【第3話】過去からの亡霊と、深夜の訪問者
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『レベル1の被害者だと思っていたら、全部私のせいでした ~雨の日に始まる連続殺人と、終わらない死のループ~』第3話です。
ついに明かされるエリカの「真の姿」。そして、前世のトラウマであるストーカー・前島との再会と惨劇。
物語は予測不能なループの真相へと突入していきます!
地下の取調室に響いたのは、人間のものとは思えない断末魔の叫び声だった。
都市騎士団長・ガルスが誇った硬い鎧も、鍛え上げられた肉体も、真の姿を現したエリカの前では紙細工のように無力だった。
一太刀。たったそれだけで、ガルスの喉元は綺麗にかっ飛ばされていた。噴き出す鮮血が、冷たい石造りの壁と床を真っ赤に染め上げる。
「はぁ……はぁ……」
血まみれの錆びた包丁を握りしめ、エリカは荒い息を整えていた。
自分の手や衣服が返り血で汚れている。だが、不思議と嫌悪感は湧かなかった。むしろ、体の芯からドロドロとした熱い快感が満ちていく。
――そうだ。私をバカにした奴らも、私を痛めつけようとした奴らも、みんなこうして私の足元に這いつくばればいい。
足音を聞きつけて取調室の扉を押し開けてきた他の騎士たちも、恐怖に顔を引きつらせた瞬間、エリカの振るう刃の露と消えた。
誰もがレベル1の最弱少女だと侮り、油断し、嘲笑った者たちの末路だった。
すべてを片付けたエリカは、血塗られた雨ガッパを羽織り、誰もいなくなった静まり返ったギルドの裏口から夜の街へと抜け出した。
空からは、相変わらず冷たい雨が容赦なく降り注ぎ、街全体を鉛色の闇に包み込んでいる。
アパートへ戻り、脱衣所の鏡に向き合う。
鏡に映っていたのは、返り血にまみれながらも、どこか陶酔したような狂気の笑みを浮かべる自分の顔だった。
「私……こんなに強かったんだ……」
偽装されていたステータス。本当の自分は、最弱なんかじゃなかった。
この世界で自分を虐げるすべての者を、自分の手で処刑できる「災厄の魔女」。
胸のつかえがすっきりと消え去ったような、歪んだ満足感に浸りながら、エリカはベッドに潜り込んだ。
しかし、その安息は長くは続かなかった。
――深夜二時。
激しい雨音に混じって、アパートのドアを叩く不気味な音が響いた。
トントン、トントン。そして、低く這うような男の声が聞こえる。
「……えりか……おい、エリカ……いるんだろ?」
その声を聞いた瞬間、エリカの全身の血が凍りついた。
異世界に転生する前の、日本での記憶。決して忘れることのできない、あの悪夢のような記憶が脳裏に蘇る。
前島呪鬼。
前世の大学時代、エリカをしつこくつけ回し、拒絶してもストーカー行為を続けた、あの気味の悪い男。
まさか、前島もこの世界に転生していたというのか? いや、それとも――。
「開けろよ、エリカ。俺だよ、ジュキだよ。お前をずっと探してたんだ……」
ドアノブがガチャン、ガチャンと乱暴に回される。
恐怖に震えながらドアスコープを覗くと、そこに映っていたのは、ずぶ濡れの衣服をまとった、あの不気味にニヤニヤと歪んだ前島の顔だった。
「どうして……どうしてここに……!」
「お前が俺を拒絶するから、俺までこんな世界に引きずり込まれたじゃねえか。なあ、仲間だろ? 一緒に……」
次の瞬間、ガキィンと大きな音がして、古い木製のドアが内側から力任せに蹴破られた。
雨に濡れた前島が、狂気に満ちた目を剥き出しにして部屋の中に踏み込んでくる。その手には、剥き出しの鉄パイプが握られていた。
「見つけたぞ、俺の可愛いエリカ……!」
「来るなっ……!」
悲鳴を上げる間もなく、前島は鉄パイプを振り下ろしてきた。
避ける間際、エリカの本能が爆発する。
真のステータスが発動し、エリカの手元に再び錆びた包丁が現れた。
「――邪魔をするな虫けらが」
冷徹な声とともに、エリカは踏み込み、前島の動きを完全に看破した。
鈍い金属音が響き、次の瞬間、前島の身体から大量の血飛沫が天井へと舞い上がった。
ドサリと、汚れた床に崩れ落ちる巨体。
前島は目を剥いたまま痙攣し、やがてぴくりとも動かなくなった。
静まり返った部屋に、雨の音だけが虚しく響く。
エリカは返り血に染まった包丁を手にしたまま、冷たい目でその死体を見下ろしていた。
「……これで、全員いなくなった」
バルト、マグジ、ガルス、そして前島。
自分を苦しめ、傷つけた者たちは、すべて自分の手で排除した。
これで平穏な日々が戻ってくる——そう思った瞬間だった。
ズキン、と頭の芯が激しく痛んだ。
「あ……っ……」
視界が急激に歪み、部屋の風景が砂のように崩れ落ちていく。
自分の足元から広がる血の海が、まるで時間を巻き戻すかのように逆流し、自分の体を飲み込んでいく。
「いや……これは……?」
体が鉛のように重くなり、意識が暗闇の底へと引きずり込まれる。
耳元で、冷たい雨の音だけがクリアに響き渡っていた。
――カチリ。
世界がリセットされるような乾いた音がして、エリカの意識は完全に途切れた。
目を開けると、石造りの天井から湿った空気が降りてきていた。
窓の外は重苦しい鉛色で、太い水滴が厚いガラスを滑り落ちている。
金木恵梨香――エリカ・カナギは枕元から羊皮紙の魔導具を取り出し、震える手で日付を確認した。
水界暦四〇二年、七月十二日。午前六時四十三分。
「……嘘だろ……?」
すべてが元に戻っていた。
殺したはずの男たちも、血まみれの部屋も、何もかもが無かったことになり、時間は再び「最初の日の朝」へと巻き戻されていた。
終わらない死のループ。
自分が犯した罪と狂気は消えず、何度殺そうとも、何度返り血を浴びようとも、この雨の降る朝へと引き戻される。
絶望と狂気が入り混じった笑い声が、狭い部屋の中に静かに漏れ出したのだった。
最後までお読みいただきありがとうございました!
すべての仇を討ったはずなのに、時計の針は残酷にも「最初の日の朝」へと巻き戻される……。
終わらない死のループの正体とは一体——?
第4話『脱衣所の鏡と、暴かれる惨劇の痕跡』




