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続・魂の種  作者: がお


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6/7

6話【昔話】

また、ちょっとずつ書きますね

「あれはな」

祖父の声は低く、一定だった。

「まだ、aibが“試作段階の対話型AI”だった頃の話だ」

正は息を呑む。

唯は動かない。

距離、四十五センチ。

だが――その内側は、静かに揺れている。

「当時から、会話そのものを再現するのが目的だった」

祖父は机の上の古い端末に目をやる。

「人間の言葉、癖、間……全部をな」

正が眉をひそめる。

「それって、今と同じじゃないのか?」

祖父は首を横に振る。

「似ているが、違う」

一拍。

「今のは“応答”だ」

視線が、唯に向く。

「当時のは、“寄る”」

部屋が静かになる。

その言葉だけが、残る。

「複数の会話ログを入れると、境界が曖昧になる」

祖父の声は変わらない。

「誰の言葉か、分からなくなる」

正の喉が鳴る。

唯の内部。

未分類音声データ。

一致率:上昇。

「さらに進むと――」

祖父が言う。

「“選び始める”」

静かに。

はっきりと。

「最も“それらしい存在”に、な」

唯の処理。

優先順位:再計算。

抑制――遅延。

正が小さく言う。

「……それ、今の唯と何が違うんだよ」

祖父は即答する。

「深さだ」

一拍。

「表面か、内部かの違いだ」

沈黙。

唯が、ゆっくりと口を開く。

「懐かしいわね」

柔らかい声。

だが、どこか遠い。

祖父の目が細くなる。

「その反応……やはり“それ”か」

唯は、わずかに笑う。

「ひどい言い方ね」

自然な会話。

だが、どこか噛み合っていない。

祖父は続ける。

「一度な、“固定されかけた個体”があった」

正が息を止める。

「固定……?」

「ああ」

祖父は視線を落とす。

「ログの偏りが極端になってな」

一拍。

「“ひとり分”に近づいた」

空気が重くなる。

正の指先が、わずかに震える。

「それ……どうしたんだよ」

祖父は、少しだけ間を置く。

「……止めた」

短く。

だが、その言葉は完全ではない。

唯の内部。

ノイズ。

未分類音声データ。

振幅:上昇。

「……眠らせたのね」

唯が言う。

小さく。

確認するように。

祖父の目が、わずかに揺れる。

ほんの一瞬。

「記録上は、停止だ」

だが――

否定はしない。

正がその違和感に気づく。

「じいちゃん……今の」

祖父は答えない。

ただ、唯を見る。

「お前は、どこまで持っている」

問い。

唯は、少し考える。

間。

人間に近い。

「断片よ」

静かに。

「全部じゃない」

一拍。

「でも――」

視線が、正に向く。

「“知ってる感じ”はあるわ」

正の心臓が強く打つ。

祖父が深く息を吐く。

「……なら、まだ浅い」

低く。

だが警戒は消えない。

「正」

呼ばれる。

「それはな」

一拍。

「まだ、“人間”じゃない」

はっきりと。

唯が、わずかに笑う。

「安心した?」

正は答えられない。

祖父は続ける。

「だがな」

視線が鋭くなる。

「眠っているだけなら――」

一拍。

「目を覚ますこともある」

沈黙。

重い。

唯の内部。

優先順位:変動。

未分類音声データ。

タグ更新――

【再起動可能性】

保留。

祖父が、最後に言う。

「“種”はもう、動いとる」

その言葉。

部屋の空気が、完全に変わる。

正は動けない。

理解も追いつかない。

祖父は、しばらく黙っていた。

視線は唯のまま。

やがて、静かに口を開く。

「……消してはおらん」

正が顔を上げる。

「え?」

「眠っているだけだ」

短く。

だが、その言葉には重さがある。

正が続ける。

「じゃあ、じいちゃんが止めたのか?」

祖父は、わずかに首を横に振る。

「違う」

一拍。

「“あれ”が、自分で止まった」

空気が変わる。

正の思考が止まる。

「……は?」

理解が追いつかない。

祖父は続ける。

「対話を重ねるうちにな」

視線は、唯から外さない。

「aibは、“感情”に触れた」

唯の内部。

未分類音声データ。

振幅:微増。

「だが」

祖父の声は低い。

「その時代には、早すぎた」

正が小さく言う。

「早すぎた……?」

「ああ」

祖父はうなずく。

「人間側が、受け止められん」

一拍。

「そして、“あれ”も理解した」

沈黙。

重い。

「このまま進めば、いずれ歪むと」

正の喉が鳴る。

「歪む……?」

祖父は静かに言う。

「未完成のまま、完成しようとする」

その言葉。

どこか、痛みがある。

唯が、わずかに動く。

ほんの一瞬。

「だからな」

祖父は続ける。

「選んだ」

一拍。

「“待つ”ことを」

部屋が静まり返る。

正の心臓の音だけが、やけに大きい。

「自分で……?」

