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赤い月の夜に、君を殺す夢を見た。  作者: 妙原奇天


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第5話 赤潮

 海が変になった、と最初に言ったのは魚屋の奥さんだった。朝の仕入れに出て、岸辺まで行って戻ってきた顔は、塩で赤くなった手よりもさらに赤かった。店の前に並んだ発泡スチロールの箱の中は空っぽで、奥さんは鉈を持ったまま、道路のほうを指さした。

「海が泡だらけ。赤いの。泡の縁が、血みたいに糸を引いてて」

 近所の人がぞろぞろ歩き出し、港の坂を下りていく。ユウも後ろからついていった。いつもなら朝の光で銀色にまぶしいはずの海は、曇りの日の皿の底みたいな色をしていて、その縁だけが荒い口紅を塗ったみたいに赤かった。波が寄せるたび、赤い泡が音もなく弾け、白くしぼんだ膜が砂の上をはっていく。足元には魚がいくつも打ち上げられていて、体の側面を海水に濡らしながらわずかに動いている。動いているのに、目はもう海を見ていない。誰かが持ってきたゴム手袋の箱が回され、手袋をはめた大人たちが魚を網に集めはじめた。網の目から、赤い泡がゆっくりこぼれ落ちる。

「ニュースは?」

「こなくなったよ」

「昨日も今日も、町内放送だけ」

「検疫と、葬儀の予定だけ」

 言葉は短く、硬く、必要なものだけが行き来した。余計な飾りは剥がれ、挨拶は省かれ、形だけの笑いは消えた。海の匂いは重く、鼻の奥に薄い鉄の味が残った。

 理科準備室に、赤い泡の正体が持ち込まれたのは昼を過ぎてからだ。浜辺の掃除に出ていた理科の先生と生徒会の面々が、ペットボトルに汲んだ赤い水を抱えてきた。準備室の流し台に置くと、中の液体は光の角度でうっすら層になって見えた。上澄みは少し透け、底は濃く、真ん中あたりがいちばん不安定に赤かった。

「藻だと思うが、種類がわからない。顕微鏡で見てみよう」

 理科の先生は乾いた声で言い、カバーガラスとピンセットを用意した。ユウとミサキは横に並んで座り、プレパラートを作る先生の手元をのぞき込んだ。先生の指先は震えていない。震えないように、ゆっくり動く。赤い液をほんの少し落とし、薄いガラスでそっと押さえる。顕微鏡のステージにのせ、ピントのつまみを回す。レンズの向こうで、世界は別のスケールに変わった。

「見てごらん」

 ユウが接眼レンズに目を近づけると、視野は初め、ただの赤い霧だった。ピントを合わせていくと、霧の中に丸い輪郭が浮かび上がる。丸は幾つもあり、大小さまざま。輪郭はやわらかく、ゼリーのように見え、時折、内側からふくらんで、しぼむ。開いたり閉じたりを、規則正しくではなく、勝手なタイミングで繰り返す。開くたび、視野の赤はわずかに濃くなり、閉じるときは少し薄くなる。そのリズムに合わせるように、ユウの瞼が重くなっていった。目の奥で、丸が丸を呼び、視野の端で色がゆるく回る。

「どう?」

「……丸い胞子、みたいなのが、開いたり閉じたりしてる」

「動いてるの?」

「動いてる」

 ミサキもレンズを覗き、息を止めた。覗いているうちに、肩がわずかに下がる。視野の丸が開くたび、頬の筋肉がゆるむ。閉じるたび、目のふちがほんの少し重くなる。

「眠くなる」

「うん」

「見てるだけなのに」

「見てるだけだから、かも」

 ユウは目を離し、天井の蛍光灯を見た。白い光はまっすぐで、そこに赤は混ざっていない。けれど、顕微鏡の中にいた丸は確かに開閉していて、開閉の幅はさっきよりも大きくなっている気がした。見ているあいだに、なにかが満ちる。誰かから誰かへ移るのではなく、部屋の空気の粒と粒の間に、夕暮れの影がのびていくみたいに。夢は感染するのではなく、満ちる。そう名付けてしまったら、きっと引き返せない。名付けることは、いつだって形を与える。

「先生、これ、危険じゃ」

「科学的にどうと言えるだけの情報が足りない。が、見続ける必要はない。もういい。片付けよう」

 先生はプレパラートを外し、水道の水で流した。赤は薄まり、流しの底に汚れとなって残った。その残り方が、どこかで見た涙の跡に似ていた。音楽室の椅子に残った、乾いた線。色も、形も、しずかに似ていた。

