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第二部 第六章:風の吹く街道と、小さな道連れ


ナギの村を背にしてから、三日の月日が流れた。

背中に受ける風は冷たかったが、不思議と以前のような凍える孤独感はない。右手に巻き直した手ぬぐいを見るたび、胸の奥に灯った小さな火がじんわりと身体を温めてくれた。

俺はただ強さを追い求める修羅ではなくなった。

人が集い、肩を寄せ合って生きる意味。その穏やかな日常を守るための強さ――それを知るための新たな旅路だ。

山道を抜け、人の行き交う大街道へと踏み出したときだった。

前方から、勢いよく駆け寄ってくる足音が聞こえる。

殺気はない。だが、異様にドタバタとした、落ち着きのない足音だ。

「ちょっと! そこのデカいお兄さん、助けてーっ!」

街道の曲がり角から飛び出してきたのは、大きな風呂敷包みを背負った一人の少年――いや、男装した少女だった。短く切り揃えた茶髪に、煤で汚れた頬。その背後から、大柄な男たちが棍棒を振り回しながら追いかけてくる。

「待ちやがれ、このスリッパチが! 俺たちの商 weare(あきない)の邪魔をしやがって!」

「邪魔じゃないでしょ! あんたたちが無理やりおばあさんから薬草を巻き上げようとしてたから、買い取って逃げただけじゃない!」

少年(仮)は俺の姿を見るやいなや、その背後にすばしっこく隠れ込み、俺の着物の裾をぎゅっと掴んだ。

「お兄さん、見た目すっごく強そう! お願い、この悪党どもを追い払って!」

追っ手の男たちが足を止め、俺の顔と巨躯を見上げて露骨に引きつる。

「なんだア? この血生臭い大男は……てめえ、余計な首を突っ込む気か?」

俺は右手の結び目を一回、強く確かめた。

ナギの村を出て最初に巡り会った「人間」の困りごと。

俺は刀を抜く代わりに、低く唸るような声をひとつ吐き出し、ただ一歩、踏み出した。

「……人の買い物を邪魔するな。消えろ」

親熊ゆずりの、地響きのような圧迫感。

男たちは悲鳴を上げると、逃げ足も速く街道の奥へと逃げ去っていった。

「うわっ……一言で追い払っちゃった! すごいよお兄さん!」

目を輝かせる少年(仮)は、ポンと自分の胸を叩いて笑った。

「おいらはレン! 行商をしながら旅をしてるんだ。お兄さん、名前は?」

「……クマだ」

「クマ? ふーん、ピッタリな名前だね! ねぇクマさん、おいらも次の街まで一緒に行ってもいい? お礼に美味しい旅籠(はたご)飯、奢るからさ!」

人との出会いを拒んでいたかつての俺なら、一蹴して走り去っていただろう。

だが、俺は息を静かに吐き出し、レンの首根っこを軽く摘まむようにして歩き出した。

「勝手にしろ。ただし、足手まといになったら置いていく」

「やったー! 決まりね! おいらの商い道中記に、最強の用心棒が加わったぞー!」

隣で騒がしく喋り続けるレンの声を聴きながら、俺はふっと口元をゆるめた。

人の温もりを知った男の武者修行。

一人だったはずの道に、また新しい風が吹き始めていた。


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