ツンのときもデレのときも永遠に愛することを誓いますか? 3/19 1日目、21時頃
実幸の買い物かごではキャベツだとかアジだとか納豆だとかが生活感を醸し出していて、ミユの買い物かごでは30%オフのシールの張られた唐揚げが疲労感を暴露していた。
ミユには、実幸によく見られたい、というような希望はない。
むしろありのままの姿をさらしたいというのが本心だった。
だから実幸の実家で一緒に飲もうと誘われたとき一も二もなく承諾して、30%オフの唐揚げを戻すと、味噌ダレ豚モツ(加熱用)のパックに代えた。
実家でやると両親に白い眼で見られるから諦めていたが、今日はどうしても味噌ダレ豚モツをツマミに酒を飲みたかったのである。
三善家に到着したとき、窓のどれにも明かりはなかった。
まだ二十一時だ。床に就く時間でもない。
「誰もいないの?」
そう訊きながら、三善家の子供がみんな成人したことに思い当たる。
出て行ったのだろうか?
「うん。去年までは母さんと牡丹と、あとときどき親父が住んでたんだけど、なんか牡丹の霊感?霊能力?が強すぎてさ。雪女のおばあちゃんから隔世遺伝じゃないかってことで、二人ともおばあちゃんのところに行って修行中。国外だよ。」
家に入りながら、そんな、三善家らしい話をする。
自動車免許を取りに合宿に行ってる、くらいの軽い口調だったから、ミユは深刻に捉えないことにした。
「だから一年とちょっと前くらいかな、俺が戻ったあとすぐ誰もいなくなっちゃって、ひとりってはじめてだからすごい寂しい。寂しくてびっくりしてる。」
実幸が結婚を機に家を出たというのは、母伝いにミユは知っていた。だから鉢合わせる危惧もなくスーパーに行けていたのだ。だが離婚したのも戻っていたのも知らず、スーパーで話しかけられるとはまったく予期していなかったのだ。
「ああ……。」
台所の小さなテーブルに買い物袋を置いて、ミユはちょっと考える。
(二人きりってなんか気まずくなってきたやっぱ帰ろっかな――)
冷蔵庫に食品を片す実幸の背中を見ていると、彼はニラを出してテーブルに置いた。
「腐りそうだから使って。キャベツも入れる? 俺も食うから嵩益しして。」
振り返った彼と目が合う。
応えないミユに、実幸は不思議そうな顔をする。
「いいよね?」
「うん。」
まぁ、いいか。ここで帰ったら、もう謝るチャンスないもんね。――と、ミユは思い直して、味噌ダレ豚モツ(加熱用)のパックを開けた。
「よかった。じゃあ風呂入ってくる。」
「ん?」
「大丈夫俺すぐだから。」
なにが大丈夫なんだと尋ねる前に、実幸は浴室へ消えてしまった。
キャベツに包丁を下ろしていると、まな板のトントンという音がよく響いて、澄んだ反響が背中に触った。
三善家の一同が揃っていた頃にはやかましさに掻き消されていた音だ。
後ろの居間には夜の薄暗がりが落ちていて、誰もいないのだと感じ入った。
九人では狭い家だが、ひとりには広すぎる。
実幸はさぞ寂しいだろうと思いながら調理しているうちに、彼は戻って来た。
「早。」
乱れた髪とダサいスエットを見て、ミユは、実幸だなぁと思い知る。
実幸が格好良すぎないことにすこし安心し、そしてすぐさま(なに考えてんだ!)と邪念を振り払う。
「ありがとうございます効率がいいってよく褒められます。」
リズミカルに言いながら米を茶碗へよそう。
「ミユはご飯いい?」
「大丈夫。」
「なにダイエットとか?」
実幸は米を電子レンジに入れる。
「ちょっと食べてきたから。今日懇親会で。」
「んでこれから酒飲んで肉食うって大丈夫かよ?」
ミユは炒め終わり、フライパンから大皿に移していく。
「こっち接待する側だったから、そんな食べてないの。」
だから焼けた味噌の匂いには涎が出る。
「へぇ大変だったね。どういう接待? いい店?」
などと会話しながら、ミユは皿をテーブルに置いて、冷蔵庫からさっき買ったどろよいを、実幸のとあわせて出した。
レンジがチンッ!と鳴り、実幸は茶碗を取り出して座って、ミユも座る。
実幸はどろよいをプシュッと開けて、ミユもそうした。
「お疲れさま、カンパイ。」
缶のままぶつけた。
唇をつけて、口内でレモンが爽やかに弾けて、冷たさが喉を降りていって、アルコールが鼻から抜ける。
ミユは思わずにやける。
「コレコレェッ!」
ミユのあけすけな態度を実幸は笑った。
「さては酒豪だな?」




