1-5
ようやく礼拝の時間から解放された創は、固まった身体を気にしながら、いつもの練習場へと歩く。他の4人はもう先に着いているだろうか。普段よりも少しだけ足に力を入れることをイメージしながら、練習場となる小さな集落を目指して進んでいく。
やがて、山道を通り抜けて視界が開けると、同じ班のメンバーしかいないはずの場所から、聞きなれない声が聞こえてきた。どうにも、その声色はあまり穏やかなものではなさそうだ。
慌てて姿が見えるところまで駆け寄ると、見覚えのある5人の子供が、創たちの班の練習場であるこの場で騒ぎ立てているのが目に入った。事情のわからないままにその場へ合流すると、優花が困りきった顔を隠さずに駆け寄ってきた。
「ねえ創、どうしよう!」
「何があったんだよ。あいつらは何しに来たんだ?」
突然現れた彼ら5人は、同じ学校に通う子供たちだ。家も近くお互いに顔をあわせることも多いが、親しい間柄と言える仲ではない。5人は同じ学校に通う子供の中でも素行が悪く、その中心にいる伊崎周吾は特に気性が荒いことで知られている。ろくでもない事態になっているのは、明らかだった。
その周吾が人相の悪い顔で、嫌な笑みを浮かべて近づいてくる。周吾の体躯は同年代の子供よりも大柄で、目の前に立つとその迫力がより際立つ。創は怯んだそぶりを見せないように、努めて平静な態度で周吾に尋ねた。
「うちの班に何か用か?わざわざ班員全員を引き連れて乗り込んできて」
「ちょっとね、お前らの班がここで練習をしているって聞いたから、遊びに来ただけだよ。そんで、遊びついでにこの場所ももらっちゃおうかなーなんて」
「ああ、なるほどね」
優花の困り切った表情に納得がいった。ほかの3人も怒りに満ちた表情や、いかにも面倒くさそうな表情を浮かべたりしている。またずいぶんと面倒くさいやつらに目を付けられてしまったものだと、思わず出かかったため息を呑み込んだ。
練習場所や日頃の集まりの場所をめぐって、班同士で争いが起きることは珍しいことではない。より良い場所を求めてであったり、単に今の場所に飽きたりであったり、新しい陣地を求める理由は様々だ。だからこそ、こうした無駄に争いが起こらないようにと、わざわざ山の上にある辺鄙な場所を練習場にしたはずだった。
周吾たちが普段どこで集まっているのかは知らないが、間違いなくこの場所よりも町の外れにあることはないだろう。だとすれば、周吾たちがこの場所を狙う理由は、単なる嫌がらせ以外の他にない。そう思うと、ますます怒りが湧いて来た。
「おい、創。おまえからも何とか言ってくれよ。こいつら、マジで帰ってくれる気配がねえんだ」
うんざりした様子で竜司が泣きつく。この状況をどうにかしたい気持ちはやまやまだが、もはや口で何をいったところで、どうにかなる様子でもない。
そうは思いつつ、形だけでも説得を試みる。
「悪いけど、帰ってくれないか。ここは俺たちがずっと使ってきた場所で、いまさらあんたらなんかに譲ってやる気はないよ」
「なめてんのか?この俺がどけって言ってるんだから、おとなしくどこかへ消えろよ。あんたらに選択権なんてねえんだよ」
「どうしておまえらに言われたくらいで、俺たちがここをどかなくちゃいけないんだよ。まるで意味が分からないな」
いい加減に対話を続けるのも面倒になって、思わず粗暴な言葉が口を出た。
「分からねえか?単純な理由だよ。俺たちの方がお前らよりも強い。それだけだ」
「なにそれ、ばっかみたい」
涼子が吐き捨てる。その言葉に反応した周吾が涼子を睨む。
「バカはそっちだろ。俺たち子供は特別な力を持っている。だから偉い!その中でも力が強いやつは、子供の中でもさらに偉いってわけだ。わかるか?」
「強い人の方が偉いって言うのが仮に本当だとして、それでどうしてあなたたちの方が偉くなるの?これ、あなたたちの方が私たちよりも強いっていう仮定もないと成り立たないと思うんだけど」