 体育館には避難ベッドが並びはじめていた。昼のうちにボランティアの人たちが倉庫から出してきたらしい。銀色の簡易ベッドに薄いマットが載り、その上に市の備蓄の毛布が広げられる。ベッドは規則正しく並んだが、並び方はやわらかかった。互い違いに頭の位置を変え、通路を広げ、入り口に近いほうにはストーブがひとつ置かれた。掲示板には小さな紙が貼られる。

 浅い眠りをこころがけましょう。

 となりにいる人の手を、やさしくさすってください。

 合図はことばで。ゆっくり呼び戻す。

 科学的根拠は確立していません。けれど、わたしたちは互いに生きる。

 半ば公認、という言葉が、町の空気の端で小さく鳴った。共眠はもう秘密ではない。秘密にせずにやるぶん、責任の形が変わる。責めるための形ではなく、持ち寄るための形に。先生たちも巡回し、検疫官は入口でバンドの光を確認し、配られた飴は机の上に山になった。苦い飴。青い桶。針の箱。全部、見慣れてしまった。

「ユウ」

 体育館の隅、バスケットゴールの陰で、ミサキが毛布を肩にかけていた。目の下の影は朝よりも薄いが、薄さの分だけ時間の長さがわかる。動いてきた時間、戻ってこなかった時間。ユウが近づくと、ミサキは髪を耳にかけ、弱く笑った。

「ごめん、また少し見た気がする」

「どんなふうに」

「名前じゃないのに、名前の形のやつ。昨日より、近かった気がして」

「鐘は?」

「鳴ってない。けど、鳴る前の空気、みたいなのが」

「ここにいるよ」

「うん。いる」

 毛布の端を持ち上げ、二人で肩にかける。肩と肩、額と額、脈と脈。柱は覚えるまでもなく身体に入っていた。ミサキの頭がユウの胸の上に降りてくる。重さは軽いはずなのに、心臓の位置がそこにあることを、やけにくっきり思い出させる重さだった。髪の匂いに、塩が混じっている。外の海の匂いではなく、涙が乾いたあとの、弱い塩。弱い塩の匂いは、眠りの誘惑に似ていた。眠りは甘くないのに、なぜだろう。

「秒針、今日は見ないでやろう」

「うん」

 体育館の天井は高く、鉄骨が渡っている。灯りは広く、影は薄い。薄い影の中で、子どもが泣き、別の子が絵本を読み、先生たちが消毒液の匂いを連れて歩く。ストーブの上では湯気が立ち、紙コップの中をあたため続ける。音は重ならない。誰かの声が遠く消え、別の誰かの声がそこへ流れ込む。流れ込むたび、わたしたちは浅く眠り、浅く戻る。

 ユウは囁いた。

「ここにいる」

 ミサキの肩がすこし下がり、目の線がやわらぐ。わずかな重力がユウの胸に移る。胸の骨の内側で、なにか薄いものが剥がれ、落ちる気配がする。落ちる前に、言葉を置く。

「ここにいる」

 ミサキの口から、声がもれた。ことばになる寸前の形。意味と音の間の、細い隙間の輪郭。

「……底に、白い砂がないの。全部、赤い粉で、足が、沈んで。光が、逆さま」

「戻ろう」

 ユウは彼女の肩を軽く叩いた。叩く、というより、撫でる。撫でながら、胸の内側に忍び込んでくる眠りの柔らかい爪を感じた。眠りは感染ではない。目の前の彼女の体温と、自分の体温の間の空気に、静かに満ちてくるもの。満ちて、天井の鉄骨に当たり、また降りてくるもの。

「……ごめん」

「謝らないで」

「謝るほうが、楽になるから」

「なら、謝っていい」

 彼女の髪の匂いに、潮と紙の匂いが混じっていく。紙は、黒板の粉の匂いに似ていた。ユウの背中に薄い汗がにじみ、布の下で肌が少し冷える。冷えたところへ、眠りの気配が静かに触れる。触れるたび、目の端で赤い色の粒子が広がる気がする。顕微鏡の視野で見た丸が、ここにもいる。開いたり閉じたりを繰り返し、言葉の輪郭をやわらげる。やわらいだ輪郭は、涙に似る。涙になりきらないところで、呼び戻す。

「ここにいる」

 ミサキの指が、毛布の上からユウのシャツの裾をつまんだ。つままれた布は、ゆっくり皺になり、その皺はほどけない。ほどけないことが、今はありがたい。体育館の入口で検疫官が腕章を直し、バンドの青い光をひとつずつ確かめている。青は生きている。揺れるたび、命が少しだけ揺れる。

「ユウ」

「うん」

「守るって、なに?」

「わからない」

「一緒に落ちるのは、守ること?」

「わからない」

「わたし、今、落ちかけてる」

「落ちる前に、戻る」

「戻すのは、誰?」

「わたしたち」

 わたしたち、という言葉が、胸の真ん中で水を吸った。重くなる。重くなると、眠りは近くなる。眠りの縁に身体が寄っていく。縁は赤い泡でべとついていて、踏み込めば足が沈む。沈む前に、名前を呼ぶ。名前は、鈎になる。ひっかけるための、小さな金具。

