表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
近接戦では剣士タイプの方が強いですよ?(仮)&(真)  作者: 墨人
(仮)第三章 学園祭~クラス対抗戦~
38/395

vs 沙織

 普段の仮想宇美月学園では校舎を始めとして地面や樹木など全てがシステム的に破壊不可能になっている。普通の土に見えるグラウンドも一ミリたりとも掘れないし、街路樹の小枝一本を折り取る事さえできない。極端な話、道端に落ちている小石一つすら動かせない。移動=状態の変化、は破壊と同義になるからだ。


 その制限が解除されると聞いた時、沙織ならやるんじゃないかと思ったのがこれだった。

 マップオブジェクトの武器化。

 武器化と言ってしまうと大それたことのように聞こえるけど、要はそこらにある物を拾って投げるという、それだけの事だ。が、これに沙織が得意としてる『ウェイトコントロール』が加わると恐ろしい事になる。

 ウェイトコントロールは名前の通り対象となる物体の重量をコントロールする魔術だ。

 沙織が普段から装備している大剣と大盾は、本来なら重量ルールのペナルティを発生させてしまうほどの重さだ。そこをウェイトコントールで重量を調節して装備し、攻撃が当たる瞬間だけ重さを戻して破壊力を増すような使い方をしている。

 つまり沙織の戦闘時間は、そのままウェイトコントロールを使い続けた時間になる。魔術は使えば使うほど熟練していくから、この術の熟練度は相当に高くなっているはずだ。


 結果、単に物を投げるという行為が即死級のダメージを生み出す攻撃手段となる。

 一年生を圧し潰した防火扉のように。

 大剣に刺して片手で持っている自販機にしても一トン近い重さがあるはずで、そんな物で殴られれば十分一撃死もあり得るだろう。



「桜、あなた裏切ったわね。同志だと思っていたけど私の勘違いだったのかしら?」

「はあ? 裏切ったって何の事よ?」


 いきなりの裏切り者発言に訳も分からず問い返していた。同志と言うからには身長がらみの話になるはずだけど、だとすれば裏切りようが無い。身長がいきなり縮むなんて有り得ないんだから。


「判らないの? それよ、それ」


 そう言って自販機付きの大剣を突き付けてくる。


「どうせ似合わないだろうから着れないねなんてお互いに認め合った仲のはずなのに……それなのに」

「いやいや、ちょっと待ってよ。これは成り行きで着ることになっただけよ」


 成美やクラスの女子に押し切られて着ているだけだけど、そういった事情をこの場で言うのは危険だった。沙織と相対しているこの状況を交戦状態と判断されていれば、このやりとりも闘技場のスクリーンや現実世界のモニターに中継されている可能性がある。本当は着たくなかったような発言を成美達に聞かれるのは避けたい。


「……どうせ成美あたりが強引に押したんでしょうけどね」


 さすが沙織。成美の行動力を判っている。

 あれ? でもだったらなんで裏切り者?


「なんだか似合ってるのがムカつく」

「へ? そ、そう? 似合ってる……かな?」

「そこで照れない! ちょっと可愛いとか思っちゃうじゃないの!」


 照れるなって言われても無理だ。

 成美やクラスの皆にも言われたけど、沙織に言われるのはまた別だ。一緒にいる時間は長いけど、妙に引いたような態度を取ることが多い沙織だ。口にしたからには本当にそう思ってくれているはずだ。


「沙織、ありがとう」

「どういたしまして……って、そうじゃない! とにかくこの裏切りは許さないからね!」


 同時に予測線が発生した。沙織が攻撃の意思を持ったのだ。


「って、太っ! 太いよ、それ!」


 その予測線はもう線じゃなかった。自販機の面積と同じ太さで、正面から見れば予測『線』ではなく予測『面』と表現した方が相応しい有様だ。


「訳のわからないことを言うんじゃない!」


 私の発言は予測線の見えない沙織には意味不明だったのだろう。ちょっと苛立ったように大剣をフルスイングしてきた。すっぽ抜けた自販機が宙を舞う。

 でも遅い。あれだけの重量物を投げつけられるのはさすがだけど、高速で飛来する攻撃魔術に対処してきた私の目から見れば、自販機の飛んでくるスピードは全然問題にならない。いくら予測線が太くても避けるのは簡単だ。


 でもここは避けるべき場面じゃない。

 私の回避力は沙織も知っている。知っていて敢えてこうしたのなら、安易に避けては罠にはまる可能性がある。ここで沙織の予想を外すには今までとは違う対処をしてみせるのが一番だ。


《気功スキル・モード変更・土:筋力上昇》

《気功スキル・金剛発動:筋力上昇》


 気功スキルを筋力上昇の土モードに変更して、ステータスアップ数値を筋力に集中。さらに土モード時のみ発動できる気功技、筋力大上昇の『金剛』を発動した。


 視界の端にシステムメッセージ。


《筋力値が規定をクリアしました。山津波が使用可能です》


 足は開き気味に大きく構えて黒刀を大上段に振りかぶる。そして大地を踏みしめる両足から腰へ、腰から上体へ、上体から両の腕へと、全身の筋肉を連動させて渾身の打ち下しを放った。

