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敵は魔王より『地の文』だって?~勇者アーサーの不本意な戦い~  作者: 一枝 唯
第1話 『地の文』のネーミングセンスを疑う

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02 勇者様と見込んで、お願いが

「……アーサー?」


 どうにもエレナの声が心配そうに聞こえる。


「あのさ」


 俺はこほんと咳払いをした。


「エレナには俺が疲れて見えるか?」

「え?」


 何を聞かれたのかと迷うように、エレナは首をかしげた。可愛いんだが脈はない。


「つまり、魔物は毎日のように襲ってきて、俺はそれを返り討ちにはしているが、根本的解決にはなってない。魔王退治に必要とされる『伝説の聖剣』の在処も手がかりひとつないし、そういうところが疲れにつながっているんじゃないかと」

「ああ、そうね。判るわ」


 俺が自分たちの状態を改めて説明すると、エレナはうなずいた。


「『気持ち』っていうのは大事なものなのよ。動きと直結することもある。『いつまでこんな生活が続くんだろう』なんて思い悩むと、剣が急に重く感じられて……万一のことだってあるかもしれない」


 ゴクリ。俺は生唾を飲み込んだ。と、エレナが笑う。


「何、神妙な顔してんの! あなたみたいなふてぶてしい勇者様がそう簡単に剣を取り落としたりするもんですか」

「な、何だよ。脅かしたのか?」


 俺は内心で胸をなで下ろした。「そう見える」ということはないようだ。


「でも、このところ進展がないのは確かだよな。魔王は、『伝説の聖剣を持った〈聖なる勇者〉に倒される』って地のぶ……予言を怖れてるのか、やたらと魔物に俺を狙わせるけど、俺が持ってるのは中古の剣だ」


【転移直後の、武器すら持たなかったアーサーを見かねた旅の戦士が、自分はこれから新調するところだからと幅広の剣をくれたのだ。】


 あのおっさん、いい人だったな。剣もしっかり手入れしてあって、まだ全然使えるヤツだし。


「『伝説の聖剣』なんてのも、ふわっとしすぎてる。世界は広いってのに、どこの何ていう伝説かくらいは教えといてもらいたいもんだ」


【伝説の聖剣――。アーサーの言うように、過去の英雄が剣を遺したという「伝説」はいくつもある。村を救った、ひとりの少女を守った、という段階まで入れるとしぼりようがない。】


 実際、いくつか当たりはしたが、錆びてて使い物にならないもんばっかりだ。おっさんの剣の方が遙かに上等。


【停滞を感じ出していたアーサーとエレナ。しかしその彼らの前に、思いがけない手がかりが現れることになる。】


 お。『地の文』さんの予告だ。


「エレナ」

「何?」

「何かあるぞ」

「あら、お告げね」


 近頃はエレナも慣れたもので、「勇者と癒やし手」となるべく顔を作った。そんなふうにしなくても彼女は可愛いが。


「――勇者様と見込んで、お願いがございます」


【見知らぬ娘がおずおずと彼に声をかけた。】


 きたな。この手の「お願い」は、よくある。

 魔物退治系だろう。旅の戦士などに頼んでしくじったり高額な報酬をふんだくられることを警戒し、「〈聖なる勇者〉様なら無償で助けてくださるに違いない」って類。


【村に魔物が出て困っていると言うのだ。】


 ほらな?


【アーサーは皮肉を言うこともあるものの、心の底では人々の安全な暮らしを守りたいと思っている。すぐに引き受けるつもりだった。】


 ……ちょっとこそばゆいな。


「ご依頼ということでしょうか」


 エレナがさっと俺の前にかぶさるようにして声を出した。にっこりと娘に笑いかけているが、俺は知っている。

 こういうときのエレナは、手強い。


「勇者には、ご存知の通り大きな『使命』がありますので、生憎ですけれど魔物退治に村へ出向くようなことは難しいのです。とは言えもちろん捨て置きはしません。そうしたことは神がお許しになりませんから」

「は、はあ」


【一息でエレナは言ってのけ、娘は戸惑った。】


「いかがでしょう。ご依頼料次第で勇者が出向く、街の戦士を紹介する、内容によっては魔術師協会への口利きも格安で行えますけれど」

「え、ええ……?」


 俺は黙ってエレナに任せることにした。実に頼もしい。


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