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近接戦では剣士タイプの方が強いですよ?(仮)&(真)  作者: 墨人
(仮)第三章 学園祭~クラス対抗戦~
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絶望を越えて

 メイド服を人数分作るとなれば相当の手間がかかったはずだけど、東原君の伝手でその問題は一挙に解決された。

 他の作業は始めるのが早すぎても意味の無いことばかりなので、当面は普段通りの学園生活になった。


 そんなある日の朝、教室に入ると成美が委員長と話していた。他にも数人の女子生徒が周りに集まっている。


「あ、桜ー。おはよー」

「おはよう、天音さん」


 成美はいつも通り元気一杯に、委員長は何故だか疲れたような、困ったような、そんな様子で挨拶してきた。


「おはよう。委員長どうしたの?」


 普段なら朝から隙の無い委員長だったから、ちょっと不思議に思って聞いてみた。

 委員長は「うーん」と唸って意味ありげに成美に視線を飛ばす。


「桜ー、はいこれ!」


 成美がにこにこと差し出してきたのは一枚のメモリーカードだった。普段CODのアバターデータを管理しているのとは別の真新しいカードだ。

 そのカードをなんとも言えない表情で見ている委員長。

 委員長の様子がおかしいのはあのメモリーカードが原因らしいけど、いったい何が入っているのだろう。


「うん? なんなのこれ?」


 受け取ったカードをひっくり返したりして見てみるけど、当然ながらそれで中身が判るわけも無い。


「えへへー。桜にプレゼント。着衣データならサイズ関係なしに着れるでしょ」

「着衣データ……って、まさか!?」

「メイド服のデータだよ。自分じゃ着れないから羨ましいって言ってたでしょ?」

「羨ましい? って、あー、確かに言ったけど……」


 成美が羨ましいとは確かに言っている。

 でもそれはメイド服を着れることが羨ましいのではなく、メイド服を着ても似合う成美の体型(主に身長的な意味で)が羨ましいという意味で、けして私自身がメイド服を着たいという意味ではない。断じてない。


「あ、あれ? 桜嬉しくない?」


 私の反応が芳しくないせいで成美が不安そうな表情をしている。

 潤んだ瞳で見上げてこないで欲しい。成美のウルウル+上目遣いのコンボは攻撃力が高すぎる。


 既存のデータを加工したにしても、現実に存在する衣装をそのまま再現するレベルで作り上げるには大変根気のいる作業が必要だ。

 成美が私の為にそれをやってくれたのだとしたら、それを拒否するなんて私にはできない。


「そんなことはないわ。ありがとう成美。後で着させてもらうわね」


 にこっと笑って成美の頭を撫でてあげる。

 ちょっと恥ずかしいけど、それで成美が笑顔になってくれるなら、二人だけの時にメイド服を着て見せるくらいは安いものだろう。


 そんな風に考えていたら、成美が言葉の爆弾を投下してきた。


「これで学園祭の時にもみんなでおそろいのメイド服が着れるね!」


 ……はい? なんとおっしゃいましたか成美さん。

 かくんと壊れた人形のように首を傾げ、そのままきりきりと委員長を見る。

 先日来可能になった委員長とのアイコンタクト開始。


 ――これはどういう事なの?

 ――COD大会にメイド服のデータで参加しろってことよ!

 ――マジですか?

 ――霧嶋さんは大真面目よ! クラスのみんなも乗り気になってる!

 ――みんなって、委員長も?

 ――そんなわけないでしょ! でも霧嶋さんは私じゃ抑えられない!

 ――えー……

 ――後はあなたが頼みの綱! 断って! 絶対に断って!


 アイコンタクト終了。

 いや、大部分は気のせいだろうけども。

 いくら「目は口ほどに物を言う」とは言っても、目だけで会話なんてできるわけが無い。

 それでも最後の「断って!」という懇願だけは、確実に委員長が伝えたかった事だろう。

 それは判ったけど成美のあの嬉しそうな顔を見ていると私にだって断れない。


 ――お願いだから、断って!


 委員長の思念が未だに届いているような気もするけど、ごめん、委員長。


「そ、そうね。お揃いね!」


 半ば自棄気味私は言っていた。顔が引き攣っていなければ良いんだけど。

 目に見えて落胆している委員長とは対照的に、様子を窺っていた女子生徒達はにこにこしている。


「三条さんと天音さんだけ仲間外れみたいで気になってたのよ。良かったわ、みんな一緒で」

「委員長はともかく天音さんはサイズの問題もあったし」

「天音さんのメイド服姿……楽しみ」


 女子のみんなは私達への善意で一杯だ。委員長が断れなかったのも無理は無い。成美一人でも難しいのに悪意無く好意でしてくれた事だけに断りづらい。たとえそれがこちらの意に沿わないことだとしても。


 あれよあれよと言う間に、放課後試着してみるということになってしまった。


 *********************************


 着衣データをsakuraのメモリーカードにコピー。でもそのままログインしてしまうと他のクラスの人に見られてしまうかもしれない。防具からサラシと皮の胸当てを外した状態でログインし、2-B教室まで移動してから着衣データを換装した。


