表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残念ながら全部聞こえてます~召喚聖女は誰を守るか自分で選ぶ  作者: Jun


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/36

34 前世のサラの話4

 今日も又キリアンに頼まれお使いに出たサラは、村を出る乗合馬車に乗る時から、誰かに見られている様な気がしていた。けれどそれは、自分がいつまでも慣れないで怯え過ぎているだけだと思い、気にしないようにした。

(私も何回も領都に通っているんだから、もういい加減堂々としなきゃダメだ)


 領都に着いたサラは、キリアンの好物を買おうと、大通りにある高級食料品店へ向かった。

 領都に来る度にこの店に通っているサラは、手慣れた様子に見える様意識して、キリアンの好物を何点もかごに入れ、堂々とした足取りでキャッシャーに向かった。

 初めて訪れた時、サラのみすぼらしい服装を見て眉をしかめた店員も、いつも金貨で支払いをするサラを認めたのか、今日は心なしか丁重に対応してくれた様だった。

 それに気を良くして自信を持ったサラは、乗合馬車で感じた違和感をすっかり忘れ、次の目的地である宝飾店へ向かった。


「あ、お休みだ」

 キリアンに指定されている、大通りにあるいつもの宝飾店に着くと、店のドアに‘’臨時休業‘’の札がかかり、窓にはカーテンが引かれている。

 換金する宝石を預かって来たサラが困って辺りを見回すと、一本引っ込んだ通りにも宝飾店があるのを見つけた。間口が狭く暗い感じの店だったが、サラにとっては立派で豪華な宝飾店よりむしろ安心できたので、恐る恐るその店に足を向けた。


 窓から店の中をのぞくと、展示されているジュエリーの数も少なく、店内には中年の男が一人いるきりだったので、サラは勇気を出しドアを開けた。

 ドアベルの音に「いらっしゃいませ」と言った男は、顔を上げてサラの風体を見た途端、忌々しそうに「うちは平民の買える様な品は無いよ」と言ってきた。

 サラは男が恐ろしかったが、さっき堂々とすると決めたばかりだと勇気を振り絞って「買いにきたんじゃないんです。買って欲しい物があるんです」と言った。


「買取りか。じゃあ見るだけ見るから、ここに出してくれ」

 男は面倒臭そうにビロードのトレイを出し、カウンターに置いた。

 サラはいつもの店の決まった店員なら、すぐにこの流れになって買い取りをしてくれたのにと、不満に思いながら宝石を取り出しトレイの上に置いた。


 実際は平民相手ではこの男の対応が普通で、いつもの店の店員はキリアンの母親から口止めの賄賂を貰った上、買い取り金額から自分の手数料を勝手に抜いて私腹を肥やしているからスムーズだったのだが、サラはそんな事を知る由も無かった。


「うちは盗品は扱えない」

 宝石を見た店員に間髪入れず言われ、サラは頭に血が上った。

「盗品なんかじゃないです。私の恋人のキリアン・クロフト様の持ち物です。ここの領主様の弟のキリアン様です」

 勢いに任せてキリアンの名を口にすると、男は初めてまともにサラの顔を見た。

「キリアン・クロフト…例の公爵令息? 恋人と言ったが、本当か?お前が?」

 馬鹿にした様な視線に、サラは顔を真っ赤にして答えた。

「そうです。今、キリアン様はアルカン村にいるんです。私はそこでキリアン様と知り合って、恋人になりました。それで宝石を売る様に頼まれて来たんです」


 それを聞いた男はしばらく考えてから、うなずいた。

「分かった。買い取るよ。値段はこれで良いね」

 無造作に紙に書いた値段が適正かどうか、この女に分かるはずが無いと確信している男は、相場よりひどく安い値段を提示していた。サラは足元を見られていると感じたが、何も分からないので受け入れるしかなく、その値段で了承した。


 男が宝石を受け取り、金を渡そうとした時、サラはある事を思い出し男に要求した。

「買取り票も下さい。宝石を売る時はいつも買取り票を貰って、キリアン様に渡していますから」

 もし宝石の買取り価格が不当な安い金額だったら、買取り票が無いと自分が本来の代金から金を盗んだと疑われる事だってあり得る。サラは買取り票を貰う事を思い出して、本当に良かったと思った。やはり自分も経験した事が少しは身に付いたのだと、嬉しかった。


 男は一瞬嫌そうな顔をしたが、キリアンの名を出されて、仕方なくカウンターから伝票を取り出した。しかし宝石の種類やグレードを記す時、本物より低いグレードを記入し、買い取った値段が相応と思われる様には注意した。

「じゃあ、売主の欄に署名してくれ」

 差し出された複写になっている紙の一番下、宝石を売る側の欄にサラは慣れた様子で署名した。これはいつもの店で何度もやっていたから、迷わずに記入出来た。


 サラは貰った買取り票と財布を大事にカバンに仕舞い、宝飾店を出た。

 いつもの店が休みだった時は慌てたが、こうして自分だけの判断で、初めての店で頼まれた事を無事終えられた事に安堵し、自分を誇らしく思った。

 早く帰ってキリアンに報告して褒めてもらおうと、足取りも軽く大通りに戻ろうとした時、いきなり肘を掴まれ、今いる裏道からもっと暗い路地へ引き込まれた。

「きゃあ!」驚いて大声が出たが、周囲には誰もいない。大通りを歩く人達には、雑踏や馬車の音にかき消され、叫ぶ少女の声は届かなかった。


 何が起きているのかを確かめる間もなく、いきなり腹に熱い塊を押し付けられた様な痛みを感じ、サラは石畳に崩れ落ちた。

 痛いという言葉で頭の中は埋め尽くされ、無意識に腹を押さえながら必死で目を開けると、乗合馬車で一緒だった男が、地面に落ちたサラのカバンを探っているのが映った。

 さっき宝飾店で受け取った金と、食料品店で金貨を使い釣銭としてもらった銅貨と銀貨が沢山入っている財布を見つけた男は、何か独り言を言いながら震える手でそれを懐へ入れた。そして倒れているサラを振り返りもせず、そのまま一目散に走り去った。

 サラは痛みと闘い、血を流しながら、遠ざかる意識の中で村で待っている恋人の事を思った。

(キリアン様言いつけを果たせなくてごめんなさい。愛してます)



読んでいただき、ありがとうございます。


続きが読みたいと思っていただけたら、ブックマーク、評価(下の方にある☆☆☆☆☆)、いいねで応援してくださると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