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四十五話 宙より来たる星の申し子

 美空はここにきてようやくデミスとして覚醒した。


 美空は迷いを振り切って完全に力を開放したことで飛躍的に能力を向上させた。

 これがデミスのうちの一柱「ウラシア」としての姿だ。



「はいッ!」

 遠藤の周囲へ流星が降ってくる。

 複数の流星は紫色の尾を引きつつ急降下し遠藤へ攻撃を加え続けた。


ドドドドドド!!

 

 たった一発なら遠藤が避けられただろうが、ほぼ間隔を開けず6個も落ちてきては遠藤はどうしようもない。

 流星は着弾と同時に爆発し轟音とともに遠藤を吹き飛ばす。


 まごうことなき流星群である。


「ようやくカ…!」

 体を焼かれながら遠藤は攻撃に転ずる。

 爆煙を突き抜けて遠藤は回し蹴りを見舞う。


「!」

 

 美空は即座に後ろに回避するが頬をかすめてしまう。

 遠藤もやられっぱなしではない。


 赤いオーラが全身を包み今までにないほどの速度と威力で攻撃を仕掛けてくる。

 肉弾戦では強化されてなお美空が不利。


 即座に上に宙返りをして退避する。

 同時に下へ群青色のエネルギーを投下した。


「!!」

 遠藤はすぐに距離をとる。

 エネルギー弾は地面につくと同時に球状に爆発した。


 地面の土を一瞬にして蒸発させて見せる威力。

 流石の遠藤もこの威力には冷や汗をかく。


「はあッ!!」

 遠藤は己の怪力で空気をぶん殴って攻撃する。


 ドンッ!

 空気が一気に押し出されることで耳をつんざく音がした。

 美空はそれを避けようとするが避けきれない。


「ぐっ…!!」

 美空の傷口が開く。

 浮遊して体勢を立て直し今度は触手を展開する。

 触手は7本へ増えた。


 ちょうど虹色と称される7色の触手は竜の頭の形へ変わっている。

 それぞれ異色のビームを放つ。


 遠藤は即座に移動を開始する。

 ビームは勢いよく地面を削り溶かしていく。


 遠藤はそれを器用に避けながら接近して攻撃を仕掛ける。

 美空はそれに対して手のひらから出す波動で迎え撃つ。


 バチバチッ!!


 激しいぶつかり合いにより波動が悲鳴を上げてスパーク音を発する。

 そのまま押し合いになったが勝ったのは遠藤。

 そのまま美空をぶん殴る。


 美空は地面にたたきつけられた。

 

 ドオオンッ!!


 工場の跡地はもはや更地といっていいほど何もかも吹き飛ばされていた。

 美空は立ち上がって流星群を再び降らせる。


 大規模な爆発ゆえに機動力が高かろうが関係なく吹っ飛ばす。

 遠藤ははるかかなたまで吹っ飛ばされていった。


「まだ…終わってない」


 美空は油断せず次に備える。

 遠藤がこれくらいでやられるはずがない。


 今度こそ全力をぶつけなければちょっとした拍子に殺されかねない。

 美空の体がふっと浮く。


コオオオオ…

 

 エネルギーを溜めていくと美空の背後にサークルが展開される。

 空の色が変わりいきなり夜へと変貌する。

 澄んだ星空が天を覆う。


 遠藤も美空の気配の変わりように気が付き全身にエネルギーを循環させ始める。

 赤いオーラが増幅し、体よりも2、3倍は大きいのではないかと思うほど巨大化した。

 

 さらにその場で飛び跳ねることで足に別のエネルギーを蓄積させる。

 青いオーラが混ざり始めてそれを全身にまで巡っていく。


 両者とも大技の準備が揃った。

 距離は約50m。


 遠藤は駆け出した。

 美空もそれを見て大技を解き放つ。


ヒュウウウン…!

 

 薄紫、そして深い青色の光が出現し柱となる。

 約30本。


「!!」

 

 それらが自在に動き遠藤へ襲い掛かる。

 遠藤はそれらを避けながら美空へ接近していく。


 そう簡単には捕まらない。


 速い。目で追っても少しでも気を抜けば見失ってしまう。

 柱の動きはバラバラに動いていたが今度は遠藤を囲うように円状に動き始める。


 遠藤に隙間を縫って逃げられぬよう柱の数を増やして完全に包囲する。


「…ここまでかな」

 

 遠藤は早く美空の狙いに気が付いたはずだ。

 しかし逃げ場を断たれた状態では逃げることはできない。

 円の上側も光で閉ざされた。


 そして光の柱は収束する。

 中心へ集まって…柱は姿を消す。


 中心で眩すぎる光が瞬いたと思った瞬間、爆ぜた。


 煌びやかな光は大爆発を起こし半径20m以上を光の中に包む。

 遠くからでも見えるほどのドーム状の光がその町を一気に照らし出した。


 

