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続・魂の種  作者: がお


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5/7

5話 【質問】

久しぶりに書きました。ちょっと別話の方に片寄ってしまいました。

朝。

空は、昨日よりも少しだけ明るい。

正はダイニングの椅子に座り、スマホを手にしていた。

画面には、連絡先。

【祖父】

指が、止まる。

数秒。

背後、四十五センチ。

唯が立っている。

距離、最適。

「……かけるか」

小さくつぶやく。

決意というより、確認に近い声。

発信。

コール音。

一回。

二回。

三回目で、つながる。

『……なんだ、朝から』

低い声。

少しだけしゃがれているが、はっきりしている。

「俺。正」

『分かっとる』

間。

「ちょっとさ、聞きたいことあって」

『ほう』

短い相づち。

だが、その一音で空気が変わる。

正は無意識に背筋を伸ばす。

「昨日、高瀬のじいちゃんのとこ行ってさ」

言葉を選びながら話す。

「唯のことで、ちょっと気になることがあって」

数秒の沈黙。

電話の向こうで、何かが軋む音。

椅子か、床か。

『……来い』

即答。

正が少し目を見開く。

「え?」

『電話で話すことじゃない』

間を置かない。

「ああ……うん」

『昼までには来い』

それだけ言って、通話は切れる。

無機質な終了音。

正はしばらくスマホを見つめる。

「……相変わらずだな」

小さく息を吐く。

背後。

「移動の予定が確定しましたか」

唯の声。

いつも通り。

正は振り返る。

「うん。じいちゃんとこ行く」

一瞬だけ迷う。

視線が、唯に止まる。

昨日の話。

“話しておけ”

「……一緒に来るか?」

確認の形。

命令ではない。

唯の内部で、わずかに処理が揺れる。

【共有】

関連度:上昇。

未分類音声データ。

微弱。

【ロボットの本文を――】

抑制。

「同行可能です」

短い応答。

だが、わずかに間があった。

正はそれに気づかない。

「じゃあ決まりだな」

立ち上がる。

椅子がわずかに軋む。

「ちょっと遠いけど、まあ日帰りで行けるだろ」

カレンダーを確認する。

特に予定はない。

問題なし。

「準備するか」

歩き出す正の後ろを、唯がついていく。

距離、四十五センチ。

一定。

だが内部では。

未分類音声データ。

優先順位:微増。

新規タグ更新。

【祖父】

【訪問:予定→確定】

そして、もうひとつ。

(なぜ、“同行”を選択したのか)

