⑧
翌朝。
セラはいつもより早くフィンリスを出た。
今日は依頼を入れていない。
昨夜までは実家へ帰るつもりもなかった。
けれど朝、鎖刃を手に取った時。
昨日の光景が、また頭に浮かんだ。
『リベル!』
戻ってくる刃。
その軌道上にいたリベル。
《流律》で勢いを殺した。
それでも止まり切らなかった。
裂けた服。
腕から流れた血。
「…………」
セラは足を止めそうになり、前を見る。
大丈夫だった。
傷は浅かった。
リベル自身もそう言っていた。
それでも。
手にはまだ、刃が何かを掠めた感触が残っている気がした。
腰へ視線を落とす。
昨日の岩場で使ったせいか、金具のいくつかには細かな傷も増えていた。
自分でも簡単な手入れくらいはできる。
けれど。
「……一回、見てもらお」
どうせなら、きちんと見てもらいたかった。
向かう先は、フィンリスから街道を歩いて三時間半ほど。
セラが生まれ育った小さな町――ローネ。
見慣れた道の先に、小さな町が見えてくる。
大きな城壁も、立派な門もない。
街道沿いに低い家々が並び、その間に食堂や雑貨屋、木工所、鍛冶屋が点々と建っているだけの小さな町だ。
フィンリスへ向かう荷車が通れば誰かが声を掛け、見慣れない旅人が歩けば子どもたちが遠巻きに眺める。
セラにとっては、それが昔から変わらない故郷だった。
「おや、セラじゃないか」
町へ入ってすぐ、道端で野菜を並べていた老婆が顔を上げた。
「今日は帰ってきたのかい?」
「うん。武器見てもらいに!」
「ちゃんと親にも顔見せなよ」
「見せるって!」
大きく手を振り、そのまま街道から細い道へ入る。
しばらくすると、聞き慣れた音が聞こえてきた。
カン――。
カン――。
少し間を置き、また一度。
重い金属音が町の中へ響く。
その音を聞いた途端、セラの歩調がわずかに緩んだ。
「……やってるやってる」
自然と口元が緩む。
鉄と火。
煤と油。
幼い頃から何度嗅いだか分からない匂いが、家へ近づくにつれて濃くなっていった。
木造の家屋に、大きな作業場が横から繋がっている。
店先には修理待ちの農具や鍋、荷車の金具。
壁際には数本の剣まで立て掛けられていた。
「ただいまー!」
声を張る。
鍛冶場の奥から、槌の音が止まった。
「……朝からうるせえと思ったら、お前か」
煤のついた腕を布で拭きながら、父が顔を出す。
「ただいま!」
「急だな。帰るなんて言ってなかっただろ」
「昨日は帰るつもりなかったもん」
「じゃあ何しに来た?」
「これ」
セラは腰の鎖刃を持ち上げた。
「ちょっと見てほしくて」
父の目が、すぐ職人のものへ変わる。
「貸せ」
「はい」
鎖刃を渡したところで、家の奥から母も顔を出した。
「あら、セラ」
「お母さん、ただいま」
「珍しいわね。こんな朝から」
「ちょっと武器見てもらおうと思って」
「それだけ?」
「……それだけ」
母が一瞬だけセラを見る。
けれど、何も言わなかった。
父は鎖を一つずつ指で送り、刃先と金具を確認している。
「……派手に使ったな」
「分かる?」
「誰が作ったと思ってる」
「さすがお父さん」
「褒めても修理代は取るぞ」
「娘から取るの?」
「材料はただじゃねえ」
「そこは親子価格で」
「値切るな」
「商人みたいになってきたわね」
母が呆れたように笑う。
セラも少し笑った。
そんなやり取りをしている間にも、父の手は止まらない。
やがて鎖の一部を持ち上げる。
「大きな歪みはない。刃も研ぎ直せば十分だ。昼までには終わる」
「ほんと?」
「ああ。置いてけ」
「お願い」
セラは素直に鎖刃を預けると、作業台の脇にある古い椅子へ腰を下ろした。
そこから見える景色は、昔とほとんど変わっていない。
炉。
金床。
壁に並ぶ工具。
店先から差し込む陽の光。
そして、黙々と金属へ向き合う父の横顔。
