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近接戦では剣士タイプの方が強いですよ?(仮)&(真)  作者: 墨人
(仮)第五章 冬休み~アルバイト~
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猫印

 そんなわけでやって来た温泉宿。

 事前に画像で見ていたわけだけど、実際に見てみると多少古いながらも雰囲気のある宿だった。

 少し標高が高いせいで地元では降っていなかった雪もこちらでは結構積もっている。


「おー! 良い感じだねー!」

「霧嶋、はしゃいでないでこっち来い。メーカーの人が出迎えてくれてるだろ」

「うんうん、霧嶋君はいつも元気みたいだね。良い事だよ」


 バスから降りるなり走りだそうとした成美を苦々しげに呼び止める後城先生。

 微笑ましげに見守っているのは学園長だ。

 どうも学園長が成美を見る目が怪しい気がする。

 もしかしてロリコンの気があるのだろうか?

 十日間同じ宿に泊まるのだし、これは注意が必要かもしれない。


「むむ? 天音君、なにか失礼な事を考えてはいないかね?」

「いいえ。私はただ成美は可愛いなあと思っていただけです」


 釈然としない様子ながら「ふむ」と言っている学園長はスルー、成美を捕まえて宿のロビーへと。

 そこには宿の女将さんやら仲居さん、メーカーの担当の人達が待っていた。


「宇美月学園から三十四人です。よろしくお願いします」

「遠い所をありがとうございます。さっそく部屋割とこの後の予定を……」


 後城先生と学園長が、女将さんやメーカーの人と挨拶している。


 結局、宇美月学園からの参加者は三十四人になっている。

 内訳は教師四人と生徒三十人。

 あの日集合した生徒の中にも、やはり家の都合で参加できない人達はいた。

 委員長と水無瀬君も不参加になっている。

 教師四人は学園長と後城先生、他にSコースの選択授業で良く見る先生と、もう一人ほとんど見た事の無い先生がいた。そちらはMコース担当の先生だと沙織が教えてくれた。


 学園長たちは引率兼自分達もテストに参加するそうだ。

 私立校の教師だからアルバイトも問題無いはずだけど、今回はほぼボランティアらしい。「ほぼ」というのが何かありそうだけど、後城先生は「こんな宿にタダで泊まれるんだからそれで十分」と言っていたからそういうことなのかも知れない。実際年末年始に十日間も温泉宿に泊まったら、普通ならかなりのお金が掛かるはずで、それが無料になるだけでも大きいだろう。


「よーし、部屋の鍵配るぞ。各部屋代表が取りに来い。部屋に荷物置いたら十二時に食堂に集合だ」


 学園長はメーカーの人と姿を消し、後城先生が女将さんと一緒に残っている。女将さんは大きなキーホルダーが付いた鍵を幾つも持っている。


 部屋割は事前に決まっている。

 私、成美、沙織の三人は同部屋になるように申請済みで、代表として私が鍵を受け取りに行った。

 上品で美人な女将さんから鍵を受け取る。


 仲居さんの後ろに付いてぞろぞろと歩いて行く。

 キーホルダーの部屋番号を確認して割り当ての部屋に入ると、まず目につくのは畳敷きの部屋の真ん中に鎮座している冬季の神器と言うべき炬燵。正面には窓があって、その手前には二畳くらいの板敷きのスペースがある。小さなテーブルとイスが二脚置いてあって、今は開け放たれているけど障子戸で仕切れるようになっていた。


 成美は炬燵に置いてあるお菓子に直行。

 沙織はお菓子をスルーして窓から外を覗いている。

 私もこういう場合はまず窓の外を見るタイプなので沙織に並んで外を見る。


「裏は川か。雰囲気あるわね」

「あ、本当だ」


 窓から見えるのは宿の裏手側だ。

 疎らな木々の向こう、少し低い所に川が見える。

 雪景色の中、川面からは白い湯気が立ち昇っていた。


「温泉が川に流れ込んでるのかな?」

「あの辺が露天風呂みたいだからそうなんじゃない」


 上流方向に竹作りらしい塀で囲まれた場所があって盛大に湯気が立ち上っている。

 露天風呂、今夜にでも早速行ってみよう。


 *********************************


 昼食を美味しく頂いて一旦解散。

 午後一時に再度食堂に集合した。


 今回ここでテストに参加するのは私たちだけじゃない。

 他にもグループや個人が参加していて全部で二百人くらいいる。

 私たち以外はみんな大人だけど、いろんな人達がいた。


 髪を短く刈り込んだ厳つい男性の集団とか、服装も年代も性別もばらばらだけど妙に纏まりのある集団とか。

 個人参加らしい人達も含めて全員に共通するのは、総じて体を動かすのが得意そうに見える事だけど、これは当然と言えるだろう。CODリアルモードのプレイヤーは後衛職の魔術タイプであろうとも、ある程度以上は現実の肉体も鍛えているものだ。


