表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/395

藤田:エルダー集合

 私も男である。

 美女同士の戯れも、これがモニター越しなのであれば眼福とばかりに有り難く頂くところだ。が、さすがに目の前でやられてしまうと、ここにいる自分が場違いなような居心地悪さと気恥かしさでかえって正視できない。


 被害者? のライアさんは困惑しつつも二人を振り払えないでいる。なんだろうか。エルダーの中での力関係のようなものが関係しているのだろうか。

 だとすれば、そんなライアさんを放置しているのは可哀そうだし、第一このまま放っておいたらシシルさんの言う「不思議な事」がまた起こってしまう。


「それです! それがメッセージウィンドウです! 判りましたからもう止めて下さい」


 そのように制止すると、シシルさんとミアさんは少しだけ残念そうにしながらも悪戯を止めた。


「それは警告メッセージです。仮想世界内で禁止されている行為に対して表示されます。黄色の枠はハラスメントコード違反の警告で、警告に従わずに行為を継続すると強制ログアウトされるんです」


 こういった機能はほとんどのVRコンテンツに実装されている。五感が再現される仮想世界では現実世界と同じように痴漢行為が成立してしまうからだ。これは主に女性プレイヤーを保護するための機能である。

 その辺りを説明すると、ライアさんが不思議そうな顔になっていた。


ハラスメントいやがらせですか? いえ、シシルやミアに触れられるのは嫌ではありませんが……」


 え!? 嫌じゃないんですか!?

 ……ああ、そう言えば。シシルさんとライアさんは二人揃って強制ログアウトになっている。お互い合意の上で妖しげな行為に耽っていたのだ。カウントダウンが同時にゼロになったのならそういう事だろう。

 それが他愛の無いじゃれ合いなのか、もっと深くて同性愛的ななにかなのか……そんな事は怖くて聞けない。


「嫌というなら、むしろそれを男性に見られてしまった事の方が嫌です」

「そうだよね。だったら藤田さんの方に警告出すべきじゃない?」

「……それは無いでしょう」


 勝手にやっておいて酷い言いがかりである。

 それにしてもシシルさんもライアさんも私の持っていたエルダーのイメージからは掛け離れている。ログイン前に感じていた緊張はなんだったのかと、そう思わざるを得ない。

 もっと威厳に溢れていて、正面に立てばこちらの肝が縮みあがる様な圧倒的な存在感を想像していたのだ。

 まさかこうも話しやすい相手だとは思いも寄らなかったためか、ついその点を口にしてしまった。するとシシルさん達は「え?」と驚いた顔をする。


「藤田さんはエルダー相手にも物怖じしない豪胆な人だと聞いていましたが?」


 シシルさんに問われ、今度は私が「え?」となる番だった。

 何の事だ? と本気で思い、そこでなにやら存在をアピールしているミアさんに気付いた。

 ああ、そう言えば彼女もエルダーだった。


「いえ、それは私が豪胆なのではなく、そう感じさせないミアさんが……その、凄いのでしょう」

「……凄く子供っぽいと言いたいの? ねえ、そうなの、藤田さん」


 ミアさんが不満そうにしている。彼女はいつでも自分の感情を素直に出してくる。社会人であれば内心はどうあれ外面を気にして愛想笑いの一つでも浮かべるべき場面であっても、本当に嫌そうな顔で「嫌」と言ってしまう人なのだ。仕事の交渉で何度もやられている。それでも憎めないのは仕事を受けるか否かを職人として判断しているのと、満足のいく結果が出れば全身で喜びを表現してくれるからだ。彼女の喜びようは見ている周囲の人間まで幸せな気分にしてくれる。


 別にミアさんもエルダーだという事実を忘れていたわけではないのだが。

 現に私の脳内のエルダーデータベースには彼女の名も記されている。


 ミア・フィスティス、系統は『元吸血鬼』。

 戦闘能力では他のエルダーに劣るものの、鍛冶職人として優れた武具や道具を生産できる。もともとは道具類――いわゆるマジックアイテムの製造を主にしていたらしいのだが、現在では武具も含めて幅広く扱っており、総じて高品質なそれらは『猫印』として広く知られている。それ以上の武具は彼女の師匠にしか作れないので、文句なく世界二位の鍛冶職人と言えた。

