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育成期間0年9ヵ月2週間(前編)

まだ日も昇らない時間に目が覚めた。

いや、覚めてしまった、だな。


俺の安眠を妨げる原因、騒音が扉から響いてくる。

誰かが激しく扉をノックしているのだ。

それも、扉を叩き破らんが程の勢いで。


魔獣コッコは、この状況においても熟睡を貫いているが、

俺はそうにもいかなかった。


今一度、微睡まどろみの中へ沈もうにも、これではそれも敵わない。

早く元凶を止めなければ。



『お兄さーん!朝ですよー!!』



・・・・どうやら俺は寝ぼけているらしい。

今、扉から声が聞こえたような気がする。

矢張り、俺の体は睡眠を欲しているようだ。早く事態を収拾させないと。



『美少女が朝を知らせに来ましたよー!!』



・・・・・・。



・・・幻聴であってほしかった。

僅かに残っていた眠気も吹き飛んでしまう。

扉の向こうに誰がいるのか。それだけで覚醒するには充分だ。


冗談じゃない。


あの少女との付き合いなど、俺にとっては無に等しい。

にも関わらず、あいつの行動はあたかも旧友と接するかの如く。

今まさに俺へ面倒事を届けようとしている。

片手で済む程度しかない付き合いで、この図々しさはある意味感心するよ。


しかしな、生憎と俺には俺の予定がある。

好き勝手に乱されてたまるか。


ここは居留守を決め込み、あいつが諦めて帰るのを待つことにする。

相手が相手なだけに、扉を開け放つ愚は犯さない。

下手をすれば開けた瞬間、背後に回り込まれる危険もあるからな。

無視の一点張りを貫くぞ。



・・・・・。



まだ、鳴り止まない。



・・・・・・・。



まだまだ、鳴り止まない。



・・・・・・・・・・・。



辺りが騒がしくなってきたが、鳴り止まない。



・・・・・・・・・・・・・・・・・。



今だ響き渡る乾いた音。くそ、中々粘るじゃないか・・・・。


しかし、この騒ぎにいつまでも周りが黙っているはずがない。

あと少し我慢すれば、警備兵が厄介者を摘み出してくれる・・・・お?


