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敵は魔王より『地の文』だって?~勇者アーサーの不本意な戦い~  作者: 一枝 唯
第4話 『地の文』がラブコメに転向したがる

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05 考え直せ、『地の文』!

「神話ではね、雨は悪いものなの。太陽や月を隠してしまうから」

「……成程?」

「もちろん、恵みの雨は大切なものよ。だからこれはあくまでもたとえ話なんだけども」

「ふんふん」

「雨に濡れるというのは、死や病の暗喩でもある。そして裸というのは赤子の象徴、純真無垢なもの」

「つまり……赤ん坊のときがいちばん神様に近い、みたいな?」

「そう! 判ってきたじゃないの!」


 レナは物分かりの悪い教え子が正解を引き当てたと喜んでいる。


「だから、裸で抱き合うことは神に近くなることであり、病や死を避けることでもある。同時に、それは病や死が近くなっているということだから、歓迎はできないの。……あくまでも、たとえだからね?」

「何となく……判った」


 『地の文』は何をしたいんだ? ラブコメみたいなことさせてくるのかと思えば、神話の解説。だいたいレナとの恋愛フラグは立たないって何度も


 俺はそこでハッとなった。


 『地の文』が「アーサーに対して恋愛感情を抱くことは絶対にない」と言っていたのは――「エレナ」だ。


「アーサー」


【レナがそっとアーサーを見上げる。彼女の小柄さが意識された。】


 いやまさか。

 いや、困る。

 困るぞ!


「私……」

「レ、レナ」


【囁くような声。ごく近い距離。確実にかかる吐息。】


「お腹すいちゃった!」

「そうだな、携行食料でもつまむか!」


【レナは少し恥ずかしそうに笑って、アーサーはぱっと身を起こした。】


 待て! 完全にラブコメのテンポじゃねえか! 考え直せ、『地の文』!


 レナは可愛い。それはずっと思ってきた。恋愛的な意味じゃない。女子は心からほかの女子を可愛いと思えるものなんだ。

 いや、いまの俺は女子とは言い難いが、転移前の自分はそういうタイプだった。ヒーローにキュンとはなるが、ヒロインの健気さにも胸を打たれる、そういうタイプ。


 レナへの気持ちはそういう感じであって……妹でもなければ、ラブコメの相手でも……。


 俺は頭を切り替えるためにも、ごそごそと自分の荷物を漁った。小袋から、二本の指でつまめるくらいのブロック状のものを取り出す。


「ほら」

「有難う」


 旅路用の保存食は、カロリー特化で味は二の次三の次どころか、十の次って感じだ。最初は泣きそうだったが、近頃は慣れた。飯に大事なのは、まじでカロリー。バトルをこなす日々にいると心からそう思う。

 でも、レナにはもっと美味いもん食わせてやりたい、とも思ったりする。


「水は?」

「もらうわ」


【レナはアーサーの手から水筒を受け取ると、一口二口、流し入れた。それに合わせて彼女の白く細い喉が小さく上下するのをアーサーはそっと眺めた。】


 キモい! どうした!? 万一その二択ならラブコメの方がましだが!?


【って、ダメかなーこういうの。】


 駄目だよ!


【下手くそだな。やめとこ。】


 やめとけ!


 『地の文』に俺の心の叫びは届いていない。これまでの感じだとそう思える。これも、おそらく、向こうの独り言だ。

 ――もっとも、これまではこんな呟きみたいなものはなかった。〈ワーストエンド〉の名前をずいぶん気に入っているようだとか、そういう感じは伝わってきたけど、「このネーミング最高じゃん!」みたいなことは言ってこなかった。


 それが急に……何なんだ?

 思えば、あのときも妙だった。〈ワーストエンド〉の素材の話になったとき。

 「特殊な鉱石で、特別な作り方」「すごく硬い。頑丈」とかって、メモ書きみたいなことを呟いてた。


 そうだ、これって……メモ書きだ! 俺ははっとした。


 『地の文』が「お兄ちゃんと妹」について語り出したところとか、いまの、「これまでと違う描写をしてみようかな」「やっぱやめた」みたいな感じとか……ちょっとしたメモ、落書き、思いついてノートの端っこに気まぐれで書いてみては消しているかのような……。


 俺は息を吐いた。


 この世界が「誰かの書いた小説」かどうかは判らない。

 でもどうやら、「考えながら『地の文』を書いている誰か」は存在しそうだ。


―*―


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