27 ツガイと魂の味
数時間後、生理的欲求に耐えきれなくなったサラは、魔王とイーサンを追い払って結界を解除し外に出た。
その日は二人と顔を合わせない様にして、アンナとミルコと三人で食事を取り交代でお風呂に入ったら、パジャマに着替えて今夜は女子会である。
魂の事と言い、自分はまだまだこの世界を何も知らないと、サラは出来る限り二人から情報を得たいと思っていた。
まだ小さいミルコはともかく、アンナはお年頃なのだ。きっと沢山その種の情報を持っている事だろう。
「アンナには恋人はいないの?」
一応上司は自分だから、これはセクハラ発言かも?という思いは脇に除け、まずは直球で聞いてみる。
「私には、そういう人はいません。
ずっと獣人であることを隠して生きてきましたから、ほとんど人と交流しなかったですし、獣人と仲良くしても危険なので、あまり知り合いもいません。…でも、これから良い人に出会えればと思ってます」と頬を染めた。
うんうん、と近所のおばさんの様にうなずいているサラに、ミルコが爆弾発言をした。
「私は、番がいます。聖女様」
アンナも「あの庭師の人ね」などと言っていて、サラは慌てた。
「番って、ミルコは何歳なの⁈」
「私は今年で14歳です」
「え!」
可愛い可愛いと愛でて、せいぜい10歳くらいだと思っていたミルコが、前世の感覚から言えばほぼ大人、日本でも思春期にさしかかる難しいお年頃だった事に、サラは驚いた。
「番は、年齢には関係ないんですよ。サラ様」アンナに言われ、サラはそういえばと数多読んだ異世界小説を思い出した。
「確か、獣人は一目あったその時から番が分かるんだっけ」この世界でも通用する話なのかな、と尋ねると、ミルコが「はい」とうなずいた。
「故郷の街から無理矢理連れて来られて悲しかったですけど、ここでサミーに会えたのは嬉しかったです」
ミルコ一家はアンナも住んでいた街から攫われて、城に連れて来られた。そこで既に庭師として働いていたサミーに出会い、会った瞬間お互いに番と分かったと言う。
「すぐにこの人大好きって思ったんです。サミーもそう言ってました」ミルコはニコニコと笑う。
相変わらずの可愛さに悶えるサラを見ながら、アンナが付け加える。
「サミーは、魔王宮でも庭師をしていますよ。サル獣人で、私たちの種族とは違って尾が長いので、人に擬態は出来ませんでした」
「そうなんだ。魔王国では魔法で何でもするのかと思ったけど、庭師さんはちゃんと手でやってるんだね」
「はい。魔族でも、使える魔力と魔法にはそれぞれ限りがありますし、私たち獣人がやる方が早い事とか、得意な事も多いですよ。例えばサラ様が気に入って下さったマッサージなどは、魔法でやると加減が難しいです」
「そうか。元の世界でも、マッサージチェアの性能が相当上がってても、人にやってもらうマッサージの方が気持ち良かったもんね」
「それに魔法にばかり頼って自分で何もしなくなると、いざと言う時何も出来なくなる可能性がありますから」
「確かに。日本でも停電の時、色んなものが全部使えなくなって、困った覚えがある」
この世界の魔人と獣人の在り方をもっと掘り下げたかったが、本命の魔族の魂交換の話が聞きたくて、サラは恥ずかしさをこらえて二人に尋ねた。
「あのさ、昼間魔王様とイーサンの言ってた魂交換について聞きたいんだけど。二人は、それをした魔族の人を知ってる?」
二人は顔を見合わせて「サラ様。それは獣人の番より珍しい事なんですよ。少なくとも、私はひいおばあちゃんの時代に一組いた事しか知りません」
「私はお父さんの友だちのおじいちゃんが、一組知っていると聞いた事があります」
「そんなに少ないんだ。何でだろう」
「魔族の方々はすごく長く生きるせいか、基本的に人にも物にも執着がほとんど無いんです。ただ相手の魂の色にだけは惹かれるんですが、惹かれるのは自分以上の力にだけだそうです。下位の者には惹かれないので、すごくお相手が限られます」
「そっか。自分と同じか、自分より上の人だけに惹かれるけど、上の人の方は下の人に惹かれないから、結局うまくいくのは同じ力の人同士限定って事?」
「どこまで厳密かは分かりませんが、大体そんな感じです」
「だから、聖女様は魔王様とイーサンと同じ力かそれ以上って事です。すごいです!」ミルコが胸の前で手を組む。
(魔王様は当然として、イーサンも相当高位だって言ってたな。私は他の人の魔力を量る感覚は無いから、もし二人が私より下でも、私が好きならば構わないのか…って、二人にそんな感情持った事も、考えた事も無いのに)
ブンブン首を振って打ち消すサラを、生暖かい目で見ていたアンナは「私はイーサンと話した事も無かったですが、たまに城で見かけると、魔族らしく感情を見せない人形の様だと思っていました。
王太子は、いつもイーサンイーサンと呼びつけて、仕事を何でも彼に回していました。聖女様のドレスも、王太子に言われたイーサンが文献を調べて用意したんですよ。子どもみたいにフリルやリボンがいっぱいのドレスを、表情も変えずに淡々と持って来たのを覚えています。
そのイーサンがあんな風に、魔王様とサラ様を取り合ってケンカをするようになるなんて、想像も出来ませんでした」と微笑んだ。
「取り合うって、二人共私の魂が食べたいだけでしょ。食い意地が張ってるんじゃないの」赤くなった顔を布団にもぐって隠していたサラは、いつのまにか寝入ってしまった。
その日の夢の中に、魔王とイーサンが出て来た。
二人共、綺麗な器に載せられたキャンディみたいな自分の「魂」を差し出して、サラに食べさせようとする。魔王の魂は金色で、イーサンの魂はペールブルーだった。
断っても押し付けてくるのに嫌気がさしたサラが、少々乱暴に器を押し返すと、二人の魂が散らばってしまった。
『ごめん!』と慌てていると、『じゃあお詫びに一粒だけ食べて下さい』と二人に一粒ずつ食べさせられた。
仕方なく食べた魔王の魂は甘い砂糖菓子、イーサンの魂は言っていた通りソーダ味で、妙に心に残る夢だった。
前日告白された上に変な夢のせいで目覚めが悪いサラは、翌朝も二人に会うのが嫌だった。
しかしサラを迎えに来た二人は「昨日は突然すみませんでした。まずはこの国の結界をお願いして、平和を安定させるのが第一なのに軽率でした。反省しています」と口々に謝って、もう魂関連の話はして来なかった。
それでサラは拍子抜けすると同時に安心し、夢の事も忘れてしまった。
「じゃあ、結界を張る日を決めなきゃね」
「そうですね。出来るだけ早い方が良いでしょう。それに、サラが皆の恩人だと民に知らしめたいので、その時に聖女であると紹介させてください」
「それは良いよ、別に。すぐにいなくなるかもしれないし」
「いなくなるにしても、民の為に発表させてもらえないか。皆に今までの辛い暮らしが終わったと、安心させてやりたいんだ」
「そう言う事なら、分かった。良いよ」
こうして魔王国に結界を張り、かつ聖女のお披露目をする日は、一週間後に決まった。
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