ライア:類似スキル
基本となるスキルを選択するとそれぞれの下位に登録された技や魔術が確認できるようになっています。画面を開いてみると剣術の欄に『剣圧』と『剣圧飛ばし』が、特殊武器の欄に『鉄鎖術』が、それぞれ登録されています。
『剣圧』:剣術スキル。筋力値が規定をクリアしている場合、剣に圧力を纏わせる事ができる。
『剣圧飛ばし』:剣術スキル。敏捷値が規定をクリアしている場合、『剣圧』を射出できるようになる。筋力値と敏捷値によって射程距離が変化。
『鉄鎖術』:特殊武器スキル。鎖を自由自在に操る。鎖にはある程度の太さが必要。
鉄鎖術が登録されているのは少々意外でした。
現実と同じ物理法則は当初から再現されているため、単純な動作としての技はスキルとしての登録はされないと聞いていたからです。無意識の内に魔力を流し込んだりしていたのでしょうか。
ところで、剣圧の項目に『!』という注意を促すアイコンが点滅しています。
「これは何でしょう?」
ミアに訊ねると「詳しい内容はアイコンに触ると出てくるよ」との事。言われた通りにそっと指先で触れてみると小さなメッセージが出てきました。
『類似するスキルが既に登録されています。類似度:中』
「三つしかないのにその内の一つは登録済みだなんて……」
ショックです。
剣圧を実行するためには相当な筋力が必要なのです。『異常筋力』がある私には楽々クリアできる程度はありますが。
逆に言えば『異常筋力』を持たない一般の人がおいそれと使える技ではないと思っていなのです。
「うん? それってシシルちゃんじゃないの? なんて言ったかな……規模は小さいけどそんなような技使ってるの見たことあるよ?」
「あ、そう言えばそうですね」
忘れていました。シシル様が使う剣術にも剣圧を生み出す技があります。私の記憶が確かなら『山津波』という名前だったはず。使う武器が小さな刀であることと、ミアの言うとおり規模が違うので同じ技というイメージはありませんでした。そういった違いが『類似度:中』の理由だと思われます。
ただし、シシル様はまだ登録を終えていませんので、今回このように表示されたのは、恐らく桜が原因だと思われます。引っ越してきてからの短い期間で既にいくつもの技を憶えているようですし、その中に『山津波』もあったのでしょう。
そのように言うと、ミアは驚いたようでした。
「へえ、確かまだ高校生くらいの子だよね。もうあんな事ができるなんて凄いじゃない。どんな子なの?」
「そうですね……真面目で素直な良い子ですよ」
ミアに問われて桜の話をしました。
私に迫るほどの身長であり、中性的な美貌の持ち主。でも本人は女の子らしい女の子に憧れている事。それと最近シシル様の影響で他の女性の胸部に強い関心を寄せている、などです。
「面白そうな子だね」
それがミアの感想でした。長い人生の中で余り出会わないタイプなのは間違いありません。
「そうそう、この仮想世界の件も桜がシシル様に提案したんですよ」
「え? シシルちゃんの思い付きだと思ってた……でも、そうするとちょっと悔しいなぁ」
「悔しい、ですか?」
「うん、どうして先に思い付かなかったんだろうってね」
ミアが言うには、藤田さんから仕事の依頼を受けるようになった三年ほど前からCODに関わっていたそうです。ただ、仮想世界でやっていたのは作成した武具データの検証ばかりで、コミュニケーションツールにしようなんて発想にはならなかったとの事。
これは無理からぬことだと思います。
私やシシル様がバーチャルリアリティーの進歩を全く知らなかったのと同様に、ミアにとっても全く未知の領域だったはずです。戦闘シミュレーターの一種のように紹介されてしまえばそのように思いこんでしまう事でしょう。
その後はシシル様達の登録が終わるまで桜の話題が続きました。
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開始から十五分程度でイリスが、数分遅れてシシル様が登録を終えました。二人ともどれだけのスキルを登録したのでしょう。二分もかからず終わってしまった私とは大違いです。
「ふう、おまたせ」
シシル様はうーん、と伸びをして、早速スキル画面を確認します。「あら?」と声を上げたのは例の類似スキルの表示を見付けたからでした。
「気功の所があらかた『類似度:ほぼ一致』になってるわね。まあ桜ちゃんもやってるんだから当然か」
そんなシシル様に『剣圧』のことを話してみると「ありえるわね」と頷きました。「ライアの剣圧とじゃ威力が全然違うけど仕組みは似てるだろうし」との事です。
「もちろん他の誰かが、って可能性はあるけどかなりハードル高いわね。身体強化に必要な練気量もだけど、全身の筋力を連動させるのは相当剣術のレベルを上げないといけないから」
シシル様によると、気功による身体強化だけでは剣圧を生むほどの筋力には到達できないそうです。ある程度筋力を高めた上で、全身の筋力を連動・集約して初めて『山津波』を撃てるそうで、その為には厳しい剣術の鍛錬を繰り返さなくてはなりません。
気功スキルをメインに据えている人は少なく、シシル様が言う水準で気功と剣術を両立させている人はさらに少ないでしょう。
そのような話をしていると、同じように画面を確認していたイリスが「これは!?」と驚きの声を上げました。いつも冷静な彼女にしては珍しく、私達は興味を引かれました。
