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近接戦では剣士タイプの方が強いですよ?(仮)&(真)  作者: 墨人
(仮)第二章 夏休み~海魔迎撃戦~
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海魔迎撃戦(予行演習)開始

 海水浴場の沖合に、こことは異なる世界『魔界』に通じる穴が開いてしまった。

 穴を通ってやって来た魔界の生物が次々に海水浴場に上陸してくる!

 このままでは町に大きな被害が出てしまう。

 みんなで力を合わせて迎え撃ち、魔物の上陸を阻止しよう!


 *********************************


「と、まあこれが海魔迎撃戦の概要だ」


 教壇で後城先生が説明しているのは、これから行う海魔迎撃戦予行演習についてだ。

 ここはMコースの選択授業で使用されている教室で、通常のクラス教室に比べて三倍くらい広い。

 迎撃戦に参加する約五十名の生徒が、前の方の席に固まって着席していた。


「戦場になるのは海水浴場の砂浜全域、このマップを見てくれ」


 先生が黒板の表面を軽くタップすると操作ウィンドウが現れ、続く操作で黒板全体を使って大きな地図が表示された。

 各教室に黒板はあるけど、付き物であるチョークや黒板消しは再現されていなかった。仮想世界で黒板を使う事などないと思っていたからスルーしていたけど、大型モニタになってたのか。


「海岸の道路沿いに約千五百メートルが砂浜になっている。道路と砂浜は約一メートルの段差。段差には等間隔で階段が設けられている。道路から波打ち際までは場所によってまちまちだが平均すれば八十メートル程度」


 マップを示しながら説明を続ける後城先生。戦争映画で良く見られる出撃前のブリーフィングみたいだった。

 マップ右側の海に赤い矢印がたくさん、左側の海水浴場には青い矢印がたくさん、それぞれ表示された。赤い矢印が魔物、青い矢印が迎撃側だ。迎撃側は砂浜と後ろの道路上に分けられている。


「迎撃側は砂浜に剣士タイプを中心とした前衛職を、道路上に魔術タイプを中心とした後衛職を配置する。後衛は遠距離攻撃で上陸前の魔物の数を減らす役。前衛は上陸してくる魔物を水際で叩く役だな」


 赤い矢印が移動を開始。道路上の後衛職から遠距離攻撃を示す白い線が伸び、魔物の数を減らしていく。それをかいくぐった魔物が砂浜で待ち受ける前衛職とぶつかった。

 道路上に黄色いラインが現れ、そこから左側が全て黄色く塗りつぶされた。


「黄色のエリアは住宅地だ。ここに魔物が侵入したら迎撃失敗になる。本番はこのラインを八時間守り続ける耐久バトルだが、これから行う予行演習は去年のログを元にして時間を半分に短縮している。それでも四時間だ。ローテーションを組んで休憩を入れながらになる。休憩はここだ」


 砂浜の一番奥、道路との段差に添うようにして並んでいるのは海の家だ。


「今回はここにログイン・アウトのポイントを設定してある。トイレその他、必要ならここから済ませるように」


 黒板の表示を消して先生がこちらに向き直った。

「ここまでで何か質問はあるか?」と訊いてくるけど、ここまでの話は昨日貰った資料にも書いてあった内容の再確認だ。誰も質問はしなかった。先生は「ふむ、予習はきちんとしてきたようだ」と満足げに頷いている。


「肝心のバトルについて説明を加えておく。魔物は時間の経過とともに強くなっていくから、序盤で飛ばし過ぎると後が辛いから気をつけろ。それとラスボスはお前達には無理だから手を出すな。演習プログラムでも去年ボスを倒した奴らをNPCとして参戦させてボス戦を終わらせるようになっている……ふむ、天音、なにか不満そうだな」

「はい? ええ、そうですね、不満と言いますか……」


 いきなり名指しで話を振られて焦ってしまう。確かにボス戦は無理だと頭ごなしに言われて、少々負けん気が頭をもたげたけど、私ってそんなに表情に出やすいのだろうか。


「まあ予行演習だ。やりたいならボスに挑んでも良い事にしておこうか。天音も実際に見た方が理解しやすいだろう」


 後城先生はなぜか意味ありげに笑って言った。


   ・

   ・

   ・


 夜の砂浜だった。

 寄せては返す波の音、足元には砂の感触。現実世界であれば夜の海辺を散策するカップルや、砂浜で花火に興じる若者たちの姿もあるだろうに、今浜辺に陣取るのは武装した剣士や魔術士。緊張した空気が漂っている。

 宇美月学園のメンバー以外にも数多くの参加者の姿が見えるけど、それらは演習プログラムに組み込まれたNPCだ。砂浜には宇美月学園の受け持ちエリアとして幅五十メートルくらいがラインで区切られている。


「凄い雰囲気だね」


 周囲を見回しながら沙織が言うのに、私も頷きを返す。

 CODではかなりの戦績を持つ私たちも、こなしてきたのはシングル戦が主で、たまにパーティー戦をするくらい。こんな大人数が参加する大規模戦闘の経験は無かった。


「今から緊張してたら最後までもたないよー? リラックスリラックス」


 去年の迎撃戦にお爺さんと一緒に参加している成美は、経験者の余裕と言うべきだろうか、この独特の雰囲気にもまったく影響を受けていない。


「先生も言っていたけど、魔物は時間経過で強くなってくからね。最初の方に出てくるのは弱っちいから、全然緊張する必要無いよ」

「う……そうは言っても」


 こればっかりはどうしようもない。初めてというのは何事にせよ緊張するものだ。


「うーん、しょうがないなあ。私が緊張しないお呪いしてあげるよ。桜、手を出して」

「まさか人という字を書くつもりじゃないでしょうね」

「もっと効果あると思うよー……えい!」

「へあ!?」


 私が差し出した手を、いきなり成美は胸に抱え込んでしまった。手の平に感じるのはとても柔らかな成美の胸の感触。


――師匠! やっぱり仮想世界でも柔らかいです!


