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近接戦では剣士タイプの方が強いですよ?(仮)&(真)  作者: 墨人
(仮)第三章 学園祭~クラス対抗戦~
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三分間

「森上君はここで仕留めておきたいけど……屋内戦は避けたいわね」


 特殊教室棟の中には森上君がいる。委員長の攻撃で手傷を負っているかも知れず、そうでなくてもこちらは二人になった。バトルロイヤルだし接敵した相手全部を倒さなければならないわけじゃないけど、できることなら森上君には早めに退場願いたい。

 そう思ってしまうほどに彼は手強かった。


 だからと言ってこのまま特殊教室棟に突入するのも躊躇われる。

 動きの制限される屋内で森上君の射撃を避けるのは難しいし、例の推進力付与の射撃を混ぜられると斬り払いに専念するのも危険だ。


「1-Cはもう一人の選手もまだ残ってる。合流したいはずだし、動くと思うけど」

「どれどれ……水無瀬悠樹、魔術タイプか。どんなスタイルだか知ってる?」

「校内のCODでは見た覚えがないかな。あまり試合とかしないみたいね」


 委員長の言った事に、なんだか嫌な予感がしてきた。

 普段CODをやっていないのに、この大会で代表に選ばれるほどの実力を持っていて、しかもそれをクラスメイトに認められている。だとすれば何かしら特殊なスキルを持っているのかもしれない。

 これは合流を阻止したいところだけど、この特殊教室棟は内階段も出入り口も二カ所ずつある。外階段も使えなくなったわけではないし、しかも隣接した建物への連絡通路があって通路の屋上部分も二階同士をつなぐ通路になっている。

 移動ルートが幾つもあって特定できず、下手に突入しても入れ違いになる可能性が高い。

 そもそも森上君が特殊教室棟に陣取ったのも、そういった退路の確保を考えての事だろう。


 どうしたものか思案していたら、メッセージ着信の表示が出た。


《姫様より音声通信です》


『姫』は沙織のアバターネームだ。

 名字の姫木から一文字取っての命名だけど、システムメッセージで様付けになるとなんだか面白い。倫理コード違反で強制ログアウトされていたけど、再度ログインしてきたらしい。


「セクハラメイド、聞こえてる?」

「聞こえてるけど、セクハラメイドってなによ?」

「……まだとぼけるか。思いっきりハラスメント警告されてたくせに。まあいいわ、三条さんとも話せるようにオープンにしてちょうだい」

「ん、と……はい、いいよ」


 通常の音声通信は相手方の声が直接頭の中に聞こえるような感じで、すぐそばにいる第三者には通話相手の声は聞こえない仕様になっている。そのせいで通信中は独り言を言っているようにしか見えないという弊害があった。

 オープン設定にするとスピーカーフォン状態になるので委員長も会話に参加できるようになる。


「まずあなた達が狙ってるだろう森上君だけど、もうそこにはいないわよ」

「え? なんでそんなことが……って、沙織、今どこにいるの?」

「闘技場に決まってるでしょ」

「待って姫木さん、これってちょっとまずいんじゃないの?」


 委員長が少し慌てている。

 闘技場の観戦用スクリーンには戦闘時以外でも各選手の動向が分割表示される。沙織がその場にいるのなら森上君の行動も判るだろうけど、それを私たちに伝えてしまって良いのだろうか。


「構わないみたいよ。実際、死に戻りした選手には先生からナビしてもいいって説明があったみたいだし」

「みたいって、姫木さんはその説明を受けてないの?」


 ああ、委員長が余計なことを聞いてしまった。


「私は倫理コード違反で強制ログアウトだったから」

「倫理コード違反!?」

「何があったかはそこにいるセクハラメイドに聞いて。私の口からは説明したくない」


 沙織が強制ログアウトになった原因の一端は確かに私にもあるけど、セクハラメイド呼ばわりは酷い。ハラスメント警告を受けたのだって沙織を助けようとした結果なのだし。

 だから委員長、そんなじっとりとした目で私を見ないで欲しい。


「本来はクラス代表の一人が脱落したら、残ったもう一人のサポートに回るってことらしいけど、私の相方は三条さんに撃破されてるから2-Dは全滅。せっかくフレンド登録してるし、桜達のサポートにつくわ」


 ちらりと委員長を見やると、気まずそうに目を逸らしていた。


――移動中に二人ほど倒してきたけど、そのどっちかだったみたい。


 通信に拾われないくらいの小さな声で言う。

 2-Dの二人とも2-Bの私達の手で敗退したことになり、それでもこうして助けてくれる沙織には感謝しなくては。


「ありがとう沙織。持つべきものは同志だわ。お礼にこのメイド服のデータ、成美に頼んで沙織用も作ってもらうから」

「……遠慮しとく」


 沙織の返答には間があった。拒絶の言葉を口にしているけど、内心では欲しがっているに違いない。これはぜひとも成美に頑張ってもらおう。沙織には内緒で私のよりもエロいぱんつで。