 ただし、アクセサリーのような小さな物品に関してはミアさんの方が得意らしい。


『元吸血鬼』という系統はミアさん本人から聞いた。

 吸血鬼はメジャーだから説明の必要は無いだろう。伝承や伝説に残るスタンダードな吸血鬼をイメージすれば良い。そこから陽光や大蒜などの弱点と、吸血行為に関する全般を除いたのが『元吸血鬼』だそうだ。血を吸わないのならもう吸血鬼ではないから『元吸血鬼』と言われれば納得するしかない。

 ただし吸血鬼という伝承自体が、昔彼女達を見た人々が作り出したもので、本人たちは夜にしか出歩けない体質を指して、単純に『夜行者』と呼んでいたそうだ。


 少しばかり拗ねてしまったミアさんを宥めていたら、城門で次々にアバターが実体化を始めた。

 時刻は十時。

 世界各地からエルダー達が集まってくる。


 *********************************


 現れたエルダー達はシシルさん達に挨拶をしている。私がいる事は予め知らされていたから「なんだこいつは?」的な視線は向けられずに済んだ。


 最初に現れたのは黒髪の男女。

 世界最大の格闘術流派『龍鳳』の幹部である芳蘭と睡虎スイコ。『仙人』である。

『龍鳳』は気功を主軸にした格闘術であり、さらに仙人は特殊な武具を用いて独自の仙術を使用する。広範囲攻撃の派手な術は無いものの、近接戦では無類の強さを発揮する。

 ちなみに睡虎は目を閉じている。糸目とかではなくて完全に目を閉じている。


「キャラが被ってるなんて思ってないでしょうね?」


 ボソッとミアさんが言ったので慌てて否定する羽目になった。

 正直、やはり被っていると思ってしまったからだ。


 次は女性の二人連れ。

 魔術統合機構創設者の内の二人、メリナ・マークエインとフェンルー・ソザイレル。

 系統は『魔人』。

 エルダーの中でも特に魔術に秀でており、現在主流になっている基準魔術は彼女達が開発したものだ。

 メリナは普通に美少女に分類できる。一方のフェンルーはどことなく野性味溢れる感じがした。

 挨拶の傍ら、フェンルーはひょいと片手を上げた。声は出していなかったが気軽に「やあ」というような感じで、その相手はミアさんだった。ミアさんも普通に声を出して「久し振り」と手を上げ返していた。「彼女は同郷なの」と言っていたので、エルダーの中でも特に仲が良いらしい。


 三番手と四番手は女性が一人ずつ。

 白人の肌色に日本人並に黒い髪のイリス・ノイエス。

 褐色の肌に銀髪という不思議な取り合わせのシャール。

 二人とも系統は『天使』。

 イリスは四号結界の結界長だ。物静かな印象はライアさんと共通するものの、こちらは理知的な雰囲気を漂わせていて、細い眼鏡をかけてクイクイとさせたらとても様になりそうだ。お堅い印象に違わずと言おうか『防御型天使』の異名を持っており、これは三号結界の結界長フェリア・インスタスの『攻撃型天使』と対になっている。

 シャールは二号結界の結界長で、異名は『黒翼』。何となくわくわくする語感だ。

 それにしても褐色の肌に銀髪という取り合わせは素晴らしい。機会があったら使ってみたい配色である。


 さて、九人のエルダーが一堂に会したわけだが、先ほどから困ったことになっている。

 エルダー達が口にしている言葉が全く判らない。エルダー達は広く海外から集まって来ているのだから日本語が通じないのは予想していて、当然の備えとして翻訳アプリも用意していた。今も視界の端には翻訳アプリ稼働中を示すアイコンは表示されている。ついでに翻訳不能を示すエラーメッセージも表示されていた。