注目されたイリスは自分が声を上げてしまった事に初めて気づいたようです。恥ずかしそうにしながら自分のスキル画面を示しました。
「これを見て下さい。『迷宮』に類似するスキルが登録されているとなっています」
「ホントだ。こんなことってあるのね」
「ええ。類似度は極低になっていますが……」
魔術スキルの欄にある『迷宮』には確かに類似スキルありのアイコンが点灯していました。それを目にしていてすら信じられない気持ちです。当のイリスですらまだ受け入れがたい様子なのです。
『迷宮』はイリスだけが使える、『防御型天使』の異名に相応しい拠点防衛用の大規模魔術です。必要な魔力は膨大であり、理解すべき術式は複雑で呪文も長いです。当然私には無理ですが、何も私だけではありません。魔力ではイリス以上のシェリル様やシャールにも無理ですし、イリス以上の魔術知識を持つメリナやフェンルー、ユニエーブでも駄目なのです。
魔力や知識の量ではなく適性の有無。『迷宮』の使用には特殊な適性が必要なのでした。
その『迷宮』に類似のスキルが既に登録されているのです。
類似度が極低ならば、それは似ても似つかない魔術なのでしょうけれど、それを登録した人にはこれまでイリスにしか備わっていないと思われていた適性があるに違いありません。
「これを登録した人に会ってみたいものですね。上手くすれば『迷宮』の使い手を増やせるかもしれません」
イリスが遠い目になっています。
「藤田さんに言えば探してくれるかな。うーん、無理かなー。個人情報保護とかって厳しいらしいし」
ミアが言うとおり、その相手を探すのは難しいでしょうけれど。
それでもイリスは嬉しそうでした。
「縁があれば出会えるでしょう。私だけにしか使えないと思っていましたが受け継げる相手がいるかも知れないと判りました。それだけでもこれをした価値はあります」
そういう事なのでしょう。
現在の結界の状況は、どうしても『侵攻してくる魔族に対する防衛戦』になってしまいますから、防衛という局面で有効な『迷宮』の使い手が増やせれば有利になるというのはもちろんあるでしょう。でもそれだけではなく、これまで共有する他者もなく固有と思われていた術に伝承する相手がいるかもしれないとの希望が生まれたのでした。
もしもそれらしい人を見かけたり、そんな話を聞いたらイリスに報せると約束して今日はお開きになりました。
時間を確認するともうすぐ午後三時になります。
待ち合わせが午前十時でしたから、なんだかんだでもう五時間も経っているのです。全く意識していませんでした。楽しい時間は過ぎるのが速いとも言いますし、それだけここでの時間が充実してたのでしょう。
またの再会を約してイリスがログアウトし、私達もそろそろ引き揚げようという段になって、そこでミアが思い出したように待ったを掛けました。
「ねえ、今回の件なんだけど、アイディアを出してくれた天音さんにお礼をしたいんだけどどうかな?」
「お礼ねえ……実際どうだろ? あ、誤解しないでね。私だって有り難いと思ってるのよ? 話を聞いた時には思わず桜ちゃんを拝んじゃったくらいだし。お礼したいとミアが言ってくれるのは嬉しいの。でも桜ちゃんはあれで慎ましいところもあるから、改めてお礼なんてなったらかえって恐縮させちゃうんじゃないかと思うのよね」
「そうですね。桜なら全力で遠慮しそうな気がします」
なぜでしょう。慌てふためく桜を容易に想像できます。
「全力で遠慮ってなんなの。でも素直な子なんだよね? だったら素直に受け取らないかな」
「素直というのはそういう意味ではありません。それに桜本人はそれほど大それた事をしたとは意識していないでしょう」
「でしょうね。途中から妙に熱く力説してたけど最初はほんとにただの思い付きだったみたいだし」
「や、だからその思い付いてくれたってのが重要なんだってば。些細な事だとしても、それが無かったら永遠に気付けなかったかもしれないんだよ? 私達全員揃って会うなんてもう無理だと思ってたけど、それができる環境を作れたのは天音さんのお陰でしょ?」
「それは判っているのだけど……」
ミアが言っている事はシシル様も承知しています。承知しているからこそこのサーバーを作ったのですから。
「貰えるものは貰っておけば良いくらいの軽い感じでシシルちゃんから取りなしておいてくれないかな?」
「判ったわよ。そうだ、せっかくなら刀を用意してくれない? 仮想世界での話だけど、桜ちゃん、この間刀を折ってるらしいのよ。今使ってるのは市販の工業製品だから、もうちょっと良い物に変える頃合いだと思うの」
シシル様は桜が使っている刀について細かくミアに伝えました。長さや重さ、バランスなど、いきなり大きく変わると大変ですから、できるだけ近い物を用意できるようにです。さらに桜は修行中の身なので、強過ぎるものは避けるようにと付け加えました。
ミアが本気を出すととんでもない効果を付与してしまいそうですから、そこを心配したのでしょう。
そのような話になって今度こそログアウトとなりました。
現実世界に戻ってみれば桜も既に戻っており、ミアのお礼の件を伝えると案の定桜は遠慮していましたが、ミアに頼まれた通りにシシル様が言いくるめました。
そしてその夜、バイク便で桜に新しい刀が届いたのです。




