04 お約束だよね!
嫌な予感はした。
突然の「妹みたいな」とかいう語りからの、大雨。
『地の文』の目論見が判る気がするじゃないか。
「結構濡れちゃったわね」
たどり着いたのは、奥行き数メートル程度の小さな洞穴だった。奥には道祖神……お地蔵様みたいな像がふたつ、岩から直接彫り出されていて、そこに簡単な囲いがある。
「こういうのって、月とか太陽の形じゃないんだ」
像は人っぽい形に見えた。
「ええ。月神と太陽神はずっと天においでだけれど、人の姿の使者を使わす、という神話はあるの。こうした像は、使者を模したものよ」
「へえ。レナたちが〈月神の使徒〉って言われるのはそれ?」
「ちょっと。全く違うでしょ。畏れ多いにもほどがあるわ」
怒られた。ごめんなさい。
「神の使者は文字通り、神が使わす存在。神の化身とされることもあるほど、強い御力を持つの。私たち神官や神女は、神の力をほんの少し借り受けているだけ」
レナは少しうつむいて、そっと胸に手を当てる。可愛い。
「神の使者っていうのは、月神の力も太陽神の力も持つのか?」
「神話によるわ。月神から使わされたから月神の力だけ、ということもあるし、二神は表裏一体であるから使者も同様である、ということも」
てきと……もとい、臨機応変だ。神話っぽくはあるよな、わりと設定がガバガバなの。……なんて言ったらレナに悪いから、この感想は内緒にしよう。
「少し待っていて。雨宿りの許可をいただくから」
「ああ、頼む」
俺がうなずくとレナはすっとひざまずき、胸の聖印を握って小さく祈りを捧げはじめた。
【神女が祈るのは、主に神殿での礼拝や、就寝前の感謝の時間――普通はあまり他者の目にさらされない場所だ。旅の間、アーサーはレナの祈りをずっと見ているが、それでも日々の祈りとはどこか違う。神に真剣に言葉を届けようとする様子は、いつもより彼女を神秘的に、美しく見せた。】
レナはいつでも最上級に可愛く美しいだろうが!
そうして俺が『地の文』に牙を剥いていると、レナの祈りは済んだようだ。
「お待たせ」
彼女はこっちを振り返って、鞄から何かを取り出した。
「ほら、これで髪拭いて」
「おう、ありがとな」
【アーサーはぎこちなく木綿の布を受け取った。】
普通に受け取りましたが?
【薄暗い空間でこうして近寄れば、レナの吐息が感じられそうだ。】
やめんか!
【濡れた服は脱いで温め合うのがお約束だよね!】
怒るぞ!
【でもさすがになー、ベタすぎるよな。嫌いじゃないけど。】
判るぞ!!
俺も読む分には好きだ。やる側になるのは、ちょっと。
……ってか、ほんと、どうした? 完全にキモい独り言になってるぞ?
【――それからアーサーとレナは、しばらく黙っていた。】
……戻ったか?
【雨音は次第に激しさを増す。アーサーの決断が遅ければ、ふたりと荷物はずぶ濡れだったろう。】
……戻ったっぽいな。何だったんだ? いまのは。
【聖なる祠のなかでは悪さをする気も浮かばない。アーサーは淡々と荷物の確認を始めた。】
なかでも外でも浮かばんわ。
でも確かに、荷物の確認はしとく方がいいな。俺は『地の文』に乗った。こういう真っ当な提案だけしてくれ。
「ほとんど濡れてないな、よし」
荷を包んでいた布は少ししっとりしてたが、中身は問題なさそうだ。
「レナ、そっちは?」
「大丈夫そう。結果的に正解ね」
「うん?」
「さっき、私を引っ張って走り出したでしょ。術をかけるから待って、と言おうか迷ったんだけれども、悠長に聖句を唱えていたら私たちは雨ざらし」
彼女は肩をすくめた。
「そうしたら、裸で抱き合うみたいな羽目になったかもしれないわ」
その言葉に俺は吹き出しそうになった。
レナさん?
「何よ。ああ、知らないんだったわね、神話の一幕」
「……神話に? 男女が裸で抱き合う一幕が?」
「ちょっと! いやらしいこと考えてないでしょうね!」
「いやらしいこと以外考えられるか!?」
俺が純真女子でも無理だよ!
「最低」
俺が悪いのか……? 俺が顔をしかめると、レナは息を吐いた。
「ごめんね。知らないんだもんね」
「あー、いや、別に怒ったり気を悪くはしてない。こっちこそ無知でごめんな」
お互い謝ると、変な空気は解消した。
【見つめ合うふたり。アーサーの頭からは「裸で抱き合う」の言葉が消えなかった。】
やめい!