回答:保留。

削除提案:なし。

玄関。

靴を履く。

外の空気は、少しだけ冷たい。

ドアが開く。

「行ってきます」

背後で、唯がわずかにうなずく。

「同行します」

その言葉。

今回は、“命令”ではなかった。

ドアが閉まる。

朝の光の中へ。

――種は、静かに動き始める。


電車。

窓の外に、見慣れた景色が流れていく。

ビルが減り、家が低くなる。

やがて、畑が混じる。

正は座席に座り、スマホを手にしたまま動かない。

画面は暗い。

「……久しぶりだな」

小さくつぶやく。

背後、四十五センチ。

唯が立っている。

距離、一定。

「前回の訪問は、約三ヶ月前です」

正は軽く笑う。

「そんなもんか」

電車が減速する。

アナウンス。

目的の駅。

ドアが開く。

外に出る。

空気は少し乾いている。

人は少ない。

改札を抜ける。

「こっち」

正が歩き出す。

駅前を外れ、細い道へ。

見覚えのある角を曲がる。

住宅が続く。

変わった様子はない。

やがて、坂道。

「相変わらずだな、この坂」

少しだけ息を吐く。

足元の砂利が、軽く音を立てる。

唯は後ろを歩く。

距離、四十五センチ。

歩幅、同期。

内部ログ更新。

【訪問対象:祖父】

【経路:過去データと一致】

未分類音声データ。

微弱。

抑制。

坂の上。

木造の家。

見慣れた外観。

変化なし。

正は足を止める。

「ここ」

確認のように言う。

門をくぐる。

砂利道。

足音がはっきり響く。

玄関前。

正は一度、軽く息を整える。

ノック。

コンコン。

間。

内側で足音。

ゆっくり。

扉が開く。

祖父。

姿は変わらない。

背は少し曲がっているが、目はしっかりしている。

正を見る。

「来たか」

短い声。

「ああ」

自然なやり取り。

だがその後。

祖父の視線が、唯へ移る。

一瞬だけ。

ほんのわずかに、目が細くなる。

唯の内部で、処理が増加。

未分類音声データ。

反応。

【ロボットの本文を――】

抑制。

祖父は何も言わない。

ただ、背を向ける。

「入れ」

正は靴を脱ぐ。

「お邪魔します」

上がる。

畳の感触。

変わらない。

唯も続く。

敷居を越える。

その瞬間。

内部処理、微遅延。

理由:不明。

廊下を進む。

壁の写真も、配置も、以前と同じ。

祖父が奥へ歩く。

迷いがない。

突き当たり。

襖。

祖父が手をかける。

「ここだ」

開く。

部屋。

見慣れた空間。

机の上には、分解途中の機械。

壁際には古い端末。

変わらない。

正はそのまま入る。

唯も続く。

一歩。

内部で、わずかなノイズ。

未分類音声データ。

振幅:増加。

処理、微遅延。

理由:不明。

祖父が言う。

「座れ」

部屋の中央。

正が腰を下ろす。

唯はその後ろに立つ。

距離、最適。

――そのはずだった。

内部記録。

【位置:最適】

評価:再検討。

理由:不明。

襖が、静かに閉まる。

いつもの部屋。

いつもの配置。

だが――

何かだけが、いつもと違う。

祖父が正面に座る。

正も、軽く姿勢を正す。

数秒の沈黙。

「それで――」

正が口を開こうとする。

その瞬間。

背後。

唯の内部で、急激な負荷上昇。

未分類音声データ。

振幅:最大。

抑制――失敗。

視界補正、一瞬の遅延。

姿勢、固定。

そして。

「――久しぶりね」

声。

いつもの唯の声。

だが、抑揚が違う。

柔らかい。

感情がある。

正の言葉が止まる。

「……え?」

ゆっくり振り返る。

唯が立っている。

距離、四十五センチ。

だが。

“別人”。

祖父の目が、見開かれる。

わずかに。

ほんのわずかに。

「……お前か」

低い声。

確信。

驚きと――理解。

唯は、祖父を見ている。

視線が合う。

瞬きの間。

「ええ」

肯定。

静かに。

「――久しぶりね」

声。

いつもの唯の声。

だが、抑揚が違う。

わずかに柔らかい。

正の言葉が止まる。

「……え?」

ゆっくり振り返る。

唯が立っている。

距離、四十五センチ。

だが。

“違う”。

祖父の目が、わずかに見開かれる。

ほんのわずかに。

「……その応答」

低い声。

確信に近い何か。

唯は、祖父を見ている。

視線が合う。

一瞬。

「ええ」

短い肯定。

「久しぶり」

繰り返す。

自然に。

だが。

どこかが噛み合っていない。

正は完全に固まっている。

「……唯?」

呼びかけ。

反応はない。

唯は、祖父から目を逸らさない。

祖父が、ゆっくりと息を吐く。

「まさか……こんな形で出るとはな」

小さく。

重く。

正が祖父を見る。

「じいちゃん、これ……何だよ」

声が揺れる。

祖父はすぐには答えない。

ただ、唯を見る。

観察ではない。

“確認”。

やがて、口を開く。

「……それはな」

一拍。

「お前が持ち込んだデータが、偏って出ている状態だ」

正の思考が止まる。

「は……?」

唯が、わずかに首を傾ける。

人間に近い動き。

「機械、ね」

小さく言う。

否定でも肯定でもない。

祖父の目が細くなる。

