表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/395

ライア:海魔迎撃戦5

 サイレンが鳴り止むと、浜辺の空気が一変していました。

 それまでは、どこか緊張感を漂わせながらもやはりお祭りの場らしい雰囲気もあったのですが、今では完全に戦場のそれになっています。


 長時間を戦う迎撃戦では参加者にローテーションが組まれています。

 待機スタート組の人達が、戦闘スタート組の人達に激励の言葉を掛けながら引き揚げてきました。私達が昼間使っていた海の家も彼らの待機場所として使わますので、もう独占できません。

 まあ、私は重過ぎるのでもう海の家には入れないのですが。


 シシル様とミアは本部近くに縁台を持ちだして腰掛けています。私に付き合って外で待機してくれているのでした。そんな私は縁台にも座れません。剣を砂地に立て、柄頭に両手を置いて立っていると、数人の参加者がやって来ました。


「こんばんは。今年もよろしくお願いします」


 毎年参加していれば、他の常連の方々と顔見知りになります。話しかけて来たのもそんな常連さんです。私が挨拶を返していると、彼は「おや?」と怪訝な顔になりました。どうやら兜から出ている私の髪の色に気付いたようです。さらには私の後ろのシシル様を見てぎょっとしています。


「か、髪が!?」

「これには少々事情がありまして」


 髪色を変えている理由を簡潔に説明すると、彼は「それはまた……」と複雑な感情を表しています。私自身、桜の事はあっても髪の色まで変える必要があるのかと思わないでもありませんので、彼の反応は良く理解できます。でも赤い髪もシシル様に似合っていると思うのです。ただの赤ではなく、宝石のように光沢があってとても綺麗です。


「いや、なんにしろ頼もしい限りです。皆さんが後ろに控えていてくれると安心感が半端ないですからね」


 気を取り直したように言ってくれました。「特にライアさんは存在感が違いますからね」と付け足したのは些か余計な気もします。私の大きさをそんなに強調しないでください。


「あ、そろそろよ」


 幾分高揚した声でシシル様が言いました。

 それにばっちりとあったタイミングで、道路上の後衛部隊が呪文詠唱を開始しています。何基も設置されたサーチライトの光が海上を掃くようにしており、その光条の中に不自然な海面の盛り上がりが無数に観測されていました。


『魔物が海岸に到達します。魔物が海岸に到達します。後衛の皆さん、各々迎撃を開始してください』


 波打ち際から二十メートルくらいまで接近したところで攻撃開始を報せる放送がありました。

 それと同時に、私達の頭上を越えて無数の攻撃魔術が海面に向けて放たれます。


 準備に時間を掛けられる初撃には、いわゆる『溜め撃ち』が多く見られます。通常よりも多くの魔力を投入した最大威力の攻撃魔術が夜空を背景に飛びゆく様はとても幻想的でした。

 それらが着弾した海は幻想的などと呼べる状況では有り得ませんでしたが。


 海からやって来る海魔が相手なので、火属性や雷属性の術が主に使用されており、海面は沸騰しバリバリと放電現象が起こり、恐らくは多くの海魔が巻き込まれて消滅したでしょう。もうもうと水蒸気が立ち上り、視界を遮ります。

 その水蒸気の中に、初撃よりは威力が落ちる通常魔術がさらに撃ち込まれていきます。全くの盲撃ちになりますが誰もそれを咎めません。


 この迎撃戦において、海魔の数がどれくらいかという質問は無意味です。敢えて答えるならば「数え切れないくらい」です。特に海魔が集中する本部付近であれば、「海に向けて石を投げれば海魔に当たる」くらいの密度なのですから、細かな狙いを付ける必要など無いのでした。


「壮観だねー。何度見ても飽きないよ、これは」

「同感同感」


 歓声を上げるミアと、それに応じるシシル様。シシル様の声は高揚を含んでおり、それを隠そうとしてか逆に淡々としています。

 かくいう私も、早く参加したいという欲求を感じていました。

 髪色を変えている影響でしょう。普段よりも好戦的な自分がいます。


 やがて弾幕を潜り抜けた海魔の上陸が始まります。

 波打ち際に到達した盛り上がりがぬうっと立ち上がり、魚と人を混ぜ合わせたような形になりました。


「第三段階からか。例年通りですね」


 同じものを見ていた常連さんが言います。

 海魔は小さな虫のような生物で、単体では力も知能も大した事ありません。これが群れるに従ってパワーアップしていきます。

 単体の場合はのっぺりとした水の柱状になって、これは第一段階です。動きは遅く、本能的に内陸を目指すだけで攻撃もしてきません。数匹が集まると移動速度が上昇し、一応はこちらを敵と認識した動きをするようになります。それでも弱いですが。

 さらに群れて知能を増すと、より戦闘向けの形を取るようになります。こちらの世界での動きやすさを意識した結果なのでしょうが、海中で見た魚類と、迎撃に当たっている人間の形を取り入れた形状になります。これが第三段階になり、体内でぼんやりと光り本体兼弱点は握り拳程の大きさになっています。

 魔物数が多い本部エリアでは第三段階からが通例でした。


 砂浜に待機していた前衛の方々が突撃を始め、ここで本当の意味でのスタートとなります。


 *********************************


 五時間ほど経過しました。


 決められた時間で交代する参加者の人達が前線と海の家を往復しています。

 海魔は数段階のパワーアップを経ていて、今では体を形成する海水の一部を砲弾のようにして飛ばす遠距離攻撃も使ってきます。怪我人も出るようになっていますが、自力では歩けないほどの重症者は出ていません。海の家には治療術士が待っていますので、自分で歩いて治療を受けに行っています。

