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WILD HEART  作者: 日向 トキ
第二章 新しい日常

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14/32

③

 翌朝。


 窓から差し込む光に目を覚ますと、リベルはしばらく天井を見つめたまま動かなかった。


「…………」


 柔らかい。

 背中も痛くない。

 風も吹いてこない。

 何かが近づいてくる気配を警戒する必要もない。


「……ベッド、最高だな」


 昨日まで当たり前だと思っていたものが、たった一晩で妙にありがたく感じる。


 身体を起こして窓を見ると、フィンリスの街はすでに動き始めていた。

 通りを行き交う人。

 荷を積んだ荷車。

 店先を開ける者たちの声。


 昨日は見るものすべてが知らないものだった。

 けれど、一晩眠っただけで少しだけ景色に馴染みが生まれた気がする。


「よし」


 ベッドから降りる。


「働くか」


 所持金、ゼロ。

 借金、銀貨六十八枚。

 今日の宿代は、もう誰も出してくれない。


「……働くしかないな」


 改めて口にすると、妙に現実的だった。


     ◇


 一階へ降りると、食堂にはすでに何人かの客が座っていた。


「おはよう、リベル!」


 厨房からローナの声が飛んでくる。


「おはよう」


「ちゃんと寝られたかい?」


「めちゃくちゃ」


「そりゃ良かった!」


 ローナは満足そうに笑うと、空いている席を顎で示した。


「座っときな。朝飯持ってくるよ」


「そっか、朝も付いてるんだった」


「昨日の銀貨二枚に入ってるよ。夕飯食わせて、朝は腹空かせて追い出す宿があるかい」


「助かるよ」


「その代わり、今夜も泊まるなら次は自分で払いな」


「分かってます」


「よろしい」


 少しして運ばれてきたのは、温かいスープとパン、それから焼いた卵に似た料理だった。

 リベルはパンをちぎり、スープへ浸す。


「……うま」


「昨日も聞いたよ、それ」


「美味いものは何回食べても美味いだろ」


「そりゃそうだ!」


 ローナが笑う。


「今日は仕事かい?」


「初依頼を受けるつもり」


「ほう」


 ローナの目が少しだけ細くなった。


「最初から張り切りすぎるんじゃないよ」


「ガルドたちにも同じこと言われた」


「だったら聞いときな。最初はみんな、自分だけは大丈夫って思うもんだからね」


「……気をつける」


「それでいい」


 それ以上は何も言わず、ローナは別の客のところへ向かった。


 リベルは残った朝食を食べながら、今日やることを頭の中で並べる。


 まず依頼。

 金を稼ぐ。

 剣にも少しは慣れたい。


 そして。


「…………」


 昨夜見た華紋を思い出す。

 閉じた蕾。

 まだ一度も使ったことのない、自分の《核華》。


「……これもだな」


 街の外で、人のいない場所を見つけたら試す。


「やること多いな」


 でも、不思議と嫌ではなかった。


     ◇


 朝の冒険者ギルドは、昨日とはまた違う騒がしさに包まれていた。

 依頼へ出る準備を整えた冒険者たちが掲示板の前に集まり、仲間と紙を覗き込みながら話している。


「こっちは二日だぞ」


「森越えるなら三日は見た方がいいって」


「採取数足りるか?」


 あちこちから聞こえてくる会話を横目に、リベルも掲示板の前へ立った。


「……いっぱいあるな」


 護衛。

 採取。

 運搬。

 捜索。


 昨日エレナから説明された通り、仕事の種類はかなり多い。

 ただし、今のリベルが受けられるのは《戊級》の依頼だけだ。


 いくつか眺めていると、一枚の紙が目に留まった。


《ミレア草 十本採取》


《採取地域:ルーグ平原》


《報酬:銀貨四枚》


「四枚」


 今夜の銀月亭が銀貨二枚。

 この依頼を一つ終えれば、とりあえず今日も屋根のある場所で眠れる。

 さらに二枚残る。


「……借金、銀貨六十八枚」


 遠い。

 ものすごく遠い。


「でも、まずはここからだな」


 しかもルーグ平原なら、一度歩いた場所でもある。

 討伐が目的でもない。

 初仕事としては悪くなさそうだった。