「姫木さん、天音さんが良からぬことを企んでいるみたい。気を付けてね」

「って、委員長、なんで!?」

「……どうせエロい細工したデータを、とか考えてたんでしょ」

「沙織まで!? 怖い! 二人とも怖いよ! なんで私が考えてることが判るの!?」


「「否定はしないんだ……」」


 二人に揃って溜め息を吐かれてしまった。これは形勢不利だ。話の流れを変えよう。


「そう言えば森上君のクラスのもう一人、水無瀬君もまだ健在でしょ。やっぱり他のクラスに協力者がいるの?」

「見事なまでに話ぶったぎるわね。まあいいけど。そうよ、一年の他のクラスがサポートに付いてるわ」


 全体の動きを把握できるナビが付くとなると、この先の展開は当初予想していたのとは大きく変わってくる。単純な遭遇戦は起こり難くなるだろう。


「とりあえず森上君だけど、かなり重傷っぽい。左腕が動かないくらいの判定出てるみたいだから弓はもう使えないんじゃないかしら。今は学食棟の方に向かって……」


 不意に通信が切れ《ゲームマスター様から音声通信です》と表示された。

 ゲームマスターと言えば運営サイド、この場で言うなら実行委員か先生方の誰かだろうか。


「あー、後城だ。三条、天音、聞こえているか?」


 聞こえてきたのは後城先生の声だった。


「聞こえてます。でもどうしたんですか? 沙……姫木さんとの通信がいきなり切れたんですけど」

「時間制限だ。全中継を許可してしまうと大会が盛り上がらないんでな。一度の通信は三分まで、再度使用できるまでは十五分かかる。他の奴らには説明したんだが、どうも再ログインしてきた姫木だけは説明が漏れていたようだな。俺からは以上だ」


 通信はまたもやぷつりと切れた。


「沙織ぃ……」


 頭を抱えたくなった。

 たった三分間という貴重な通信時間を、おバカな会話で浪費してしまった。ぱんつがどうとか言っている場合じゃなかったのに。


 む? なんだか委員長の視線がさらに痛い感じになっている。

 会話が横道に逸れまくっていたのは確かだけど。


「ま、まあ森上君の動きとダメージが判っただけでも収穫でしょ。弓が引けなくなってるなら取りあえず放置で良いんじゃない?」

「……いえ、やっぱり早めに潰しましょ。思い出したんだけど、水無瀬君てあの『水無瀬総合病院』の子じゃないかしら」

「病院? って、まさか……」


 水無瀬総合病院はこの辺りで最も大きな病院だった。私も引っ越しに際して周辺の主要な施設はチェックしていたから、名前くらいは知っていた。


「病院の子だから……ってのは安直かもしれないけど」

「ううん、それ有り得ると思う。それなら普段CODやってない理由も、それなのに代表に選ばれた理由も判るし」


 私達は頷き合い、沙織の情報に従がって学食棟に急いだ。


 *******************************


 学食棟は、現実世界で訪れたばかりの場所だ。一階の軽食スペースを間借りして2-Bのメイド喫茶が開店している。

 もちろん仮想世界のここにメイド喫茶は無い。その事に多少の違和感を感じながら内部の様子を窺う。


「先輩方! 良くここが判ったっすね!」


 またもや、森上君が自分から姿を現した。フロア内の所々にある柱の傍らに立っている。

 左腕を覆う防具には部分破損が見て取れるけど、普通に弓を持っていて、負傷している様子は無い。


「これはやっぱり……」


 委員長が舌打ち混じりに言う。私も同じ気持ちだった。


「水無瀬君は回復術士ヒーラーか」

「そうっす! 水無瀬の回復術は凄いっすよ!」


 自慢げに森上君。

 森上君が自慢げなのは意味が判らないけど、弓が持てないほどの負傷をこの短時間で完全回復させたとなれば、それは確かに凄い回復術だ。


「森上君、あんまり大げさに言わないでよ。恥ずかしいじゃないか」


 新たな声が聞こえてそちらを見てみると、調理場との仕切りのカウンターから小柄な少年が頭だけ出している。彼が水無瀬君だろう。隠れているのは直接の戦闘能力を持たない回復職だからか。


 病院の子だと言うので心配したのが現実になってしまった。

 本家のMMORPGなら回復術士も珍しくないだろうけど、CODではほとんど見ない。一対一の対戦が主流だから回復専門のスキル構成だとどうにもしようが無いからだ。

 回復術士が本領を発揮するのはパーティー戦。

 今この時のように、戦闘職が負傷したらすかさず回復させて戦線に復帰させるという役割。

 委員長が与えたダメージはチャラになってしまった。


「ところでまた出てきたのは……今度は委員長のメイド服姿を正面から見たかったからなのかな?」

「半分はそうっす!」

「え゛……」


 きっぱりと答えた森上君に委員長が引いている。


「残りの半分は、名だたるお二人に自分の弓術がどこまで通用するか試してみたいからっす!」


 言って、森上君は素早く矢を番える。


「委員長は柱まで下がって! 曲げてくるかもしれないから気を付けてね!」

「判った! 援護するわ!」


 私と森上君が睨みあい、委員長は柱の陰、水無瀬君はカウンターの中。

 椅子やテーブルが少し邪魔だけど、今回は高低差も無い。距離さえ詰めれば刀は届く。


 こうして2-Bと1-Cの戦いが始まった。

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