 他にも海の家では各種の薬を配布しています。

 体力回復、魔力回復、疲労回復などです。後衛の魔術使いも魔力回復薬を求めてやって来ます。無料で配布されるお祭り補助の薬ですから効果もそこそこではありますが、参加者の皆さんには大きな助けになっているのでした。


 それはそれとして……。


「暇ですねぇ」

「ほんとに。そろそろ乱入しちゃいましょうか」

「少しくらいなら良いでしょうか?」

「駄目でしょ! 二人ともしっかりしてよ!」


 シシル様と小声で話していたらミアに突っ込まれてしまいました。いつもは悪乗りしがちなミアが制止役に回るのは珍しいですね。それくらい私たちがそわそわしていたのだとすれば少々反省しなければいけません。


「そうですよ。年に一度の祭りなんですから、俺達の出番を取らないでください」


 近くにいた参加者の人も苦笑交じりに言ってきました。

 結界勤務に耐えられるレベルに達しなかった人達にとって、スキルを思う存分に使える機会はあまりありません。日頃の鬱憤を晴らせる海魔迎撃戦は彼らにとっても貴重なのです。

 後詰として参加している私達には自重も求められます。

 じりじりとした思いを抑えつけて、時間が過ぎるのを待ちます。



 そうしてさらに一時間ほど我慢して、とうとうシシル様が動きました。


「あの辺ヤバそう。フォローに入るわよ!」


 海魔の強さが例年よりも少々上回っているようで、時間経過に伴うパワーアップを経て前線の一部が崩れかけています。その気配にいち早く気付いたシシル様が私達に鋭く声を掛けて走り出しました。

 切迫感よりも、ようやく参加できる安堵感の方が感じられる声でした。

 それは私も同様で、解放感に包まれながら後を追います。

 足場の悪さなど気にしません。砂を蹴立てて全力で走りました。


 海魔は二メートル半ほどの大きさになっています。乱戦の中にいる海魔は近接戦を主に行っていて、水を飛ばす遠距離攻撃は使用頻度が減っていました。

 遠距離攻撃は体を構成する水を使ってしまうので、多用すると自分の首を絞める結果になります。そのような判断ができるくらいまで知能が高まっているのでした。


 知能の高まりはもう一つの光景を生んでいました。

 迎撃側の後衛は砂浜背後の道路上に陣取っていて、今も上陸前の海魔に旺盛な火力をたたき付けています。が、道路の高さや距離の関係で波打ち際は射角が取れません。魔術攻撃に晒される海上と、前衛が迎撃に当たっている砂浜に挟まれた空白地帯と言えるでしょう。

 そんな波打ち際ぎりぎりに何体もの海魔がずらりと並んでいて、次々に水弾や水流を飛ばしています。足元を水に浸からせていて、消費するそばから海水を補充しているのです。


「前衛と後衛の役割分担か。進歩してるね」

「感心してる場合じゃないでしょ。取り敢えず立て直しの時間を作りましょう。ミアは前衛の海魔を片付けて。ライアは私と手分けして後衛をやるわよ」

「おっけー!」

「了解です」


 シシル様の割り振りは的確でした。

 複数の海魔をまとめて倒す手段はシシル様と私にもありますが、乱戦の中で味方に被害を出さず海魔だけを狙うのは難しいのです。


 ミアが素早く呪文を唱えます。


「飛び散るから気を付けてね!」


 呪文に一区切りついたところで周囲の参加者に注意を呼び掛け、完成した術が解き放たれます。瞬時に十体近い海魔が叩き潰されました。文字通り、真上から見えない何かに打ち据えられてペチャンコに潰されています。飛び散る飛沫は微々たるもので、海魔を構成していた水の大半は飛び散る暇も無く砂地に叩きつけられています。


 再度の呪文詠唱も淀みなく滑らかです。それもそのはず。これはミアが最も使い慣れている術なのです。

 鍛冶職人でもあるミアが特殊な金属を加工する際に用いる鍛冶魔術『見えない鎚』です。他にも一人だけども合鎚が必要な時にも重宝するようです。

 鎚の役割を果たすだけに『対象に向けて直上から無属性の打撃を加える』という性質の術ですから、投入魔力を増やして戦闘レベルに調整すれば乱戦の中で海魔だけを狙い打つのに最適です。


 前衛はミアに任せ、シシル様とともに渦中を駆け抜けました。

 途端に後衛海魔からの攻撃の多くが集中してきたので盾を構えて防ぎます。

 どうやら一番近い相手に攻撃を集中するようで、いくら高まろうとも海魔の知能は高が知れると言うものです。そしてこれは好都合でした。私の後ろにいるシシル様や他の皆さんには矛先が向きません。


 シシル様であれば海魔の攻撃を避けるのも容易いのですが、下手に避ければさらに後方の参加者に流れ弾が当たってしまいます。ここは私一人に集中させておいた方が良いのでした。


「ちょっと盾になっててね」


 背後でシシル様も呪文詠唱を始めました。

 もちろん私はシシル様の盾になります。

 前に出て味方を守る盾になる。

 それこそが重戦士の役割なのですから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