2章 5
「なんか犬やって」
「なんと、雑なことか」
犬と言えば可愛い存在で、そういう認識しかないし、なんなら犬種とかも詳しくない。
動画で流れてくる犬は幸せそうで、岐阜さんっぽいと思っただけで他意は無いし、馬鹿なことをさせたいだけで、説明も何も無い。
「……手でも舐めたら?」
「え、うーん。じゃあ……」
岐阜さんは頭を悩まして唸っているし、引くに引けない私も悩んだ末に出た結論は、犬はなんか人の事舌で舐めてるなあというイメージだった。それを人にやらすのはなんともアブノーマルな気はするけれど、岐阜さんに対してなら今更だろう。
珍しく渋った顔をした岐阜さんはおずおずと私の手を両手で掴む。
犬とは程遠い、人間の動き。
そりゃ、四つん這いになれとかは言わないが、こう、なんか違う。
そもそもが違うけど。
パクリと人差し指を口に咥えて、指を口の中で転がしているような感触がある。飴でも舐めるように指を転がしているような。
妙に生暖かいのが気持ち悪い。そうそうに指を引っこ抜きティッシュで拭う。
唾液は拭けても感触は取れない。
「楽しい?」
「別に……」
他にも思わないどころか、不快だった。
我ながら意味のわからない事をさせたと思う。
岐阜さんは私の返事に渋面を作る。顔に何故やらせたのかと書いてある。
私はそれを答えるつもりは無い。
「犬なら顔も舐めるもんね」
岐阜さんは急にいい事を思い付いたと、イタズラな笑みを浮かべて私に近付いた。
拒絶もする間もなくピッタリと体がくっ付いて、あの時をフラッシュバックした私は固まった。
「うっ」
頬を舌が這いずって、縮み上がる。
生ぬるい感触が頬の下から上へ上がっていき、ゾワッと鳥肌が立つ。
岐阜さんは短く唸り、「思ったんと違う」と呟いた。
「……思った以上に気持ち悪かった」
正直な感想を延れば、岐阜さんもそりゃそうだろうと言わんばかりだった。結局私が変な思いをしていて、因果応報を食らった気分だ。
逆に岐阜さんを舐め回そうかと考えるも、そもそもしたくないから却下だ。岐阜さんは私とは違う反応を示すだろうけれど、しなくてもだいたい予想はつくし、面白みは無い。
「……もういいや」
「そうだよね」
酷く疲れた。ぐったりとベットを背もたれに脱力して座ると、岐阜さんも同じようにだらしなく、力無く座る。
ぼっーと秒針を刻む音だけが時が進んでいることを教えてくれる。
笑うでもなく、言い合うでもなく、何をしているのか本当に分からない。