 光は離散してやがて輝きを失う。

 それと同時に星空も姿を消しもとの昼の空へと姿を戻す。




 

 遠藤の姿はもうない。


 美空はがくりと倒れ込んだ。

 なんとか手をついて体を支える。


 はあ、はあと荒く息を漏らしたまま数分間は立てなかった。

 髪色も髪の長さも元に戻っていく。


 ほぼ限界以上にまで力を使ったことでウラシアは鳴りを潜めたようだ。

 美空はようやく落ち着くと後ろ向きに倒れ込む。


 もくもくと雲が流れて行っていて一匹のカラスが横切っていった。

 怖くなかったのだろうか。


 あんな大規模な爆発が起きたというのにすぐにその真上を通り過ぎていくだなんて。


「…なんとか…できたんだよね」


 美空は荒い息のままつぶやいた。

 遠藤は自らの命を差し出し美空の壁となって散っていった。


 遠藤は最初からこのためだけに生まれてきたのだ。



「…ありがとう」

 美空はもう届かぬ礼を紡ぐ。


 彼がいなかったら美空はここまで成長できなかったし決断もできなかっただろう。

 彼なしでは失ったものはいっぱいあったんだろうと美空は思った。


 大丈夫。

 暴走はしてない。


 美空は息を整え終わるとゆっくり帰路についた。


 ――――

 

 その後京に帰り美空は即病院送りになった。

 美空は何があったか詳細に説明する。


 担当してくれた人たちはとても驚いていた。

 のちのち幹部も見舞いに来るという。


 人通り話をし終わったら急にやることがなくなる。

 ベッドの上で寝ころびながら美空は天井を眺めていた。

 天井にはかわいらしい黄色のひよこたちの絵。


 そんな風に過ごしているとコンコンとノックをして執事が入ってきた。

 執事はとても真剣な顔をしていた。


「失礼します」


 よほど心配してくれていたのだろう。

 なにせ遠藤が相手だ。

 執事は遠藤の実力を知っているはず。


『姫様、ご武運を』

 

 そうでなければあの言葉を残してはいないだろう。

 なんとか大丈夫そうな美空の様子を見て安堵したようだ。


「御無事で何よりです」

 

 本人はできるだけ美空に感じさせないように抑えているのだろう。

 部屋の隅の丸椅子を引き寄せて美空のすぐ傍に座る。


 恐らく美空に対していろいろとしてくれるのはイルミューンの実子だからに違いない。


「…なんとかなりました。」

 美空は執事に向かって言う。


 自分がデミスとしての力を開放できたこと。

 遠藤を実力で破って見せたこと。

 いろいろ話をした。執事はずっと親身になって聞いてくれた。

 

 気が付けばもう夏も終わりにきているのだろう。

 窓の外では鱗雲が空に少し漂っていた。


 ――――


 翌日。

 空は曇っていて午前中でも既に暗い。

 午後からは雨が降ると言われていた。


 出発する前に洗濯物は取り込んでおいたから雨が降ってもそこまで心配はしなくてもいいだろう。


「…」

 

 曇天の下時雨と瀬戸香は土手を歩いていく。

 今回は京からやや離れた場所にある川で怪人の目撃情報があった。


 川のせせらぎが下の方で聞こえる。

 ここは見晴らしがよく遠くの方まで川が広がっているのが見えた。


 水面から顔を出してい黒い岩に流れがぶつかって白く波立っている。

 土手の斜面は背丈の低い草に覆われていた。


 ところどころ小さな黄色の花が咲いている。


「んぅ」

 瀬戸香はぐっと背伸びをする。


 周囲に怪人の姿は見えていない。

 時雨は曇天を睨みつけていた。


「時雨ちゃん、顔が怖いよ!ほら、リラックスリラックス!」

 瀬戸香に声をかける。


 「う、うん」

 時雨は瀬戸香の言葉にうなずく。

 声をかけてすぐはいつもみたいな調子になるが、少しすればまた顔が強張っていく。

 どこかぎこちなさがあって瀬戸香は少し心配だった。


(時雨ちゃん…模擬戦で全然勝ててないこと気にしてるのかな)


 瀬戸香はもやっとする。

 自分がその原因を作ってしまったのかなと考えてしまってなかなか接しにくかった。


 昨日も時雨はいろいろな人と模擬戦をやっていたらしい。

 播磨にも負けた。瀬戸香や、霙にも負けた。


 霙以外の後輩にはさすがに経験値で勝るところがあるけれど同期には全然かなわなかったのだ。


「…」

 時雨はまた暗い顔に戻る。


 (ああもう!どう接したらいいの?!)

