいわ。〈太陽神の撃ち手〉として力を得るなら、普通はもっとさまざまな術を操るものよ」

「ふん?」


 ひとまずラブコメは回避だ。しかしもっと気になることもできた。


「それは、どの程度の珍しさだ?『少ないが、いなくもない』?『有り得ない』?」

「有り得てる以上、後者はないでしょ」

「そりゃそうだが」


 俺は少し考えた。


「……違和感はないんだな?」

「どういうこと?」

「太陽神由来であることは間違いない?」

「ほかに何が……まさか、妖力ということ?」


 察しのいいレナは、俺の疑念を言い当てた。


「どうしてそんなことを? 彼は人間に見えるけれど。まさか『お告げ』なの?」

「いや、そういう訳じゃなくて」


 どう言ったらいいかな……。


「〈撃ち手〉を間近で見たことがほとんどないんだ。あれくらいの能力は普通なのか?」

「見たところ、精度も威力も高いわね。優秀な使い手よ」

「そうか。……よし」


 俺はうなずいた。


「試用期間っていうのは悪くない。本当に戦えるのか、俺たちとの連携が巧くいくか……戦いだけじゃない。寝食を共にする以上は人間性も含めて、確認させてもらうことにしよう」


 懸念はある。でも拒絶するには早い。

 ジャレット自身の言動や『地の文』をしっかりチェックして、人間として、或いは登場人物として裏がないかどうかを見る。俺はそういう方針を立てた。


【アーサーはレナの意見も聞いた上で、ジャレットを迎え入れることにした。】


 『地の文』はしれっと訂正を入れてきた。

 結論は変わってないが、そうだな、レナとの相談は大事だ。何しろ彼女は俺の聖女様だぞ?……やめよう、キモいかもしれん。


―*―


 ジャレットが転生者だという情報がなければ、俺はむしろジャレット本人にじっくり考えさせた。「いまの生活はどうするんだ」とか「稼げる仕事じゃない。たまに魔石が落ちれば楽だが、苦労も多いぞ」とか説明したと思う。

 でも、あいつ知ってるだろ、それくらい。それに、もし企みがあるなら、気遣いは全く不要だしな。


 とにかく、あいつは自分の考えで「勇者パーティーに入る」という選択肢を採った。転生前の年齢と合わせりゃ、少なく見積もっても三十年以上は人生経験があるだろう。年下の俺がどうこう言うことじゃない。


 それから俺たちは、三人になって北の町に着いた。ここはジャレットが住んでる町だそうだ。宿場町から預かった荷物を指定された商店に運んだ俺たちに、ジャレットが知人の店や宿屋を紹介してくれた。報酬の残りも無事手に入ったし、宿代をケチる必要はなさそうだ。


「……本当にギリギリなんだな」


 俺が財布の中身を確認しているのを見て、ジャレットは呆れたように言った。魔石設定が生えてきたおかげで、実は少し余裕がある。しかしとてもじゃないが、「金に困っていない」とは言えない。



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