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近接戦では剣士タイプの方が強いですよ?(仮)&(真)  作者: 墨人
(仮)第二章 夏休み~海魔迎撃戦~
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vs 海産物

 砂を蹴立てて走りながら気功スキルを発動させる。最初に出てくる魔物は弱いそうなので焔は使わずに通常モードだ。続けて止水、気の刃と重ねていけば戦闘準備は完了だ。


 サーチライトや攻撃魔術を光源として照らされた魔物は、相変わらずぷるぷるとしながらゆっくり進んでくる。その体内には成美が言った通り、緑色の光点があった。


 一体の魔物に駆け寄りざま、光点めがけて斬撃を繰り出す。

 ゼリーよりは少し固めの手応えを感じながら振り抜くと、切り裂かれた光点は弾けて消え、水の柱は普通の水に戻って砂浜に雪崩れ落ちた。


「って、何これ、弱っ!」


 思わず口走ってしまう。これなら巻藁のほうがまだ手応えがある。

 しかも仲間が倒されたと言うのに、周囲の魔物は我関せずと前進を続けている。


「弱っちいって言ったでしょー。でも数は多いから油断禁物ー」


 成美は両手に鞭を持って縦横無尽に操っている。鞭の先端には菱形の金属片が取り付けられていて、的確に魔物の弱点を狙っている。以前見た時にも思ったことだけど、成美の鞭はとても不思議な動きをする。軌道を変えるくらいは当たり前。空中で逆方向に動いたり、先端だけが跳ね上がって魔物の弱点に突き刺さったり。

 特殊武器のスキルで操っているだけあって、鞭その物にも仕掛けがあるようだ。


 そんなトリッキーな成美とは対照的に、沙織はオーソドックスな剣術スタイルだ。ただし見た目だけ。

 魔物からの攻撃が無いと知った沙織は盾を外し、大剣を両手で操っている。重量軽減した大剣を軽々と振り回し、当たる瞬間だけ重量増加して大質量を叩きつける。重量操作の術を完全に使いこなした戦い方だ。


「これ、戦闘って言うより害虫駆除とかそんな感じがする」

「それ当たってるよ。最初に出てくるのは知能の無い魔界の蟲で、本能的に陸に上がってきてるだけって設定のはず」

「あー、なるほど。だから予測線も出ないんだ」


 魔物に近付いても止水の予測線が発生しないので不思議に思っていたけど、もとより攻撃の意思をが無いとなれば当然だった。

 そしてもう一つ納得したのが数の多さだ。

 後衛からの魔術攻撃で海上でもかなりの数が倒されているはずなのに、波打ち際からは後から後から魔物が現れる。蟻や飛蝗の大群が押し寄せてくる光景を想像すれば、ここで起こっている状況に近いのだろう。


 *******************************


「結構きついわ」


 開放的な作りの海の家。座敷に上がり込んで座卓に突っ伏してしまう沙織。

 二十分交代で戦闘と休憩を繰り返し、今は三度目の休憩。もうすぐ開始から二時間が経過する。

 魔物のパワーアップは三十分ごとに設定されていて、今では最初の倍ほどの移動速度と、一応こちらを敵として認識した動きをするようになっている。水柱の中の光点が少し大きくなっていて、これがパワーアップの目安になっていた。


 今回初めて知った事に、仮想世界でも疲労するというのがあった。

 もちろんアバターだから本当に疲労するわけじゃない。疲労している感覚が信号として脳に送られ、同時にアバターのステータスにマイナス補正がかかる。

 どうも長時間戦闘状態が続いた場合に、運動量に応じて『疲労値』とでも言うべきものが累積しているらしい。CODでは何試合こなしても疲労を感じなかったけど、試合終了ごとにリセットされていたのだろう。