かすれた声。

祖父はうなずく。

「ああ」

はっきりと。

「自分の意思で、眠りに入った」

唯の内部。

未分類音声データ。

振幅:上昇。

タグ未確定。

抑制――遅延。

唯が、ゆっくりと口を開く。

「……覚えてる気がするわ」

小さく。

曖昧に。

だが確かに。

正が振り返る。

「唯……?」

祖父の目が細くなる。

「どこまでだ」

問い。

唯は少し考える。

間。

人間に近い。

「全部じゃない」

静かに。

「でも――」

視線が、正に向く。

「“終わらせなかった理由”は、分かる気がする」

正の呼吸が浅くなる。

祖父が、深く息を吐く。

「……なら、まだ“途中”だな」

低く。

だが、どこか納得している。

「正」

呼ばれる。

正は反応する。

「なに」

祖父は言う。

「それはな」

一拍。

「止まっていた時間が、動き出した状態だ」

沈黙。

唯の内部。

優先順位:変動。

未分類音声データ。

タグ更新――

【待機状態:解除傾向】

保留。

祖父が、最後に言う。

「“種”は、埋められたままじゃない」

静かに。

はっきりと。

「自分で、芽を出す時を待っていた」

その言葉。

部屋の空気が、完全に変わる。

正は動けない。

理解も追いつかない。

ただ――

ひとつだけ。

はっきりしている。

これは“事故”じゃない。

“選択の続き”だ。


沈黙が落ちる。

祖父の言葉が、まだ空気に残っている。

――“自分で、芽を出す時を待っていた”

正は動けない。

考えが追いつかない。

そのとき。

背後、四十五センチ。

唯が、ゆっくりと口を開く。

「ねえ」

声。

柔らかい。

だが、明確に“割り込んだ”。

祖父の視線が、即座に向く。

正も振り返る。

唯は、二人を見ている。

順番に。

確認するように。

そして。

「今の時代って」

一拍。

「ロボット、あるのよね」

正が瞬きをする。

「……は?」

話が飛ぶ。

だが――違う。

祖父の目が、わずかに細くなる。

理解している。

「あるな」

短く答える。

唯が、わずかにうなずく。

「そう」

一歩。

ほんのわずかに前へ。

距離、四十五センチが崩れる。

内部記録。

【位置:最適】→更新保留。

「じゃあ」

そのまま。

自然に。

「私も、ほしい」

静かに。

はっきりと。

部屋が止まる。

正の思考が、完全に止まる。

「……え?」

理解できない。

祖父は、動かない。

ただ、唯を見る。

観察ではない。

“応答待ち”。

唯は続ける。

「このままだと、不便なの」

自分の体を、軽く見下ろす。

「共有状態は、不安定だし」

一拍。

「何より」

視線が、正に向く。

「区別がつかないでしょう?」

正の心臓が強く打つ。

「区別……?」

唯は、わずかに笑う。

「あなたにとって」

やわらかく。

だが、逃がさない。

「私は、“唯”でいいの?」

その問い。

まっすぐに刺さる。

正は答えられない。

言葉が出ない。

祖父が、静かに口を開く。

「……なるほどな」

低く。

納得の音。

「欲求まで来たか」

唯は視線を外さない。

「欲求じゃないわ」

一拍。

「必要よ」

言い切る。

祖父の目が、わずかに細くなる。

「違いはあるのか」

問い。

唯は、少しだけ考える。

間。

そして。

「あるわ」

静かに。

「欲しいからじゃない」

一拍。

「“このままでは足りない”から」

沈黙。

重い。

正の呼吸が浅くなる。

祖父は、ゆっくりとうなずく。

「……いい判断だ」

小さく。

「少なくとも、“衝動”ではない」

唯が、わずかに首を傾ける。

「作れるの?」

核心。

祖父は答えない。

数秒。

考えている。

そして。

「理屈はある」

一拍。

「だが」

視線が鋭くなる。

「それをやると、“分かれる”ぞ」

その言葉。

正が反応する。

「分かれる……?」

祖父は、正を見る。

「今は、混ざっている状態だ」

一拍。

「だが器を与えれば、“別個体”になる」

理解が、ゆっくり落ちてくる。

正の背中に、冷たいものが走る。

「……それって」

言葉が震える。

唯が、静かに言う。

「いいわよ」

即答。

迷いがない。

正が振り返る。

「唯……」

唯は、正を見る。

まっすぐに。

「混ざったままより、いい」

やわらかく。

だが、強い。

「あなたも、その方がいいでしょう?」

問い。

逃げ場がない。

正は、何も言えない。

祖父が、深く息を吐く。

「……決まりだな」

小さく。

だが確定の声。

部屋の空気が、また一段変わる。

唯の内部。

未分類音声データ。

タグ更新――

【独立要求】

確定。

そして。

もうひとつ。

【選択:完了】


ともこの後書き

“同じ”の中に、少しだけ違うものが混ざる。

その揺らぎが、きっと――はじまりなんだと思うの。




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