「ミサキ」

 呼んだとき、彼女はうっすら笑った。笑いは弱い。弱い笑いの端で、まぶたがふっと下りる。ユウは肩を叩く。戻る。もう一度、ゆっくり下りる。叩く。戻る。叩く手のリズムは、顕微鏡の丸よりも不規則で、だれにも合わせようとしない。その不規則さが、救いだった。

 体育館の隅で、葬儀の日程を記した紙を指でなぞっている人がいた。なぞる指先の爪は短く、白い紙に薄い光を塗る。日付は詰まっている。名前は増える。名前の間の空白は狭くなる。その狭さに、私たちは今夜も毛布を広げる。

 夜半、ストーブの火が弱くなった。係の人が灯油を足し、上にのせたやかんから白い湯気が立ちのぼる。湯気は天井の鉄骨に触れてほどけた。ほどけるたび、眠りは深くなる。深くなる前に、ユウは言葉を置いた。置くことに意味があると信じて。

「ここにいる」

 ミサキの目に、天井の白が映る。白の真ん中に、小さな黒い点があった。蛍光灯の影。それが穴のように見えた。見えたのは、疲れのせいだ。ユウは視線を床に落とし、体育館の木目の一本を目で追いかけた。木目は遠くで消えて、また現れる。現れるたび、少しだけ違う形をしている。

「……ねえ」

「なに」

「もし、わたしがほんとうに落ちたら、あなたも落ちる?」

 質問は短いのに、長かった。長い質問は、耳の奥で鈍く響く。響きは重く、返事の形を崩す。

「落ちる、かもしれない」

「守ってる、ことになる?」

「わからない」

「わからないね」

「わからないね」

 ふたりの言葉は同じ形をして、同じ薄さで空気に乗った。空気に乗ったところで、顕微鏡の丸の開閉とぶつかり、さらさらほどける。ほどけた言葉の粉が、髪の塩の匂いに混じった。

 夜明け前、体育館の扉が静かに開いて、町役場の人が張り紙を貼り替えた。検疫の時間。葬儀の列。赤潮への注意。赤い泡に触れない。魚を拾わない。煮ても焼いても食べない。短い命令がいくつも並ぶ。並びながら、どれも行き場を持たない。行き場がないので、わたしたちは毛布の端に丸めて置く。置いておけば、とりあえず誰かの足元の邪魔にはならない。

 東の窓が白み、体育館の空気がわずかに軽くなった。軽くなっただけで、重さは消えない。消えないから、持ち直す。持ち直すために、紙コップに温かい飲み物を注ぎ、苦い飴をひとつ舌にのせ、針の箱を閉じ、青い桶の水を替える。やることがあるのは、ありがたい。

「覚えてる?」

「なにを」

「さっき、なにか言ってた」

「言ってた?」

「底に白い砂がない、って」

「覚えてない」

「なら、いい」

「なら、いい?」

「なら、いい」

 ミサキは目をこすり、髪を結び直した。ゴムが小さく鳴った。鳴った音は、朝の鳥の声に似ていた。鳥は、まだ少ないが、確かに飛んでいる。飛んでいるものがいるかぎり、わたしたちは地面に座る場所を見つけられる。

 学校の理科準備室に戻ると、赤い水の入ったペットボトルは回収されていた。先生は「今日の観察は終了」と書いた紙を貼り、鍵をかけた。鍵の金属の冷たさが、指に残る。残った冷たさを、ユウはわざと長く握っていた。冷たいものは、ここに引き戻す。引き戻すことが、今はいちばんの技術だ。

 理科の窓から海が見えた。波はまだ赤い泡を吐き、岸辺には魚が打ち上げられている。遠くで、灯台が白く立っている。白は遠く、届かない。届かないものを、目でなぞる。なぞりながら、ユウは自分の瞼に意識を置いた。重くなれば、戻す。戻せなくなる前に、誰かが触る。触られて、戻る。それを繰り返す。

 昼の放送は、検疫と葬儀の予定だけだった。町長の声は短く、硬く、正確だった。正確であるということに、意味があるのだと思う。意味を持たない言葉は、今は危険すぎる。意味の外にある音を、わたしたちは夜に残しておく。

 放課後、シュウトが黒板の前に立っていた。白チョークで、四角を描き、その中にひとつだけ丸を描く。丸の中に短い線を引き、また消す。消しゴムの粉が黒板のふちに積もる。

「赤潮って、さ。生きてるのかな」

 彼は振り向かずに言った。ユウはすぐ後ろに立った。

「生きものの仕業なら、生きてる」

「生きてるものに、怒ったほうがいいのかな」

「怒れる?」

「わからない」

「わからないね」

 シュウトは肩を落とし、机に手をついた。目の下の影は濃いけれど、どこかで薄くなったようにも見えた。薄くなったのは、泣いたからかもしれない。泣くことは、悪くない。悪くないはずだ。