 で、orz状態に至る、というわけだ。


 メイド服で籠手と鉢金、足元は無料ダウンロードした防具扱いのブーツ。腰にはベルトで黒刀を吊っている。

 委員長は同じくメイド服にガントレットとグリーブ。

 武装戦闘メイドのできあがりだ。どこの漫画のキャラだこれは。


「それにしても凄い再現度。霧嶋さんのデータは侮れないわね」


 それは私も思った。

 以前の脱衣データの例からも判るように、成美はこういったデータの加工については相当の拘りと、その拘りを実現してしまう腕を持っている。

 このメイド服にしても見た目だけの話ではなく、生地の手触りなんかも全て本物と同じだった。おそらく一つ一つ素材の指定からやったのだろう。それだけの労力を私の為に割いてくれたこと自体は純粋に嬉しいけど、このまま大会に参加するかどうかはまた別の問題だ。


「とりあえず、こうしていても仕方ないわ。さっさとお披露目を済ませてしまいましょう」

「そうね。気は進まないけど」


 扉の外に声をかけると、成美を先頭にして2-Bの女子生徒達が入って来た。

 男子の姿は無い。試着後のお披露目は男子には遠慮してもらったからだ。

 東原君や石津君、相馬君は随分とゴネていたけど、さすがにこの姿を男子に晒すのは恥ずかし過ぎる。


「どう? 良くできてるでしょー?」


 自信の新作を誇るように成美が言い、私や委員長はクラスメートに取り囲まれてしまった。


「すごい、ほんとうにそっくりにできてる」

「こんな細かいところまで作り込んでるんだ……」


 みんな感嘆の声を漏らしながら成美作のメイド服を見ているけど……。


「みんな少し近過ぎるわよ……!」


 悲鳴じみた委員長の声。

 良く見たいからか何なのか、現実だったら息がかかるような近さで食い入るように観察している。

 服を見ているのだとしても、着ている身としては落ち着かないこと甚だしい。


「本当に凄いわ。噂には聞いていたけど……」

「これが天音さんの真の姿なのね」


 あれれ? 感想がメイド服から逸れて行ってますね。

 海魔迎撃戦に参加した以外のメンバーは私がサラシを外した状態を初めて見るのだしある程度のリアクションはあるだろうと予想はしていた。

 でもこんな至近距離から品定めをするように胸を注視されるのは、同性からとはいえセクハラなんじゃないだろうか。


「みんなー、そこまでそこまで。桜達がどうしていいか判らなくて困ってるから」


 成美がポンポンと手を叩くと、みんな意外と素直に離れて行った。

 まるで最初から示し合わせていたように。


「成美、なにか企まなかった?」

「普段はかっこいい桜と、普段は真面目で固い雰囲気の委員長。ふたりのとっても可愛い所をみんなで鑑賞しちゃおうっていう企画でした!」

「企画ってあんた……」


 委員長と二人で重い溜め息を吐いた。

 女子全員巻き込んでの悪ふざけとか、成美はどこまでお茶目なんだろうか。ちょっと恥ずかしかったけど「可愛い所」なんて言ってたし、許してあげよう。


「天音さん、やっぱりあなたは霧嶋さんに甘過ぎるわよ」


 委員長が恨みがましい目で見てくる。

 いけないいけない。この状況を招いたのは私、委員長は巻き添えという反省をさっきしたばかりだった。

 そうとなれば成美に言っておかなければいけないことがある。


「成美、今回はこうして着ているけど、本番では防具は全部着けるからね」


 本心ではいつもの着衣データにしたいところだけど、それでは成美の頑張りとみんなでお揃いの服を着たいと言うクラス女子の期待を裏切ることになってしまう。だからメイド服は仕方ないとしても、私のサラシと胸当て、委員長のブレストプレートは装備させてもらう。


「でも、それじゃ揺れないよ?」

「揺れる必要ないから!」


 不思議そうな成美。他の女子も多かれ少なかれ納得のいかない様子だ。

 君達はそんなに揺れるところを見たいのか。


 嫌な期待をされているようだけど、ここははっきりさせておかなくては。


「学園祭のイベントとはいえ勝負は勝負。やるからには全力で勝ちに行くわよ。だからわざわざ防御力下げて出場とか有り得ないわ」


 みんなの顔をゆっくりと見回しながらきっぱりと言い切った。

 これについては成美が何と言おうと譲るつもりはない。


「うん、それなら仕方ないかな」


 おお、あっさりと通った。もう少し駄々を捏ねられるかもと覚悟していたけど。


「男前モードの桜ならそう言うんじゃないかと思ってたしね」


 そんなモードは私には無い。

 そして女子達は「男前モード……なるほど」とか「ますますかっこいい」とか「ヤバイ、惚れちゃいそう」とか言っている。

 さっきまでは可愛いとか言ってくれていたのに、手の平返し過ぎじゃあありませんか。


 *********************************


 どうにか最後の一線を守り切った。スカートが短いからぱんちらの危険は依然としてあるけど、胴防具を着けられれば最悪の状況は脱したと言える。

 絶望を越えて一歩踏み出すことができたのだ。


 そして数日後、学園祭COD大会の詳細が発表された。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 宇美月学園学園祭COD大会


 ・各クラス二名出場

 ・全クラス参加のバトルロイヤルとする

 ・仮想宇美月学園全体を戦闘域とする

 ・個人順位によりポイントを付与

 ・一位五十ポイント、二位四十ポイント、三位三十ポイント、四位二十五ポイント

 ・代表二名のポイント合計によりクラス順位を決定


 ・予選中はマップ構造物の非破壊指定を解除する

 ・PORTALは使用不可とする

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