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第18話 生徒会長と二人きりの反省会

 前回のあらすじ。

 美少女四天王と俺とで、文化祭の実行委員を務めることになった。


 お茶会がお開きになり、午後の授業のために解散する。フユミは特進の教室へ、シミズは文芸部室へ(こいつはほとんど授業に出ない)。


 一方、俺に平穏は訪れなかった。


 隣の席のコハルは、教師の目を盗んでは「衣装どんなのがいい?」とメモを回してくるし、机の下でツンツンと足をつついてくる。身も心もくすぐったくておかしくなっちゃうよ〜!


 休み時間にスマホを開くとフユミとシミズからラインが来まくっていた。


 フユミからは『浮つかないように』というオカンみたいなメッセージ。

 シミズのは教養が盛り込まれすぎててわかりくかったが、要約すると『私にもっとかまってください』という感じだった。


 それらのメッセージを読む間も、俺はコハルからちょっかいをかけられまくっていた。


 そんな状況で授業に集中できるはずもなく、先生の話は右耳から左耳へ素通り。俺の脳内CPUは、実行委員長の重責と、この後に待ち受けるアキハ先輩との『二人きりの反省会』への緊張で使用率100%だった。


 そうこうしてる間に午後の授業は終わり、ついに放課後のチャイムが鳴り響いた。




◆◆◆




「それじゃあトーマ、アタシら先行ってるからねー!」


 会議室を出た廊下で、コハルが元気よく手を振った。

 その腕には、捕獲されたネコのようにグデっと伸びたシミズが抱えられている。


「ちょ、コハルさん……私には原稿の締め切りが……」


「いーじゃんいーじゃん! カラオケでアニソン・ゲーソン・キャラソン縛りしよ! 『鳥の詩』とか歌ってよ!」


「国歌斉唱となれば、やぶさかではありません」


 チョロいぞシミズ。

 あと、俺もシミズの歌には興味がある。ぐっじょぶコハル。

 二人は嵐のように去っていった。オタクとギャルの化学反応、意外と悪くないのかもしれない。


 残る問題は、俺の目の前で仁王立ちしている幼なじみだ。


「さて、トーマ。行くわよ」


 フユミがカバンを持ち直す。


「駅前の文房具店まで付き合って。予算管理用の帳簿と、修正液も買いましょう。あと、マジックペンとスティックのりも切れてたわよね」


 なんでウチの文房具の残量を把握してるんだよ。ホントに目端が利く幼なじみで助かり通しだ。


 しかし、今は彼女にNOと言わねばならない。心苦しいが。


「あー……悪い、フユミ」


 俺は手を合わせ頭を下げる。


「俺、このあと生徒会室に行かなきゃなんないんだ。木南先輩から、実行委員長としての引き継ぎ事項があるらしくて」


「……引き継ぎ事項?」


 フユミの涼やかな眉が、不信感にひそめられる。つぶらな碧眼が俺を探る。


「ほんとにぃ? 二人きりになりたいだけじゃなくって?」


「まさか! あくまで業務連絡だよ、業務連絡!」


 全力で首を横に振る。嘘は言っていない。内容としては四天王の関係の具合を確認する会だが、実質的には業務のようなものだ。


「……ふーん。ま、信じてあげるわ」


 フユミは渋々うなずいた。

 生徒会業務を邪魔するわけにはいかないという、彼女の生真面目さが俺を助けた。


「じゃあ、私は先に帰って夕飯の支度してるから。……寄り道しないで、真っ直ぐ帰ってきなさいよ?」


 フユミは俺に釘を刺してから、ローファーをコツコツ鳴らして去っていった。


 その背中が見えなくなるのを見届けてから、俺は大きく息を吐いた。


 第一関門突破。

 だが、本番はここからだ。

 俺は踵を返し、特別棟の最上階――生徒会室へと向かった。



 ◆◆◆



 生徒会室の扉を三回ノック。


「どうぞ」


 アキハ先輩の澄んだ声が返ってきた。


「失礼します」


 挨拶とともに、重厚な扉を開ける。

 夕日が差し込む生徒会室は、茜色に染まっていた。

 その中央、執務机に座るアキハ先輩が、書類から顔を上げる。


「お待ちしておりました。……鍵、閉めてくださる?」


「……はい」


 言われるがままに施錠する。ガチャ、という硬質な金属音が、退路を断たれたことを告げる。


 アキハ先輩は金ペンの万年筆を置き、すっくと立ち上がった。


 窓際まで歩み寄り、夕日を背にして振り返る。逆光で表情が見えにくいが、そのシルエットだけで圧倒的な美しさが伝わってくる。


 女神か……いや、悪魔か。


「お疲れ様でした。初めての委員会、いかがでしたか?」


「……胃に穴が開くかと思いましたよ。ってか多分もう空いてます。あんな個性派まとめるなんて無理ゲーです」


「ふふ、でも最後はうまくまとまりました。皆さんトーマさんのことが好きですから、きっとうまくいきますよ」


「あ、ありがとうございます……」


「もちろん、わたくしもです」


 う、とうめいてしまった。

 アキハ先輩は二人きりになると、当たり前のように好意をあらわにする。不意打ちも相まって心臓に悪い。


「さあ、こちらへ」


 先輩が手招きをする。

 俺はおずおずと近づき、隣に座った。


 アキハ先輩の身長は俺より拳ひとつぶん低い程度だが、脚が長いので座高は俺よりかなり小さい。


 つまり、上目遣いになる。


 なんとなく上位者っぽいアキハ先輩から見上げられるのは、なんだかいろいろな意味で変な気分になる。

 

 アキハ先輩はすいっと距離を詰め、俺のネクタイに指をかけた。


 近い。

 高貴なバラの香りが鼻腔をくすぐる。


「よく頑張りましたね」


 艶めく瞳が胸に迫る。


「あの強情な月澄さんを納得させ、自由奔放な火伏さんを制御し、内気な冷水さんをその気にさせた。……私の見込み通り、あなたには才能があります」


「才能って……ただ、アキハ先輩や皆に振り回されてるだけの風見鶏ですよ」


「そう謙遜なさらないで」


 アキハ先輩の手が、俺の首筋を這い上がってくる。


「ねえ、トーマさん」


 甘く深い声色にゾクリと背筋が震えた。


「頑張ったあなたには、ご褒美が必要ですね」


「ご、ご褒美……?」


「ええ。……思い出させてあげますよ。あの夜、私たちに何があったのか」


 先輩の指先が、俺の唇をなぞる。


 潤んだ瞳。わずかに開いた唇。夕日の赤さが、彼女の頬の紅潮を際立たせている。


 こ、これは……誘われとる!


 退路も逃げ場もないタイミング!!


 俺の脳内で、理性の警報が鳴り響く。

 フユミとコハルとシミズの顔がフラッシュバックする。


 だが、目の前の魔性はあまりにも抗いがたい。


 先輩の顔が近づく。

 吐息がかかる距離。

 キスをするのか、それとも、もっと深いところへ堕ちていくのか――。


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