小さい頃から、セラはこの場所が好きだった。
鍛冶場だから、というだけではない。
ここにはいつも、知らない世界がやってきた。
◇
「ねえ、それ何?」
まだ幼かった頃。
工房へ入ってきた旅人が抱えていた黒い石を見るなり、セラは作業台から身を乗り出した。
「おい、セラ。客の邪魔するな」
「邪魔してない。聞いてるだけ」
「それを邪魔って言うんだ」
「いいよいいよ」
旅人は苦笑しながら、袋から拳ほどの石を一つ取り出した。
「北の山で採れる鉱石だ」
「北?」
セラの目が一気に輝く。
「どのくらい北?」
「ここからなら……歩きだけで何日もかかるな」
「何日?」
「セラ」
父の声が飛ぶ。
それでも止まらない。
「山って高い? 雪ある? 定相種いる? 何食べるの?」
「最後は何の話だ?」
「旅してる時」
旅人が声を出して笑った。
そんなことは、一度や二度ではなかった。
南の湿地を越えてきた商人。
遠くの都市で使われている武器を持ち込む冒険者。
見たことのない鉱石。
妙な形の果実。
定相種の素材。
海の話。
雪山の話。
フィンリスより、ずっと大きな街の話。
セラにとって世界は、いつも工房の扉から入ってきた。
話を聞くたびに、その扉の向こうがもっと知りたくなった。
「ねえ、お父さん」
「今度は何だ」
「海、見たことある?」
「あるぞ」
「えっ?」
「昔、一度だけな」
「ずるい!」
「何がずるいんだ」
「お母さんは?」
「私はないわよ」
「じゃあ一緒に行こうよ!」
幼いセラが両親を見比べる。
母は少し困ったように笑い、父は作業中の鉄から目を離さなかった。
「店どうすんだ」
「閉めればいいじゃん」
「何日閉める気だ」
「海見るまで」
「潰れるわ」
「ええー……」
本気で不満そうに頬を膨らませる。
しばらくしてから、セラはふと顔を上げた。
「……じゃあ、私が行ってくる」
「どこに?」
母が聞く。
「全部」
「全部?」
「世界中」
父の手が止まった。
母も目を丸くする。
けれどセラだけは、何がおかしいのか分からないという顔をしていた。
「私がいっぱい見てくる。お母さんが見たことない海も、お父さんが行ったことない場所も」
小さな両手を目いっぱい広げる。
「帰ってきたら全部話す。持って帰れそうなものは持って帰る」
父と母が顔を見合わせた。
「……全部持ってきたら家が埋まるぞ」
「じゃあ工房広くしよう」
「お前が金出せ」
「大人になったら出す」
迷いのない返事に、今度は母が吹き出した。
「じゃあ楽しみにしてるわ」
「うん!」
セラは満面の笑みで頷いた。
それが、ずっと変わらない夢になった。
◇
世界へ出るなら、自分の身を守れなければならない。
冒険者になりたいと言い始めた頃、セラは家にある武器を片っ端から試した。
剣。
槍。
短剣。
投擲武器。
使えないわけではない。
特に投げたものへ《流律》を使うのは相性が良かった。
けれど、どれもしっくりこなかった。
「もっとこう……ずっと動いてるやつないの?」
「知らん」
「鍛冶屋なのに?」
「鍛冶屋を何だと思ってんだ」
そんなある日。
荷車の修理に使う鎖が、工房の床へ置かれていた。
セラは何となく、それを持ち上げた。
「重っ……」
腕を振る。
先端が床を擦りながら遅れてついてくる。
もう一度。
今度は少し大きく。
鎖が弧を描く。
その動きへ、無意識に魔力を通した。
勢いを――残す。
鎖が、思ったより長く回り続けた。
「……ん?」
「セラ」
父の声がした。
「もう一回やれ」
「え?」
「今のだ。もう一回」
いつの間にか、父は作業を止めていた。
言われるまま、もう一度鎖を振る。
回る。
《流律》で、その勢いを維持する。
腕だけで動かしていた時よりも、鎖の先が大きく外へ伸びた。
父の目が細くなる。
「……なるほどな」
「何?」
「ちょっと待ってろ」