 待つほどもなくメーカーの人達がやって来た。

 いかにも技術者然とした男の人達に混じって見知った顔を見つけた。

 黒い房が混じった焦げ茶色の髪と閉じているようにも言える糸目が特徴的な二十代半ばくらいに見える女性。

 ミア・フィスティスだ。

 一人だけ浴衣と丹前を着ていて周囲から浮いている。

 さすが自営業と言う名の自由業を自称するだけある。


 私に気付いたミアが笑顔で手を振って来た。

 これで判ったのはミアのあの目は本当に見えているという事。

 どう見ても瞑っているようにしか見えないのだけど。


 メーカー陣から一人が進み出て正面へ、他の人達は脇の壁際に並んでいる。


「改めて御挨拶を。私、今回責任者を務めます藤田と申します。皆さん師走の忙しい時期に遠い所まで足を運んでいただき誠にありがとうございます」


 藤田さんは三十代半ばくらいの男性。

 精悍な雰囲気を漂わせていて、メーカー側よりもテスター側にいた方が似合いそうな感じだ。


 藤田さんは試験の目的や日程とかは既知の事としてさらりとした説明に止めて、誰もが知りたいと思っていた試験内容の詳細についてを話した。


 それぞれのモンスターでレベル1から10まで戦闘して、その経過や結果を記録していく。

 調整はそれらのデータを集計して行うので、テスターの「強過ぎる」や「弱過ぎる」といった感想は不必要である。

 モンスターの造形的に不自然な動作があったら報告して欲しい。


 要約すればこんなところ。

 説明を終えた藤田さんは質問が無い事を確認すると壁際に控えているメーカー陣に向かって頷きを送った。それに応じて進み出てきたのは意外なことにミアだった。


 みんな場違いなミアの存在は気になっていたみたいで、興味津々な視線が集中する。

 藤田さんの横に立ったミアはぺこりと一礼した。


「こちらは武器防具その他の製作をしているミア・フィスティスさんです。ここにいる皆さんの中には彼女が造った武器なり防具なりを使っている方もいらっしゃると思いますが……」


 藤田さんの言葉尻が聞こえなくなるくらいのどよめきが生まれた。

 刈り込みの厳つい男性集団からも「あ、俺持ってる!」「マジか!? いつの間に……」「猫印武器は憧れだよなー」とか聞こえてくる。強面が多いけど意外とミーハーな反応だ。

 と言うかミアが結構な有名人なのに驚かされる。


「えー、この試験期間限定になりますが、希望する方にはフィスティスさんの方から武器データのレンタルができます。休憩時間等に相談してください」

「ある程度ならオーダーメイドも受け付けるよ。ボクも試験に参加するから注文多過ぎたら捌ききれないけど」


 ミアが言い足すと再び騒がしくなる。

 頻繁に聞こえてくるのは「猫印」という単語で、先生達もなにやら浮ついた感じで話している。

 訳も判らず取り残されているのは私たち学生グループだった。



 説明会はそれで終了、試験は宴会場で行われる。

 男性は『桐の間』に、女性は『藤の間』とのことで移動しようとしたら、後城先生がひそひそと話し掛けてきた。


「なあ、あのミア・フィスティスだが、学園祭の時に芳蘭師範と一緒にいなかったか?」

「いましたね。師匠と親しいみたいです。ところでなんだかミアが有名人みたいなんですが……猫印ってなんなんでしょう?」

「名前で呼ぶ間柄か!? それで知らんのは……無理もないのか? まあ猫印ってのはミア・フィスティスがデザイン、作成した武器防具に猫のマークが付いていることからの呼び名だ。お前らにはまだ縁がないだろうが、総じて高性能で人気がある。取り引きされる時には結構な額が動くな」

「猫のマークですか? そんなのあったかな……」


 夏以来愛用している黒刀はミアから貰った物で、学園祭であった時には確かに「私が作った」と言っていた。でも猫のマークなんて見た覚えがない。

 そう言えばその時だけ一人称が『私』だったけど、何か使い分けしてるんだろうか。

 それと芳蘭がミアを「バカ猫」と呼んでいたのもこれが関係しているみたいだ。


「は? お前猫印持ってるのか?」

「普段使っている黒刀がミアから貰ったものなんですけど、ただ猫のマークは無かったような」

「マークはちゃんと入れてあるよ」


 不意に当のミア本人が会話に入って来た。

 あまりに自然な入り方で、後城先生が一瞬遅れて「うお」と仰け反る。


「そんなに驚かないでよ。ええと桜の担任で芳蘭に挑戦した怖いもの知らずの先生?」

「……なんですか、その説明的な憶え方は。俺の名は後城です」


 憮然として返す先生。

 芳蘭には完膚なきまでに敗北しているので、怖いもの知らずと言われても反論できないでいる。


「にゃははは。そうそう後城先生。シシルちゃんが頼りになる先生だって褒めてたけど何したの?」

「天音に格闘術の指導をしただけです。それより天音の刀が猫印と言うのは?」

「うん。シシルちゃんからあんまり強いのはやめてって言われてね。ボクとしてはちょっと物足りないレベルのを贈ることになっちゃったんだ。だからマークも目立たない場所にこっそりね」


 ちなみに私がミアから貰ったのは『黒刀+2』です。

 ここは重要なので繰り返すと『+2』が付いています。


 後ろに付く+表記は1で「少し品質の良い物」になり、2では文句なく「高品質」だ。

 切れ味も耐久力も通常の品より格段上の物なんだけど……。

 ミアにとっては「物足りないレベル」の一品らしい。


 彼女が満足するレベルってどんなだろう?

 なんだかチート級の武器が出てきそうで怖い。


 その後移動の途中で成美と沙織をミアに紹介したところ、成美はすぐにミアと仲良しになっていた。

 二人は妙に波長が合うらしい。

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