挑発的な口調で涼子も応える。それに呼応するように竜司も、周吾たちの班の方へ詰め寄っていく。だが、それにひるむような周吾たちではない。
「試してみるか?」
周吾は挑発的に笑う。この展開になるのを待ち望んでいた顔にも見えた。
「上等だよ」
怒りに任せてそれに応えるのは竜司だ。今にもお互いが仕掛けてしまいそうなほどに緊迫した空気が漂いだす。少なくとも竜司は、あからさまに売られた喧嘩を無視できるような性格ではない。
「はあ、結局こうなるんだな」
説得も虚しく、険悪さを増していく場の空気にため息をつく。
竜司を除いて、ほかの班員の3人とも好戦的ではない。できることならば争いに発展はさせたくはなかったが、そうも言ってはいられない。戦いが始まるのは、時間の問題に思えた。
「なあ周吾。面倒だし、こいつら早くしめてやろうぜ。久しぶりに遊びのネタがあるっておまえが言うから、わざわざこんな山の上まで来たんだぜ?」
周吾の班員の一人がそんなことを言う。今のこのセリフだけで、彼らが何のためにここに来たのか、そのすべてに確信がいった。彼らがここに来たのは単なる遊びのためで、彼らにとってほかの班の存在など遊び道具でしかないのだろう。
「だな。こいつらと話してたって面白くもなんともないし、そろそろ遊んでもらおうか」
周吾が一歩、こちらへ向かってにじり寄る。
「なめんなよ。俺らの陣地に侵入してきて無事に帰えれるなんて思うなよ」
そんな威圧にもひるむことなく、竜司も食ってかかる。二つの班の対立は、いよいよ明確な形になる。優花や修也が望まないと分かっていても、創自身も目の前の気に障る相手を叩き潰したい衝動に駆られている。無意識に、腰の脇に置かれた右手にも力がこもる。そんな様子に気づいてか、修也が間に割って入った。
「創君、竜司君、ここは抑えて。挑発に乗っちゃだめだ」
「けどよ、修也。やっぱりこいつらは気に食わねえよ」
「気持ちは僕だってわかるさ。だけど、ここで戦うことを選択したら、こいつらの思い通りになってしまう」
「それは、そうかもしれないけど……」
修也の説得に、竜司は少しずつ警戒を解いていく。しかし、それが周吾たちには気に食わないのか、反対に不愉快そうな表情へ変えていく。
「そういうの、マジでうざいわ。だからおまえらはムカつくんだよ」
一歩、周吾が前に出た。そこからはあっという間もなかった。ひどく鈍い音が辺りに響いた。次に聞こえたのは、ひいっと言う優花の短い悲鳴。
修也の額に流れる一筋の血、突き出された周吾の右手。何の前触れもなく、修也が周吾に殴られたのだと分かった。
「修也!」
地面に膝をつく修也に、創たちは一斉に駆け付ける。それを見て周吾たちの班員はみな、意地の悪い笑みを浮かべているのが見えた。
「大丈夫、大した傷じゃないさ」
そう口にする修也の顔は痛みに歪められてはいるが、意識ははっきりしているようだ。とっさに躱したのか防いだのか、傷口を見る限りはそう大事にはなっていないようで、胸をなでおろす。
だが、けがの程度なんて、そんなことは関係ない。他の班のいけ好かないやつが修也のことを殴った。その事実が変わることはない。
ゆっくりと、再び周吾たちの方へ向き直る。このまま黙っているなんてこと、できるわけがなかった。
「おまえ、さっき俺らがムカつくって言ってたよな?同じなんだよ。俺らだってあんたらにはさんざんムカついてるんだよ」
ここまで来てしまってはもはや止めることはできない。竜司だけではない。涼子も、優花もその顔には怒りの表情を浮かべている。
「こういう面倒事は嫌いなんだけど、さすがにそうも言っていられないよね」
そう言って涼子は彼らを睨む。優花もその後に続く。
「うん。私だって争い事は嫌いだけど、この人たちをこのまま放っておくほうがもっと嫌!」
