第四章:夜明けの選択と、新しい道
東の空がゆっくりと白み始め、吹雪が去ったあとの澄んだ群青色に染まっていく。
朝焼けの光が、新雪に散った返り血を優しく包み込んでいた。
ナギは俺の背中でひとしきり泣いたあと、照れくさそうに涙を拭い、再び手ぬぐいを巻き直してくれた。今度は俺も、嫌がることなくその小さな手を静かに見つめていた。
「クマさん、これからどうするの?」
ナギが拾い集めた薪をまとめ直しながら、尋ねてきた。
「……武者修行を続ける。強くなり、生き残るために」
即答したものの、その言葉の響きは昨日までとはまるで違っていた。
ただ死に場所を探すように、己を痛めつけるためだけに振るっていた刀。だが今は、守るべき「温もり」を知った。強さの意味が、俺の中で根本から変わり始めていた。
「そっか……」
ナギは少し寂しそうに目を伏せたが、すぐに顔を上げて小さく微笑んだ。
「私の村、この山を降りてすぐのところにあるの。もしよかったら……朝ごはんでも食べていかない? スープだけじゃ、お腹すいたでしょ」
村。人間の集落。
孤高を気取ってきた俺にとって、最も遠ざけるべき場所だった。熊の血を匂わせる俺が行けば、騒動になるかもしれない。
だが、俺は自分の右手に巻かれた手ぬぐいを見つめ、静かに息を吐き出した。
「……いただく。だが、長居はしない」
「本当!? やった! おじいちゃんたちにも紹介するね!」
ぱっと花が咲いたような笑顔を見せるナギ。
その笑顔を守るためなら、どんな猛獣や刺客が立ち塞がろうとも、この刃で切り伏せてみせる。そう心に誓う自分がいた。
俺たちは歩き出す。
朝日が差し込む雪道を、二つの足跡が並んで続いていく。
俺はもう、ただの孤独な野獣ではない。
人に生まれた意味を、温もりの理由を知るための、本当の「武者修行」がここから始まるのだ。