 現行の翻訳アプリでも世界の大部分の地域をカバーできるはずなのだが……。


「********、************。***? *****」


 ミアさんまでがその翻訳できない言葉で喋っていた。何か私に話を振ったらしいのだが何を言っているのかチンプンカンプンだ。いきなり異世界に放り込まれてしまったような不安が沸き起こってくる。


「*****……あ、そうか。みんな、藤田さんにも判るように今の言葉で喋って」


 私の事情を察してくれたミアさんが途中から日本語に切り替えてくれた。他のエルダーも言葉を切り替え、翻訳アプリのエラー表示が消える。


「ごめんね。さっきのは昔使われていた共通語なの。全員で普通に話せるのってあれしかなくて」

「いえ、ありがとうございます。そういう言語があったんですか。便利だったんですね」


 ミアさんにお礼を言いつつ、共通語なるものに興味をひかれた。

 エルダー達の外見的な特徴からすれば出身地はバラバラだろう。昔はどこに行っても通じる共通の言語があったらしい。現在では英語が一応の共通語として認識されているが、それでも話せない人、通じない地域は多い。


 言葉の問題が解決して、そっと安堵の息を吐く。あのまま言葉が通じなかったら、私がこの場に同席させてもらった目的にも支障を来すところだった。

 そうして落ち着いて九人のエルダーを見てみる。

 男女比がおかしいような気もするが、これは仕方ない。『魔人』に一人と『仙人』に数人確認されている以外、他のエルダーは全て女性なのだ。

 さらに言うと美形率が異様に高い。いや、率が高いというのは控え目過ぎる表現だ。なにしろ種類は違えど全員が美男美女。この中では比較的平凡なミアさんですら、真面目な顔をしていれば十分に美女の範疇に入る造形だ。


 こうなると偏った男女比が幸いである。

 美男に囲まれては劣等感しか湧いてこないが、美女に囲まれる分にはある種の幸福感すら湧いてこようというもの。唯一の男性である睡虎さんの事は極力考えないようにしておこう。


「改めてご挨拶させて頂きます。この仮想世界『決闘者の闘技場』の開発、管理運営を担当する藤田と申します。今日この場に同席させて頂いたのは、エルダーの皆さまにお願いしたい事があったからです」


 改めて挨拶をする。

 エルダーの皆さんが予想以上にフレンドリーなお陰で当初の緊張はすっかり抜けている。

 ここからが本番だ。

『決闘者の闘技場』をさらなる完成度にするため、私は『お願い』をする。

次回から視点キャラをライアに戻します。

藤田さんはエルダーを客観的に紹介するために視点キャラにしました。昔からの知り合いの筈のライアが延々と今回のような内容を語るのは不自然だと思えたからです。


 いきなりキャラが増えた! と驚かれるかもしれませんが、既に登場している以外で今後も出てくるのはイリスとメリナだけです。他は憶えて無くても大丈夫。



・おまけ的に他のエルダーも紹介。


シェリル・ランカスター:系統『天使』・異名『大』(つまり『大天使』です)。一号結界の結界長。


エルミザード・スマイズ:系統『元吸血鬼』・世界一の鍛冶職人(ミアの師匠です)。スマイズは鍛冶職人の称号みたいなもの。


龍鳳:系統『仙人』・格闘術流派『龍鳳』の総帥。


ハシム・セイガル:系統『魔人』・シャールと親密な間柄で一緒に二号結界にいる。


ユニエーブ・カーソン:系統無し・魔術統合機構創設者の一人。他のエルダーは元人間だが、ユニエーブは生まれながらのエルダー。


アリアン:系統無し・マップデータを持ち込んで文字化けの原因を作った人。



 シシル含めて全てのエルダーは「前回の魔族との戦い」の話のキャラで、他にもいましたが生き残れたのがこれだけ、という設定です。そちらの話もできれば書きたいところです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