「何するの?」
「作りたいもんができた」
そこから先は、失敗ばかりだった。
一つ目は重すぎた。
「重い!」
「振れ!」
「無理!」
「鍛えろ!」
「作り直して!」
横で見ていた母が呆れた声を出す。
「作り直してあげなさい」
「……分かったよ」
二つ目は長すぎて、セラ自身が鎖に足を取られた。
三つ目は刃が大きすぎた。
四つ目は軽すぎて、《流律》で勢いを強めた時に軌道が安定しなかった。
父が作る。
セラが試す。
また直す。
母が二人へ食事を持ってきて、「今日はもうやめなさい」と怒る。
それでも次の日には、また始める。
何度も繰り返した。
そしてようやく、自分の身体に合う一本が完成した日。
町外れの空き地で、セラは深く息を吸った。
腕を振る。
鎖が伸びる。
魔力を通す。
速度を残し、そのまま身体を回す。
銀色の軌道が大きな円を描いた。
一周。
その勢いを殺さず、反対側へ流す。
腕の力だけで振り続けなくても、鎖が身体の動きについてくる。
最後に《流律》を弱め、自分の手で勢いを逃がす。
鎖が地面へ落ちた。
静かになる。
「……これ」
セラは振り返った。
瞳が輝いていた。
「これがいい!」
父は腕を組んだまま、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「なら、使いこなせ」
「うん!」
セラは鎖を持ち上げる。
あの日から、その鎖刃はずっとセラの武器だった。
◇
冒険者になった時。
セラは、一人でやっていくつもりなんてなかった。
「よろしく!」
最初に組んだ冒険者たちへ、いつものように笑って手を差し出した。
「先に言っとくね。私、鎖使うから、戦う時はちょっと離れて」
「鎖?」
「これ」
腰の武器を見せると、相手は少し驚いた。
「珍しいな」
「でしょ?」
「まあ、間合いだけ分かれば大丈夫だろ」
「うん」
嬉しかった。
一緒に依頼を受ける。
道中で話す。
昼になれば同じ場所へ座り、食事をする。
定相種が出れば、互いに声を掛け合いながら戦う。
「セラ、右!」
「分かった!」
仲間が敵を押さえ、セラが外から鎖を通す。
依頼が終われば。
「今日は早かったね」
「お前が張り切りすぎなんだよ」
「早く終わったんだからいいじゃん」
そんなことを言いながら帰った。
楽しかった。
世界へ出ることも。
誰かと一緒に歩くことも。
セラが想像していた冒険者の生活は、ちゃんとそこにあった。
だからこそ。
あの日のことは、今でもよく覚えている。
◇
「後ろ!」
声が飛んだ。
定相種が、予想より早く向きを変えた。
セラはすでに鎖を振っていた。
軌道を変える。
敵を追うため、勢いを強める。
その瞬間。
別の仲間が、同じ敵へ横から踏み込んだ。
「待っ――」
声より先に、鎖が通った。
刃そのものではなかった。
それでも高速で戻ってきた金具が腕へぶつかり、仲間の身体が大きく弾かれる。
鈍い音。
落ちる武器。
裂けた袖。
血。
セラの手から、力が抜けた。
「……え」
すぐには声が出なかった。
仲間が傷口を押さえる。
「大丈夫!?」
ようやく足が動いた。
鎖を放り出すように手を離し、駆け寄る。
「ごめん……!」
血を見た途端、顔から色が引いた。
「ごめん、本当に……」
「大丈夫だって。腕だし、致命傷じゃない」
「でも……」
「俺が入ったのも悪かった。まず依頼終わらせよう」
責められなかった。
だからこそ、余計に苦しかった。
その夜は眠れなかった。
目を閉じるたび、鎖が仲間の腕へぶつかった瞬間が浮かぶ。
翌日から、今まで以上に間合いを気にするようになった。
「私がここにいたら、こっちは入らないで」
「分かった」
「振り始めたら声出すから」
「そこまで気にしなくても――」
「気にする」
練習した。
止める速度。
戻す方向。