 依頼書を外し、受付へ向かう。


「あ、おはようございます」


 ちょうど空いた受付にいたのはエレナだった。


「おはよう」


 リベルが依頼書を差し出す。


「これ、受けたい」


 エレナが内容を確認する。


「ミレア草ですね」


「初依頼としてどう?」


「いいと思いますよ。ルーグ平原で比較的見つけやすい薬草ですし、フィンリスからもそれほど離れません」


「薬草なんだ」


「はい。傷薬や止血用の薬、軟膏などによく使われています」


「そのまま食べたら傷が治ったり?」


「しません」


「早いな」


「薬材ですからね」


 エレナが笑う。


「適切に加工して使うものです。そのまま食べたり、傷へ貼ったりしても、期待しているような効果はありませんよ」


「なるほど」


「特徴は、細長い葉と白っぽい葉先です」


 エレナが近くに置かれていた見本帳を開き、一枚の絵を指した。

 細い葉が根元から何本も伸び、その先端だけが薄く白んでいる。


「似た植物もありますから、分からなければ無理に採らないでください」


「間違えたら?」


「依頼品としては数えられません」


「十本集めたつもりで九本だったら?」


「もう一度どうぞ」


「厳しい」


「依頼ですから」


「ですよね」


 エレナは受付の下から小さな麻袋を一つ取り出した。


「採取品はこちらへ。依頼用の袋なので、戻った時にそのまま出してください」


「助かる」


 リベルは袋を受け取った。

 今の自分には、剣とギルド証以外、まともな荷物入れすらない。


「あと」


 エレナの表情が少しだけ真面目になる。


「採取依頼だからといって、平原が安全になるわけではありません」


「ガルドにも言われた」


「なら覚えておいてください。危険な生き物に出会っても、依頼と関係なければ無理に戦う必要はありません。避けられるなら避けてください」


「分かった」


 そこでリベルは、ふと思い出した。


「そういえば、昨日この平原でラグと戦ったんだけど」


「ルーグ平原ではよく見られますね」


「昨日は何も分からなかったけど、あれって枝脈持ってる?」


「《身律(しんりつ)》を持っています。」


「身律?」


「身体能力そのものに作用する枝脈です。ラグの場合は、特に後脚を使った瞬発力に長けていると言われていますね」


「だからあんな跳ぶのか」


「近づかなければ向こうから離れていくことも多いですが、驚かせたり追い詰めたりすれば反撃されます。見つけても不用意に近づかないでくださいね」


「分かった」


「本当に?」


「なんで毎回確認するの?」


「昨日のリベルさんを見ていますので」


「信用ないな……」


「これからですね」


 エレナが笑い、依頼の受理を済ませる。


「それでは、行ってらっしゃい」


「行ってきます」


 リベルは麻袋を持ち、今度は一人でギルドの出口へ向かった。


     ◇


 フィンリスの門を抜けると、ルーグ平原が広がっていた。

 緩やかに揺れる草。

 遠くまで続く空。


 昨日は、目的地も分からず歩いた場所。

 今日は違う。


 ミレア草を十本集める。


 自分で選んだ、最初の仕事だ。


「その前に……」


 リベルは街道から離れた方向を見る。


 昨夜からずっと気になっていたことがある。

 ただ、何が起きるのか分からない以上、人の近くで試すつもりはなかった。


「もうちょい離れるか」


 低い丘を一つ越え、さらに先へ進む。

 草が途切れ、土と小さな石が露出した場所で足を止めた。


 振り返る。

 フィンリスの城壁は見える。

 だが、周囲には誰もいない。


「……ここなら大丈夫か」


 念のため、もう一度辺りを確認する。

 剣は腰に残したままだ。


「よし」


 服の裾を持ち上げる。


 左脇腹から胸へ伸びる青白い線。

 その途中にある蕾。


「《核華》……」


 どうやって使えばいいのか。

 不思議と、意識を向ける場所だけは分かる気がした。


 《顕現》を使う時より、もっと深いところ。

 自分の奥へ意識を沈める。


「…………」


 魔力を流す。


 その瞬間。


「っ!」


 華紋が淡く光った。

 左脇腹から胸へ伸びる青白い線を、光がゆっくりと走っていく。

 

