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敵は魔王より『地の文』だって?~勇者アーサーの不本意な戦い~  作者: 一枝 唯
第2話 『地の文』がシリアスをぶっ込んでくる

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05 まずい気配が

「何の民だって?」

「しいっ、〈日の民〉に聞かれちゃならん、静かに」


 あれ……ちょっとアレなお爺さんですか……?


「わしの目はごまかせん。連れのお嬢さんは〈月の女神〉の使徒じゃろ」

「ええと」


 間違ってはいない。

 エレナは〈白銀月〉という称号を持っているらしいし、この世界における「神様」は「太陽神」と「月神」だってことは、俺も知ってる。


 最初の頃に『地の文』がとうとうと説明してた。俺はフレーバー程度の世界設定は好きだけど、あんまり細かいと忘れちまうような読み手なので、面白いと思ったところだけ覚えてる。


 この世界の人々は太陽と月の二神に祈る。その使い分けはわりと判りやすいと言うか、だいたいイメージ通りだ。大まかに言えば「動」が太陽で、「静」が月。


 新しいことをはじめるなら太陽神に祈り、現状を守りたければ月神に。子が産まれれば太陽神に、人が死ねば月神に。どちらが強いとか偉いとかはなくて、対等らしい。

 なかでも俺が面白いと思ったのは、性別が自由なこと。太陽神も月神も、男神として祈られることもあれば女神として崇められることもある。これはいろんな設定を見てきた俺からも珍しく感じる部類だ。

 中性とか両性とかはなくはないけどな、どっちにもなってどっちでもいいってのは、変わってる気がしてよく覚えてる。


 さっきの〈日の果実水〉みたいに、人々の日常にも堅苦しくない形で馴染んでて……柑橘系を日の果実、ベリー系を月の果実って言うみたいだ。これは色のイメージっぽい。


 で、エレナみたいな癒やし手は基本的に月神に祈る。元の世界のイメージだと、「攻撃魔法は魔法使い、補助や回復は神官や僧侶」ってのがあるが、ここでは「魔法」は全部「神の力」だ。攻撃的な術は、太陽神の力って訳。


 大きくはどっちも「術士」って言われてるけど、月神の力を使いこなすには修行が必要で、「神官」「神女」であることが多い。

 太陽神の力を主に使う術士は、〈癒やし手〉に対して〈撃ち手〉とか言われる――つまりヒーラーとアタッカーってこと――だが、組織に所属すると「魔術師」って言われるとか聞いた。


【太陽神と月神は対等――。アーサーはそのことを思い出した。もし二神が敵対しているなら、老人の「太陽神の信者に聞かれるな」と取れる発言は理解できる。しかし、二神は争ってなどいない。二神は表裏で一体。それはこの世界では常識的なことのはずだった。】


「それに、わしの目はごまかせんぞ」


【老人はニヤリとしてまた言った。】


「お前さんの腰にあるそれは……月光石じゃろ」

「月光石?」


 お爺さんが言っているのはワーストエンドの柄にはまっている、大きな白い石のことっぽい。

 蔵のなかにあった剣は埃まみれだったのに、この石だけピカピカだったのは俺の記憶にも新しい。何か特別な石ってことか?


「聖なる石じゃ! 月の女神の使者たる証じゃ! ついにきた!」

「お、おいおい」


【老人の目が不気味に光った。アーサーはぞくりとするものを感じる。】


「お前さんたち、やるのかね……〈日の民〉の導師を」

「いや、俺が倒しに行くのは魔王で……」


 何だこれ? 新興宗教間の争い? やるって、まさか、殺る、ってこと? いやいや、まずい気配がしてきたんだが。


【そのときだった。】


 な、何だ!?


「はーいおじーちゃんそこまで。だめよーまた旅人さんに変な話して。すみませんね、お客さん。おじーちゃんボケちゃって」

「は」

「失敬な! わしゃボケとらんぞ! 三日前の飯もちゃんと覚えとる!」

「はいはい、いつも同じの食べてるもんね」

「は……」


 俺は額の汗を拭った。

 え、認知症気味のじーちゃんの戯言? まじで?

 ……それとも伏線? こういうのって「老人の戯言と思わせてほんと」ってのが定番だよな?


 給仕の女の子とお爺さんのコントを背後に、俺はエレナのところに戻った。


「何だったの?」

「うーん」


 どう言ったものか。


「エレナ、〈月の民〉って知ってるか?」


 一応訊いてみることにした。

【アーサーの問いかけに、エレナは「ああ」と呟いた。】


「もしかして、神話を用いた歌物語のこと?」

「歌物語?」

「そう。〈月を歌う民〉と、〈日を歌う民〉の物語」

「へえ……?」


 ちょっとぴんとこない。


「神話自体は知ってるわよね?」

「ええと……月神と太陽神が……出会って……」


 俺がもごもごと言うとエレナは苦笑した。


「妙に何かに詳しいこともあれば常識を知らないんだから、あなたって変な人よね」

「褒められたと思っておく」


 そう返すとエレナは「はいはい」とかわした。


「もともとは、『月しか知らない民』と『太陽しか知らない民』がいたのね。でもやがて互いを知るようになって、神はどちらも美しく、人間にはどちらも必要だと知るの。そしてよりよい世界になったのよ」

「成程」


 たぶん詳細を言うと長いんだろう。エレナはだいぶ大まかに喋ってくれた。


「それを使った歌物語っていうのは、ふたつの旋律が重なる仕掛けがあってね。ふたつの曲が合わさってより美しく響き合うことで、二神は表裏であり、支え合い高め合うものだ、と表したのね」


 興味が湧いた。聞いてみたいな。


「じゃ、片方だけ歌われたり、片方だけ贔屓する聞き手がいたりもするのか?」


 もしかしたら「月推し」と「太陽推し」の争い……? 俺はそんな想像をした。


「どうかしら。片方だけ崇めるなんて無意味だし、不可能でしょ」


 俺の推理をエレナはあっさり否定する。


「不可能って、何で?」

「何でって、当たり前なのよね」


 エレナはまたしても苦笑いを浮かべた。また常識がないところを見せてしまった。エレナさんの神様講座を大人しく聞こう。


「簡単に言うなら『寝ながら活動はできない』ってとこ。私たち神に仕える者は『瞑想と闘争を同時には行えない』って言うんだけれど」


【睡眠なしに動き続けることはできないし、ある程度以上健康であるなら、全く目を覚まさずにずっと眠り続けることもできないだろう。それと同じように、どちらかだけを信じることはできない、とエレナは言うようだった。】


 でも、それならあのお爺さんの話は……?


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