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敵は魔王より『地の文』だって?~勇者アーサーの不本意な戦い~  作者: 一枝 唯
第4話 『地の文』がラブコメに転向したがる

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06 同時に読者でもある

 幸い、その後『地の文』の暴走はなかった。

 雨は上がり、俺たちはぬかるんだ草地から砂利舗装の街道に戻って、順調に北の町を目指した。


「魔物も大人しいわね」

「シノンによれば、俺が本物の勇者だから殺さない、らしいからな」


 これまでは街道に出れば必ずと言っていいほど魔物と遭遇していたが、今日のトラブルは雨だけだ。

 怪我はしたくないし、戦いなんてないに越したことはない。しかし、〈ワーストエンド〉の活躍がまだ「聞聴貝を壊した」だけなので、そろそろ一発ド派手なバトルがあっても……いやいや、何を考えてるんだ俺は。


 『地の文』によって「魔王を倒す運命の勇者」というロールを与えられている俺は、けっこう強い。「一撃で」とはいかないし負傷もするが、襲ってきた魔物にはほぼ問題なく勝ってきた。

 とは言っても正直、バトルに関しては余裕がない。魔物にはキモい造形も多いし、臭いこともよくあって、腹が立つ。

 ただ、いい点もひとつある。それは「魔物は倒したあとに消える」こと。何でも「魔界に還る」らしい。これも助かる。


 死体が残ってると生々しいし、処理の問題もあるけど、それだけじゃない。襲ってきた相手であろうと「命を奪った罪悪感」みたいなのが、だんだん俺に溜まっていくと思うんだ。


 わりとあるじゃないか、「正義のための殺害」を肯定できなくて病む主人公とか、自分を守るためにその葛藤に目をつぶって殺戮マシンになる系主人公とか。

 これも読む分には俺は好き。でも体験はしたくないです。


【魔物を倒せば「魔石」が手に入ることもある。】


 ん?


【確率としては低いが、その分、高値で売れる。彼らの旅の助けだった。】


 いや、初耳だが?

 ……さては『地の文』のヤツ、路銀を稼ぐ描写をカットしようと?

 でも、いままで、そんなのなかったよな。これから出てくる感じか?


「レナ、魔石って判るか?」


 俺がそっと尋ねると、レナは目をぱちくりとさせた。


「悪い、何でもな――」

「何度も拾って換金してきたじゃないの。忘れちゃった?」


 呆れたようなレナの声に、俺は血の気の引く思いがした。


 「エレナ」「レナ」のときにもまさかと思ったが――それじゃ、やっぱりあのときに変わったんだ。


 俺には変わる前の世界の記憶があるが、レナにはない。

 レナの名前についても、変えたのは俺じゃない。俺の思いつきを『地の文』が「採用」しただけだ。


 『地の文』は思いつきや気まぐれで、この世界を簡単に作り変えられる。


―*―


 いや。

 いやいやいや。いやいやいや!

 世界改変って、こう、もっと大きなきっかけであるべきだろ!


 「レナ」への改変は彼女の命を救ったから、大きな出来事だ。俺にとってはもちろん、人の生死を変えるのはたいていの作品で「大きなこと」だ。


 でもさ!?「主人公が楽に稼げることにしよ!」って思いつきで世界変えていいと思ってんの!?

 楽になるのは助かるけどさ!?

 何かこう……読者として納得いかないよ!?


 俺は登場人物側だが、同時に読者でもある。……何なんだこの状況。


「ああ、『最近拾えてないな』ってこと?」


 レナは、俺の「魔石って判るか?」を「最近手に入らないことへの自嘲」と取ったらしい。「しばらく見なくて忘れちゃいそうだなあ」って軽口、という解釈だろう。苦笑している。


 整合性が取られた。俺が「アーサーは立ち上がった」と言う『地の文』を無視して座り続けたときのように。


「……レナ。あんとき、大変だったよな。財布の中身がほとんど底をついて……」


 俺の探るような言い方にレナは首をかしげる。可愛い。


「どうしたの?」

「……覚えてないのか?」


 なくなったのか? 俺が持つレナとの思い出は。レナは、俺の知らない俺との思い出を持っている?


「覚えてるわよ。食事代も出せないほどギリギリだったわよね、あのときは。でもまさかアーサーの芸が売れるなんて!」


 ふふっとレナは思い出し笑いをした。

 覚えて……くれてる。


「いざとなったらまたお願いね、あの、おかしな踊り」

「ラジオ体操、と言う」

「そうそう、そんなの」


 数ヶ月ほど前だ、本気で飢える前にひと稼ぎしなきゃならないと思って、俺はストレッチを兼ねたラジオ体操をしていた。脳内であれを流しながらな。

 そうしたら、「兄ちゃん、面白い踊りだな」と小銭をもらって……大道芸と思われた訳だ。


 確かに冷静に考えると、知らない人から見れば妙にキレのある変な踊りだ。俺は恥を忍んでラジオ体操を歌いながらフルで踊り、笑いを取って飯代をもらった。もうやりたくはないが……レナが涙を流すほど笑っていたのは可愛かった。


 あれをやらずに済むなら、いいことにするか……魔石設定も……。

 笑い合った思い出が消えていないようだったので、俺は許容することにした。俺が許容しなくてもどうせ変わらないんだから、反発し続けるより許容した方が気楽だ、というのもある。


【出会ってから半年強――。アーサーとレナの絆はいつしか強まっていた。】


 改まって言われると照れるな……


【そもそもレナが彼に同行したのは、】


 ん?


【最初は同情だった。】


 ……それはそう。


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