 そして。

 閉じていた蕾が、開き始める。


「……おお」


 線で描かれていた花弁が、一枚ずつほどけるように広がっていく。

 青白い花が、身体の上に咲いた。


 熱くはない。

 痛くもない。

 けれど、明らかに何かが変わった。


「これが……核華を使ってる状態?」


 答える者はいない。


 リベルは目を閉じた。


「…………」


 何かがある。


 《顕現》を使う時は、自分の魔力を外へ伸ばし、そこへ形を与えていく感覚がある。


 今は違った。


 もっと深い。

 自分でも触れたことのない場所へ、意識だけが届いているような。


「……何だ、これ」


 力があることは分かる。

 けれど、それで何ができるのかは分からない。


 動かそうとしてみる。


「…………」


 何も起きない。


「使えてる……んだよな?」


 華紋は咲いている。

 何かが変わっている感覚もある。


 なのに、その先が分からない。


「難し……」


 もう少し探ってみたい。


 だが、正体すら分からない力を、何も考えずに動かすのは少し怖かった。


「今日はここまでにしとくか」


 気になる。

 本当はものすごく気になる。


 それでも、分からないまま無理に進めるのは違う。


 リベルが意識を緩めると、華紋の光が弱くなった。

 開いていた花がゆっくりと閉じ、最後には昨夜と同じ蕾へ戻る。


「…………」


 服を戻す。


「余計に分からなくなったな」


 でも。

 分からないからこそ。


「……絶対また試す」


 小さく呟いた。

 まずは今日の仕事だ。


     ◇


「ミレア草、ミレア草……」


 それからしばらく。

 リベルは腰を屈め、草の間を覗き込みながら平原を歩いていた。


 エレナに見せてもらった絵を思い出す。


 細長い葉。

 白い先端。


「あれ?」


 しゃがむ。


「……違うな」


 似ている。

 でも葉先まで緑色だった。


「思ってたより難しいな」


 もう少し歩く。

 またしゃがむ。


「これも違う」


 さらに先。


「…………」


 葉の先が白い。


「これか?」


 摘む前にじっくり見る。

 細い葉。

 根元から何本も伸びている。

 白くなっているのは先端だけ。


「たぶん、これだ!」


 一本目。

 根元を傷めすぎないよう慎重に摘み、麻袋へ入れる。


「よし。あと九本」


 そこからは少しずつ目が慣れてきた。


 二本目。

 三本目。


 一度見つけると、似ている草との違いも何となく分かってくる。


「四本」


 袋の中を確認する。


「思ってたより順調だな」


 採取という仕事は地味だ。

 戦うわけでもない。

 派手なことも起きない。


 それでも、自分で選んだ仕事を、自分の足で進めている。


「こういうのも悪くないな」


 リベルが立ち上がった。


 その時。

 少し先の草が揺れた。


「…………」


 風とは違う。

 一部分だけ、何かが動いている。


 リベルの手が反射的に剣の柄へ向かった。


「何かいる?」


 すぐには近づかない。

 少し横へ移動し、草の間を覗き込む。


 灰褐色の小さな背中。

 低い身体。

 そして、大きく発達した後脚。


「……あ」


 見覚えがある。


 こちらが気づいたのと、向こうが気づいたのはほぼ同時だった。

 小さな頭が上がる。


 目が合った。


「ラグ」


 この世界で最初に戦った相手。


「…………」


 リベルは動かなかった。


 エレナの言葉を思い出す。

 追い詰めなければ、向こうから離れていくことも多い。


「別に戦う必要ないんだよな」


 ゆっくりと一歩下がる。


