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近接戦では剣士タイプの方が強いですよ?(仮)&(真)  作者: 墨人
(仮)第五章 冬休み~アルバイト~
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プロレス技と相撲技

 試合開始の合図と同時に魔族が突進してきた。

 普通の走り方なのに速いのは敏捷力のステータスが高いからだろう。


 盾を構えた沙織に駆け寄りざま、水平よりもやや上向きの軌道で横殴りに両手剣を振っていた。

 ズンッ、と重い音がして、沙織の盾の下端が地面にめり込む。

 これは重量操作を軽減から加重に切り替えた事を意味する。


 沙織は相手の攻撃を受ける時、その攻撃が上からの場合は軽減を使い、下からの場合は加重を使う。

 上から下への攻撃はスピードによる増加分を除けば相手の体重と装備品の重さの合計に由来する。どれほど筋力値が高くても、下向きには自分の重さ分しか力を掛けられないからだ。

 対して上向きに力を掛ける場合、地面が支えになるから純粋に筋力値に依存したものになる。


 魔族の斬撃がやや上向きなのを見て取った沙織は盾を加重した。近接タイプの魔族だから筋力値は高いだろうし、軽減状態では簡単に吹き飛ばされてしまう。そう判断して加重に切り替え、盾の重さをもって斬撃を受け止めようとした。