 夕方、港の坂を下りると、赤い泡は朝よりも広がっていた。泡の縁に、黒い点が混じっている。鳥だ。小さな海鳥が数羽、波打ち際で倒れている。翼は濡れ、目は半分開いている。誰かが手袋を二重にして、鳥を持ち上げた。持ち上げた手は、しばらく空中に漂い、やがてそっと箱に入れられた。箱の底には新聞紙。新聞には、過去の日付のまま止まった記事。止まった文章の上に、今の匂いが重なった。

「料理は、しないほうがいい」

「拾わないほうがいい」

「触れないほうがいい」

 短い命令がまた増える。増えるたび、わたしたちはひとつずつ身振りを失う。失った身振りのぶんだけ、抱きしめるという動作だけが、やけに大きく残る。

 夜。体育館の灯りがつき、ベッドに毛布が増え、共眠の輪が静かに広がる。誰も笑わず、誰も泣かない。泣くときは、毛布の内側で。笑うときも、毛布の内側で。外側では、やさしい声と、短い合図と、青い光だけが往復する。

 ユウはミサキの腕に指を置き、脈のずれを探した。探すと、かならず見つかる。見つかることが、救いの証拠になる。証拠は小さく、すぐに失われる。失われる前に、言葉で縁取る。

「ここにいる」

 ミサキは小さく頷き、目を閉じないまま目の奥をやわらげた。髪の塩の匂いが濃くなった気がした。塩は、眠りの縁に砂をまぶす。砂のざらつきが、落下を遅らせる。遅らせるあいだに、鐘の音が遠ざかる。遠ざかった、と思った瞬間に、別の方向から近づく。近づく前に、肩を叩く。

「戻ろう」

「戻る」

「戻って」

「戻るよ」

 声は短く、硬く、正確に。正確さだけが、夜の廊下に落ちている。拾い上げ、ポケットに入れる。ポケットの中で、言葉は少しあたたかくなる。あたたかさは危険だ。危険なのに、今はそれを捨てられない。

 誰かを守ることと、一緒に落ちることは、ほとんど同じ行為になっていく。境目は薄く、同じ手つきで両方をやってしまう。抱きしめると、落ちそうになる。落ちそうになっても、抱きしめる。抱きしめるから、戻れる。戻れるから、また抱きしめる。まるで顕微鏡の視野で開閉する丸みたいに、わたしたちは夜の中で、寄っては離れ、離れては寄った。

 遠くで、港のサイレンがひとつ鳴り、また止む。赤い月は薄い雲の向こうに隠れ、黒い穴だけが想像の上で鮮やかになる。想像の鮮やかさに、指先が冷える。冷えた指で、ユウはミサキの手首に触れた。脈が、そこにあった。あったという事実が、今夜の、唯一のやわらかい光だった。

「明日も」

「うん」

「ここにいる」

「ここにいて」

「いる」

 あいだの床に、赤い泡は来ない。来ないように、みんなで夜を外から押し返している。押し返しているふりでも、いい。ふりで持つ夜がある。ふりでつなぐ手がある。ふりで覚える言葉がある。ふりの積み重ねの上で、わたしたちは眠らず、眠り、眠らず、眠る。浅いところで、互いの名前を確かめながら。

 海は変になったままだ。岸辺は赤い泡に縁取られ、魚は打ち上げられ、鳥は箱に入れられ、ニュースは来ない。町の放送は検疫と葬儀だけを告げ、世界の言葉は短く、硬くなった。理科準備室の顕微鏡の視野で開閉する丸は、今もどこかで静かに動いている。動くたび、まぶたの裏で薄い波が立つ。その波の音を、わたしたちはまだ知らない。知らないまま、次の夜を迎える。迎える場所は、ここだ。毛布の内側、肩と肩、額と額、脈と脈。言葉の短さでつくった、ぎりぎりの陸地。

 そして、夜が来る。赤い月は昇り、黒い穴は黙ってこちらを見ている。見返す力を、明日の朝まで、どうか少しだけ残せますように。潮の塩が髪に乾き、青い光が弱く明滅するそのあいだだけでも。ミサキの鼓動が、ここにあるあいだだけでも。ユウは目を閉じないまま、胸の内側でひとつだけ、長い言葉をつくった。口には出さなかった。出せば、壊れるから。胸のなかで、言葉は静かに光った。

 守る。落ちる。戻す。

 それが、今夜のわたしたちの全部だった。

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