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近接戦では剣士タイプの方が強いですよ?(仮)&(真)  作者: 墨人
(仮)第二章 夏休み~海魔迎撃戦~
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迎撃戦へのお誘い

「先生、おはようございます」

「うわぁ!」


 後城先生に朝の挨拶をすると、頭上から成美の悲鳴が聞こえた。

 ついいつもどおりにお辞儀付きで挨拶してしまったから、肩車中の成美は肝を冷やした事だろう。


「うむ、おはよう天音。お前はいつも礼儀正しいな。これで余計なものがくっついていなければ完璧だったんだが、残念だ」

「余計なものって私のことですかー!?」

「天音にくっついてるのはお前だけだろうが。とにかく席に着け。ホームルームを始めるぞ」

「はーい」


 元気良く返事した成美の体重が、不意に肩から消える。後ろに倒れ込みながら後方回転気味に着地したらしい。「またぱんつが……」とか聞こえたのは無視しておこう。


 全員が席に着いたのを確認してから、改めて委員長の号令で起立礼着席。

 教室を見回した後城先生が何とも言えない表情になった。


「これは……本当に違和感無いな」


 それは私達全員が持っている感想と同じだろう。

 制服姿で自分の机に座っている。

 もとよりアバターは身体走査データを元にしたリアルモード仕様だから、現実世界で教室にいるのと変わらない。唯一ここが現実ではないと実感させるのは、夏休みの間も学校に置きっぱなしにしている教科書類が机の中に存在しないという事だ。

 限りなくリアルな仮想宇美月学園ではあるが、さすがに生徒の置き勉までは再現できないと見える。


「まあ、こうしてここにいる以上分かっているだろうが、昨日のメンテナンスを境にして宇美月サーバーは大きく仕様変更している。これまではCODにローカルのマップデータを追加する形で実習用の空間を作っていたわけだが、メーカーの協力を得て本家のシステムに学園まるごとのマップデータをぶち込んである」


 やっぱり本家のシステムに変更されていた。

 でも私が使っているアカウントはCODのものなのに、普通にログインできているのは何故なのだろう。

 その点を疑問に思ったのは私だけでは無かったようで、何人かが異口同音に質問していた。


「俺も中身の詳しい事を知っているわけじゃ無いんだが……これまでCODは本家の『対人戦システムを切り取って』単独で稼働しているという認識だったわけだが、これがどうも違ったらしい。メーカーの説明では対人戦システムを独立させたのではなく、『対人戦システム以外をスリープ』状態にしたのがCODだ、となる。つまりもともとCODには本家のシステム全てが含まれていたことになるな」


 そしてスリープ状態が解除されてことにより、宇美月サーバー内のCODは本家と同等の仕様になった。学園全体を一つのフィールドとして扱うのも、PORTALの様なワープポイントの存在もその影響だ。


「詳しい事は後でヘルプを見てくれ。今回のログインでヘルプに項目が追加されているはずだ」


 言われて、みんな一斉にメニュー画面を開いていた。

 端っこのシステム系のメニュー欄からヘルプを選択してサブメニューを表示させると、確かに「宇美月学園の歩き方」というこれまでに無かった項目が追加されていた。


「それと注意が一つある。現実世界で入れない場所には、こっちでも入れない。それは憶えておけ。特に男子、仮想世界だからと言って女子更衣室に潜入とかするなよ」

「……そ、そんなことしませんよ、先生」

「嫌だなあ、僕らを何だと思っているんですか」


 男子の反応はまちまちだったけど、多少なりともそんな事を考えていたのがありありと分かる。

 と言うか、着衣データの換装ができる仮想世界内に更衣室を作っても意味が無いだろうに。

 そして女子のいない女子更衣室は、それでも男子にとって魅力のある場所なのだろうか?


 でもそれよりも気になることがある。


「あの、先生。CODは……いえ、闘技場はどうなっているんでしょうか?」

「闘技場は、陸上競技場が当てられているな。PORTALで跳ぶか、競技場の入り口から入ればこれまでと同じように闘技場が使えるぞ」


 CODはそのまま引き継がれているらしく、安堵する。


「詳しくはヘルプをってのはさっき言ったから、学園についてはこれくらいだ。で、連絡事項はもう一つある。資料を送るから各自開いてくれ」


 後城先生がウィンドウ操作をすると、《メッセージを受信しました》という表示とともに手紙型のアイコンが現れた。選択して開く操作をすると、内容を表示するウィンドウが自動的に開く。