仲間との距離。
失敗したなら、次は失敗しないようにすればいい。
そう思った。
しばらくして。
「……ごめん、セラ」
同じ仲間にそう言われた。
「何?」
「セラが嫌いとかじゃないんだ」
言いづらそうに視線を落とす。
「でも戦ってる時、やっぱり後ろから鎖が来るのが怖くてさ」
「……うん」
「剣とか、別の武器じゃ駄目なのか?」
セラは少しだけ黙った。
「……考えてみる」
怒れなかった。
怖いと言われれば、その通りだと思った。
自分だって逆の立場なら、同じことを考えるかもしれない。
だから、一度だけ剣を試した。
家へ帰り、壁に掛かっていた一本を借りる。
「何だ。鎖やめるのか?」
父が聞いた。
「ちょっと試すだけ」
剣を振る。
何日か練習した。
使えないわけではない。
身を守ることもできる。
定相種と戦うことだってできる。
でも。
「……違う」
一人で呟いた。
壁へ立て掛けた鎖刃を見る。
自分の《流律》。
身体の動き。
父と何度も作り直した重さと長さ。
全部が噛み合っている武器。
剣を持てば、誰かとは戦いやすくなるかもしれない。
けれど。
それは、自分がここまで積み上げてきたものまで置いていくような気がした。
セラは剣を戻した。
もう一度、鎖刃を腰へ下げる。
「……やっぱり、これがいい」
その後も何度か、別の冒険者と依頼を受けた。
事故は起こさなかった。
それでも。
鎖の間合いを気にする者はいた。
動きづらいと言う者もいた。
いつの間にか、誘われる回数も減っていった。
ある日。
「セラと組むの?」
ギルドの廊下を歩いていた時。
曲がり角の向こうから、自分の名前が聞こえた。
セラは反射的に足を止める。
「あいつ鎖使うだろ?」
「ああ、あの子か」
「悪い奴じゃないんだけどな。一緒に戦うと結構怖いぞ」
「そんなに?」
「いつ飛んでくるか分かんねえし。命かかってんだから、わざわざ組む必要ないだろ」
「まあ……それはそうか」
笑っているわけではなかった。
悪意のある声でもない。
ただ普通に。
自分が選択肢から外されているだけだった。
だから、何も言えなかった。
腹が立つわけでもない。
悔しくないわけでもない。
でも、間違っているとも思えなかった。
セラはその場から静かに離れた。
誰にも見つからないところまで来て、壁へ背中を預ける。
「……そっか」
声に出してみる。
思ったより普通の声だった。
「まあ……そうだよね」
少しだけ笑った。
ちゃんと笑えた。
だから大丈夫だと思った。
その日の依頼は、受けなかった。
◇
その頃から。
セラは、一人で依頼を受けることが増えた。
困らなかった。
鎖刃は広く使える。
《流律》も《身律》も、自分一人なら好きなように使える。
仲間との距離を考えなくてもいい。
誰かに怖い思いをさせることもない。
一人で動くことにも慣れた。
冒険者としての腕も上がった。
世界を見たいという夢も消えなかった。
珍しいものを見つければ家へ送った。
面白い話を聞けば、帰った時に両親へ話した。
笑うことも減らなかった。
ただ。
自分が思い描いていた冒険の中から、一つだけ。
いつの間にか、仲間というものを外していた。
◇
「セラ」
「ん?」
父の声で、意識が戻った。
「終わったぞ」
「あ、もう?」
椅子から立ち上がる。
いつの間にか、随分長く昔のことを思い出していたらしい。
父から鎖刃を受け取る。
刃は綺麗に研ぎ直され、金具の細かな歪みも直っていた。
「ありがとう」
「今度はもう少し早く持ってこい。壊れてからじゃ遅いぞ」
「分かってるって」
「お前の『分かってる』は信用ならん」
「ひどい!」
家の奥から、母の声が聞こえる。
「二人とも、お昼にするわよ」
「はーい」
セラは鎖刃を腰へ戻した。
いつもの重さ。
いつもの感触。
食卓へ座る。
母が皿を置きながら、何気ない調子で聞いた。
