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ツンのときもデレのときも永遠に愛することを誓いますか? 4/19 1日目、22~23時頃




 二人は飲み方が違った。

 実幸はちびちび飲み、ミユはぐびぐび飲んだ。

 実幸は泣き上戸で、ミユは笑い上戸だった。


 なんでもない世間話から始まって、思い出話で相手の弱点をくすぐり合って、相手の知らないかつての過ちさえもう笑い話に変わってしまっていて、交流が途絶えていたあいだの未知を埋めるのに、言葉は途切れなかった。


 お歳暮に貰ったけど手をつけないでいた、と、実幸が焼酎を持ち出してきて開けたのさえ、もう底を着きそうだ。八割方ミユの腹のなかである。


 しかし実幸のほうが酔いの回りは早かった。

 だから彼の話し好きの性質が存分に発揮され、恋愛遍歴の暴露が自虐気味に始まったのも至極当然の成り行きだった。


「でね、華子ちゃん専門? なんかデザインの? 服飾? とかの。でー、ちょっとして学校別だし離れたら恋愛難しいねってことになって別れたんだけど、で、なんかね、あの、いやーこれ人から聞いた話だからホントかどうかはわかんないんだよ? 噂だから。だから別に信じてないんだけど、自分が可愛いのに気づいちゃったらしくて。モテちゃって。なんか、浮気してたらしくてぇ……。」


 実幸は涙声で、ミユは肩を揺らせて笑う。


「あははは! ざぁまぁ!」


「でぇ、次の人なんだけど、同じ大学に行った人でね、まぁそれ以前から友達だったし、告白とかはしなかったんだよねお互いに、なんかこう、じわーっとエロの方向にもっていったってゆうかぁ、ってゆう感じで。でも俺としてはめちゃくちゃ好きだったんだよね。ほんとにもう絆レベル?で、好きだったんだけど、凄い信頼感もあり。でも、その人夢があってね、そこも好きなところだったの。夢を追っかけてカッコイイねって思ってたんだけど、だから夢のために海外に行くのは賛成で。恥ずかしいんだけど、勝手に待ってるよって気持ちだったの。ぶっちゃけ、まぁいないあいだ魔が差したこともあった。むしろ魔に刺された。これは俺のせいじゃない。……ごめんなさい俺のせいです。俺は嘘はつかない男。で、話は戻るんだがぁ、その人が戻ってきたとき迎えに行ったんだけど、なんか雰囲気変わってて、なんか……。で、結婚相手を紹介された。」


「はは、ざまぁ。」


「で、次に付き合った人、もうちゃんと気持ち伝えたいし、しっかりしようと思って、好きだよってめっちゃ言ったし、サプライズとかもしたし、物とかもいっぱいあげた。貢いだ。で、怖いって言われて、捨てられた。その次の人は、俺が貢いじゃう人間だって知ってて付き合ってきて、貢がせるだけ貢がせてたあとに浮気相手……っていうかあっちが本命?だったのかな? まぁその本命くんから貢がせ要員だからってバラされて切られた。」


「……あーあ、ざまあ。」


 実幸の手が酒瓶に伸びたからミユは素早く奪った。


「もうやめなって。水にしなよ。」


「俺の酒だぞ。」


 妙に強気で、舌が回っていない。ミユは溜息をつく。


「しょうがないな。」


 ミユは立つと、実幸の背後にある冷蔵庫へ行く。

 側面にマグネットで張り付けられたどろよいジャンパーの応募用紙には結構な数のシールが貼ってあって、寂しさを埋めるために酒に頼っているのは想像に難くない。

 冷蔵庫の扉を開けていったん酒瓶とコップを置く。

 彼に背中を向けて手元を隠した格好で、冷凍室からコップに氷を入れて、麦茶を注いで、実幸に渡した。


「ほら、麦茶割り。」


 うん、と、実幸は飲んで、アルコール分0%だとは気づかない。


「で、次の人、元の妻なんだけど。もう傷つくのはなしですぜって思ってて。だから、信頼できて、性格とか近い人がいいよなって、思って。すごくいい子だったから、付き合ってみて……。でもこれは多分ね、恋愛の好きではなかったんだよね。人として好きで、……ムラムラはしなかったんだよな。なんか。でもだからずっと一緒にいられるって思って、結婚した。けど、向こうが恋愛をしちゃった。子供がね、できたそうで。……ネトラレた。」


 化け狐の彼女は愛が重いと言った。

 「ならそっちの愛は軽いの?」と実幸が慣れない皮肉を言うと、「そうじゃない」と怒られた。

 すれ違っていたから受け取れなかった、欲しくないところにばかり実幸の愛は降り積もっていた、私を透かしてほかの人――きっと理想像を見ているあなたは、精神的にはずっと童貞だよね、というようなことを彼女は怒りに任せて言い、実幸はごめんと言ってしまうのが怖くて黙っていた。

「ほらケンカにもならない。」

 彼女は冷えた声でそう言って、彼らは別れた。


 うっかり回想してしまった実幸は自虐的に笑ったが、ミユは軽く引いた。


「あーわかったもういいもう充分。他人の不幸の蜜の味が濃すぎる。そろそろあっさりしたので口直ししたい。」


「ちょっと待って。」


 実幸は振り返って冷蔵庫からタッパーを取り出した。


 砕かれ揉まれたキュウリが入っている。


「まじうまだから。掛け値なしにまじうま。」


 えー?っと言いながら、ミユは箸の逆でつまんで豚モツが入っていた皿に移してから、食べる。笑う。


「まじうま。」


「でしょ?」


「レシピ教えて。」


 実幸はシンクの上の調味料が並んでいるうちから一本取りだして、ミユに見せる。


「これ一本。」


 通販番組さながらである。


 調味料で有名な会社の、ちょっとお高いシリーズの出汁だ。


「お歳暮にもらって。もらったときは、『出汁は鰹節と昆布からとってる料理には一家言あるこの俺に、調味料渡すってナメてるんですか?』って思って、もう乱暴につかってやるぜって思ってキュウリ揉んでみたらまじでうまかった。反省したね。それ以来リピーターですわ。」


 料理の話をはじめた途端に元気になってくれたから、よかった。


「と、ごま油と、しょうがと、あと場合によっては鷹の爪。」


 一本やないんかい、とツッコミを入れたいところだがミユの口にはキュウリがいっぱいでバリボリとうるさく、実幸はにやにやしながらそれを見た。


「ミユは?」


「ん?」


「ミユは、どんな恋愛をしてきたの? いま、付き合ってる人はいる?」




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