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ライア:スキル登録

 中東某国の砂漠地帯にある二号結界に魔族侵攻の兆しありとは連日ニュースなどで報じられている通りです。現状についての報告が結界長を務めているシャールからありました。


 大戦終結から今日まで、結界では『穴』を境界として魔界と睨み合い、魔族や魔獣が侵入してくれば撃退してきました。これまではいずれも少数――斥候だと考えられています――でしたが、ここ最近『穴』から漏れ出てくる気配からすると、多少纏まった人数が予想されるそうです。そのため二号結界では警戒レベルを引き上げ、いつ魔族がやって来ても良いように備えています。


 これはもどかしい状況ですね。

『穴』とは呼ばれていても向こう側が覗き見れる類の穴では無いので、目で見て相手の様子を確認というわけにはいかないのです。


 とは言え、幸いな事に二号結界にはもう一人エルダーが常駐しています。さらには龍鳳と魔術統合機構が有事の際の増援態勢を整えるとの話もありました。龍鳳の格闘術使いは近接戦の専門家、魔術統合機構の魔術使いは遠距離戦の専門家です。この両者が駆け付けるとなればいざという時も安心でしょう。


 そのように現状とこれからを話し合い、その後多少の雑談を経て、シャールは名残惜しそうにしながらもログアウトしていきました。やはり自分の結界が心配なのですね。これを潮時と感じたのか、芳蘭と睡虎の龍鳳組、メリナとフェンルーの魔術統合機構組も帰っていきます。

 藤田さんに頼まれたスキル登録は折をみてやっておくとの事でした。

 みんな忙しそうです。もっとゆっくりしていけば良いのにとも思いましたが無理に引き止めるのは良くないです。


 残ったのはシシル様と私、ミアとイリスです。


「イリスは大丈夫なのですか?」

「はい。四号結界は今のところ平穏です。もちろん、何かあれば外部からの操作で強制的に戻すようにと言ってありますが」


 私の問い掛けにイリスは「大丈夫です」と請け合ってくれました。


「それなら私達だけでもスキルの登録をやっちゃいましょう」


 善は急げとばかりにシシル様が提案しました。イリスともども賛成です。するとミアが「だったらボクがナビするよ」と言ってきました。


「作った武器のデータを検証したりで以前からCODはやってたから。スキルの登録とかはもう終わってるんだ。ヘルプ見なくてもボクが教えるからね!」


 なんだかミアが頼もしいです。それは良いのですが、なんだか知らない単語が出てきました。CODとは何でしょう?


「んん? CODは『決闘者の闘技場』の略称だよ。コロッセオ・オブ・デュエリストの略でCOD。ユーザーレベルで決まったっぽくて藤田さんとかメーカーの人はまだ使ってないかな。でもすぐに定着すると思うよ。言いやすいからね」

「そうですね。私もそちらの方が言いやすいです」


 イリスがふむふむと頷き、そのまま「ふむ?」と首を傾げました。


「シシル様、略称で思い出しましたが、このサーバーの名前、『FSサーバー』のFSも何かの略称なのですか?」

「あー、それね……」


 シシル様が少し申し訳なさそうな顔になります。

 ……それにしてもイリスが様付けで呼ぶのはスルーしていますね。私が様付けすると即訂正が入るのですが。様付けさせてくれないと悲しむべきなのか、呼び捨てにしても良いと言われているのを喜ぶべきなのか。昔通り様付けにしたい私としては微妙なところです。


「FSはここの名前なのよ」


 ミアとイリスと私、三人揃って首を傾げてしまいました。このサーバーの名前の由来を訊ねているのに、その答えが「ここの名前」とはどういうことでしょう?


「ああ、違う違う。ここっていうのは、この国の名前ってことよ」


 言って、シシル様はお城や街をぐるりと手で示します。


「『四人の魔人に統治された国』に似た言葉を探したら『四姉妹フォーシスターズ』というのがあって……ちょっとイメージ違うけど響きが気に入ったからそれをね。別にラシュマーや龍鳳を蔑ろにしたわけじゃないわよ?」

「気になさらないでください。ここと同じようにラシュマーも再現されているそうですし。シシル様が主催者なのですからそれくらいでとやかく言う者はいません」


 四姉妹。

 小説のタイトルだったでしょうか。そちらはうろ覚えですが、義姉妹という強い絆に結ばれた四人の魔人によって治められた小さな都市国家の名としてはとても相応しく思えます。

 姉妹の半分はもう帰らぬ人になってしまいましたが……。


「ラシュマーもここと同じようにハリボテだけれどね」


 ラシュマーはイリス達『天使』の生まれ故郷です。FSサーバーログイン後に出ていた三つの選択肢は上から順に『フォーシスターズ』『ラシュマー』『龍鳳』となっているのです。もっとも龍鳳はまだ閉鎖されています。データを提供したアリアンはこれまで龍鳳を訪れた事が無かったからです。


 目にした光景を完全に記憶し、その記憶を電子データに直接変換できるのがアリアンの能力の一つです。今、アリアンは龍鳳に行っています。フォーシスターズとラシュマーについては現存していた当時の記憶頼りのため穴だらけ(普通に訪れて隅々まで細大漏らさず見て回るなんて有り得ませんから、これは仕方ありません)なので、せめて龍鳳だけは完全再現しようと、凄い勢いで山中を歩きまわっているとの事でした。


