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第1話 四天王、全員集合!(前編)

「こっちこっち〜」


 コハルに手招きされるままに、俺はおっかなびっくり卓に着いた。


 フユミの隣。対面にナツキ。ナツキの隣にコハル。上座にアキハ先輩。


 テーブルの中央には、半玉のスイカ。赤い果肉は陽射しを受けて、きらきら瑞々しく光る。


 ナツキが岩塩をしゃかしゃかとかけた。コハルはスイカをしゃくしゃく食べる。


 フユミは「コハル、タネ飲み込んじゃってない?」と聞いた。コハルは「栄養になるから」と返した。


 ナツキは「お腹で種が芽を出しますよ」と笑う。コハルは「それ都市伝説でしょ〜」と笑う。


 するとアキハ先輩が「いえ、実例がありますよ」と真顔で言った。


 コハルが「えっ」と固まった。


 フユミが笑う。「アキハ先輩、からかっちゃ可哀想ですよ」と。コハルは「ああビックリした!」と胸をなでおろす。


 (なご)やかだった。

 しかし俺は気が気じゃない!


 平静を装いつつ、さりげなく四人の様子をうかがう。


 なんでみんないるの……?


 普通に考えたら、それぞれ別々のことをしていたはずだ。

 フユミはアメリカ独立記念日を祝っていたはずだし、コハルは自宅で弁当を作っていたはずだし、ナツキは文芸部室で寝ていたはずだ。


 しかし今は全員が海沿いのコテージに集まり、和気あいあいとスイカを食べている。


 聞くに聞けなかった。あまりにも自然な雰囲気だったから。


 そんな俺を、隣のフユミが横目で見る。


「アキハ先輩が招待してくれたのよ。タカさんが車でお迎えに来てくださって。ありがたかったわ。横田からここまで、けっこう遠いから」


「そ、そうか。それはよかった」


 俺は曖昧に頷いた。


 やっぱりアキハ先輩か。そりゃそうか。こんなことを段取りできる人は、アキハ先輩をおいて他にいない。水着に着替えたタイミングで連絡したのだろうか。


「ほら、トーマもスイカ食べなさい。アキハ先輩が高いの用意してくれたから」


「あ、ああ」


 俺が曖昧に頷くと、ナツキがひと切れ差し出してきた。


「塩が掛かってるので良ければ」


「ああ、ありがとう」


 受け取って、かぶりつく。甘い。普通のスイカより果肉がキメ細かくて、しゃりしゃりとした歯触りの後に、強い甘みがじんわり広がる。後味はすっきり爽やか。


「うまいなぁ」


「でしょ〜」


 コハルがえへんと胸を張る。


「アキハ先輩のチョイスは外れないよね!」


 なんで我が事のように得意げなんだ、コハル。


「ふふ、熊本産の大玉です」


 アキハ先輩は少しだけ得意げに笑い、麦茶を一口含んだ。紅茶以外を飲んでいるアキハ先輩は珍しいな、と思った。


 ナツキとコハルが「さすがですね」「ねー」と首を傾げ合い、顔を見合わせてくすくす笑った。


 そうして四人が自然に会話を続けていく。


 フユミは、スイカの種をスプーンで取り除きつつ言う。


「お夕飯、何にしますか?」


 その問いにアキハ先輩が答える。


「近くの鮮魚店から仕入れを頼んであります。お刺身と、焼き魚と、あとは皆さんのご希望を」


 言うが早いか、


「じゃあ貝っ!」


 コハルが勢いよく手を上げた。

 ネイルチップが夕日を受けて、きらきら光っている。


「貝焼きたいです! 貝!」


 そんなコハルを横目にナツキは麦茶を一口飲む。そして、


「私は何でも」


 と、静かに言った。


 最後にフユミが俺を見る。


「トーマも貝で良い?」


 俺が頷くと、フユミは「ん」とだけ返した。


 少ししてから、ふと気がついた。


「え、みんなで夕食を食べるんですか?」


 四人が一斉に俺を見た。

 フユミは呆れたように眉を上げる。コハルは困り顔で首をかしげる。ナツキは無表情のまま。アキハ先輩は涼しい顔でお茶を傾ける。


「当然でしょ、ここに泊まるのよ」


 フユミが澄まし顔で言った。


「そうですよ。先輩どうせヒマですよね」


 ナツキも淡々と乗っかった。こいつ素で俺をナメてるんだよな……。


 ってか、明日は月曜日じゃないか?


 俺の疑念を察したのか、


「明日は文化祭明けだから、休日だよ〜」


 コハルが言った。言われてみればその通りだった。


「ええ。ですから五人で楽しく過ごしましょう」


 アキハ先輩が総括した。


 俺は展開についていけず、放心状態だった。

 五人で仲良くやっていこう、もうわだかまりもないのだから一度全員で顔を合わせよう、そう思っていた。


 思っていたが、こんなに早く全員集合するとは思っていなかった。


 と、ここで俺はあることを思い出した。


(一応、そろそろ母が帰ってくる頃なんだけど……)


 母は出張続きで、家にいないことがほとんどだ。でも、近日中に帰宅すると言っていた。


 一応、迎えておきたいと思った、そのとき。


「お母様には許可を取ってあるから大丈夫よ」


 フユミが俺の考えを読んだ。


「え、連絡してくれたの?」


「そうよ。アキハ先輩から連絡もらったときにね」


「あ、ありがとう……」


 俺の感謝の言葉に、フユミは少しむっとする。


「何よ、その怪訝な反応」


「いや、気が利きすぎてて、ありがたくて……俺、このままだとダメ人間になっちゃいそうだな、って」


「アンタもうダメ人間でしょ」


「うっ」


 俺が固まると、


「ふふん、なっさけない顔」


 フユミはサディスティックに微笑んだ。


「まあ、浮気者ですよね」


 ナツキは当然のように言った。


「4股してるからね」


 コハルも頷いた。


「駄目な人ではありますね」


 アキハ先輩は涼しい顔で肯定した。


 俺は返す言葉も無いが、それでも何か言わねばならない。


「俺は──」


「先輩、スイカもう一切れどうぞ」


 ナツキがソルトミルを差し出した。黒曜の瞳から放たれる視線には、独特の圧力があった。


「あ、ありがとう」


 俺はもう一切れのスイカを受け取り、塩を振って口をつけた。


 甘くて、しょっぱい。

 窓の外、海は午後の日を受けて、ギラギラと輝いていた。



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