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近接戦では剣士タイプの方が強いですよ?(仮)&(真)  作者: 墨人
(仮)第二章 夏休み~海魔迎撃戦~
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登校日

地の文での「後城」を今回から「後城先生」に変更します。

一人称文で先生を呼び捨てにするのは桜の性格的に違和感があるためです。

 宇美月学園では夏休みの間に二回の登校日が設けられている。

 八月一日と十六日だ。

 最近は登校日を設けていない学校も多いらしいけれど、宇美月学園はある意味伝統を大事にしているのだろう。

 ところがこの登校日は、実際には登校しなくても良い事になっている。

 さすがは仮想世界の有効活用を図っている学園と言うべきか、夏休みの登校日も仮想世界で実施されるからだ。


 今日は八月一日、一回目の登校日である。


「着衣データの換装はOKっと……」


 PCで開いているsakuraの管理画面では、宇美月学園の制服を着た立体モデルが表示されている。

 制服の着衣データは夏休みに入る前に学園側から配布されたもので、登校日には制服着用のうえ非武装でログインするようにと指示があった。


 サラシも防具扱いだから「非武装」の条件には違反してしまうところだが、これは事前に後城先生に許可を取っておいた。現実でも日常的に着用している事実があるし、外から見えるものでもないので問題無しとの判断を頂いている。

 もしもサラシNGだったら少々恥ずかしい思いをすることになるので、ここは後城先生に感謝しておこう。


 ひととおりの確認を済ませ、ヘッドギアを装着してベッドに横になる。

 これで宇美月サーバーにログインすれば、「登校」できる。


 それにしても、この形式では登校日の意味が無いような気がする。

 夏休み中の登校日というものは、長い休みの中で生徒達に病気や怪我が無いかという安否確認や、非行に走っている者がいないかというチェックの目的を含んでいるはずだ。

 それらは仮想世界では確認できない。

 現実の本人がどんな状況であろうとも、仮想世界に現れるのは登録されているアバターなのだから。

 仮想世界で済まそうという発想自体は、夏休み中はできるだけ生徒を拘束しないようにという配慮からのようだ。例えば忙しい両親がようやく休みを取って、家族旅行でも行こうかという時に、子供が学校の登校日だから行けないとなったらみんながっかりだ。

 その点仮想世界での実施なら、ネットに接続さえできれば旅行先からでも登校できる。

 そんな趣旨らしいのだけど、だったら登校日自体廃止しちゃえば良いじゃないかと、そう思うのは私だけではないはずだ。


 まあ私がどう思おうとも実際に登校日は設定されている。

 気がかりなのは、昨日宇美月サーバーがメンテナンス中でログインできなかったことだが。


 エントリースペースで確認すると、メンテナンスは無事に終わったらしく、宇美月サーバーにも接続可能になっていた。

《このアバターでログインします。準備はいいですか?》といういつものメッセージにYESと入力。


《ようこそ、宇美月学園へ》


 あれ? メッセージが変わっている。

 と怪訝に思っている間にログインは完了した。


「うわぁ……」


 思わず感嘆の声が漏れた。

 目の前に広がるのは見慣れたホールではなく、宇美月学園そのものだった。

 振り向けば学園の正門があって、おそらくはそこが外に出るログアウトするためのポイントだろうと思われる。

 なるほど、ログイン時のメッセージが「ようこそ、宇美月学園へ」と変わっていたのも頷ける。


 これまでにも仮想世界で行う実習の一部で、宇美月学園の施設そのものをマッピングしたフィールドを使ったことはある。でもそれは限定された空間だった。


 これ、もしかして学園全体をフィールド化してるんだろうか。


 正門から見る学園の景色は、本当に現実と変わらなかった。

 建物の連なりやメインストリート沿いの並木、建物の間にあるちょっとした広場や、そこにあるベンチなど、全てが再現されている。

 周囲にいる他の生徒のアバターもみんな制服姿だし、ともすればこれは仮想世界ではなく、現実の登校風景なのではないかと錯覚しそうだった。


 と、思ったら現実と違う部分もあった。

 正門からメインストリートを少し進んだところで、路面を緑色のラインが横切っている。

 先を歩いている生徒がそこで立ち止り、開いたウィンドウを操作すると瞬時に姿が消えた。

 別の生徒はウィンドウを閉じてそのままラインを越えていく。


 何かと思いつつ歩いていき、そのラインを踏んだ途端、《PORTAL》と題されたウィンドウが現れた。《行き先を選んで下さい》というメッセージの下には学園内の主だった施設や各教室のリストが表示されている。


「これって転送門とかゲートとか、そういうのよね」


 RPGで良くある、遠く離れた場所へ移動するためのワープポイントだ。


「ということは……これって本家のシステムを使ってる?」


 広大な世界を冒険する本家のVRMMORPGにはこういった機能があるが、対人戦システムだけを抜き出して作られたCODには「ホール」「控え室」「闘技場」しかないので実装されていなかった。だからこうして《PORTAL》というワープポイントが設置されている、この宇美月学園は本家のシステムによって作りださているのではないかと思えたのだ。