扉を叩く音が鳴り止む。どうやら、やっと諦めてくれたらしい。

音が消え、静寂が室内に満ちる。素晴らしきかな。

この静けさこそ、早朝の部屋に必要なものだ。


さてと、安眠への憂いも消えた。

これで枕を高くして、不足した睡眠を満たすべくもう一眠り・・・・。



『寝坊助には、目覚めのキッスが必要ですかあああ!!?』



怒気の混じった声。と同時に、俺の真上を過ぎ去る影。

言わずもがな、それは俺の部屋と廊下を仕切る物だ。

窓枠を削り飛ばし、辺りにガラス片を撒き散らせながら外へと飛び去る板切れを

呆然と見送る。


そして、反射的に首を入口へと向けると、見据えた先には蒼髪の少女が一人。


にっこり笑いつつ、一言。



『さあお兄さん、クエストへ出かけましょうか!』



-------------------------------------------------------


最悪の1日が幕を開けた。

あの後、騒ぎを聞きつけた教官達と警備兵にこっ酷く絞られ、

ついでに破壊された扉&窓を全額弁償する羽目に。

なんで俺が弁償を強いられるのか。


全ての責があるのは?俺の目先を歩く、こいつだろ。


大体、ヴィングル従魔士養成学校には招かれざる客が入り込まぬよう、

周囲を妨害式結界で覆っているにも関わらず、一体どうやって忍び込んだんだか。


魔術に精通しているなら兎も角、

こいつにそんな芸当ができるとも思えないが・・・。



・・・・・はあ。



『お兄さん。男の子が溜め息をつくもんじゃありません。』



器用に後ろ歩きをしながら、俺に語りかける蒼髪の少女。

誰のせいで溜め息が零れていると思ってるんだ。

ちょっとは自責の念を感じていただきたい。


あと、俺はそんな風に言われる歳でもない。

今年で20の立派な成人男子だ。


全く、肩に担いだ斧が重く感じる。ついでに足取りも、重い。


現在、俺はカナマラを経由し、ティのかき集めたパーティーメンバーと合流後、

クエスト地点へ向け移動中だ。


ティ曰く、クエストの内容は調査。

ここ最近の相次ぐ冒険者失踪の原因究明が目的らしい。



『だがな坊主、冒険者が行方不明になることは、言っちゃなんだがよくあることだ。

 生も死も全ては個人の責任でな。命と報酬を天秤に掛けて、塩梅を間違えた

 奴から土に還っていくもんよ。』



と語るのは、パーティーメンバーの1人。

2本角が特徴的な鋼鉄製の兜にスケイルメイルを身に纏った初老の男だ。

お節介者なのか、道中色々と冒険者のイロハ教えてくれた。

時々同じことを繰り返し話していたのはご愛嬌といったところか。



『ギルドも変だよな。こんな依頼出すなんてさ。』



『いいんだよ、別に。それで金が手に入るんだから。』



全身をレザー製の防具で身を固めた若い男、

フード付きのマントを羽織った男も話に加わる。

ずっとティに絡まれ続けていたせいか、2人とも疲れ切った顔だ。

ご愁傷様と言わざるを得ない。


で、今回はこの5人+1編成のパーティーで事に当たるわけだ。

調査ということもあって人手の多い方がいいのだろうか。

5人は少し多い気もするが・・・。


まあ、何にせよ戦闘メインのクエストでなくて何よりだ。

探し物というのであればコッコの能力アビリティ「探索」がある。

時間を掛けずに終われそうで取り敢えずは良かった。


・・・1日無駄にしたという点では全然良くもないが、ね。


-----------------------------------------------------------


以前、食石虫を捕まえた場所から更に奥深くに進んだ森林地帯の一角。

比較的安全とされているこの地域でも、

流石にここまで深く潜れば魔物の1~2匹程度は遭遇するようになってきた。


全身を樹皮で包んだかのような風貌の猪「ウッドボアー」

単眼の蝙蝠「ワンアイズバット」

澱んだ緑が特徴的な「グリーンスライム」


しかし、普段から魔物と戦い合っている冒険者なだけあって手慣れたものだ。

各自の連携など即席で組んだものとは思えないが、

それも経験から自然と生み出されるものなのだろうか。


一対一での戦闘はできる限り避け、常にこちら側が多数で戦う構図を作り出し叩く。

まずは初老の男が先制の一撃を加え、怯んだところでレザー防具の男とティが

同時に斬りかかり、敵に止めを刺す流れだ。

マントの男は、その間に弓矢で周囲の魔物を牽制し、

この流れを阻害しないように務めている。

時々、牽制に留まらずに仕留めてしまうこともしばしば。


そして、メンバーが戦っている間の俺は後ろでのんびり見物だ。

・・・いや、だって邪魔なだけだしさ。

それに、やりたくもないクエストで怪我など真っ平である。

戦闘は彼らとコッコがやればいい。


幸いな事にコッコの能力「空射エア・ショット」が目論見通りの働きをしているからな。

地味にパーティー内で活躍できている。


この能力「空射エア・ショット」は圧縮した大気を高速で打ち出す。

威力の程は、はっきり言って脆弱。ぶつけたところで元が空気なのだから当然だ。

これが魔術であればただの大気は鋭利な刃物にも、

如何なるものをも遮る盾にもできる。

自らの魔力を大気へ通わせることによって可能となる芸当だ。


だが能力は違う。空気はどこまでいこうが空気のまま。

ただの空気を獲物穿つ弾丸へ変貌させることは叶わない。

故に、当たったところで相手にダメージを与えることは困難極まる。

取得の容易さとは裏腹に、見向きもされない能力の1つである。


そんな能力を何故コッコに取得させたかというと、

能力の威力ではなくその特性に着目したからだ。

目に見えず気配もない攻撃という点に。


それはあらゆる生物が持ち合わせ、尚且つその大部分が弱点としているもの。

「目」に対する攻撃手段として上々の効果を目の前で上げてくれた。


気づいた時には瞳を衝撃が襲い、視覚を奪う。

これに驚き、パニックを起こせば悪性能力バッドアビリティ「混乱」を引き起こすこともできる。


そうして、浮足立った相手へコッコ渾身の体当たりをかますというのが、

ここ最近組みあがったコッコの基本戦術だ。



『むう・・・・中々見つかりませんねぇ。』