 ながらく重量操作を使ってきた沙織だからこそ、そんな判断を瞬時に行えるのだろう。

 岡目八目と言うけど、当事者でない私が傍から見ていて、その的確な判断は見事だと思った。


 魔族の両手剣が沙織の大盾に激突して火花ならぬダメージエフェクトが散る。

 一拍遅れて盾が浮かされた。魔族のパワーは盾の重量を軽々と上回り、沙織の筋力ではそれを支えきれない。自らの盾の裏側に打撃される形で沙織が飛ばされる。

 正確に、私にぶつかる軌道で。


 魔族は沙織への攻撃に、私への牽制も含めてきていた。

 沙織にぶつかった瞬間、物凄い重みがかかってきて諸共に地面に倒れこんでしまった。

 地面への激突は咄嗟に鋼蓋を発動して軽減したものの、盾の重みで押し潰されそうで身動きすらままならない。


「あ……うう……」


 盾を打ちつけられた沙織は朦朧としているようで、立ち上がるどころか盾の重量を消す事さえできずにいた。


 やばすぎる状況。

 魔族が追撃を掛けてくれば、いきなり二人まとめて退場する羽目になる。

 しかも沙織に覆いかぶさられて視界が塞がれ、魔族の姿を見る事もできない。


 本気で死を覚悟した瞬間だったけど、結果だけを先に言うと私達は死なずに済んだ。

 比較的すぐに回復した沙織が盾の重量を消して立ち直った時、魔族はまだ私たちに到達できていなかった。

 そしてその代わりに、森上君の姿が消えていた。


 森上君は自分の身を犠牲にして、私たちを守ってくれたのだ。


 *********************************


 と、言う事にしておいた方が精神衛生上良いと思う。

 何故かと言えば、沙織に被さられて視界が効かなかったとはいえ、声と音は聞こえていて、なにがあったのかは大凡想像できるからだ。


 ちなみに私が聞いたのは、こんな感じだった。


「森上君! 二人を!」

 と、成美の叫び声。私達の身を案じる痛切な声だった。


 森上君が駆けてくる音と、弓の弦が鳴る音。そして金属音。

 牽制に放った矢が剣で弾かれたらしい。


「俺が相手だ!」

 勇ましい森上君の声。

 最終試験の時もそうだったけど、こういう場面での森上君は非常に男らしい言動になる。

 普段の「っす」口調が無くなるだけで随分印象が変わる。


 次いで破壊音。

 魔族の攻撃で弓を破壊されてしまったのだろう。

 後衛職の彼がそういう事態になってしまったのも、前衛たる私達が不甲斐ないからだと反省した。


「まだだ! ここは通さない!」

 またも勇ましい声。

 最大の武器である弓を失ってもなお戦意を失わない事、私たちを守ろうとしている事に感動した。


 でも次の瞬間、その感動は消え去った。

 森上君のこんな声が聞こえたからだ。


「ベアハッグ! ベアハッグっすよこれは! 攻撃行動っすから! ハラスメント行為じゃないっすから! 自分的には気持ち良いっすけど、あくまで攻撃っす!」


 それほど詳しいわけじゃないけど、ベアハッグというのがプロレスとかで使われる技なのは知っている。ついでに言えば、それがどんな体勢になる技なのかも。

 聞こえる声が少しくぐもっていたから、まず間違いなく彼は魔族の胸の谷間に顔を埋めていたのだと思う。


 ……森上君は誰に対してあんなに力説していたのだろうか。必死に言い訳していたようにも聞こえるけど。


 ところでベアハッグというのが私の想像通りの技だとすれば、それは純粋に腕力頼みの技になるはずで。

 加重を使った沙織を軽々弾き飛ばすような魔族のパワーに、男の子とは言え後衛職の森上君が抗し得るはずも無く。


「うわあっ!」


 という悲鳴が最後に聞こえ、これに前後して沙織が復活。

 私達が立ち直った時には、もう森上君はフィールドからいなくなっており、首を傾げて立ち尽くす魔族だけがいた。仮面で隠れて表情は見えないけど、かなり困惑しているように見受けられる。

 魔族の行動を制御するAIにとっても森上君の行動は奇妙で理解し難いものだったのだろう。


「うう……あれ? 森上君は?」

「……彼は私たちを守る盾になってくれたのよ。彼の犠牲で私達は生かされたの」


 状況を把握できていなかった沙織にはそう言っておく。

 最後に男の子の欲望を爆発させていた森上君だけど、彼の行動によって助かったのも事実。

 エロい欲望に負けて無謀なプロレス技に走った挙句の返り討ちだったなんて事は無いと思いたい。

 思いたいんだけど……無理だった。


 *********************************


 森上君の理解不可能な奇行によってフリーズしていた魔族のAIが復帰。

 再び行動を開始しようとした矢先、その背後に成美が現れた。


 ステルスモードで忍び寄っていた成美の両手には鞭が握られている。

 どういう操り方をしたらそうなるのか一度問い質してみたいところだけど、二本の鞭はコイルのように巻かれて筒状になっていた。


「えい」


 可愛い掛け声とともに、魔族を筒の中に捉える成美。

 スポッ! という感じで綺麗に収まっていた。


「とりゃ!」


 成美が小さく手を動かしただけで、鞭が魔族の体を締め付けていた。

 両腕は体にぴったりと沿うように押し付けられ、両足も膝の辺りまで鞭に巻かれて完全に動きを封じられている。


「うわぁお……これはまた……」


 沙織が魂の抜けそうな声を上げた。

 きつく巻き付いた鞭に上下から挟まれて、魔族の胸が絞り出されるように形を変えている。

 とある嗜好の男性向け写真集とかでありそうな光景だ。

 裸の女性とか縄とかが写っているあれである。


 はっきり言って相当にエロい。


 あくまでAI制御とはいえデータ的には自分の体だから、少しばかり複雑な気分だ。他の人のデータが元になっていたのなら、もっと素直な気持ちで見れたかもしれないのに。


「森上君は良くやったけど、魔族相手に素でベアハッグなんてやっぱり無理があった。私は同じ失敗はしない! こうやって動けないようにしてから……」


 成美は鞭を細かく操りながら魔族の正面に回った。

 とても真剣な顔で、獲物を狙うハンターのような目をしている。

 巻き付いた鞭に添ってダメージのエフェクトを散らす魔族に成美は跳びかかった。


 鞭の柄を握ったままの両手を魔族の背中に回してぐいぐい締め付ける。


「鯖折り! 鯖折り! これは鯖折りだからね! 攻撃してるんだからね! ハラスメントじゃないよ!? 強制ログアウトとかしないでね!」


 凄い既視感に襲われた。

 声だから既視感というのはおかしいけれど、ついさっきの森上君の声と同じに聞こえる。


 だから誰に対して力説しているのかと。

 そう思ったら、成美の言葉からどうも藤田さん達メーカーの人に対してらしいと判った。

 成美は鯖折りだと主張しているけれど、小さな成美では私と同じ身長の魔族に上からのしかかるなんてできない。抱きついて胸に顔を押し付けてぐりぐりしているようにしか見えなくて、それをハラスメント行為と判定されたら強制ログアウトもあると心配してるみたいだ。


