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近接戦では剣士タイプの方が強いですよ?(仮)&(真)  作者: 墨人
(仮)第三章 学園祭~クラス対抗戦~
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空を駆ける

 とにかく急いでここから出よう。

 闘技場の巨大スクリーンは、戦闘時以外でも分割状態で各選手の様子が映し出されている。男子トイレでもたもたしていたら、後で何を言われるか判ったものじゃない。

 トイレを出て周囲を見回す。


「職員棟……の二階か」


 狭い間隔で開き戸が並ぶ廊下は、転入初日に後城先生を訪れたから見覚えがあった。窓の外の景色で階数も見当がつく。

 現在位置の確認ができた所でシステムメニューを開き、音声通信機能を選択した。

 音声通信は本家のMMORPGに由来する機能で、フレンド登録した相手となら離れた場所からでも会話ができる。もちろん委員長とも事前に相互登録してあった。

 開いたフレンドリストは当然ながらほとんど埋まっていない。宇美月サーバーが本家のシステムに変更になったから使える機能ではあるけど、CODをプレイする分には全く必要ない機能でもある。今回必要に迫られて委員長を登録した以外では、成美と沙織を洒落で登録しただけだった。


 と言うわけでフレンドリストに並んでいるのは『楓』『姫』『タマ』の三名のみ。楓が成美、姫が沙織、そしてタマが委員長だ。

 タマを選択して通信回線を開く。


「タマちゃーん、今大丈夫?」

「タマちゃんて言うな!」


 間髪いれずに繋がり、凄い勢いで委員長が言葉を返してくる。

 どうも委員長はタマちゃんと呼ばれるのが嫌みたいだ。そんなに嫌ならタマなんてアバターネーム付けなければ良いのにと思う。私は名前そのままの『sakura』だし、成美はミドルネームで『楓』、沙織は名字から一字とって『姫』なんだし、委員長も『tamaki』とでもしておけば良かったのだ。

 どうして『タマ』にしたのかは知らないけど、現状そうならそう呼ぶしかない。


「でもタマさんとか言い難いし、タマって呼び捨てじゃ猫みたいだし」

「いつも通り委員長で良いでしょ!? ていうか、この間登録した時にもこれやったわよね!?」

「ごめん、どうもリストで名前見ると言ってみたくなっちゃうのよね。で、位置確認ね。こっちは職員棟の二階で付近に敵影無し」

「……裏門近くの林の中。周りに他の選手はいないわ」


 お互いに現在位置を確認しあう。宇美月学園の敷地は広い。三十人の選手がばらばらにテレポートしたとなれば、スタート直後にいきなり接敵はないだろうと予想していた。その予想は当たっていたようで、私も委員長も周囲に人影が無い事を確認していた。

 まあそうでもなければ悠長に通信などしていられないのだけど。


「天音さんが職員棟にいるなら私がそっちに向かうわ」

「了解。適当に動き回ってるから近くまできたら連絡してね」


 簡単に打ち合わせて通信を切る。

 これは予め取り決めておいたことだった。

 今回の大会は基本的に個人戦だけど、個人の順位で与えれるポイントからクラスのランキングも出される。そうなれば同じクラスの選手同士共闘するのが得策だ。今頃他のクラスの選手達も合流するために動き始めているだろう。

 ただし私達は合流を最優先するべきではないということで意見が一致していた。

 他のクラスが合流を果たす前、一人でいる時にできるだけ撃破してしまった方が後の展開が楽になるからだ。だから私は近辺をうろついて、委員長はこちらに移動しながら、目に付いた選手には積極的に仕掛けることにしていた。

 こういう発想になるのは、一対一なら大抵の相手には負けないだろうと、お互いを評価しているからでもある。他のクラスに聞かれたら慢心していると思われるかも知れないけど、あの委員長があっさり負けるシーンなんてどうしても想像できない。


 そんなわけで気功スキルと止水を発動させて職員棟を出る。

 お互いが見えている状態からスタートする闘技場とは違い、実際の地形を再現したフィールドでは相手を先に発見した方が圧倒的に有利になる。実戦ともなれば不意打ちもありだ。気付かれる前に先制攻撃できればノーリスクで倒すことだってできる。

 そしてそれは逆も言えるわけだけど、止水を発動しておけば最悪でも攻撃を受ける直前には察知できるから安心だ。


 一応目立たないように建物の外周に沿って移動することにした。

 考えてみれば闘技場でしか戦ったことが無く、こういうフィールドでの立ち回り方が全く判らない。FPS系のゲームでもやっておけば良かったか。


 用心深く移動を続けるていたら、誰にも出会わないまま職員棟を一周してしまった。


《タマ様より音声通信です》


「委員長、もう着い……」

「天音さん、三号校舎って見える?」


 通信が繋がると同時に前置きもなく委員長が話し出した。明らかに声が慌てている。

 三号校舎?