それだけの敵意を向けられて周吾たち5人は、臆するどころかますます愉快そうに顔をゆがめていく。今こうして敵意を向けていることこそが、彼らの望みの通りなのだとはわかっていた。だが、だからと言ってこれだけのことをされて、ただ黙って見ているなんてことはできるはずもない。それはきっとみんな同じ気持ちのはずだ。それに、たとえここまでの動きがすべて彼らの目論見通りであったとしても、そのにやけきった顔を殴り飛ばせば済む話だ。
「いいよな、修也」
「ああ、わかったよ。ただ、無茶は禁止だからね」
修也のその言葉に、創と竜司は同時に力強くうなずいた。それが合図だった。
次の瞬間、周吾が右足を大きく上げたかと思えば、その右足のかかとを地面に勢いよく叩きつけるのが見えた。渾身の力のこめられた右足は地面に突き刺さり、周囲の土を四方にまき散らす。叩きつけた衝撃とともに、四散した土は無差別に周囲の人へと襲いかかる。それが彼らの闘い方の定石なのか、彼らのうちの誰も突然の土塊の襲来に動じることはなかった。
対して創たちの方は、誰もが突然の飛来物に怯んだように見えた。それは、瞬きとさして変わらない、その程度の間だった。その一瞬の隙を、彼らは見逃さない。そのわずかな隙を作ることこそが、彼らの狙いであったことは明らかだった。
創たちが動けずにいたそのわずかな瞬間を突いて、彼らは次の一手を打つ。大粒の石や近くの民家に立てかけられていた鍬など、この辺りにある凶器として足りうるものすべてが、彼らの力によって宙に浮かべられた。その浮遊物の多さに、わずかに思考を失った。こんなもの、どれも当たれば無事では済まないものばかりだ。
満遍なく空に浮かべられたそれらは、特定の誰かに向けられた様子はない。狙いが分からないのであれば、誰かをかばうこともできない。仕方なく創は自分の身体の周りを囲むように透明な壁を作り、これから降り注ぐであろう凶器の雨に備えた。
宙に浮かぶそれを観て、仲間たちの反応はそれぞれだった。修也は創と同様に壁を作り、優花と涼子は民家の影の方へ避難した。誰もが攻撃に耐えることを選択した中で、竜司だけは逆に相手の懐へと飛び込んで行った。
宙に浮かんだ無数の凶器は、すぐに降り注ぐことはなく、少しの間その場で静止をしていた。だが、そうして浮遊していたのも一瞬で、見ない力に操られるようにして、一切の容赦もなく、辺り一面を覆うようにして地上へと降り注いだ。創や修也の作った壁にも、幾度となく打ち付けられ、その度に鉄同士を打ち付けたような鋭い音が響く。それらが打ち付けられるたびに、創の周りを取り囲む壁の表面は確実に削り取られていく。このまま耐え凌げるかと不安に思った矢先、ついに凶器の雨は止んだ。
ほっと胸をなでおろすと共に、少し不思議に思う。もしも今の一撃がすべて一箇所に集められていたのなら、間違いなく無事では済まなかっただろう。どうしてわざと散らして降らせるようなことをしたのか、彼らの考え読めなかった。
そんな考えが顔に浮かんでいたのか、創の顔を見て周吾はいやらしく笑った。
「なんだよ、ずいぶんと解せないって顔をしてんなあ。今の攻撃がそんなに不思議か?」
からかうような周吾の問いかけに、創は答えることをしない。周吾はそれを気に止めることもなく言葉を続ける。
「かく乱だよ。こうしてやりゃあ、たいていの相手は散り散りになる。その後は一人一人と潰していって、ハイ終わりって寸法だ」
言われて、相手の人数が減っていることに気づく。争いが始まった時は5人まとまっていたはずなのに、そのうち2人の姿が見えない。
その時、民家の林立する通りの奥の方から、大きな衝撃音が聞こえた。間違いなく、優花と涼子がいる場所だ。
「くそっ」
目の前にはいやらしく笑みを浮かべる周吾。彼に背中を向け、二人の元へと駆けつけられるだけの余裕はない。
争いが始まってから、常に向こうのペースに乗せらえれている現状に歯噛みする。創たちの普段の練習はルールに則った試合であり、こうしたルール無用の争いは普段から喧嘩ばかりをしている周吾たちの土俵の上だ。誰が見たってこの組み合わせでは、あまりにも部が悪い。