 魔族は唯一自由に動く首を振って体をくねらせている。

 どうにか振りほどこうとしているのだろうけど、胸を思い切り責められて身悶えているようにしか見えない。

 実際にやられた体験から成美のぐりぐりは結構効くと知っている私は「うわあ……」としか言えない。


 絵面はハラスメント行為以外の何物でもなかった。


「成美離れなさい! せっかく拘束しているなら私達が攻撃しないと!」

「そ、そうよ! 離れて成美! そんな偽物は放っておきなさい!」


 我に返った沙織の声で私も我に返った。「それは違うでしょ」と沙織の冷静な突っ込みが入ったけど気にしない。

 成美は魔術スキルや気功スキルのような身体能力を強化する類のスキルを持っていない。非物理系スキル完全無効化という破格の性能のユニークスキル『破神』を持っている代償だと言っていた。

 つまり成美が鯖折りと主張している抱き付きは、成美の細腕の筋力だけで行われている。攻撃の効果は(それが真実攻撃なのだとしても)期待できない。

 私や沙織が刀や剣で攻撃した方が良いに決まっている。


 それに成美が他の人の胸に顔を埋めて嬉しそうにしているのを見ているのはなんだか面白くない。


 私と沙織、どちらの言葉に反応したのか、成美は魔族の胸から顔を上げた。


「うーん、もうちょっと堪能したいしたいんだけどー」


 やっぱり攻撃しているつもりは無かったみたいだ。

 成美の視線が私に向いた。


「あ……」


 成美の表情が曇った。

 はしゃいで満面の笑顔だったのが、いきなり醒めたように。


「うん、そうだね。これくらいにして……ええ!?」


 成美が悲鳴を上げた。魔族を縛めていた鞭がバラバラに千切れたのだ。

 今まで鞭に添って発生していたダメージエフェクト。鞭が魔族に対して締め付けのダメージを与えていると考えていたけど、真実は逆だったようだ。振り解こうともがく魔族の圧倒的なパワーが鞭の耐久値を削っていて、今、限界を迎えて武器破壊に至った。


 成美とってそれは有り得ない事態だったのか、「ええ?」の形に口を開けたままポカンとしている。魔族が剣を閃かせ、成美はそれをまともに受けてしまった。


「成美!」


 思わず伸ばした手の先で、成美の体が光の粒子になって消えていった。


「森上君に続いて成美まで……成美は自業自得っぽいけど、いきなり二人もやられるなんて……さすが魔族!」


 成美の退場にかえって闘志を燃え立たせる沙織。

 実際には森上君もこの上なく自業自得な退場だったのだけど、言わぬが花だ。


 仲間二人が相次いで魔族の胸の餌食になってしまった。

 あの胸が私自身の胸であることを考えれば、それだけの魅力があるのかとも考えてしまうけど、今の状況は洒落にならない。冗談みたいな展開とは言え、いきなりこちらの戦力を半減させた魔力の強さは計り知れない。


 こうなると魔族の胸に精神的な影響を受けない沙織の存在がこの上も無く頼もしかった。

 その沙織が私を見る目には、彼女も私に対して同じように思っている色があった。


「いくら胸好きの桜でも自分の体となれば欲情もしないわよね?」


 前言撤回。

 沙織はどうにも失敬な事を思っていたようだ。


「とにかく二人でやるしかないわ! いくわよ!」


 気合の入った声で魔族に向かっていく沙織。

 剣を振り上げながら叫ぶ。


「大きいからって見せびらかすんじゃない! もげろ! もげてしまえ!」


 さらに前言撤回。

 成美達とは真逆の方向だけど、沙織も精神的な影響を受けていたみたいだ。

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