03 とても硬い。頑丈。
不思議な気分だ。俺はこうして大地を踏み締めていて、この世界をリアルなものだと感じてるのに、同時にフィクション感覚が抜けない。『地の文』が見えるせいなんだろう。
たとえここが「誰かの書いた物語の世界」であるとしても、エレナは間違いなくここで生きているし、いまは俺もそうだ。腹は減るし、怪我をすりゃ痛いし、死ぬかと思えば怖い。
なのに、「小説を読んでいる」気持ちがずっとある。自分でも気味が悪い。
「アーサー」が死んだらどうなるのか、考えたことはある。そのまま元の世界も何も関係なく死ぬか、元の世界に戻ることになるか。
もちろん、試しに「死んでみる」訳にはいかないし、『地の文』はそんなことに答えをくれない。「魔王を倒すことでアーサーは元の世界に戻るだろう」みたいなことを序盤に一度言っただけで、それが本当かどうかも判らない。
だから俺は、元の世界に帰りたいなら「魔王を倒してみる」しかない、という訳だ。
こんな「やってみた」、やる側はたまんないよ。
―*―
「ところで実際、どうなの、それは」
エレナがちらりと俺の左腰にある聖剣を見た。
「剣としちゃ、一級品だと思う。おっさんの中古品もしっかりしてたが、造りが違うよ。伝説の鍛冶師が作ったってのは、まじかもな」
ワースティスさんの伝説やエンディリオンの地を俺は知らないが、柄を握ったときの感覚が全然違うことは判る。吸い付くような感覚と、思い切り振ったときの抵抗の低さは快適だ。
ずっと蔵のなかにあったにも関わらず刀身は美しく、その辺りの植物を刈ってみた感じでは切れ味もよいし、強度もあった。手入れの必要はなさそうで助かる。
【ワーストエンドの素材は、特殊な金属だ。】
お。どういうの?『地の文』の解説を俺はわくわくと待った。オリハルコンとかミスリルとか、そういうやつ? 俺はミスリルが好きだな!
【神話の地エンディリオンでのみ採れる特殊な鉱石を用い、特別な作り方をしたものだ。とても硬い。頑丈。】
……それで終わり? てか、メモか?
うん、まあ、判った。ひとまずはミスリル的なものだって解釈でいいだろう。いいネーミングが思いついたらあとでもいいから教えてくれ。
「少なくとも『すぐ壊れる』みたいな懸念はないと思う。予言に言われてる本物かどうかは確証がないが」
『地の文』が気に入ってるから本物だとは思うが。
「祝福を受けた剣であることは確かよ」
「ん? そうなの?」
シノンも村の人も「聖剣」と言ってはいたが、枕詞みたいなもんかと思ってた。そうじゃなくて、ゲーム的に言えば「聖」属性があるみたいなことか?
……考えてみるとシノンは、剣に触らなかったな。
「エレナはどうして祝福が判ったんだ? エンディリオンは聖なる土地で、そこで作ったものは祝福されるみたいなことか?」
「それは常識でしょ」
常識だった。
でも本当にこれがエンディリオンってところで打たれたかどうかは……。
「私を誰だと思ってるの? 祝福くらい、見れば判ります」
「すみません」
俺は思わず頭を下げた。
呪いのアイテムじゃないことは確定したようだ。よかった。
【ふたりがそんな話をしていたのは、村を離れて数日した頃だった。目的の剣を手にしたことで、彼らは改めて北――魔王城を目指すのだ。】
やっぱ北だよな、敵地は。
風吹きすさぶ、寂れた山岳地帯みたいな。
暖かくて花が咲き乱れる南方に魔王の拠点があったら、格好つかないもんな。
行きたいのはそっちだけどさ。
【大きな街道まで出れば、次の宿場町まですぐだ。】
「すぐ」ねえ。まあ、徒歩丸一日よりは近いと見ていいのかな。
【聖剣〈ワーストエンド〉の力か、はたまた別の理由か、魔物たちの襲撃の気配はない。】
確かに、あれから静かなんだよな。聖水みたいな効果あるのか?
だいぶ簡単に討伐できるようにはなってきたが、怪我しない訳じゃないし、楽でもないので、無差別みたいなエンカウントがないのは助かる。
【しかし――彼の旅路を助け、支えるはずの聖剣によって追い詰められることになるとは、アーサーはまだ知らなかった。】
うっ、きた、この手のヤツ!