「それで、昨日は何の依頼だったの?」
「討伐」
「一人で?」
「……リベルと」
母の手が少しだけ止まった。
「この前話してた子?」
「うん」
「また一緒にやったのね」
「たまたま同じ依頼見てただけ」
「そう」
母の口元が少し緩む。
セラはそれを見て、わずかに眉を寄せた。
「何?」
「何も」
「絶対何かあるでしょ」
「ないわよ」
「ある顔してる」
「飯食え」
父が横から言う。
「お父さんまで」
少しだけ頬を膨らませる。
いつもの会話。
いつもの食卓。
なのに。
セラの手は、途中で止まった。
「……昨日ね」
二人がこちらを見る。
「リベル、傷つけた」
母の表情から笑みが消えた。
父も黙る。
「鎖で?」
「うん」
セラは自分の左腕へ視線を落とした。
「戻してる途中に、リベルが急に入ってきて。止めようとしたんだけど、間に合わなかった」
「怪我は?」
「浅いよ。腕ちょっと切っただけ」
「そうか」
父が短く答える。
「リベルも、自分が急に入ったからって言ってた」
「…………」
「私だけのせいじゃないって」
そこで言葉が止まった。
昔も似たようなことを言われた。
自分だけが悪いわけじゃないと。
事故だったと。
それでも。
「……でも、切ったのは私だから」
母が何か言いかける。
けれど、結局何も言わなかった。
セラは少しだけ笑う。
「大丈夫だよ。ほんとに浅かったし」
「セラ」
「何?」
父がこちらを見る。
「その鎖、やめたいのか?」
「…………」
質問の意味を考える。
腰には、直してもらったばかりの鎖刃。
幼い頃から何度も作り直した武器。
世界へ出るために選んだもの。
「……ううん」
「そうか」
「それだけ?」
「他に何がある」
「いや……別に」
父はまた食事へ戻る。
母も、無理に続きを聞かなかった。
そのことが少しだけありがたかった。
◇
食事を終え、午後。
セラはフィンリスへ戻る準備をした。
玄関で靴を履き、腰の鎖を確かめる。
「もう行くの?」
「明日、依頼見たいから」
「暗くなる前には着きなさいよ」
「分かってる」
「だからその返事が信用ならん」
「お父さんまで」
いつものように言い返し、外へ出る。
「じゃあ、また帰ってくるね」
「おう」
「気をつけてね」
「うん」
手を振る。
ローネを出る。
フィンリスへ続く街道を、一人で歩き始めた。
腰元では、手入れを終えた鎖が小さく音を立てている。
しばらく歩いていると、昨日の戦いが頭へ浮かんだ。
『さっきのは俺が急に入ったから』
リベルの声。
『だから、セラだけのせいじゃない』
「…………」
昔も似たようなことを言われた。
事故だった。
自分だけが悪いわけじゃない。
それでも、傷つけた。
そして。
最初の仲間は、最後には自分と戦うことを怖がった。
あの時も。
最初から駄目だったわけではない。
最初は楽しかった。
戦いやすかった。
一緒にやっていけると思っていた。
昨日だってそうだ。
リベルと戦うのは楽しかった。
鎖の動きを見てくれた。
《顕現》の板で敵の進路を変えてくれた。
自分も。
『戦いやすい』
そう言った。
なのに。
傷つけた。
セラは腰の鎖へ指を触れた。
「……やっぱり」
小さく呟く。
リベルは怖くないと言うかもしれない。
気にするなと言うかもしれない。
昨日のことだって、自分にも原因があると笑うかもしれない。
でも、次も同じとは限らない。
その次も。
ずっと。
誰も傷つけないとは言えない。
「……一人の方がいい」
鎖をやめたくはない。
誰かを傷つけたくもない。
なら。
自分が一人でいればいい。
今までも、それでやってきた。
困らなかった。
これからだって。
「……うん」
自分へ言い聞かせるように頷く。
前を見る。
フィンリスへ続く街道。
セラはまた、一人で歩き出した。