 学園内の建物配置を思い出す。今いる場所からでは見えないけど、少し移動すれば見えそうだ。

 小走りに移動しながら「どうしたの?」と尋ねると、委員長の返事はどうにも歯切れが悪い。


「えっと、黒間先輩を見つけたんだけど……逃げられて」

「逃げられたって……逃げられるものなの?」


 黒間先輩は魔術タイプだ。私達剣士タイプのような肉体派と違って単純に走ったりする能力は高くない。それを言ったら委員長もそうなのだけど、魔術タイプ同士であればそう簡単に逃げることもできないはずだ。走って逃げれば無防備な背中に魔術攻撃を受けることになる。


「っと、三号校舎見えたけど?」

「そしたら上、校舎の上見て!」

「上? うわ、なにあれ!?」


 これはびっくり。

 校舎上空を移動している人がいた。遠くて細部までは見えないけど、宇美月学園の制服を着た女子だというのは判別できる。そして参加選手の中で制服を着ているのは黒間先輩だけだ。

 空中の黒間先輩は短距離走のように大きく腕を振って走っている。

 これは逃げられても仕方ない。空に逃げられたら委員長も追いかけられないだろうし。

 校舎を越えた委員長は高度を下げていき、私の視界からは見えなくなった。 


「飛行魔術なのかな?」

「見えたのね? 飛んでるようには見えなかったけど……オリジナル呪文かもしれないわね」


 確かに飛行という語感からはかけ離れた姿だった。空中走行とでも言うべきか。

 いずれにせよ防御魔術しか使えないという認識は改めておいた方が良さそうだ。


 と、背中にひやりとした感覚が生じた。


「あ、ごめん。切る」


 通信を切断しながら横っ跳び。直後に炎の矢が飛んできて職員棟の外壁に突き刺さった。

 振り返ると建物の角の辺りに杖を構えた魔術タイプの選手がいた。名前は憶えていないけど確か一年生のはずだ。


 止水のお陰で事無きを得たけど、黒間先輩に気を取られて周囲への警戒を怠ってしまった。

 これは師匠に叱られるかも。


 一年生はもう次の術の詠唱を始めている。

 不意打ちを避けられても慌てないのは見上げたものだけど、彼は私の回避力を知らないのだろうか。ここは一度退いて、再度不意打ちするほうが賢明だと思う。


 気の刃を発動しつつ神脚で加速したダッシュ。まだ距離があるから先に相手の呪文が完成するだろうけど、彼に委員長並みの攻撃ができるとは思えない。避けるなり斬り払うなりすれば次の術を使う前に刀の間合いに入れる。


 杖から伸びてきた予測線を避けるべく両足に力を込め……ようとしたら、一年生が消えた。横合いから飛んできた物体に攫われて、もろともに向かいの建物の壁にめり込んでいた。

 光の粒子が飛び散るエフェクトとともに一年生のアバターが消滅する。


 人一人を圧し潰した物体が騒々しい音を立てて地面に落ちる。

 それは分厚い防火扉だった。建物内の廊下を全面的に遮断できる大きくて分厚い金属製の扉。

 こんな物が猛スピードで直撃すれば即死ダメージ間違いなしだ。


 ――やっぱり、素直な性格じゃなかったか。


 こんなことをできる相手には一人しか心当たりが無い。

 警戒を解かずにじっと待つ。向こうもさっきの一年生が誰かと交戦中だったと判るはずだから、交戦相手がここにいるのも承知している。


 さてどう来るか。用心しつつ建物の角から様子を窺うと、そこに予想通りの相手がいた。


 姫木沙織。

 金属パーツで補強した皮ツナギを着て、大きな盾と大剣を装備。そこまでは私が知っている沙織のいつもの装備だったけど、今はもう一つ持ち物が増えていた。

 沙織は私を認めると、露骨に嫌そうな顔になった。


「げっ! 桜じゃないの!」


 人の顔を見るなり「げっ!」は失礼すぎると思う。


「こんな序盤であなたに出会っちゃうとは、我ながら運が無い」

「運がどうこうより、私は沙織のそれが気になるんだけど?」

「ああ、これ? さっきそこで拾ったのよ」


 沙織は大剣を掲げて、そこに突き刺してある物を軽く振ってみせた。


「やるんじゃないかと思っていたけど、本当にやってるところを見ると引くわね」


 違和感と言うか非現実的と言うか……。

 今の沙織の状態をシステム的に表現するとこうなる。


《登録装備確認....大剣 皮ツナギ 自動販売機》


 沙織が大剣で刺して持っているのは、大きな自動販売機だった。

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