「はいはい! ちょっと湿った雰囲気やめようよ! スキル登録するんでしょ!」


 往時を思い出してしんみりと仕掛けたところを、ミアの明るい声が掬い上げてくれました。

 シシル様も「そうね」と頷きます。エルダーであれば大事な人や仲の良い相手に先立たれるのは避けて通れない道です。軽んじるつもりは毛頭ありませんが、そこは割り切っていかないと立ち行かなくなります。


「じゃあまずは基本スキルの登録からだね」


 藤田さんから聞いた説明とミアのナビに従い、メニューを操作していきます。

 CODでは剣術や魔術のような基本スキルをまず登録し、これによってそれぞれの基本スキルに属する術や技が使用可能になります。先刻の藤田さんの説明では、既に登録されている魔術は誰にでも使えるとの事でしたが、それも基本スキルとして魔術を登録していなければなりません。


 さて、スキルの登録方法ですが、これは思考入力による自己申告だそうです。

 藤田さんの言を引用しますと「自分の能力を最も良く知っているのは自分自身です。ただ自意識を介すると、どうしても過大評価なり過小評価なりをしてしまいます。ですから意識の深い部分、無意識の部分への問い掛け・回答によって思考入力を行います」だそうです。俗な言い方をすれば催眠状態にして嘘を吐けないようにする、というところでしょう。

 ……正直なところ理解しきれませんでした。ヒュプノシス系の魔術を応用していると言われて、そんなイメージをしたくらいです。


 まあ仕組みを理解していなくても結果は変わりません。

 三人揃って『基本スキル登録』のボタンを押しました。


 すうっと意識が遠のくような感じがしました。立ち眩みに似ています。登録中は姿勢が固定されるのか、ふらつくこともありませんでした。さして時間もかからず意識がクリアになると、自動的にステータス画面が開き、そこには私の基本スキルが表示されています。


 剣術Lv29 特殊武器Lv18 魔術Lv9 魔人 異常筋力


 剣術、特殊武器、魔術は良いです。魔人も判ります。

 でも異常筋力って……。

 確かに私の筋力はアレですが、改めて『異常』と明記されてしまうと悲しいですね。自己申告だから誰を責めようも無いのが余計に悲しいです。


「お? やっぱりライアにはユニークスキル出てるね。って、異常筋力!? ぴったりじゃない!」

「み、見ないでください……」

「隠すことないじゃない。ほら、ボクのも見せてあげる。ボクにもユニークスキル出てるよ」


 レベル表記の無いスキルは、訓練などでは修得できない特別なものとして『ユニークスキル』と呼ばれるそうです。私の『魔人』と『異常筋力』がそれで、ミアのほうには『超再生』となっていました。元吸血鬼の不死性を支える回復力がそのように表されているのでした。


 基本スキルを登録したら、次は下位スキルとして魔術や技を登録します。


「こっちはかかる時間に個人差がでるからね。単純にレパートリーが多いとそれだけ登録にかかる時間が増えるってことで。ボクでも十分近かったからシシルちゃんとイリスは気を付けた方がいいかも。基本スキル単品毎にもできるから分割する?」

「いえ、急ぎの用も無いし、ここはまとめてやっちゃいましょう。あ、でもイリスは無理しないでよ?」

「私も大丈夫です。せっかくですからご一緒します」


 何となく疎外されたように感じながら下位スキルの登録ボタンを押しました。再びやってくる眩暈にも似た感覚。

 そして……。


 二分かかりませんでした。


「ありゃ?」


 ミアが驚いています。目を瞑った状態でアバターを作っているためそのままでしたが、現実世界であったら目をまん丸に見開いていたことでしょう。


「もう終わっちゃったの?」


 そういうミアに他意はないのでしょうけれど、その言葉はぐさりと私の心に突き刺さります。


「……意地悪を言わないでください。芸が無いのは判っているんです……」


 どうせ私は異常筋力頼みの重戦士なのです。シシル様やイリスのように多彩な魔術を操ることなどできません。純粋な戦闘職ではないミアですら十分近かったというのに私ときたら……。


「ちょ……そんな沈み込まないでよ。私が苛めたみたいじゃない! そうだ、私の術あげるから! ほらほらこれなんかどう?」


 己の非才を思い知らされていたら、ミアが自分のスキル画面からいくつかのウィンドウを開き、私のスキルウィンドウに押し込んでしまいました。ウィンドウには呪文が記述されていて、それを見ながら練習することによって、魔術を『伝授』されたことになるそうです。


「うう……良いのですか?」

「構わないよ! ライアが強くなってボクが困る事なんてないもの! だから機嫌直してよ、ね?」

「……ありがとうございます」


 ミアの優しさが身に染みます。なので一部のウィンドウに『必要魔力:レベル10以上』とか『必要魔力:レベル16以上』とかあったのは見なかった事にしておきます。


 シシル様とイリスはまだまだ時間がかかりそうです。

 今の内にどんなスキルが登録されたのか確認しておきましょう。

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