 瀬戸香は頭を抱える。


 (戦い始めたら落ち着くかな…)


 瀬戸香は辺りを見回しながら考える。

 少なくともこの付近にいるという感じではなさそうだ。


「もう少し水に近づいてみる?相手は水棲みたいだしさ」

 

 瀬戸香は時雨に声をかける。

 時雨はうん、と言って土手を下りることにした。


 瀬戸香も後ろをついていく。


 今回目撃情報があったのはミズスマシとアメンボの怪人。

 どちらも水棲昆虫の性質を持っているため水の中に潜んでいる可能性もある。


 ただアメンボ怪人が空も飛べるタイプなので上から見張っていた。

 アメンボは水面下にはいかないので、今姿が見えないということはこの付近にはいないのだろう。


 そこでミズスマシの怪人がいないか確かめておこうという方針である。

 川にある程度以上は近づかない。


 時雨はともかく瀬戸香は水中に引き込まれると危険だからだ。

 時雨は「先に確認しておくね」といって水辺に近づいていく。



ザバッ!!

 

 時雨が水面を覗き込もうとしたとき怪人が奇襲してきた。

 水の中から上体を表しそのまま時雨を引き込もうとする。


「ふっ!」


 時雨はすぐに液状化して攻撃をいなし水流操作で変化させた愛刀で縛り上げる。

『ギッ!?』


 そのまま逆に時雨が地上へ引っ張り出した。

「時雨ちゃんナーーーーイス!!」


 そこへ瀬戸香が高火力の拳を叩き込む。

 

 バアアンッ!!


 大きな爆発音を伴い怪人の身を焼く。

『グガッ!』


 怪人は悲鳴を上げるが瞬時に体を起こして瀬戸香にカウンターを見舞う。


「うわっ!?」

 瀬戸香は慌てて回避する。


(あんなすぐさま攻撃し返してくるの?!)

 瀬戸香は驚愕していた。

 自分の攻撃でそのままごり押しするにはどれくらいの防御力がいるのかは瀬戸香自身が一番わかっている。


 耐えられても吹っ飛んでしまうのが普通だというのにこいつはすぐに体勢を立て直した。


『ギャッ!』

 

 怪人は続けざまに瀬戸香を狙う。

 単純な物理攻撃ばかりだがその威力は確かなもの。


 動きがアクロバティックなこともあって瀬戸香はもろに蹴りを受ける。

 

「ぐっ!?」

 顔面にクリーンヒットし瀬戸香は吹っ飛ばされる。


 ギィイン!

 

 怪人が追撃を加えようとするが時雨がそれを阻む。

 刀で攻撃され、上に飛び跳ねて回避せざるを得なくなった怪人は時雨に狙いを移す。


『ギャッ!!』

 そのまま位置エネルギーまで乗せたたたきつけ。

 時雨はそれをギリギリで回避。

 そして刀で右下から左上に斬り上げる。


ガンッ!

 

 (硬い!)

 ミズスマシも甲虫らしく外殻を備えている。

 軽く丈夫な外殻。


 それがアクロバティックな動きと硬い防御力を実現させていた。

 反撃に時雨は蹴りを食らう。


「あぐっ!!」


 時雨は蹴とばされ地面を転がる。

 動きが明らかによくない。


「時雨ちゃ…んっ!?」

 

 助けに入ろうとした瀬戸香を上からアメンボの怪人が押さえつける。

 時雨はすぐに起き上がって瀬戸香を助けに入ろうとするがミズスマシの怪人に阻まれた。

 「このッ!」


 時雨は圧力を作動させ強引にラッシュをかけて突破しようとする。


『グギャッ!!?』

 急激な速度と威力の上昇に翻弄された怪人だが、それでもすぐに対応してくる。

 隙間を縫って時雨に攻撃してきた。


 時雨の腕をかすめ血が噴き出す。


ドオオオンッ!

 

 一方の美空は自分ごと爆発してアメンボを引っぺがした。

 瀬戸香は肩で息をしながら起き上がる。


「はあ…はあ…」 

 

 肩に口吻を突きさされそこから体液を吸われていた。

 これにより体力を奪われたのだ。


 自爆のダメージもばかにならない。

 今は日が差していないからすぐに回復というわけにはいかなそうだ。


 しかしエネルギーは十分。

 アメンボはすぐに飛翔して川の上を滑って距離をとった。


 

 「ぐうっ!!」

 時雨の肩が切り裂かれた。


 なりふり構わず時雨は無理やり攻撃に出る。

 怪人も無茶な動きに振り回されてこそいるがそれ以上に時雨の負傷具合が著しかった。


 腕、肩、腹部、足。顔。

 いたるところに傷がある。


 狂ったように時雨は攻撃を仕掛け続けた。


(なんで…?!)