 沙織は常に重量操作を使っているせいで消耗も早く、私や成美よりも辛そうだった。


「ほら、沙織。これ飲んで」


 海の家の冷蔵庫にあったスポーツドリンクを沙織の前に置く。


「ありがと」


 沙織がごくごくと喉を鳴らして飲んでいるのを見て、私もあるはずの無い喉の渇きを覚えた。追加で自分と成美の分も取り出す。


「あれ? それ飲めるのか?」


 一緒に休憩していた男子が驚いたように訊いてくる。

 ローテーションの組分けは、一番人数の多い二年生チームと一年三年の混合チームになっていて、周りにいるのは毎度馴染みのSコース組の面々だった。


「飲んでるような気がするだけだけどね。水分補給にはならないけど雰囲気だけでもどうぞ」


 私達が仮想世界で飲食できることに気付いたのは偶然だったし、まだ知らない人の方が多いみたいだ。

 ついでだから海の家にいる全員にドリンク類を配ることにした。ひょいひょいと適当に放れば、全員きっちりとキャッチしてくれる。


「おお! 本当だ! 飲める……ような気がする!」

「ああ、確かに味がする……ような気がするな!」

「いや、味は実際あるだろ」

「うおお、この冷たさが胃に染みるー……ような気がする!」


 よっほど気に入ったのか「気がする」遊びが始まってしまった。みんな疲れているだろうに、空元気だとしてもこうしてふざけていられるならまだ大丈夫そうだ。


 休憩明け、演習開始から二時間が経過して魔物はまた一段階パワーアップした。


「半魚人かー!」


 なぜか男子達が嬉しそうに叫んでいる。

 海から上がって来るのは海水を集めて形作られた、魚類と人類の中間のような姿の魔物だった。

 でも魚類以外のもいる。


「これはどういう魔物なの?」

「中身はさっきまでと同じ蟲だねー。群れると知能が高まって、海の中で見た生き物と迎撃してる私達を見て形を真似てるって感じ」

「だからイカとかタコもいるのか。もう半魚人って括りじゃないわね……って、あれワカメ!?」


 にゅるにゅると沢山の足を蠢かせる半イカ人や半タコ人がいるかと思えば、全身からワカメを垂れ下がらせた魔物もいたりする。敢えて括るなら半海産物人か。


 こんなふざけた外観でも、さっきまでの魔物とは段違いに強い。人型を得た事で人間と同じように歩いたり走ったりできるようになって、しかも人間とは全く違う動きもする。水でできた体だから人間のように間接の可動域という制限が無いからだ。


 知能が高まったからなのか、この形態になってからは予測線が表示されるようになっている。

 みんなには悪いけど、私にとってはかえってやりやすくなった。

 一体、また一体と魔物を水に帰していった。


 *******************************


「うだー! 終わったー!」


 海の家に着くや否や、沙織は座敷に倒れ込んだ。精根尽き果てた体である。 

 演習開始から三時間四十分。私達は受け持ちの時間を全てやり終えた。

 三時間三十分でのパワーアップはさすがにきつかった。こちらのメンバーは疲労で動きが鈍っているのに、魔物はさらに大きく強くなったのだ。

 体長で二メートル半はあろうかという半海産物人は、体を構成する海水をウォーターカッターのように飛ばす技まで使ってきた。パワーアップするにつれて数は減っていたのと、予備動作が分かりやすかったから良かった。まともに喰らえば即死ダメージ級の攻撃だから、一度に複数を相手にしたら危険だっただろう。


「ま、死者ゼロでここまで来れて良かったわ」

「そうだねー。みんな初めてなのに頑張ったよー」


 休憩時間の恒例となった感のあるドリンク配布をしながら、成美と頷き合う。

 全員で無傷とはいかなかった。今も体のどこかしらにダメージエフェクトを灯したメンバーが多い。それでも、誰も死に戻りすることなく海の家に帰って来れた。


「お前ら、なんでそんなに元気なんだ」


 累々と屍のように横たわる男子達からそんな声が上がる。


「……昨日地獄を見たから。あれに比べればこれくらいはね」


 思わず乾いた笑いが漏れてしまった。

 人間、もっと酷い状況を体験していれば、たいていの事には耐えられるものだ。


 加えて、これは確認できないけど気功スキルが疲労を軽減している印象がある。気力が充実すれば多少の疲労は無視できるものだけど、それと同様の効果が仮想世界での気功スキルにあってもおかしくない。


「私はともかく成美も良く平気ね」

「そりゃー忍者だもん」

「あー忍者だからかー」


「って、天音! それで納得するのか!?」

「だって本人がそう言うんだから、そうなんでしょう?」

「天音は霧嶋に甘すぎるぞ!」


 そんなに甘くは無いと思うけど。忍術スキルにも同様に疲労軽減の効果があるのかもしれないし、別に成美が嘘を吐く理由も無い。


 ドリンクを配り終え、成美と二人で海の家から出る。

 最後のターンだし、向こうで戦っているチームがピンチだったら助っ人に入ろうかと思っていた。

 黙って着いてきた成美も同じように考えていたのだろう。薄闇を透かすように戦場を見ている。

 結果的には余計な心配だったようだ。

 私達と同じように苦戦はしているようだけど、確実に一体ずつ倒している。


「大丈夫そうね」

「だねー。どうする、戻る?」


 成美の問いには首を横に振る。


「せっかくだしラスボスの登場シーンも見てみたいわ。先生はああ言ってたけど、行けそうなら行ってみたいし」

「それは……止めといた方が良いと思うなー」


 これは意外だった。成美だったら面白がって背中を押して来そうなものなのに。


「そっか、去年見てるんだっけ。そんなに凄いの?」

「ラスボスも凄いんだけど、それを倒した人達はもっと凄かった」


 話していると、不意に戦闘の音が止んだ。

 砂浜から魔物の姿は消え、後衛からの魔術攻撃も止んでいる。

 さっきまでの騒がしさから一転した静寂に驚いたのか、海の家で休んでいた面々も顔を出してくる。

 サイレンが鳴り響いた。

 遠くの海面が大きく盛り上がっていく。


「あ、あれ? 距離感が変?」


 盛り上がっている水の範囲、高さ。それらが距離感を狂わせる。

 まだ遠いはずなのに、やけに近く感じられる。


「ラスボスはね、上陸を邪魔された残りの蟲が全部集まって一体の魔物になるの。だからとっても大きいんだよ」


 余分な海水を滝のように落としながら現れたのは、全高十メートルはありそうな亀だった。

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