 ウィンドウを閉じて緑のラインを踏み越える。

 時間に余裕はあるし、せっかくなので仮想世界の宇美月学園を観賞しながら教室に向かった。


   ・

   ・

   ・


 歩いて移動を選んだのは失敗だったかもしれない。


 周りには私と同じようにPORTALを利用せずに移動している生徒達がいるのだが、私に対する「振り向き率」が異様に高い。

 今までにも身長のせいで、すれ違いざまに二度見された揚句「でかい」と言われるような場面は多々あったのだけど、今日はなんだか様子が違う。


 なにが違うんだろうと思っていたら、すれ違った女子の集団が引き返して来て「天音先輩、ちょっといいですか」と話し掛けてきた。

 私を知っていて「先輩」と呼ぶのだから一年生なのだろうけど、私を知っている彼女達を私は全く知らない。

 内心で首を捻っていると、一年女子たちが口々に黄色い声を上げる。


「先輩、この間の試合感動しました! 先輩は剣士タイプの希望の星です!」

「初めて見た時から格好良いと思っていました!」

「三条先輩にリベンジするんですか!?」


 まあそんな内容だ。

 その後も何度か同様の事があって、私は事態を理解した。


 怪しい学園長の迷惑な発言のせいで、委員長との試合はかなりの数の生徒が観戦していた。

 そのせいで私もちょっとした学園の有名人になってしまったらしい。


 それは良いとして(目立つのが嫌いな私としてはけして良くはないのだけど)、何故女子ばかりが集まってくるのか。そして何故そんな女子の多くが格好良いと言うのか。


 男前……。


 不吉な単語が脳裏をよぎったような気がする。


 彼女達にも悪気は無いから邪険にもできない。当たり障りのない対応をしながら、教室に辿りついたのは始業時間ぎりぎりだった。


 教室に入ると、クラスメートの視線が私に集中した。

 まさか、ここでも?

 と思う間もなく突進してくる成美がいた。


「桜ー! 久しぶりー!」


 いや、つい二日間にもCODで会ってるから。久しぶりと言うほどでもないでしょうに。

 突進の勢いのまま、成美が飛びついてくる。

 成美の跳躍は高かった。私の眼前に成美の胸が迫ってくる。

 このままではいつかのように成美の胸に顔を埋める結果になってしまう。


 それも良いかな、という誘惑を感じたけれど、さすがにクラスメートの見ている前で成美の胸の感触を楽しむわけにはいかない。そんな事をしたらあらぬ誤解を受けてしまうだろう。

 この場面での抱きつきは回避しなければ。


 師匠から教わった無刀取りを思い出す。

 体を沈みこませながら成美の手を掴み、突進の勢いを利用して頭上越しに投げる。

 もちろん投げ捨てはしない。取ったままの手を引いて勢いを殺し、私の背後にきれいに着地させる。

 そのつもりだったのだが、気付くと私の顔の両側から成美の足が突きだしていた。

 いつの間にか成美を肩車している。


「す、凄げえ。今の霧嶋の動き見たか?」

「速すぎて見えねえって!」

「でもぱんつはちょっと見えたぞ!」


 クラスメートのざわめき。

 どうやら投げられ中の成美が空中で体勢を立て直して私の肩に乗って来たらしいのだが、いったいどんな動きをすればそんな事が可能になるのか。

 ますます成美は侮れない娘だ。


「酷いじゃないのー。いきなり投げるなんてー。久しぶりに会ったのに冷たいんじゃないのー?」


 頭の上から成美の声が聞こえる。

 だから一昨日会ったばかりでしょうが。

 とにかく教室で肩車しているなんて小学生か私達は、と成美を下ろそうとするけど、成美は頑として下りようとしない。


「あの、天音さん」


 悪戦苦闘している私に委員長が困ったように声を掛けてくる。


「委員長……」


 終業式の試合の後、一人反省会のために逃げるように帰ってしまって、その後委員長とはまともに話をしていない。

 ちょっと気まずい。

 気まずいのだが、頭上で騒いでいる成美のせいで、良く判らない雰囲気になってしまう。

 はあ、なんかもう真面目に考えるのが面倒くさくなってきた。


「委員長、この間は私の完敗よ」

「そんな、私も瀕死だったし。本当にぎりぎり勝てただけ」

「そのぎりぎりのところで詰め切れなかったから完敗なのよ」


 負けたのは事実。まずはそれを素直に認めよう。


「でも、次は負けない。もっと強くなって必ず委員長に勝ってみせるわ」

「……私だって、負けないわよ」

「うひゃー、やっぱり格好良いよー」


 私と委員長の視線がぶつかり火花を散らす。

 マンガやアニメならそんな効果が入りそうな場面なのだけど、相変わらず成美が騒がしい。

 

 成美、頭をぺちぺち叩かないで欲しい。


「うおーい、何やってるんだお前ら」


 いつの間にか教室に来ていた後城先生が、私達を呆れたように見ていた。

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