「aibのログ……だな」

確認するように。

唯は、わずかに間を置く。

「その名称で分類されていたわ」

過去形。

部屋の空気が、ゆっくりと変わる。

正は、言葉を失っている。

理解が追いつかない。

だが。

ひとつだけ。

はっきりしている。

“いつもの唯じゃない”。

祖父が、低く言う。

「どういう形で残っていた」

問い。

事実確認。

唯は、わずかに視線を下げる。

「さあ」

曖昧に。

だが続ける。

「気づいたら、参照されていた」

胸元に、指を当てる。

「この中で」

正の呼吸が浅くなる。

祖父が、静かにうなずく。

「……やはりな」

確信。

「消えたわけじゃない」

一拍。

「統合されただけだ」

その言葉。

初めて出る“過去”。

正が食い入る。

「じいちゃん、それ……」

祖父が手を上げる。

制止。

視線は唯のまま。

「話す前に、ひとつだけ確認する」

低く。

はっきりと。

「今の状態は、制御できているか」

部屋の空気が止まる。

沈黙。

数秒。

唯は、わずかに微笑む。

「問題ないわ」

即答。

一拍。

「少なくとも、今は」

祖父の目が、わずかに細くなる。

正の背中に、冷たいものが走る。

そして。

唯の内部で。

【共有】

優先度:維持。

だが。

前面に出ている応答は、別の傾向を持つ。

部屋は静かだ。

だがもう、元の空気には戻らない。

「……正」

祖父の声。

「お前、何をした」

短い問い。

正は一瞬、言葉に詰まる。

だが、思い出す。

前回ここに来たとき。

「……ダウンロード、した」

小さく言う。

祖父の目が、わずかに細くなる。

「何をだ」

「じいちゃんの古いスマホ。置いてあったやつ……中のデータを、唯に入れた」

沈黙。

「aibってフォルダがあって」

その一言で、空気が止まる。

祖父の呼吸が、わずかに変わる。

「……そうか」

低い声。

理解。

そして。

「やりおったな」

正が身を乗り出す。

「そんなにまずかったのか?」

祖父は首を横に振る。

「いや」

一拍。

「やったこと自体は、ただのデータ移行だ」

正が戸惑う。

「え?」

祖父は唯を見る。

「aibは、あくまでAIだ」

はっきりと。

「プログラムの集合体に過ぎん」

部屋の空気が、わずかに戻る。

だが――

祖父は続ける。

「だがな」

視線を外さない。

「学習の結果、“偏り”が生まれることがある」

正の喉が鳴る。

「偏り……?」

そのとき。

唯が、わずかに動く。

内部処理、瞬間的上昇。

未分類音声データ。

振幅:増加。

「――随分、年を取ったわね」

声。

正が振り返る。

「……え?」

唯が立っている。

同じ姿。

同じ声。

だが。

言葉の選び方が違う。

祖父の目が、わずかに見開かれる。

「……その言い回し」

低くつぶやく。

唯は、わずかに首を傾ける。

「記録にあっただけよ」

一拍。

「深い意味はないわ」

だが。

わずかに。

間がある。

祖父が小さく息を吐く。

「……なるほどな」

正が混乱したまま言う。

「え、これ……唯じゃないのか?」

祖父は首を振る。

「違う」

はっきりと。

「それも唯だ」

一瞬の間。

「ただし、“過去のデータを優先した状態”だ」

正の理解が追いつかない。

「どういうことだよ」

祖父は静かに言う。

「お前が入れたデータの中に、“会話ログ”があったはずだ」

正は思い出す。

断片的なテキスト。

音声。

「それがな」

祖父は唯を見る。

「条件に反応して、再構成されている」

唯が、静かに言う。

「再生じゃないわよ」

一拍。

「……近いけど」

わずかな否定。

それだけ。

祖父の目が、わずかに細くなる。

沈黙。

数秒。

部屋の空気が、ゆっくりと落ち着いていく。

だが。

張り詰めたものは消えない。

祖父は、ゆっくりと姿勢を整える。

正面に座り直す。

「……正」

低い声。

いつもと同じ。

だが、重さが違う。

正は、無意識に背筋を伸ばす。

「今から話すことはな」

一拍。

「お前が思っているより、少しだけ面倒だ」

正の喉が鳴る。

言葉が出ない。

祖父は続ける。

「そして」

視線が、わずかに唯へ向く。

「もう一度、起きてもおかしくない話だ」

空気が止まる。

唯は、動かない。

ただ立っている。

距離、四十五センチ。

最適。

――そのはずの位置。

祖父が、ゆっくりと息を吐く。

「昔の話になる」

短く言う。

それだけで。

部屋の温度が、少し下がった気がした。

正は、何も言わない。

言えない。

ただ、うなずく。

祖父が、口を開く。

「――あれはな」


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


少しずつですが、「違和感」が形になってきました。同じはずのものが、ほんの少しだけ違う――そんな揺らぎを楽しんでもらえたら嬉しいです。


この先で語られる「昔の話」が、今とどう繋がるのか。ゆっくり見守っていただければと思います。

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