「創君。ここは焦って仕方ないよ。今は目の前の相手に集中しよう。僕らがここで負けていたら元も子もないさ」
諭すような調子で修也に言われ、冷静さを取り戻す。今やるべきことは、ただ一つ。
「ああ、そうだな。こんなやつら、すぐに倒してやればいいだけのことだ」
向こうでは竜司と相手の班の一人の男とが、近接戦を中心とした戦闘を繰り広げている。竜司は班の中でも肉体強化を利用した近接戦が得意だが、相手はその竜司とも互角に渡り合っているように見える。一進一退の攻防が続いている。
この場に残った相手は2人。周吾と、目つきの鋭さと長い髪が特徴の男——確か、名前を健二と言っただろうか。——その2人が大きな顔をして目の前に立っている。
「さて、俺らもそろそろ始めようぜ。下準備はもう十分だ」
そう言うと周吾は、両の拳を構える。その隣では健二がさっきの石や鍬を再び宙に浮かべ、臨戦態勢を整えている。それに合わせるように、創も手近なところに落ちている石を浮かべて構えてみる。相手に直接当てる気は無いが、牽制くらいにはなるだろう。
こんな風にただ単純な争いに臨むのはいつ以来だろう。争いを好まないこの班で、こうした戦闘に発展することは滅多にあることではない。少なくとも、すぐに思い出せるほど最近には争いの記憶はない。
「さて、たまには気合を入れていこうか。争いごとは好きじゃないけど、さすがにここまでコケにされて、黙ってはいられないよね」
修也は強い瞳で目の前に対峙する2人を睨む。
「ちゃんと、楽しませてくれよな」
その言葉が合図だった。周吾の身体はまるで消えるように高速で移動し、それと同時に宙に浮いた無数の凶器が降り注がれた。
とっさに透明の壁を作り、降り注がれるその凶器を受け止めると、今度は周吾への警戒が疎かになる。高速で動く影を左目の端にちらりと捉えた。
壁を生み出ししつつ、石のまとまりを宙に待機させるのは限界がある。壁を生み出す意識の傍らで、待機させていた石のまとまりを、身体のすぐ左にまとめて叩き落とした。
予想した通りに、周吾は旋回するようにして、創の左半身を狙うかのような動きを見せた。
今にも周吾の構えた拳が創の身体へ届く、その瞬間、待機させておいた石が降り注ぎ、周吾の動きを阻む壁となった。
「ちっ」不意打ちを防がれた周吾の、苛立つような舌打ちの音が耳に届く。周吾の一撃を防いで安堵している暇はない。
意識が周吾の方へと向かったことを好機と見たのか、健二は投擲による攻撃の手をますます激しいものにする。そこに、体勢を立て直した周吾が再び迫り来ようとしていた。いよいよ防ぎ切るのも難しくなってきた時、不意に健二による攻撃の手がやんだ。修也が気を引いてくれたのだと、すぐに分かった。
「創君!こっちのことは気にしなくていい!」
修也の声が響く。ありがたい言葉ではあったが、もはや周吾の動きを見張るので手一杯で、修也の方を振り向くだけの余裕はない。どうやら、倒すべき相手は周吾に決定したようだ。
降り注ぐつぶてが壁として機能したのは一瞬のことで、待機させておいた石を全て地面に叩き落としてしまうと、周吾は創との間合いを一気に詰める。当然それ自体は読めた動きだったが、周吾の勢いは想定を大きく超えていた。
慌てて周吾との間に透明な壁を作ってはみたが、急繕いの壁では、あまりにも頼りない。せめてどこを狙って攻撃を仕掛けてくるのかさえ分かれば、その一点のみを硬くすることはできるが、今の周吾の体勢からそれを判断することは叶わなかった。
次の瞬間、周吾は身体を大きく屈めると、下から強力なアッパーを繰り出した。渾身の力を込めて繰り出された攻撃に、薄い壁はあえなく破壊された。壁を突き破る周吾の右手が眼前に迫る。一切の躊躇もなく振り上げられたそれは、ギリギリのところで創の頰をかすめた。