『海魔迎撃戦へのお誘い』


 そう題されたポスターだかチラシだかの画像には、有名な海水浴場の名前と「海鎮祭 八月九日~八月十一日」と書かれている。


「知ってる奴もいるかも知れないが、海鎮祭はそこの海水浴場で開催される夏祭りだ。イベントの一つとして海魔迎撃戦というのがあるわけだが、主催の自治体から宇美月学園に招待状が届いている。うちの学園はその筋じゃ有名だからな。有志の学生を募ってぜひ参加して欲しいとのことだ。参加資格は総合レベル6以上。剣士タイプ、魔術タイプの制限は無し、どちらかと言えば不足しがちな剣士タイプの増員が招待の理由らしい」


 添付の資料を読んだ上で、参加希望者はメールで意思表明。

 その上で予行演習を行うので明日も登校ログインする事。

 これには学園長も乗り気であり、宇美月学園の名をさらに世間に知らしめるべく、精鋭を参加させたい意向だと後城先生は続ける。


「と、言うわけでだな。三条と天音、それに霧嶋はぜひ参加して欲しいと学園長からのお達しだ。強制ではないが前向きに検討してくれ」


 こういう場面で名前が上がってしまうのも、やはりあの試合の影響なのだろうか。

 実力者と認められつつあると思えば嬉しい事だが、今後もこういう事が続くとなるといささか気が重くもあった。


   ・

   ・

   ・


 ホームルームが終了して後城が出ていくと、教室はざわざわと騒がしくなった。

 システムのVRMMORPG化と海魔迎撃戦。話題には事欠かない。


「桜は参加する?」


 とことこと歩いてきた成美が言う。主語が抜けているけど、今このタイミングなら海魔迎撃戦のことに決まっている。


「内容も知らないで参加も不参加も決められないわ。資料を読んでから決めるわよ」

「えー、一緒に行こうよー」

「だから内容を……って、成美はどういうのか知ってるの?」

「知ってるよ。去年お爺ちゃんと一緒に行ったもの」

「元気なお爺さんなのね」


 参加資格が総合レベル6以上となれば、CODでも中堅以上だ。

 若者に交じって頑張っている老人の姿を想像してしまった。


「楽しいよー。斬って斬って斬りまくり。桜そういうの好きでしょ」


 人を斬るの大好き人間みたいに言わないで欲しい。

 思いつつ資料をざっと流し見する。


「あ、学園枠で参加するなら交通費と宿泊費は浮くんだ……」


 参加者は学園が用意するバスで現地まで移動、自治体が用意したホテルに宿泊となっている。

 日程は余裕を持って組まれていて、イベントに参加する以外にも現地で自由に遊べる時間は取れそうだ。


「沙織も誘って行ってみるのも良いかも」

「でしょでしょ」


 早速沙織と合流しようと歩き出すと、後ろから成美がすり寄って来た。

 そしてするすると私の体をよじ登り、自然に肩車状態になってしまう。


「うーん、やっぱり高いなー」


 どうも気に入ってしまったみたいだ。

 クラスメートが「また霧嶋が変なことしてるなー」といった感じにくすくすと笑っている。

 笑いに悪意が混じらないのは、成美の人徳なのだろう。


 気に入ってしまったのなら仕方ない。

 それに顔の両側から前に突き出している成美の生足は、それはそれで良い眺めとも言える。

 が、さすがにこのまま廊下に出るのは恥ずかし過ぎる。


 後ろ手に成美の腰の辺りを両側から掴んで、前に持ち上げて床に下ろす。

 成美は嫌がったけれど、ここは心を鬼にしよう。


「ぶー。桜のけちー」

「けちってことはないでしょ。さ、行くわよ」


 むくれる成美の手を引いて歩き出すと、大人しく着いてきた。


 廊下に出てD組の方に向かうと、丁度反対側から沙織がやって来た。彼女の方でも私達と合流するつもりだったみたいだ。


 沙織は私達をまじまじと見ている。


「……それ、成美が逃げないように捕まえてるの?」

「別にそういうわけじゃないけど」

「……やっぱりあんた達仲が良い、ってか良すぎるわよ」

「そりゃ成美と私は仲良しよ。ねえ?」

「そうそう、仲良し仲良し」


 転入してから二カ月余り。

 奇矯な言動も目立つ成美だが基本的に邪気が無い。

 毎日のように行動を共にしていれば仲も良くなろうと言うものだ。

 沙織は何が疑問なのだろう。


 沙織は天を仰いで「肯定した上に自覚がないとか……」などとぶつぶつ呟いている。


 成美ほどではないが沙織もたまに奇妙な言動を取ることがある。

 類は友を呼ぶとか言われたくないし、私はそんな事が無いように注意しておこう。

 とか考えていたら、沙織に軽く睨まれてしまった。

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