唸るようにティが言葉を零す。

そう言えば、ここへ来てもう何時間経っただろうか。

出会うのは魔物だけで、一向に行方不明者の手掛かり無し。

コッコの能力「探索」を使ってこの有様である。


どうにも、能力の発動条件が曖昧過ぎるのが遭遇率の上昇を妨げているようだ。

俺は行方不明者の顔を知らないため、

行方不明者の姿を情報から推察するしかないが、

はっきりとイメージできていない以上、それは能力「探索」発動の枷となってしまう。


しかし、それでも発動しないよりはずっとましなはずだが・・・・。

彼方此方探し回って、欠片すら見つからないのも変な話だ。



『・・・ん?みんな。どうやら、また来たみたいだぞ。』



捜索の最中、逸早くマントの男が魔物を察知し、弓に手をかける。

彼は職業スキル「弓兵アーチャー」もしくは「狩人ハンター

のどちらかを修得しているからか警戒範囲が広い。

彼のお蔭で今のところ、魔物から不意打ちを受けた回数は皆無だ。



『やれやれ。いくら弱っちい魔物でもこう数で来られると疲れて仕方ねえや。』



初老の男も気怠そうにラウンドシールドを構えつつ、

右手でショートソードを鞘から引き抜く。

それに呼応するように、ティとレザー装備の男もそれぞれ長剣と槍を構え、

戦闘準備は完了した。


それを計ったかのように、木々の生い茂る深緑から敵が飛び出す。

今回はウッドボアー3頭にグリーンスライムが1匹。

何故かは知らないが、魔物はこうやって種の壁を越えて徒党を組むことが多い。

不思議なものだ。



『よし!今度もちゃんとついて来いよ、ひよっ子!!』



威勢よい声を上げ、駆け出す初老の男。

彼の後を追い、ティとレザー装備の男も駆け出していく。

どうやら狙いは先陣を切り突っ込んできたウッドボアーのようだ。


勢い任せに突進を敢行するウッドボアーに対し、初老の男の対処は冷静だった。

ウッドボアーの牙がその体躯を貫かんと迫った刹那、左へステップし躱す。

そして、勢いそのままに駆け抜けようとするウッドボアーの脇腹へ

手にした刃を深々と食い込ませると、相手の力を利用して腹を裂いた。


辺りに飛び散る鮮血。腹から零れ落ちる臓腑。

自らが負った傷の痛みに悲鳴を上げようとするウッドボアーだが、

その咆哮は止めの一突きに制される。

レザー装備の男の槍が、正確に首元を貫いたためだ。

口からも多量の血を吐き出し、その場に崩れ落ちる魔物。


その間、初老の男とティは次のターゲットへと走っていく。


・・・ここで彼らから視線を外す事となる。

状況は、冒険者達の戦いを最後まで見せてはくれないらしい。

ウッドボアーが1頭こっちへ駆けてくる。


非力な俺を意図して狙うだけの知恵は無さそうだが、

これで戦わないわけにもいかなくなった。

此処へ来て初の戦闘だ。


お荷物だった斧を構え、指示笛でコッコへ指示を出す。

今のコッコならば対処は充分に可能。何せ相手は突進しか能の無い魔物だ。

そんな相手に能力「空射エア・ショット」は効果的に決まる。


能力の発動と同時に、魔獣コッコの周囲へ大気が集まっていく。

無論、それを視認できる者は発動者のコッコも含め、誰もいない。


一方、唾液を撒き散らせながら、更に距離を詰めてくるウッドボアー。

目は血走り、標的の俺から一時も逸らさない。

目の前に対峙すべき魔獣がいるというのに。



・・・・いかんな、それは。



誰に言うわけでもなく、呟く。

恐怖は無いと言えば嘘になるが、何故か心には余裕があった。

自信、なのだろうか?



俺の魔獣を無視しないでくれ。



もう一言呟き、指示笛を鳴らす。

すでに狙いを定めていたコッコは、大気の飛礫つぶてを撃ち出す。

トリッキーな動きでティ達を翻弄したワンアイズバットへ当てる事に比べれば、

単調な動きであるウッドボアーの目を撃つのは、難しい話ではない。


放った一撃は見事左目に命中し、次いで右目も潰す。

いきなり視界を奪われたウッドボアーは突進を止め急制動をかけるが、

それに合わせるように、複数の能力を発動させたコッコが魔物の横腹を捉える。


圧倒的に大きさで勝っているウッドボアーではあるが、

その四肢は大地を離れ宙を舞う。相手もさぞや驚いたことだろう。


束の間の飛行を終え、落ちた先は俺の目の前。

いいアシストだ。後は、こいつを振り下ろすのみ。


恐怖心を振り払い、立ち上がろうとするウッドボアーの脳天を叩き砕く。


肉厚な刃は、一発で魔物の頭部に深く沈み込み、

それはウッドボアーの死を意味した。


一瞬が、えらく長いものに感じる。

薪割りとは違う、嫌な感触。

背筋を汗が流れ落ちた。


振り終えた斧を引き抜こうとするが、中々抜けない。

ウッドボアーの頭部にめり込んでいるせいもあるが、

手が震えて上手く動かないのが主な要因だ。

やっぱり何だかんだで、俺は怖がっていたらしい。



『何でえ。坊主もちゃんと戦えるじゃねえか。』



振り向くと、そこにはパーティー全員が勢揃い。

俺がまごついていた間に戦闘は終了していた。



『今の感じ、忘れちゃなんねえぞ。そいつは戦う上で大事な事だからな。』



そう語りながら、初老の男は斧を引き抜いてくれた。

何かコツでもあるのか、斧は大した抵抗もなくウッドボアーの頭蓋から離れる。

斧は脳漿で汚れていた。後で綺麗にしないと・・・。



『さあて、じゃ魔物の捜索に戻るとするかね。』



・・・・・・?

今、なんて言った?

魔物を、捜索?

一体、どういうことだ?

疑心が頭を埋め尽くし、俺は質問せずにはいられなかった。



・・・なあ、1つ聞いてもいいか?

このクエストの達成条件って・・・どうなってる?



『・・・?何って決まってんだろ。失踪の原因になってる魔物の発見と確認だろうが。

 もう何十組もパーティー消えてちまってるから、危険種ボス認定されちまって

 魔獣の同行がクエストの絶対条件になっちまってな・・・・。

 お前、そのために来たんじゃねえのか?』



・・・・・なに?


き、危険種だと・・・・・そんな、馬鹿な!?



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