 黒い刀身が同じく黒い靄のようなスキルエフェクトに包まれた。


 靄が触れると同時に、自販機は轟音とともに直下の地面にめり込んでいた。靄が触れた部分は巨大なハンマーでも叩きつけたかのように陥没している。


「な!? ええっ!?」


 叩き落とした自販機のすぐ向こうに驚愕に目を見開く沙織がいた。自分で投じた自販機を後追いしていたのだ。もしも左右どちらかに避けていたら、自販機をブラインドにして接近していた沙織に不意を打たれていただろう。


 潰れた自販機を踏みつけて前へ出つつ、突きを放った。

 普段のスピードがあればこれで決まっただろうけど、土モードに変更しているせいで敏捷力へのスキル補正が無くなっている。一時の驚きから立ち直った沙織に盾で防がれてしまった。


 内心で舌打ちをしつつ気功スキルを通常モードに移行。元通りの速度を取り戻して矢継ぎ早に攻撃した。これらも盾で防がれているけど、防いでいる間は沙織からも攻撃できない。

 防御させて固めつつ次の攻め手を探ろうかと思ったけど、沙織はそれを許してくれない。

 盾越しに大剣を突き出してスクラップ同然の自販機に再び突き刺した。


 瞬間的に猛烈な失調感に襲われた。

 いきなり自分自身の重さが喪失して立っている実感さえ怪しくなっていた。


「私の重さまで!?」


 自販機ごと持ち上げられて、壁に向かって放り投げられた。剣が離れると同時に感覚は正常に戻った。自販機を蹴って激突に巻き込まれないように離れる。

 哀れな自販機は壁の一部とガラス窓を砕いて建物の中に飛び込んでいた。もう原型を留めないくらいにぐちゃぐちゃだ。


「……壊しすぎでしょ、いくらなんでも」

「半分はあなたがやったんでしょうが。だいたい、さっきのあれは何? 斬撃で圧し潰すなんて矛盾してるじゃない」

「や、言いたいことは判るから、あんまり深く突っ込まないで」


 気功スキルに属する技『山津波』

 使用するには筋力値でかなり高いハードルを越える必要のある大技で、刀身に剣圧を発生させる効果がある。剣圧と言うだけあって、刀の技でありながら斬撃ではなく圧力での攻撃になる。


 ……筋力が上がると剣圧が発生するという因果関係については正直良く判らない。とりあえずそういう技なのだと無理やり納得している状態だ。


 発動には全身の筋肉を完全に連動させた打ち下しが必要になり、いつでも自由自在とはいかない。それでも威力は折り紙付きだ。


「気功スキルは何でもありっぽいわね……非常識な」


 一トン近い自販機を片手でぶん投げる人に非常識とか言われてしまった。


「しかも破廉恥だわ。黒い下着だなんて……」

「っ!? み、見えてた?」

「見えないと思っていたなら正気を疑わないといけないわね。そんな短いスカートでいつもどおりに動けばそりゃ見えるに決まってるでしょ」

「くっ! 返す言葉も無いわ!」


 判ってはいた。

 このメイド服、そもそもがその手の店で使われている制服を成美がカスタマイズしたのだ。ぱんつが見えるくらいは前提としてデザインされているとしか思えない。


 沙織がにんまりと笑った。

 あれは悪い事を考えている笑いだ。直観的にそう思った。


「闘技場のスクリーン」


 ぎくり。


「現実世界にあるモニター」


 さらにぎくり。


 考えないようにしていたのに……。

 意識してしまうと急に恥ずかしくなってくる。思わず片手でスカートを抑えてしまった。

 これは羞恥心を利用して私の足を封じる作戦だ。


「せ、精神攻撃!? そこまでするの!?」

「するわよ。状況は最大限利用しないとね」


 口元にはまだ笑みが浮かんでいるけど、沙織の目は笑っていない。

 偽りなく利用できる状況は残さず利用するつもりだ。マップオブジェクトだろうと、私の着衣データだろうと。

 勝つために必要なら卑怯と取られかねない手段も堂々と取る。そんな決意が感じられた。


 スカートを抑えていた手が自然と離れた。

 羞恥心すら利用しようとする沙織の本気を感じたことが、逆に私に羞恥心を忘れさせていた。


 沙織は、ぱんつを気にしていて勝てる相手じゃない。


 私の変化を敏感に感じ取ったのか、沙織の視線が揺らいだ。「逆効果だったか」と呟いている。


《気功スキル・モード変更・風:敏捷力上昇》


 こっそりと気功スキルを風モードに変更した。

 ここまでの戦いで推測できるのは、沙織は自分自身の体で触れているか、もしくは大剣を発動体として一定範囲内にある対象にウェイトコントロールの効果を及ぼせるらしいということだ。つまりこちらの攻撃を大剣で受けられたり、あちらの攻撃を刀で受け流そうとすれば、またあの失調感に襲われてしまう。


 もてる最高の速度で翻弄し、術の効果を受ける前に斬る。


 そう心に決めて身構えた時、一本の予測線が沙織の胸に突き刺さっていた。


「あ……」

「ん?」


 思わず上げた声に沙織が怪訝な表情になり、直後、予測線どおりに飛来した炎の矢が沙織の胸に直撃していた。


「えー……またこのパターン?」


 バトルロイヤルだから第三者の介入もありなのは承知しているけど……。

 さっきの一年生に続いて二回連続っていうのは運が良いのか悪いのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