 だが、ラグはその場から動かない。

 後脚が僅かに沈んだ。


「……その構え、嫌なんだけど」


 距離が近すぎたのかもしれない。


 さらに一歩下がろうとした、その瞬間。

 ラグが地面を蹴った。


「速っ!」


 一気に距離が消える。


 リベルは剣を抜きながら横へ身体を動かした。

 目の前を、小さな身体が通り抜ける。


「っ……!」


 避けた。


 だが、身体が思った位置まで動いていない。

 足がもつれ、そのまま膝をつく。


「危なっ……!」


 すぐに振り向く。


 ラグは数歩先で着地すると、ほとんど間を置かずこちらへ身体を向け直した。


「これだよ」


 初めて戦った時も速かった。


 あの頃より、相手の動きは分かる。

 何をしてくるかも少しは知っている。


 それなのに。


「剣持ったからって、俺が速くなったわけじゃないんだよな」


 当たり前のことだった。


 ラグが再び地面を蹴る。


「っ!」


 剣を前へ出す。


 受けられる。

 そう思った。


 だが、ラグは直前で僅かに軌道を変えた。


「そっち!?」


 一瞬、見失う。

 次に見えた時には、横から後脚が迫っていた。


「うわっ!」


 咄嗟に腕を上げる。

 衝撃で身体が横へ崩れ、草の上を転がった。


「……痛っ」


 腕がじんじんと痺れる。

 大怪我ではない。


 でも。


「《身律》って、こういうことか……!」


 脚力。

 跳躍。

 着地から次の動作へ移る速さ。


 身体そのものが、あの動きに適している。

 対して自分は。


「剣以前の問題だな」


 立ち上がる。


 肩に力が入っている。

 柄を強く握りすぎている。

 足も止まる。


 バレンに言われたことが、そのまま実戦で出ていた。


「落ち着け」


 握る力を少し緩める。

 ラグを見る。


「速いけど……」


 消えているわけじゃない。

 動いている。

 全部を目で追う必要はない。


 ラグの後脚が沈む。


「来る」


 地面を蹴る。

 跳ぶ。


 今度は剣を振らない。

 リベルは横へ一歩だけ動いた。

 足が少し遅れる。


 それでも、さっきよりはましだった。

 ラグが通り過ぎる。


「そこ!」


 剣を振る。

 空を切った。


「……当たらない!」


 ラグが着地する。


 その瞬間。

 リベルは左手を向けた。


「《顕現》!」


 青白い魔力が外へ伸びる。


 ラグの進行方向。

 地面すれすれの位置に、小さな板状の実体が形を取った。


 ラグが地面を蹴る。


「っ!」


 目の前に現れた障害物を避けようと、空中で身体を捻る。

 だが、大きく軌道までは変えられない。


 着地点がずれた。


「今!」


 リベルが踏み込む。

 剣を振った。

 

 今度は刃がラグの脇腹を浅く捉える。


「キィッ!」


 ラグが高い声を上げた。

 着地と同時に大きく距離を取り、そのまま草むらの向こうへ駆けていく。


「…………」


 追わない。

 リベルは剣を構えたまま、しばらくラグが消えた方向を見ていた。


「……行った?」


 草が揺れる。

 だが、戻ってくる気配はない。


「はぁ……」


 大きく息を吐き、剣を下ろす。


「勝った……っていうより、追い払っただけか」


 それでも、前とは違った。


 あの時は、何も分からず必死だった。

 今は相手の名前を知っている。

 枝脈も知っている。

 剣もある。

 《顕現》も使った。


 それなのに。


「身体が追いついてかないな」


 剣を見る。


 武器が悪いわけではない。

 ラグの動きを頭では分かっていても、視線が遅れる。

 