 どうして良いのか分からず、とりあえず心の中で師匠に報告してしまった。以前仮想世界での胸の感触について気にしていたのが不意に思い出されたからだ。


「ちょっと、桜が固まっちゃってるじゃないの」


 呆れたような沙織の声が聞こえる。沙織が呆れるのも無理は無い。本当に身動きが取れなくなっていた。いや、実際の話、この状況は対処に困る。どうするのが淑女の対応なんだろう。


 もに、っと。


「きゃっ!」

「あ、ご、ごめんなさい!」


 無意識のうちにちょっと揉んでしまった。成美の小さな悲鳴に我に返って慌てて手を離す。


「……で、どう? 緊張取れた?」

「う、うん。取れた……かな?」


 成美が不満そうな顔をしている。どうやら彼女が期待していたような上手い対応が出来なかったみたいだ。でもどうするのが正解だったかなんて分からない。

 迎撃戦に対する緊張は確かに取れた。というか吹っ飛んだから、お呪いとやらの効果はあったみたいだ。


「沙織もお呪い要る?」

「私は結構よ! 私まであなた達の不思議空間に巻き込まないで!」


 沙織がお呪いを拒否している。なんてもったいない事をするんだろう。

 とか思っていたら、いつの間にか男子達が集まってきていた。


「霧嶋、おい霧嶋! 俺も緊張してる!」

「俺も俺も!」

「お呪いプリーズ!」

「えー、駄目だよー。これは女子限定のお呪いだもん」

「そんな殺生なー!」

「天音だけずるいぞー!」


 男子達の勢いにさすがの成美も困った顔になっている。

 それにしても「女子限定」と言っているのに「天音だけずるいぞ」って返した男子は、私を何だと思っているのだろう。


 放っておくと騒ぎが大きくなりそうだ。


「仕方ないわね。ちょっと手を貸して」


 ここは私が一肌脱いで成美を助けよう。

 ずるいぞ発言をした男子の手を少々強引に取って、胸に押し付けてやった。


「お? おお……?」

「さあ、お呪いよ」


「……」

「……」 


「……なあ、俺はどうしたら良いんだ?」

「さあ? 私に聞かれても困るけど」


 男子の手が私の胸当ての上で所在投げにわきわきと動いている。

 サラシで胸を潰している上に皮の胸当てを着けているから、彼が期待したような感触は全く無いだろう。


「うん、まあもういいや。ありがとう」

「どういたしまして」


 がっかり感も露わに手を離す男子。

 しゃがみ込んで砂にのの字を書きながら「ひんぬーでも良い。でも防具の上からって……」なんてぶつぶつ呟いている。

 緊張している様子は微塵も無いし、お呪いは効いたようだ。


「さあ! 他に緊張しているのは誰!?」

「あー……なんか俺もう大丈夫だわ」

「うん、緊張なんかしてないな」


 すごすごと散っていく男子達。


「ふう、もう大丈夫よ」

「桜ー、私を助けてくれたんだねー」


 成美が上機嫌でじゃれついてきた。

 良かった。さっきは不味い対応で不満そうな顔をさせてしまったけど、これで帳消しにできたようだ。


「緊張なんてしてる方が馬鹿らしくなってくるわね……」


 溜め息交じりに脱力している沙織がいた。

 お呪いをしてないのに、もう緊張はしていないようだった。


 そんなこんなでリラックスした雰囲気で待機していたら、突如としてサイレンが鳴り響いた。

 ウーウーと唸るようなサイレンだ。


『ただいま沖合で穴が確認されました。間もなく魔物が襲来します。参加者の皆さんは配置についてください。繰り返します……』


 放送は演習プログラムに組み込まれたNPCが行っている。宇美月学園の担当エリア以外はイベントの進行も含めて全てNPCが行うことになっていた。


 一段高い道路上に配置されたたくさんのサーチライトが点灯して海上を照らす。

 やがて明かりの中で、海面が不自然に盛り上がった。その数はどんどん増えていく。


『魔物が海岸に到達します。魔物が海岸に到達します。後衛の皆さん、各々迎撃を開始してください』


 その放送と同時、道路上に並んだ後衛から色とりどりの攻撃魔術が放たれ、私達前衛職の頭上を越えて海に吸い込まれていく。NPCも含めて数百人が一度に放つ魔術が夜空に軌跡を描き、とてもきれいだった。

 一瞬の間。

 海面の至るところで盛大な水飛沫が上がり、轟音が轟いた。

 次々と撃ち込まれる魔術には爆裂や火炎系が多く、現実なら海が沸騰するんじゃないかと思えるほどの密度だった。


「あ、あれ委員長か。さすがに速いな」


 道路に陣取る後衛職の中心は委員長だ。距離があるために一言呪文ではないようだけど、他のメンバーに比べると明らかに発射の間隔が短く、威力もありそうだ。


「あ、そろそろ来るよー。波打ち際に注意して」


 成美に言われて海側に視線を戻す。

 私たちの見守る中、寄せてきた波の一部がぐぐっと盛り上がり、だいたい人間と同じ位の大きさの水の柱になった。

 水の柱はぷるぷると表面をゼリーのように揺らしながら、ゆっくりと向かってくる。


「あれが魔物なの?」

「そ、魔界の小さな生物が周りの海水を集めて操っているの。内側で蛍みたいに光ってるのが本体で、そこが弱点ね」

「了解!」


 次々に上陸してくる魔物に向かって、私達はそれぞれの武器を構えて突撃した。

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