 瀬戸香は時雨の戦い方を見て唖然とする。 

 あまりに強引すぎるというか焦りすぎというか。

 危なっかしい戦い方に驚愕する。


 もともとそんな戦い方する子じゃなかったのに。

 なんで液状化で対応しないのか。


「…!」

 時雨は怪人に蹴っ飛ばされ川の中に放り込まれる。

 「時雨ちゃん!」

 

 瀬戸香が声を上げるも時雨は怪人たちの主戦場に放り込まれた。

 瀬戸香の前に再びアメンボの怪人が現れる。

 

 素早くステップを繰り返し瀬戸香の周囲を動き回った。

 その動きが速いがために瀬戸香も目で追いきれない。


「だりゃあ!」


 自分の周囲を爆発させる。

 土が吹き飛ばされて細かい砂煙が上がる。


 怪人は煙の上へ飛翔したらしく瀬戸香の頭上から攻めてきた。

 「!!」

 瀬戸香は一瞬反応が遅れるが手で振り払って見せる。

 炎を纏った手が直撃しアメンボの怪人は身を焼かれていく。


『ギョ!?』

 怪人は飛び上がって水場に急いで引き返していく。


(水上に出られるとこちらから手を出せない!!)

 瀬戸香は足に炎を纏わせ一気に怪人を追いかける。


 川までの距離は2m弱。

 流石に追いつけない。


 『ギョヨ!!』


 怪人の背中を炎が焼いた。

 手の延長線上に炎を噴射してかろうじて攻撃を通す。


 だがアメンボはそのまま川の真ん中の方まですいすいと移動していった。


 ――


 一方時雨の方はというとミズスマシの攻撃をほぼ完全にいなしきった。

 流石に時雨も水の中は有利。

 

 しかし同時に時雨から怪人への打点がないのも事実。

 水を操ってぶつけたところで怪人のダメージは微々たるもの。


 時雨の上を影が通り過ぎていく。

 アメンボの怪人だ。


(瀬戸香…!?)


 時雨はすぐに水面から飛び出して瀬戸香の様子を確認する。

 やられたわけではなさそうだ。

 時雨はそのまま落下して水面下へ戻っていく。


 (アメンボが逃げたって感じ…!なら!)


 目の前に迫ってきたミズスマシの周囲の水をまるごと操って水の塊にする。

 怪人が慌てている間に瀬戸香のいる陸へ放り出した。


 ザバアッ!


「!」

 瀬戸香はそれを見て瞬時に判断する。

 自分が相手にするべきは今時雨が引っ張り出してくれた怪人!


 水の塊が時雨の制御から外れてばらけたと同時に瀬戸香はミズスマシの怪人にアッパーを叩き込む。

 ズンッ!!


 爆炎が炸裂するが、体表の水が邪魔してうまくダメージが通らない。


「上等ッ!!吹っ飛ばすッ!!」

 瀬戸香は吠えた。

 拳に炎を纏わせ空中で連打する。


 ドパパパパパ!


 炎と拳が水を引っぺがし怪人の体を焼いていく。完全に陸側に吹っ飛ばされた怪人。


 地面の上を数回転がってもがく。

 しかしまだ動く気力はあるようだ。

 よろよろと立ち上がって逃走を開始する。


 しかし。


 瀬戸香は鈍くなった怪人の動きなど見逃さない。


 怪人はちり…という熱気に驚く。

 周囲が燃えるような熱さを帯びている。

 ザザ、と後ずさりした。


「逃がさない!!」


 瀬戸香のかかとが地面とこすれて火花を上げる。瀬戸香は上に大きく跳躍した。

 眩い輝きを放ちそのまま空中でドロップキックの姿勢に入る。


『ギャッ』

 怪人は慌てて勢いよく走った。


 ゴウッ!!


 瀬戸香は炎の力で一気に前に体を押し出す。

 灼熱のドロップキックが怪人の背中を焼き砕いた。


ゴオオオオッ!! 


 低く唸る炎の音が響いていった。

 丸焦げになった怪人はその場で倒れ伏す。


 瀬戸香はかるたを刺して怪人を吸収する。

 「な、なんとかなった…!時雨ちゃんの方は…!?」


 瀬戸香は土手を駆けあがり見晴らしの良い場所に出る。

 するとはるか先までアメンボの怪人が逃げているのが分かった。


「!!」

 時雨は水中なので具体的にどこにいるのかわからない。

 「…!私が遠距離攻撃出来たら…!」


 瀬戸香は歯噛みする。

 今まで自分の能力を磨いてきたがそれでも自分の視野の外にあったものは当然準備がない。


 ここで一発アメンボに攻撃出来ていたらアメンボの足止めができるのに。

 

 瀬戸香は足の裏から炎を噴射し急いで追いかける。

 やがて雨が降り始めた。

 

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