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残念ながら全部聞こえてます~召喚聖女は誰を守るか自分で選ぶ  作者: Jun


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33 前世のサラの話3

 サラはそれから、王子様がキリアン・クロフト元公爵令息という位の高い貴族だった事、この領を治めるクロフト公爵の弟である事を知り、ますます夢中になった。

 キリアンはサラにとって、憧れの王子様であり、王都と貴族の象徴だった。


 キリアンに頼まれれば何でもやってあげたし、洗濯場でキリアンに割り当てられた仕事も、自分が率先して代わりに請け負った。

 アンとマギーには何度も諫められたが、あんなに綺麗な貴族の人が、洗濯なんてすぐに出来る訳がないのに、どうして二人は意地悪ばかりするんだろう、と反対に二人に敵意を抱いた程だった。


 やがて、キリアンが家の事を何も出来ないで困っている事を知り、サラはキリアンの家にほとんど一緒に住んで、世話をする様になった。

 キリアンはその頃には、サラに向かって「君がいなければ、僕はこの村で生きていけない」「君だけが僕の希望だ」「サラを愛している」と言う様になり、それを聞いたサラは自分だけがキリアンに必要な人間で、自分にとってもそうなんだと思い込み、ますます周囲の声に耳を貸さなくなっていった。


 ある日キリアンが、いつもの様に湯あみが出来ないと嘆き始めた。サラも流石にバスタブも無い家で湯あみをさせる事は無理だったので、乞われるまま湯を沸かし布を絞り、身体を拭いてあげていると、キリアンの手がサラに伸びて、なし崩し的に彼に抱かれてしまった。

 初めての行為が終わった後、サラはキリアンに結婚して欲しいと頼んだ。仕出かした事への恐怖から、はっきりとした約束が欲しかった。

「キリアン様、私と結婚してくれますよね。貴族なら無理だったけど、今は平民だから大丈夫でしょう」

 するとキリアンは辛そうに目を伏せ「ごめん、サラ。僕も君と結婚したい。でも、僕には妻と子がいるんだ」と衝撃的な事を言い出した。


 その言葉を理解し、自分が置かれた状況を悟ってサラが泣き出すと、キリアンは続けた。

「でも、愛しているのは君だけだよ。妻と子と言っても、僕を騙して子を孕んだ卑怯な女なんだ。そのせいで僕は貴族から平民にされて、この村に追いやられたんだ。女も生んだ子どもも王都にいて、貴族の暮らしを続けているのにね。僕は、必ずその女を離縁してサラを娶るから、信じて欲しい」

 サラの心に何か黒い澱が初めて芽生えたが、サラはキリアンのその言葉を信じるしかなかった。


 二人がジャックの家に働きに行かなくなった頃、隣村から二か月振りに兄がやって来た。兄はあれから身体を壊し、雇い主の好意で仕事を軽い物にしてもらい、半ば休みながら暮らしていたので、アルカン村に来られないでいたのだ。

 やっと回復して、サラに会いに行こうと思っていた矢先に、アルカン村村長のジャックから現状について連絡を受け、泡を食って飛んできたのだった。


 キリアンとサラが住む家にやって来た兄は、ドンドンと扉を叩いた。

「サラ、出て来い。こんな所にいたらダメだ」

 キリアンは面倒そうに「サラのお兄さんなら、僕は邪魔せず奥にいるね」と引っ込んでしまった。

 サラは仕方なくドアの側へ行き、扉を開けないまま返事をした。

「お兄ちゃん。久しぶりだね。身体は大丈夫なの」


 それを聞いた兄はサラに向かって叫んだ。

「俺の事なんてどうだって良い。お前は何をしているんだ。その男は妻子もいて、王都でひどい事を仕出かして平民にされた男だぞ。そんな奴は置いて、俺と一緒に行こう」兄はそう言って、ドアノブに手をかけて開けようとした。

 鍵がかかっていて開かないドアを、ガチャガチャと動かす音のする中で、サラは泣きながら兄に叫んだ。

「お兄ちゃん。キリアン様は女の人に騙されたの。私にもちゃんとその事を話してくれたわ。私は、キリアン様を愛してる。だから、帰って。もう私の事は放っておいて」

 サラの言葉に兄は沈黙し、しばらくドアの外にいたようだったが、やがて離れて行く足音が聞こえた。サラは、兄が帰って行く後ろ姿を窓から見送った。


 サラの様子を部屋の中で窺っていたキリアンは、兄が帰ったと知ると「サラ」と声をかけた。

 サラがノロノロと振り返りキリアンの近くに行くと、彼がいつもお腹に巻いていて、決して何が入っているか教えてくれなかった袋から「内緒だよ」と金貨と宝石を出してサラに見せた。

 お金と言えば銅貨か、せいぜい銀貨しか知らなかったサラは、金貨の輝きと宝石の美しさに心底驚いた。同時にこんな貴重品を見せてくれたキリアン様は、私を本当に信頼して愛しているのかもしれないと胸が熱くなった。


 キリアンは感動して目を潤ませているサラに、これを持って領都に行き、やって欲しい事があると頼んできた。サラはそれまで、領都は兄と数回行った事があるだけだった。そこに一人で、しかも貴重品を持って行くのは本当はとても怖かったが、自分を頼ってくれるキリアンの期待に応えないという選択肢は無く「分かりました」とうなずいた。


 それ以後、サラはキリアンの求めるまま、金貨と宝石を持って一人で乗合馬車に乗り、領都の高級店で信じられない程値段の高い食料品を買い、宝飾店で宝石を売るという大それた事を、何度も繰り返した。

 その度に心臓が縮み上がる思いがして、誰を見ても自分を狙っている様に感じて怯えていたが、村に帰ればキリアンが待っていて、あの美しい顔で「ありがとう。サラがいてくれて良かった」と抱きしめられると、全てが報われる気がしていた。



読んでいただき、ありがとうございます。


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