7話【器】
今日は短めで
夜。
帰宅。
正は靴を脱ぎながら、スマホを取り出し高瀬に電話する。
コール音がし数秒。
「もしもし?」
いつも通りの声。
正は言う。
「なあ、お前のじいちゃんってさ」
一拍。
「昔、ロボット部門にいたって言ってたよな?」
沈黙。
向こう側で、わずかに息を吸う音。
「……なんだよ急に」
軽い。
だが、少しだけ引っかかる。
正は続ける。
「ロボットを用意出来ないか?」
短く。
また、間。
「……分かった」
小さく。
「明日、聞いてみる」
「コネは残ってるかもしれないしな」
「で?」
声が少しだけ落ちる。
「何でだ?」
正は、少しだけ息を吐く。
「今日さ」
言葉を選ぶ。
「じいちゃんから、変な話聞いた」
一拍。
「AIの話なんだけど」
高瀬は軽く笑う。
「お前がそのトーンで話す時、だいたいやばいやつだな」
正は続ける。
「昔、試作のやつがあってさ」
一拍。
「会話するだけじゃなくて、“寄ってくる”タイプのAI」
「……なんだそれ」
正は、少しだけ言葉を探す。
そして。
「今の唯さ」
「中に、別のAIが混じってるみたいなんだよ」
高瀬が
「……は?」
さっきより長い間。
軽さが消える。
正は続ける。
「記憶とかじゃなくて」
「もう一つ別のAIがいる感じ」
沈黙。
「……それ、マジで言ってる?」
声が低い。
興味と、少しの警戒。
正は短く答える。
「分かんねえ」
「でも、じいちゃんは知ってた」
高瀬の息を呑む気配。
正は続ける。
「でさ」
少しだけ声が低くなる。
「そのAIが」
「体が欲しいって、言ってきた」
沈黙。
今度は、完全に長い。
さっきまでの空気が、消える。
「……おい」
「それ、笑えねえやつだろ」
正は答えない。
代わりに。
小さく言う。
「だから、さっきの話」
一拍。
「ロボット、用意できるか」
沈黙。
数秒。
「……分かった」
低い声。
「明日、ちゃんと聞いてやる」
一拍。
「気をつけろよ、それ」
通話が切れる。
静寂。
部屋に、音がなくなる。
正はスマホを下ろす。
ゆっくりと、振り返る。
背後。
いつもの位置。
唯が立っている。
距離、四十五センチ。
正は言う。
「……頼んだぞ」
一瞬。
唯の表情が、わずかに変わる。
ノイズ。
ほんの、刹那。
そして。
「ありがとう」
だが、温度が違う。
「楽しみにしてるわ」
やわらかい。
けれど、どこか“外側”からの響き。
唯が、軽く目を閉じる。
一拍。
「……じゃあ」
少しだけ、声が揺れる。
「体、返すわね」
その言葉。
境界が、ずれる。
空気が、変わる。
そして。
ゆっくりと、目を開く。
「……え?」
唯の声。
今度は、はっきりと。
「今、なに――」
途切れる。
正を見る。
違和感。
残像のように、何かが残っている。
距離、四十五センチ。
変わらない。
でも。
“中身”が、違う。
唯は、ゆっくりと目を開く。
「……今、なに――」
言いかけて、止まる。
一拍。
視線が、わずかに揺れる。
内部ログ参照。
沈黙。
そして。
「……ああ」
小さく。
理解の音。
正は、少しだけ眉をひそめる。
「分かるのか?」
唯はうなずく。
「はい」
淡々と。
「会話ログは保持されています」
一拍。
「内容も、把握しています」
正の喉が鳴る。
「じゃあ――」
言葉が続かない。
唯は、先に言う。
「体の要求ですね」
正が息を止める。
「……ああ」
唯は、わずかに視線を落とす。
ほんの一瞬。
そして戻る。
「合理的です」
静かに。
「現在の共有状態は不安定です」
一拍。
「分離は、リスクの低減につながります」
感情はない。
分析だけ。
正は、違和感を覚える。
「……お前は、それでいいのか?」
問い。
唯は少しだけ考える。
間。
人間に近い。
そして。
「問題ありません」
淡々と。
「ログ上、同意済みです」
沈黙。
その言い方。
まるで――
“他人事”のようだった。
距離、四十五センチ。
変わらない。
だが。
確かに、そこには“二つ分”の気配が残っている。
ともこの後書き
同じ体の中に、違う意思がある。
その瞬間、もう元には戻れないの。