 足が追いつかない。

 振れば身体が流れる。


「《身律》か……」


 もし、自分の身体もああいうふうに動かせたら。


「…………」


 気になる。


 けれど、今の自分には《身律》はない。

 核華についても、結局何も分からなかった。


「分からないこと、増えるな」


 それなのに、口元が少し上がる。


「……まあいいか」


 知りたいなら、少しずつ確かめればいい。


 それより。


「まだ四本しか採ってない」


 現実が戻ってきた。


「先に仕事終わらせよ」


 剣を収め、落とした麻袋を拾う。

 腕の痛みを軽く確かめてから、リベルは再びミレア草を探し始めた。


     ◇


 それからは、とくに大きな問題も起きなかった。


「七本」


 少し歩いて。


「八本」


 似た草に二度ほど騙され。


「……これ違うじゃん」


 さらに歩いて。


「九本」


 最後の一本を見つけたのは、低い岩の根元だった。


 葉先を見る。

 白い。

 形も同じ。


「……よし」


 丁寧に摘み取る。


「十本!」


 麻袋へ入れる。

 中には、確かに十本のミレア草が収まっていた。


「初依頼、終わり!」


 思っていたより時間はかかった。

 途中でラグにも襲われた。

 核華まで試した。


「草十本採るだけだったはずなんだけどな」


 苦笑する。


 それでも、依頼は達成した。


「帰るか」


 リベルはフィンリスの城壁が見える方向へ歩き始めた。


     ◇


 冒険者ギルドへ戻った頃には、朝よりも少し人が増えていた。

 依頼帰りらしい冒険者たちが受付へ並び、素材の入った袋や泥の付いた装備を持ち込んでいる。


 リベルも列へ並び、しばらくして。


「お帰りなさい」


 またエレナの受付へ辿り着いた。


「ただいま」


「どうでした、初依頼?」


「草採って、核華試して、ラグに襲われた」


「…………」


 エレナが止まった。


「ミレア草の採取ですよね?」


「ミレア草の採取」


「どうして途中に二つ増えてるんですか?」


「俺もそう思う」


 エレナが小さく息を吐く。


「怪我は?」


「腕をちょっと蹴られたくらい」


「見せてください」


「大丈夫だって」


「確認です」


「またそれ」


 袖を少し上げる。

 赤くなっている程度で、大きく腫れてはいない。


「……これなら大丈夫そうですね」


「でしょ?」


「でも、次からは気をつけてください」


「うん」


「核華については?」


 エレナの声が少し低くなる。


「ここでは話さない方がいい?」


「その方が助かります」


「じゃあ後で」


 エレナが頷いた。


「まず依頼品を確認しましょう」


 リベルは麻袋を差し出す。


 エレナが一本ずつ取り出し、葉や茎を確認していく。


 一。

 二。

 三。


 途中から、リベルの方が少し緊張してきた。


「……十」


 最後の一本を置く。


「すべてミレア草です。状態も問題ありません」


「よし!」


 思わず小さく拳を握る。


 エレナが笑った。


「初依頼、達成ですね」


「おお……」


 分かっていたのに。

 言葉にされると嬉しい。


 エレナは受付の奥から銀貨を四枚取り出し、カウンターの上へ並べた。


「こちらが報酬の銀貨四枚です」


「…………」


 リベルは銀貨を見る。


 昨日、門を通るために銀貨一枚を借りた。

 

 剣も。

 宿も。

 全部、人の金だった。


 けれど、これは違う。


 自分で依頼を選んだ。

 自分で街の外へ出た。

 自分で十本の草を探した。


 その対価。


「……これ、俺の金?」


「もちろんです」


「初めて稼いだ」


「おめでとうございます」


 四枚の銀貨を手に取る。

 小さい。

 なのに、妙に重く感じた。


「今夜の宿が二枚」


「はい」


「残り二枚」


「はい」


「借金、銀貨六十八枚」


「はい」


「…………」


 リベルは手の中の銀貨を見る。


「先長いな」


「始まったばかりですよ」


「……それもそうか」


 リベルは笑った。


 所持金、銀貨四枚。

 初めて、ゼロじゃなくなった。

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