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近接戦では剣士タイプの方が強いですよ?(仮)&(真)  作者: 墨人
(仮)第五章 冬休み~アルバイト~
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伸るか反るか

「もげてしまえ!」


 沙織が気合の入りまくった声とともに振り下した大剣を、魔族は両手剣でがっちりと受け止めた。途端に魔族の膝が僅かだけど確かに落ちたところを見ると、大剣はかなりの重量まで加重されているみたいだ。


 それにしても沙織の「もげろ!」系の掛け声はどうにかして欲しい。

 しつこいようだけどあの魔族の胸は私の胸でもある。あまり「もげろもげろ」と言われると、私まで胸を庇って逃げたくなる。


 なんて事を考えながらも、手早く気功スキルを発動させる。

 今の沙織は重量操作だけを使っている状態だから、最初の勢いが無くなれば簡単に押し返されてしまうはずだ。


《気功スキル(焔)発動》

《止水発動:攻撃予測開始》


 ひとまずここまでで良い。


「沙織! 交代!」


 私の声に応じて、沙織は斬り上げ気味の一撃を放つ。これを受けた魔族の足が一瞬だけ宙に浮き、数歩だけ後方にたたらを踏んだ。


「やっぱり効きが悪い! 抵抗されてるみたい!」


 忌々しそうに言いながら後退してきた沙織と位置を入れ替える。

 どうやら魔族本体への重量操作が上手くいかないようだ。


 背後で沙織が呪文詠唱を始めるのを聞きながら、魔族に対して防御的な構えを取る。

 目算では気功スキルノーマルモードで全ステータスが小上昇している状態では、スピードもパワーも魔族には及ばない。無策で打ち合えばたちどころに成美達の後を追う事になる。


 そこで防御だ。

 魔族の両手剣から発生する予測線に対して黒刀を合わせ、斬撃の重みを直接受けないように角度を調節しながら軌道を逸らせていく。

 受けるのでも避けるのでもなく、受け流す。

 切り返されてきた剣を再び受け流し、次の斬撃もまた受け流す。

 力は最小限で良い。太刀筋を滑らかに、流れる水のように相手の攻撃を自らの望む方向へと逸らせていく。結果として相手の剣よりもこちらの刀の方が狭い範囲の動きに収まり、これがスピード差を埋める要因にもなっている。


 これは両親から天音流剣術の一環として習った『流水』という防御技術で、師匠から教えられた技の数々よりも体の深い所に染み込んでいる。止水の攻撃予測と組み合わせれば魔族の連続攻撃にも対処できた。


 そして、そうやって魔族の攻撃に対処していて思った事が二つある。


 第一に、こんな魔族に対して森上君はどうやってベアハッグを成功させたのかという事。

 気功スキルでステータスアップしている私ですら、防御に専念してやっと均衡を保っている状態だ。それほどに魔族の攻勢は厳しい。森上君も後衛職の割には良い反応をするけど、それでどうにかなる相手ではないはず。

 火事場の馬鹿力みたいに、エロりたい一心で一時的に限界を超えたのだろうか?

 システム的には有り得ない現象だけど、森上君ならよもや? とも思える。


 第二が……凄く揺れるということ。

 いやもう揺れているとかいうレベルじゃない。

 魔族が剣を振る度に二つの膨らみが自在に形を変えながら上下左右自由奔放に躍りまくるのである。それを剣や刀が届く位の至近距離で見せつけられるのである。


 ……これは師匠もサラシを勧めたくなるわけだ。


 こうして客観的に見るのは当然初めてだけど、あの暴れっぷりは、確かに見ていて「邪魔だよね?」と思える。

 邪魔云々は置いといても、これはちょっと恥ずかしい。

 師匠の勧めに従って本当に良かった。


「桜、こっち終わったわ! 交代よ!」

「了解!」


 受け流しと同時に後方跳躍で距離を取れば、そこに沙織が走り込んで壁役になってくれる。

 沙織は私が時間を稼いでいる間に『加速』と『筋力増強』を自分にかけていて、明らかに動きが変わっていた。

 加速で動きが速くなるのはもちろんだけど、さっきは簡単に吹き飛ばされた魔族の斬撃も、今はがっちりと盾で受け止めている。筋力増強で腕力が上がったのもあるし、それに伴って重量操作を有効に扱える範囲が広がるらしい。


 そうやって沙織が魔族を引きつけている間に、私もまた加速と筋力増強を使う。

 急ぐべき場面だけど、慌ててはいけない。私の呪文詠唱はまだ拙いから、焦って早口になると失敗してしまう。正確さ優先で二つの術を成功させ、さらに気の刃2を発動させて準備完了。


 沙織と交代しながらの強化スキル使用は、実は事前に打ち合わせていた内容だ。

 本来なら森上君の援護も込みで試合開始直後にやるはずだったのだけど、魔族の初動があまりにも早く、さらに動きも速かったために失敗してあんな結果になった。

 あの初撃にしても、沙織が重量操作に加えて筋力増強を使えていれば受け止められたのにと思う。

 こうなるとFSサーバーで芳蘭と試合をした時には、強化スキルは事前発動ルールだったのが思い出される。試合をより実戦的に捉えるならば、できる準備は接敵前に済ませておくのが当然という考え方からだった。