もしも今の一撃をまともに受けていたらと思うと肝が冷える。あんなものをまともに食らっていたら、間違いなく無事では済まなかっただろう。当たり前の感覚を持っている子供であれば、普通は躊躇するような攻撃も、平気で繰り出してくる。だからこそ彼らは恐ろしいのだと再認識する。だが、そんなことを冷静に分析している場合ではない。一度攻撃をかわしても、また次の一撃が来る。無理やりに身体をひねってかわしたせいで、重心がおかしな方向へ向かい、完全にバランスを崩す。その隙を周吾が見逃すわけもなく、追撃が迫る。
周吾の蹴り上げた右足が、創の右足へとまっすぐに向かってくる。軸足となり体重を支えている右足では動かすこともできず、あっけなくそれを食らう。
「っつう!」
あまりの痛みに、言葉にならない悲鳴を漏らす。支えを失った創の身体は傾いて、横になりながら地面へと落ちていく。体が地面に着く、その瞬間、周吾が創の腹部へと足を蹴りおろす。地面へと倒れこむ途中の宙に浮いた身体では、この一撃は避けられない。
まずい。脳が危険信号を全身に向けて発信する。
そこからはほとんど脊髄反射に近かった。創の意識とは無縁の場所で、脳は目の前に迫った脅威を排除するためのイメージを創り始める。作り上げたのは、振り下ろされる周吾の右足を防ぐための壁。
創の眼前には透明の壁が生み出され、周吾の足の軌道をふさぐ。けれど、この厚さの壁では周吾の蹴りの威力には耐えられない。そんなことは目に見えていた。それを知ってか、足を蹴り下ろす周吾の顔も余裕の表情だ。
しかし、実際に周吾の足が創の身体を踏み潰すことはなかった。
頭の中に描かれ、実際の世界へと生み出された一枚の壁は、周吾の足を受け止めるためのものでない。地面に対して斜めになるように配置することで、その力を受け流す。
一直線に蹴り下ろされた周吾の足はとたんに軌道を変え、その勢いのままに何もない地面を踏みつけた。とっさのことに周吾の対応が遅れ、何もない地面を打ち付けたその足を、今度は創が右手で払い倒す。
周吾がバランスを崩しふらついている隙に、創は起き上がり態勢を立て直す。その間に周吾もバランスを立て直すと、一定の距離を置いて二人は再び対峙する形になった。
どうにか五分の体勢まで持ち直しはしたが、怒涛の攻撃を受け止め続け、もはや体力も集中力もずいぶんと磨り減っていた。
最低限の安全の確約された練習の中でしか戦うことをしてこなかった創にとって、本物の戦いの緊張感は、想像以上の負担を強いられた。このままの調子で戦いが続けば、確実に押し切られるだろう。
すでに肩で息をし始めている創を見て、周吾はつまらなさそうに笑う。
「ふん。もういっぱいいっぱいかよ。やっぱり平和ボケしてる腰抜けじゃあ相手にもならねえか」
早くも勝った気でいるのか、攻撃の手を止めて、勝ち誇ったような顔で創のことを見下した。噂に違わずいやらしい男だ、と頭の中で吐き捨てる。
「なめやがって」
普段真面目に動かない性格もあってか、体力は早くも尽き始めている。こんな時ばかりは、普段から怠けてばかりいる自分に文句の一つでも言いたくなる。
「今頃、どこもそろそろ決着が着く頃だろうよ。お前らの班じゃあ、俺らに敵うわけがない。今頃、大事なお仲間がくたばり始めてるんじゃねえのか?」
隣で戦闘を続けいている修也の方に目を向ける。依然として戦いは続いているが、どう贔屓目に見ても修也の方が押されているのは明らかだ。今この場にいない3人の相手も、きっと場慣れしたような連中だろう。
言い返すこともできずに、ただ黙って睨む。その反応がつまらなかったのか、周吾の顔からは笑みが消えた。
「やっぱり、お前らなんとやりあったってつまらねえか。さっさと楽にしてやるよ」
そう言うと、周吾は再び戦闘の構えを取る。おそらく、本気で終わらせにくるのだろう。殺気が辺りに充満して行くのが分かる。
どうやら、いよいよ覚悟を決めなければいけないようだ。
「バカにすんなよな。平和ボケしてる腰抜けの底力を見せてやるよ」
そう言って創はこぶしを構えた。




