# 第六話 テントウムシの星は数え間違えると一個増える
九月になっても、まだ暑い日があった。
朝晩は少し涼しくて、その日は霧みたいな細かい雨が降っていた。傘をさすほどでもない、顔がうっすら濡れるくらいの雨。
ベランダの手すりに、テントウムシがいた。赤い背中に、黒い星。姉が指を近づけると、つうっと逃げていった。
「テントウムシの星ってさ」
はい来た、と思う。秋の。
「数え間違えると、一個増えるんだよ」
「増える?」
「うん。ちゃんと数えれば、合ってる。でも、ひとつ飛ばしたり、二回数えたりすると、その間違えたぶん、本当に増えちゃうの。だから、いい加減に数えると、どんどん星が多くなる」
「じゃあ、星がいっぱいのテントウムシは」
「みんなに、いい加減に数えられてきた子。かわいそうでしょ」
わたしは手すりのテントウムシを見た。星は、七つあった。
「これは、七つ」
「ちゃんと数えた?」
「数えた。七つ」
「じゃあ、七つだね」
姉も、のぞきこんだ。それから、ちょっと首をかしげた。
「あれ。八つない?」
「七つだよ」
「そう……かな」
姉は、めずらしく自信なさそうだった。
もう一回、二人で数えた。一、二、三、四、五、六、七。やっぱり七つだった。
「七つだね」
「うん。七つ」
姉はそう言って、納得したような顔をした。けれど、ほんの少しのあいだ、姉の目が、星を探していた。
そこにないものを、見ようとしている目だった。
わたしは、なんだか言えなかった。
「お姉ちゃん、数え間違えたんじゃない?」とか、「八つに見えたの?」とか。聞けば、たぶん、いつもみたいに笑ってごまかしただろう。
霧雨が、少し強くなった。テントウムシが、羽を広げる。星がぜんぶ隠れて、ただの赤い点になった。それがふわふわと、雨の中へ消えた。
「飛んでっちゃった」
「数えられなくなったね、もう」
「うん」
姉は手すりに、濡れた手をついていた。
「ねえ」
「なに」
「もし、わたしが数え間違えたら」
姉がこっちを見た。
「お姉ちゃんも増える?」
変なことを聞いた。姉はテントウムシじゃない。星なんか、ない。
姉は少し笑って、それから言った。
「増えないよ。減りもしない」
そして、小さい声で付け足した。
「ひとりだけ」
霧雨は、夕方まで降っていた。手すりの濡れたところに、わたしは指で、点を七つ並べてみた。
数えなおしたら、ちゃんと七つだった。一つも、増えていなかった。