 普通のMMORPGでも、強力なボスなどとの戦闘に際しては事前に補助魔術を使うのが一般的なようだし、COD2(仮)にも取り入れて欲しいと要望を出すべきだろうか。

 それをするにしても、この試合を無事に乗り切った後のことだけど。


「完了! 私も前に出る!」


 一声掛けてから、沙織の左側をかすめるようにして前進。

 沙織が魔族の剣を盾で受けるタイミングに合わせて最後の距離を詰めつつ体ごと右に一回転、遠心力も乗せてバックハンド気味に水平斬撃。


 攻撃を受けられたタイミングで、しかも沙織の体をブラインドに利用した不意打ちにも関わらず、魔族は物凄い反応で体を引いていた。黒刀の切っ先は僅かに魔族の脇腹を捉えたけど、発生した斬撃エフェクトは色が薄く、表面を浅く切り裂いた程度に見受けられた。


「******!」


 魔族が何かを叫んだけど、聞いたことも無い言葉だったから意味は判らない。

 魔界の住人だから、魔界の言葉を喋る設定なのだろうか。

 語調からすれば怒りを露わにしているというところ。

「よくもっ!」とか「やりやがったな!」とか、そういう罵りの言葉に違いない。


 直後の魔族の一撃は盾で受けた沙織に「うわ!?」と驚きの声を上げさせた。踏ん張った両足が地面を滑り、十センチほどの後退を強いられている。魔術やスキルを使った様子も無いのに魔族のステータスが上がっている。


「どうなってるの!? 急に強くなったわよ!」

「本気になったとか、そういうのでしょ!」


 設定文にあるように、魔族は『全ての能力において人間を大きく上回る』存在だ。素でステータスを比較すれば大人と子供ほどの違いがあるのだろうし、魔族にとって人間は本気を出すような相手ではない。それは手加減とか手心を加えるとかではなく、格下の相手に対する侮りだ。

 ところが浅いとはいえ有効な一撃が入り、魔族は侮りを捨てて本気になった。

 そういう流れなんだと思う。

 種族間の能力差から生まれる心理を表現していて、このAIを組んだ藤田さん達の拘りようを垣間見た気がした。


 そして残念なことが一つ判明した。

 本気モードがここで出たという事は、森上君のベアハッグも成美の鯖折りも、やっぱり攻撃としては無効だったらしい。

 ……あれでダメージが入っていたら、それはそれで驚きだけど。


「*****! *********!」

「何言ってるか判らないっての!」


 魔族の発言に律儀に応じ、沙織は先ほど後退させられた以上の距離を踏み込んだ。

 大剣での突きは弾かれた。

 弾かれた反動で体を捻りつつ盾で殴り付けるがこれは避けられる。


 体勢を崩した沙織をフォローすべく疾風を繰り出すも、魔族は剣を立てて連撃を防いでいた。

 速度優先で威力は低めの技だけど、全部受けてもびくともしない。

 そして反撃を流水で受け流せば、黒刀の柄を握る両手にずっしりとした重みがのしかかって来る。


「これは……手強い!」


 思わず口を突いて出た言葉。

 仮にも魔族の名を持っていて、藤田さん達が最後の最後に出してきた相手だし、手強いのは最初から承知していた。でもまさかここまでとは。

 魔族のスピードとパワーを考えると、私の方は気功スキルを風にも土にもモードチェンジできない。風にするとパワー負けして受け流しを失敗しそうだし、土にすると動きについていけなくなりそうだ。

 さらには沙織の重量操作にまで抵抗しているとなると打てる手がほとんど無い。


 勝負に「たられば」は御法度だけど、成美や森上君が生き残っていればどうにかなったかもしれないのにと思ってしまう。


 そんな弱気を心の片隅に追いやろうとしていたら、不意に魔族が居合抜きにも似た構えを取った。

 さらに両手剣の剣身が炎を吹き上げる。


 そして発生した予測線は私を絶句させる。

 魔族を中心にして前方約百六十度、上下にも広がる予測線が埋め尽くしていた。


「範囲攻撃がくる! 沙織、盾を構えて!」

「わかった! 桜は私の後ろに!」


 沙織が盾を地面にめり込ませて身をかがませ、私はその後ろに駆け込んだ。

 直後にそれが来た。

 推測するなら、それは剣に込めた炎の魔術をスイングと同時に飛ばす技なのだろう。

 私が『山津波・改』で剣圧を飛ばすように。


 沙織の盾がめり込んだ地面をガリガリと削りながら押されるほどの圧力。

 そして直撃はしていないのに左右を通り過ぎる炎の余波だけで剥き出しの肌にダメージが発生する熱量。


 直撃してたら即死に違いない。

 沙織が盾を持っていて本当に良かった。


 でも安心するのはまだ早過ぎた。

 炎の奔流が収まるや否や、沙織の盾が甲高い音を立てて砕け散った。

 破片は地面に落ちるよりも先に光の粒子となって消えていく。


「これは……詰んだかな」

「ううん、まだ詰んでない……かも」


 沙織の戦闘スタイルは盾の存在が前提で、その盾が破壊されては戦闘力は半減する。そう思っての私の言葉を、沙織は盾を失って空いた左手を見ながら否定した。


「この手で、直接あいつの体に触れられれば」

「勝てる?」

「約束はできない。伸るか反るかの賭けみたいなものだし」

「ならその賭けに乗る。沙織が触れられるように隙を作れば良いのね?」

「即決とは恐れ入るわ。失敗しても恨まないでよ」


 沙織の声を背後に聞きながら、投擲針を二本用意して左手に持つ。

 そして『魔術付与:推進』の呪文詠唱を開始した。

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