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敵は魔王より『地の文』だって?~勇者アーサーの不本意な戦い~  作者: 一枝 唯
第3話 『地の文』に断固として抗う

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07 俺に、できることは

 考えろ。

 考えろ、考えろ!


【エレナの死は、石像が砕けたことによって定まってしまった。】


 駄目だ! やめろ! 確定させるな!


【アーサーが診療所に飛び込んだとき、ソルトは絶望的な表情で彼を迎えた。】


 やめろ! やめてくれ!


「アーサー、さん……お嬢さんの、呼吸が止まって……鼓動も……」

「嘘だ!」


 考えろ。まだできる、俺にできることがあるはずだ。

 〈聖なる勇者〉なんて言われて、魔王を倒す運命にあると『地の文』が……。

 俺の行動以外では絶対的な、『地の文』が。

 エレナの――運命を……。


【アーサーはエレナの両頬に触れた。温かい、と思ったが、彼の冷えた指先がその体温を即座に奪っていくことも感じられた。】


 やめてくれ。嘘だ。こんなこと、あるもんか。


【彼は震える手で救命を試みた。】


 そ、そうだ、心臓マッサージ! 確か、こうやって……。


「何してんです、アーサーさん!」


 何だっけ、何かの歌のリズムでやるとちょうどいいって……思い出せない、大事なことなのに。


「やめてください、駄目ですよ、そんなに女の人の身体を押したら! 折れたらどうすんです!」

「死んだらどうするんだ!」


 俺の鼓動が激しい。エレナの鼓動が判らない。


「駄目ですって! そんな無茶苦茶な傷、癒やせる人はこのお嬢さんだけでしょ! 瀕死の状態でできると思うんすか!?」


 必死に言われて、俺ははっとした。

 ああ、ソルトさんの言うことはもっともだ。転移前の世界ならともかく……この世界でエレナのあばらを折ってしまったら? 心臓が動いても、苦しませて――。


「でも!」


 何とかしないと! 助けないと! 助けたいんだ!


【だが――無駄だった。】


「まだだ!」


 俺は叫んだ。ソルトさんはびくっとした。


 考えろ、考えろ、考えろ!

 俺に、できることは!


「名前と……声で……」

「な、なんですか……?」

「名前と声で呪う道具だと言った!」


 俺はソルトさんを弾き飛ばす勢いで言った。


「聞いてくれ!」

「は、はい!?」

「エレナっていうのは本当の名前じゃない! 彼女は……レナっていうんだ! エレナは偽名! 呪いはかからない!」


 俺にできることは、言動を変えて、『地の文』に整合性を取らせること!


「は、はあ……」


 ソルトさんは「だから何だ」という様子だ。

 でもどうだ?――『地の文』は!


【――そう、エレナというのは神女として名乗っている、仮の名。彼女の本当の名前はレナだった。】


 頼む……!


【それならば、呪いは、かかりきらなかったはずだ。】


 頼む!


「アーサーさん、お嬢さんの身体が!」


【エレナ――いや、レナの胸が上下しはじめた。】


 は……。


「……アーサー……?」

「レ、レナ……」


 エ、じゃない、レナが、目を開けた。俺はへたへたとその場に座り込んだ。


「ど、どうしたの? 大丈夫!?」

「わー、待って、あなた、人の心配してる場合じゃないですよ!?」


【身を起こそうとしたレナをソルトがとめる。】


「何しろ、死ぬとこだったんですから!」

「ええ……? だれ……?」

「あ、申し遅れました、ここで診療所やってるソルトっす。あなたが倒れたんで、そこのアーサーさんが運んできて」

「倒れた? 私が?……本当に大丈夫? アーサーが」

「あ、ああ……」


 安堵のあまり、腰が抜けたみたいになっちまった。

 レナが、起きてる。

 喋ってる。

 俺を見てる。

 こんな幸せなことって、あるか?


「……レナ」

「何よ、突然。そう呼ぶことにしたの? いいけど」


 少しだけ照れくさそうな顔をしてる。俺も何とか立ち上がって、ふやけた笑いを返した。


「まー、何があったのか判らんっすけど、呪いは解決っすか? 無事そうでよかったっすね。でもレナさんはそのまま寝てください。アーサーさんもそこの長椅子、使っていいっすよ。朝になったら診察して、薬草出しますんで」


 ソルトさんは医者としてそんな指示をくれた。俺も、レナが倒れて気が気じゃなかったが目を覚ましたので安心した、という簡単な説明だけをして、ソルトさんの提案に乗らせてもらうことにした。


 実際、休む必要がある。ちょっと心臓に悪すぎた。


 よかった。本当によかった。

 俺はエレナ、じゃない、レナを助けられたんだ。


 うん――でも、待てよ?

 全身の力が抜ける安堵のなかで、俺のなかにふっと湧いた疑問があった。


 俺は……もしかして、彼女の名前を変えちまったのか? それとも俺が知らなかっただけで、本当に本名だった?

 彼女からそんなことを教わった覚えがないのに、レナは「俺がもともとそれを知ってて、本名呼びに切り替えただけ」と思っている。


 ここにはいったい……どんな整合性が取られたんだ?


[第4話「『地の文』がラブコメに転向したがる」につづく]


エレナから、レナへ。

果たして整合性は取られたのか?


先が気になっていただけましたら、最新エピソード画面下の【☆☆☆☆☆】評価やブックマーク等から、応援をよろしくお願いいたします。


こんな引きからの、第4話「『地の文』がラブコメに転向したがる」。

お楽しみに!

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