育成期間0年10ヵ月2週間
咆哮が辺りに響き渡る。
腹の底まで震わせる轟音は破壊と恐怖を宿す。
勇敢な者からは戦う意思を。矮小な者からは命を奪うであろう強者の雄叫び。
それは最強と名高い、竜系に連なる魔獣であればこそなせる業だ。
・・・・・最も、今回に限ってはその強大な力が誰に向くわけでもないが。
今、あの魔獣に求められている物。
それは只々、見栄え良く。凛々しく勇ましく。そう映ればいい。
言うなれば、ただのパフォーマンスだ。
『如何です?彼は今期候補生の中でも屈指の逸材!この短期間でこれほどの
魔獣を育成するのは我々でも難しいところ。流石、かの・・・・・。』
煌びやかな礼装を纏った客人達の隣で、
白髪交じりの教官は少々芝居じみた口調で解説兼宣伝を繰り返す。
普段からは想像できない巧みな話術だ。
話題を挿げ替え、宛もあの候補生が優秀であるかの如く話を進めている。
しかしだな、俺から言わせればその言い回しは詐欺に近い。
もし目の前の魔獣がただのトカゲだったならば、
あの候補生は称賛されて然るべきだ。
だが、手にした魔獣はゴブリンのような底辺で燻る存在とはわけが違う。
初めから頂きに居座ることを約束された存在。
放任しようと勝手に強くなる規格外の魔獣だぞ。
それでどうやってあの候補生の有能性を説けるというんだ?
そもそも本当に優秀であれば、ああも褒める必要はない。
事実、貴族の中でも弛まぬ努力を重ねた奴の周りには
人だかりができているじゃないか。
誰も好き好んで無能を引き取ったりはしない。
あの候補生(確かあいつも貴族だったか)は、ただ運が良かっただけ。
知識も何もいらない。あの魔獣を引き当てる事の出来た時点で
あいつは勝ち組だっただけの話だ。
・・・・そんな勝手な解釈を頭に浮かべつつ、周りを一瞥する。
毎年この時期になると、卒業が確定した候補生達は学校側から斡旋された
仕事先へ自身と魔獣を売り込む。
白髪交じりの教官が張り付いているお高く止まった騎士団や、
名の知れた傭兵団、この地方の豪商や、貴族連中の護衛役等々。
仕事を選り好みしなければ何かしらの契約を結べる。
従魔士になれば、取り敢えず食いっぱぐれる心配はないのだ。
・・・・で、卒業の目処が立っていない候補生は
遠巻きにこの光景を眺めさせられ、追い込みをかけられる。
さっさと試験に合格しろと、な。
全く、必要のないプレッシャーを与えてどうする気なんだか・・・・。
今この場に残っている候補生に、
焦りの文字が無いとでも思っているのだろうか。
俺も含め、余裕なんてものはもう無いに決まっている。
期限まで後2ヵ月を切ったんだ。
・・・・いい加減、延びに延びている計画を実行しないとな。




