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敵は魔王より『地の文』だって?~勇者アーサーの不本意な戦い~  作者: 一枝 唯
第2話 『地の文』がシリアスをぶっ込んでくる

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04 これはただの情景描写か、それとも

 前にもあった。「思いがけないことになるのをアーサーはまだ知らなかった。」系の『地の文』。「何かある」と警戒したおかげで魔物の待ち伏せには気付いたが、商店でぼったくられたのには気付かなかった。

 エレナから俺だけじゃなく商店主も怒られて、結果的には返金とおまけまでもらったんだが……ああいう面白イベントの雰囲気じゃない。どちらかと言うならバトル系だろう。


 とは言え、「襲撃の気配はない」と言っておきながら即ひっくり返して襲撃ってことはないはずだ。宿場町の話をしてたし、夜襲の可能性はある。

 シノンの夜這いは勘弁してほしいな……エレナに祈りをもらってから寝るのがいいのかな……。


「雲行きが怪しくなってきたわね」


【エレナが空を見上げる。いつの間にか空は暗くなり、厚い雲に覆われはじめていた。】


「少し急ぎましょう」

「賛成だ」


 うなずいて俺は背負い袋の紐を締め直した。

 天候で雰囲気を描写した上に俺たちを急がせる手法……ときどき妙に巧いことやりやがる。


【宿場町は、「町」と言っても、街道の周囲に宿や商店が十軒ほど並んでいる程度の、小規模なものだった。】


 大きな街道にはちょいちょいこうした場所がある。旅人や隊商を目当てに商売をしてる訳だ。大きな街より価格は割高だが、これはぼったくっていると言うより正当な価格だろう。街より危険だもんな。


「そこのおふたりさん! 宿ならうちへどうぞ!」

「飯ならこちらへ! いい酒揃ってますよ!」


【降り出す前に呼び込もうと言うのだろう、店の者たちが積極的に声をかけてくる。】


「有難う、ひとまず少し見てくるよ」


 俺はにこやかに返した。これは学んだ経験による。


 転移前の世界では、この手の客引きは基本的に無視。下手に返答をするとしつこくされる、というのが都会の常識だった。

 だが、ここではよくない。俺の勇者としての立場もあるけど、都会みたいに選び放題じゃないんだ。いつまたここを通る必要があるかも判らないのに、心象を悪くするのは得策じゃない。

 最初の頃、この手の声かけを完全に無視した俺にエレナがそういった忠告をくれた。本当に彼女は、俺の旅路になくてはならない人物だ。


【アーサーたちはそのまま通りを進み、「旅の途中」という条件下で比較的清潔そうな宿を取ることにした。最初の頃は硬いベッドに悩まされたアーサーだが、近頃は慣れたものだ。】


 慣れたこととふかふかの布団も恋しいことは別だからな?


【管理の行き届いた宿は客層もいい。「旅路の上で比較的」ではあるが。】


 実際、大事だ。安い酒場とかだと治安も悪くて、ごろつきみたいなのが「ようよう兄ちゃん、キレーな姉ちゃん連れてんじゃねーか。俺らに貸してくれよ」とか言ってくることが本当にある。エレナのためにも治安は大事。


【以前、酔っ払いに絡まれたアーサーは、エレナを守るべくくだらない喧嘩を買いそうになり、当のエレナに叱られたこともある。】


 要らん回想すな。


【宿に併設された食事処には、雨を警戒して屋根を求めてきたらしいアーサーたち同様の飛び込み客と、近所の常連がいるようだった。宿場町の性質上、「ただの家庭」はあまりない。普段着姿の老人は、おそらくどこかの店か宿の主人の父親などで、引退してのんびりしているのだろう、と推測できた。】


 『地の文』が店の片隅にいる老人に焦点を当ててきた。これはただの情景描写か、それともあのお爺さんが何か知ってるとか?

 俺はちらりと彼を見た。と、目が合った。やべ。


「……そこな、旅のお方」


 きちまった。何かのフラグを立てちまったぞ、俺。

 無視もしづらい。俺は「俺か?」などと呟いた。老人はうなずき、手招きをしている。こりゃ行くしかない。


【アーサーはエレナに注文を任せ、老人のいる隅に近づいた。】


「肉の焼き物系だったら何でもいいからよろしく。あと――」

「はいはい、〈日の果実水〉があれば一緒に頼んでおくわ。行ってらっしゃい。愛想よくね」


 俺の好みを把握してくれてる。嬉しい。可愛い。この世界、ジュースがやたら美味いんだよな。あれば頼んじゃう。特に柑橘。


 おじいさんは俺とエレナが喋ってるのを見てニコニコしている。何だ?「可愛いお嬢さんだな」って思ってる? それはそう。


「お前さん……〈月の民〉だね」


 近くに寄ると、お爺さんはまずそう言った。

 は?


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